狸
前回のあらすじ
改築後の部屋が一つ増えた。
空成の周りに女が増えてきた今日この頃、俺はお使いをしている。
なんでも、稲美さんと織さんが世話になっている雑貨屋があるらしい。
そこへちょいと向かっている途中だ。
空成は神社で待機。
というか、お辰さんが離さない。
まるで子離れできない母親のようである。
しばらくして、目的地に着いた。
場所の端の方の路地裏。
こんなところに店を構えて客など来るのだろうか。
とりあえず入ってみる。
中は少々狭く、棚には色んなものが並んでいる。
すると、奥の方で音がして、人が出てきた。
「お客さんなんて、久しぶりやわぁ。」
(…関西弁?)
その声は女性のもので関西弁のように独特の訛りがある。
「ん?初めてみる顔やんね。」
声の主が姿を現した。
背丈はそこそこ小さく、和服を着ていて、丸メガネ、 に頭の上に丸い耳に丸い尻尾。
尻尾の柄からどうやら狸のようだ。
「えっと、織さんの使いなんだけど、頼める?」
すると店主であろう狸の人は納得したような、なにかを見透かしたような目をした。
「あー。ほな、奥へどうぞ。織の友達なら、私の友達や。いまお茶用意したるわ。」
話し方が舞妓さんのような感じなので京都弁に近いかもしれない。そこら辺知らないんだけど。
奥では、ちゃぶ台と座布団の敷かれた、お座敷みたいになっており、その内の一つにすわった。
しばらくすると、店主がお茶を持ってきた。
「はい。どうぞ。それで、なにか伝言か何かあるやろ?」
「はい。これを。」
織さんに渡されたメモをわたす。
店主はメモに目を通し、クスクス笑った。
「建て替えねー。まあ、古い友人の頼みならしゃあないか。それに新婚祝いとは、先越されてもうたか。」
「えっと、ちなみにどんな内容なんです?」
「建て替え用の資材の発注。そして宅配。といっても、転移用のお札は向こう持ちなんやけど。」
「こんな小さな店で、そんなに多く発注できるんですか?」
「まあ、店というか、よろず屋というか、お得意さんには色んなことしてるんよ。ところで、あんさんが稲美の結婚相手?」
「違います。俺の友人です。」
「ふーん。ま、わかっとったけどね。」
お互いにお茶を啜り、休憩がてら、もう少し会話をする。
「あの、他にはどんなことを?」
「そうやねー。稲美んとこの食べ物集めたりやんな。もの探しは得意やで。私は刑部狸いう種族でな、私も妖術が使えんねんで?」
「狸なのに、狐と仲がいいんだ…」
「他ではそうでもないらしいけど、内は内。他所は他所や。あぁ、名前言っとらんかったな。私は落葉 茶子(らくば ちゃこ)。気軽にちゃこちゃんってよんでや。」
「は、はぁ…」
「稲美や織とは昔から仲が良うてな。稲美が神社に篭った時も、織と二人で応援しようって決めてから、食べ物送ったり、色んなことしてるんや。」
「へぇー。」
しばらく話をしていると、唐突に茶子さんが切り出した。
「あんた、腹ん中になーに飼うとるん?」
「え?」
「顔見た時から気になってん。腹ん中に別のもんがおるやろ。面白いわぁ。」
(カラちゃんのことか…)
尻尾を左右に振りながらこちらを眺めて来る。
この見透かされてる感覚…、稲美さんの友人はみんなこうなのか?
「ま、ええわ。そろそろ行かんとならんやろ?」
「え、ええ…」
「ほな、また今度。なんなら個人的にも来てくれてもええで。贔屓にしてや。」
そんなこんなで店を出たが、なんだか苦手というか何というか…やりづらい人(狸)だったな…
神社に戻ると、相変わらず空成とその取り巻きが仲良くしてた。
織さんに茶子さんのことを話し、お茶をもらう。
空成も休憩中だが、お辰さんがひっついている。
その傍、空成の膝ではルナがお昼寝中。
空成曰く、ルナは結構な甘えん坊らしい。
夜に一仕事終えた後、そっと布団に潜り込んでくるらしい。
うちのヤタも中身はまだまだ小学生くらい。
しかし、最近は近くの木に寝床を作った。
風の斬撃で枝を落とし、それでできた本人(鳥)自慢の寝床だ。
しかし、ちょくちょく俺のところにくる。
寝床が出来る前は雀庵で寝てたが、最近はこっち。
まあ、飛んできて夜中に窓をつついて「入れて」と催促されるんだが。
あとはサイズがでかくなった。
ここでいいものいっぱい食べているからだろう。
ついこの間まで小鳥サイズだったのに、もう鷹に匹敵している。
成長とは早いものだ。
「なあ〜空成よ、チュウしろ〜」
「もう呑んでるんですか!?ちょ、まだ夕方ですよ!」
「関係なかろう〜?早く〜」
平和だな〜。
ま、空成は平和ではなさそうだけれども。
「カー(そのくせご主人は静かですね。)」
「こら、その方がいいだろ?」
「カー(由美華さんが、可愛そうだなー。)」
「育て方間違えたか…」
「コンコン(私の主人だけで不平等です。)」
「お前が犯人かこの女狐。」
しかし、ほんとに親に紹介されたらと思うとそろそろ決意を固めとかないといけないかもな…
次回、狐ーの学校はー夢のー中ー♪