雑草
前回のあらすじ
最近の妖怪はみんな年寄り?
俺たちはお辰さんの案内で川をさらに登っていく。
少ししたところで、空成と稲美さんが何かを感じ取った。
「この先、何かいる。」
「ええ、わたしも感じます。」
「何かって…何?」
「分からないけど、嫌な予感がする。稲美さん、ヤタとルナを連れて村に戻って。」
「でも…貴方達は…」
「大丈夫ですよ。湊人はヘラヘラしてますけど、引き際は心得てますから。」
「あれ?なんか貶された?」
それからはお辰さんと三人で川を上った。
水源は小さめの池になってるらしいが、そろそろといったところで俺も何か嫌なものを感じた。
ドス黒い何かだ。
池は汚れていた。
ゲームだったら紫色でもおかしくないかもしれない。
臭いも酷いものだ。
そして、その池の真ん中のあたりに高さ三、四メートル程の木が伸びている。
しかも真ん中に人がくっついている。
「湊人、頼める?」
「任せなさい。」
相手とのコンタクトを取るために少し前へ出て呼びかける。
「すいませ〜ん。生きてますかー?」
すると、真ん中の人が動いた。
中年の男性のようだ。
「おや?こんなところに客人とは…珍しいね。」
「いや〜あのですね。俺たちはちょっと調べ物があってですね。その、ここの水が汚い訳を知りたいんですが、何かご存知で?」
「ふふふ、この見た目ですぐに敵と判断しないとは…面白い人だ。」
「よく言われますよ〜。まあ、その植物が本体で、取り込まれて頭がおかしくなったとかなら、申し訳ないですからね。」
そう言いつつも、弓に手をかける。
このパターンはついこの前も経験した。
「もっとも、こんなところにいるなら、頭のおかしいことには変わりないでしょうが。」
「ほう?なぜそう考えるのかね?わたしがこの植物に乗っ取られているかもしれないぞ?」
「判断材料なら十分です。一つ、自分を俺たちの敵だと自覚がある。二つ、ここにきてからお辰さんしか見ていない。三つ、水面下で蔓を伸ばしてくるような奴は大体危ない。それとも、上品なハーブティーでもご馳走してくれるのかい?」
「ははは!面白いね!君は探偵か何かかい?」
「時々ね。(実際そういうゲームも結構やったしね。)」
するとお辰さんが我慢出来ず、食ってかかった。
「ここを荒らしたのは貴様だな!川の水も!昔の村の食中毒も!」
「え?食中毒もってどういう?」
「あいつは当時村に来た魔術師だ!」
はい。黒幕確定ですわ。
お辰さんの声を合図に弓を放つ。
しかし、池の下からでた蔓に阻まれた。
「おやおや、あの封印を解くとは。まあいい。もう少しで目的は達成できるんだ。もう少し眠っててもらおうか!」
すると男は蔓で攻撃を仕掛けてきた。
「邪魔な木は伐採しなきゃな!」
俺と空成はそれぞれ攻撃を仕掛ける。
お辰さんも仕掛けようとしてはいるが、ブランクが感じられる。
「湊人!」
空成が爆発矢を三本渡してきた。
少し前から作っておいたらしい。
さっきの感じたと一発づつでは弾かれる。
ので、三発いっぺんに放つ。
すると見事に三本目で男の木の部分にヒットし、爆発。
木の部分が抉られる。
(これを続ければ。)
と、思ったがそうも行かないらしい。
抉られた部分はすぐに再生した。
「ふむ。なかなかの威力だが、足りないな。」
こういう場合、狙うべきは男の本体のほうだ。
空成もそれを理解しているらしく、狐火を飛ばして蔓を燃やしたりして応戦している。
俺も矢を積極的に放つが、あまり効果がない。
お辰さんはステップ回避でなんとかしのいでいるが、防戦一方。
「お遊びはここまでだ。見られた以上、生きては帰さん。」
すると、池の中から蔓や蔦やらがいっぱい出てきた。
ゴ◯ラとかにこんな敵いた。
中には太いものもあり、一斉に襲ってきた。
お辰さんも空成も捌ききれず、吹っ飛ばされ、叩きつけられる。
俺も避けてはいたが、空成が吹っ飛ばされたのに気を取られ、太いので一発くらい、地面に叩きつけられた。
「大丈夫…?…湊人…」
「いっつ…あばらが肋骨になっちまった…」
「冗談いう余裕があるってことは大丈夫なんだね…」
「そうでもないぞ?…グフッ…」
ここは撤退したいが、少しダメージを食らいすぎた。
体が重く、動けない。
不覚だった。たかが木と調子に乗ってしまった。
予想以上の強敵だ。
「ふん…もう少し骨があるかと思ったが、そうでもなかったようだ。」
「あなたは、どうしてこんなことを…」
「これから死ぬのだから、土産話に教えてやる。ここはもともと龍脈と呼ばれるほどに高い魔力を持った水が湧き出るところなのさ。それはそれは上質でねぇ…しかし、あのトカゲが邪魔でね。当時の私では太刀打ち出来なかったのさ。だから、村の奴らを利用した。食中毒を起こし、トカゲの信用を落とし、あの小屋に封じ込めた。お陰でここの龍脈の魔力を独占さ。ここまでくるのに五十年かかったよ。」
「あなたのせいで、村では生贄の風習が根付き、小さな子供が犠牲になったんですよ!僕らの街が子供を保護しだしたのが二十年前、その前の三十人がどうなったか…」
「そんなのわたしには関係ない。この力があれば、わたしを見下した奴らに復讐できる。生贄など、あいつらが勝手に始めたことだろう。」
「あなたがここを汚したからでしょう!お辰さんが毎年綺麗にしていなければ、村の人たちだって死んでいたかも…!」
「ならどこか別のところに行けばいいだろう。わたしの実験に関わるところにいるのが悪い。」
男は淡々と語る。
情などとっくに捨てているようだ。
「五十年も同じところにいたら、なにもかも腐ったみたいだな。」
湊人が苦し紛れに皮肉を言う。
「成長したと言ってくれ。もう少しでより完全になれるんだ。そうすれば、私を見下した奴らを殺してやるのさ。そして僕こそが正しかったと証明してやる。僕こそが正義だったとね!」
「許さない…」
「ん?」
「僕はあなたを許さない。」
「ほう?まだ立つのかい?」
「あなたは正義なんかじゃなく悪だ!弱者を利用し、己の欲を満たそうとするただの悪だ!正義とは、弱い者の弱さを受け入れ、悪から守るのが正義だ!」
僕は昔から他人にいじられやすい人間だった。
だからこそ弱いことがどれだけ辛いかを知っている。
どれだけ苦しいか、どれだけ悩むか。
「違うね!正義とは強者のこと!結局は勝者が全てを決めるのさ!」
「違う!本当の強者は、弱者を守り、自分が傷ついてもなお他人のために立ち上がり、他人の幸せを自分の幸せとして感じることが出来る人のことだ!あなたのは単なる自己満足のために他者を犠牲にする典型的な悪だ!」
目の前の悪を滅ぼすべく空成は立ちあがる。
「なら、証明してみせろ!」
無数の蔓が襲いかかる。
空成はいつも願っていた。
湊人や涼太郎、翔に守られてばかりの自分を変えたい。
ゲームでも、サポートにしかまわれない自分を変えたい。
自分と同じ苦しみの人を助けるために変わりたいと。
「この…っ!」
ゲームの中ではなく、本当の意味で誰かを癒してあげたいと。
「屑野郎ぉぉぉぉ!」
その時の火は今までで最も強く、綺麗だった。
火というよりは炎だった。
本当の意味で“変わった”瞬間だった。
空成の頭には稲美さんのような耳があり、腰のあたりから黄金色の狐の尻尾。
目は少しつり上がり、目じりも赤っぽくなっていた。
「切り倒せないなら、焼却してやる!」
手を前にかざし、たちまち木を根元から燃え上がらせる。
火がついた程度のものではなく、確実に燃やす勢いで。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
男が悲鳴をあげる。
威力不足の爆発矢とは違い、外側からではなく、きっと、内側からも発火しているのだろう。
パイロキネシスとも言えるのかもしれない。
『ご主人様。遂にやりましたね!』
「た、玉さん!?夢の中だけじゃ…」
『今は特別なんです。それより、集中してください。この木はなかなかの大木。生半可な火力では焼ききれません。』
「そ、それより、勢いでやっちゃってますけど、これってどういう?」
『あとでたっぷりお話しします。それより、長くは持ちません。頑張ってください!』
ほんの少ししか経っていないが、足元がふらついてきた。
意識も朦朧としてくる。
限界が近いかもしれない。
だが、そこで僕が何もしていないのに火力が上がった。
隣を見れば、湊人の風で、炎が火柱にかわっており、渦を巻いている。
「焚き火は風の吹き方も大事だぞ?もう少しだ。気合い入れろ!」
「うん!」
火柱の渦を引きしぼる。
タオルを絞るように。
火力を中心に集中させる。
「ガァァ…この…私がぁぁぁぁぁ!五十年!五十年も耐えたと言うのにぃぃぃぃぃぃ!」
炎の中で叫ぶ男に同情の気持ちはない。
今はただ、燃やすためだけに。
二人の限界とちょうどに、男も木ももろとも黒く焦げ、崩れ落ちた。
僕と湊人は疲れ果て倒れてしまった。
「はぁ…はぁ…大丈夫?」
「はぁ…はぁ…今度こそ、大丈夫。」
僕らはそのまま意識を手放してしまった。
次回、増える。女も、家も。