将棋と名前
前回のあらすじ
妖術、便利。
今日も今日とて街はほぼ平和だ。
空成は神社で特訓中。
今度挨拶にでも行こうかね。
あんまりにも暇なんで本部に戻ってきた。
すると廊下で羽宮さんに会った。
「ちーす。」
「まったく、君のその軽い態度はどうにかならないのか?」
「やろうと思えば出来ますが、面倒なんで。」
羽宮さんは「はぁ…」とため息をついて続けた。
「暇なのだろう?なら少し付き合え。」
「飯でも奢ってくれるんですかね?」
「やれやれ…」
俺たちは羽宮さんの部屋に来た。
羽宮さんはそこそこ地位が高いので本部の中に私室がある。
「まあ座ってくれ。いまお茶を入れる。」
「はーい。」
座って気づいたが、部屋の隅に将棋セットがある。
(こっちにもあるんだなぁ。ま、俺はチェスの方が好きだけど。)
そんなことを思っていると羽宮さんがお茶とともに来た。
「将棋、できるのか?」
「ええ、まあ。」
「ならちょうどいい。一局頼もうか。」
「いいっすよ〜」
俺たちは座布団に座って対戦を始める。
すると唐突に羽宮さんが切り出した。
「お前たちには驚かされてばかりだな。」
「へぇ〜俺そんなに芸達者ですかね?」
「その弓の腕だよ。長い時間かけて磨いてきた私の技術をいきなり現れた旅人に超えられたのだからな。」
「なんならみんなと一緒で教えてあげましょうか?へへ。」
「ふっ、空成の方がよっぽど礼儀正しいじゃないか。」
「あいつは元からそういう性格ですからねぇ。あ、もしかして羽宮さんは空成のこと好きだったり?」
「はは、そう言うわけではないさ。あと、その呼び方は変えてほしいな。」
「ほう。ではどのように?」
「普通に由美華でいい。苗字で呼ばれるのはあまり好きではないのさ。王手だぞ。」
「分かりました。これからはそう呼ばせてもらいます。ところで、俺の天狗屋での評判ってどうなってます?」
「なぜ急に?」
「妹さんにつけられたので。」
そう、実は先ほどこんなやりとりがあった。
パトロール中、だれか俺の後をついてきているのに気づいた。
そこで俺は路地裏を駆使してそのストーカーの正体を暴いた。
「人の後をなんの断りもなしについてくるなんて、ちょいと常識がなってないんじゃないの?」
後ろから声をかけると、そのストーカーは「きゃっ!」と驚いた。
どうやら女性らしい。
「それで?あんたは誰なんだい?」
「あ、えっと、私新聞屋の文華っていいます。」
そう、実はこの街には新聞がある。
厳密には掲示板が至る所にあり、そこに記事が張り出されるといった形式で新聞が存在する。
「つまりは記者ということで?なんで俺を見張ってたんだ?」
「それはですね、最近巷で噂の新しい天狗屋の新入りの特集を作ろうと思ってましてですね。姉に聞いてもあまり答えてくれないので。」
「姉?」
「あ、私、羽宮由美華の妹なんです。」
「あーあの人のね。どうりでなんか雰囲気が似てるわけだ。」
その後、軽く取材を受け、別れたのだ。
「まったくあいつは…私からも詫びる。すまない。」
「別にいいですよ?基本暇なのでね。それで?どんな感じの評判なんですか?正面きってこないあたり、何か悪い感じに評判がついているのではと。」
「えっと…弓が上手く、面白いが、何か腹のなかにすごい秘密を隠してる。と言った感じか。」
「へぇーそんな感じなんですね。では、そこに将棋も強いって足してもらいましょうか。詰みです。」
「な!?いつの間に…」
たしかに転生者って言うでかい秘密を抱えているのは事実なんだよなぁ。
ま、バレることはまずないだろうし、とりあえず今日はこのまま帰ろうかな。
すると由美華さんにひきとめられる。
「くっ、もう一回頼もうか。」
「いいですよぉ?果たして勝てますかねぇ?ははは。」
どれくらい眠っていただろうか。
稲美さんに膝枕をしてもらってしばらく経ったかもしれない。
「では、練習再開。と、行きたいところですが、先にお昼ご飯ですね。」
なんで従ったかと言うと、正直僕もよくわからない。
そこである一つの結論に行き着いた。
「稲美さん…妖術、使いましたね?」
「あら、バレてしまいましたか。」
稲美さんは台所に向かいざまに振り向く。
「これからは使う時だけの練習と、使われる時の練習もしないといけませんね。ふふふ。」
これが[狐につままれる]と言うやつなのだろう。
ため息をついていると、玉さんの娘さんが膝の上にのってくる。
僕は彼女を撫でながら、話しかける。
「君の名前ね、月にしようと思うんだけど、どうかな?」
「コン!(はい!ありがとうございます。主様!)」
洋風なのはあれかもしれないけど、なんとなく、ルナも玉さんも、月が似合いそうだからこの名前にした。
気に入ってもらえたようで嬉しい。
次回、カラスは実は人懐っこい?