初戦
前回のあらすじ
日本があってもいいじゃない、異世界だもの。
雀庵なるところを目指し、歩いていく。
しかし、見れば見るほど江戸時代に見える。
俺たち本当に異世界に来たんだよな?って何度も疑いたくなる。
そして烏天狗も気になる。
一体どうやって統治しているのか、はたまた征服目的だったりするのか。
単なる慈善事業なら就職先に考えてもいい。
この感じだと十中八九ギルドがない。
冒険者らしき人を見かけないからだ。
しばらく寄り道や観光しながら歩いていくと、遠くの方で何やら騒ぎが起きていた。
それもかなりのレベル。
俺の勘が「何か面白そうなことがある。」と言っている。
ということで、突撃ぃぃぃ!
しなきゃよかったよ。
なにあれ、なんかムキムキのマッチョメンが暴れてやがる。
「空成、なんだと思う?」
「魔力探知スキルで見てみたけど、保有量が普通じゃない。暴走してる感じかな。あの腹の石が特に強い反応がある。」
「つまりはあの石砕けばなんとかなると?」
「みたところ燃費は悪そうだから、多分。」
「わかった。体慣らすためにちょいと行ってくるわ。」
そう言って俺は弓を出す。
「大丈夫なの?」
「俺がダメでも烏天狗がもう少ししたらくるだろうさ。それまでちょいとつまみ食いをば…」
「わかった。僕は怪我人の手当てとかしてるから。気をつけてね。」
「はいは〜い。」
弓を始めて使う人はまず当たらない。
普通の人は弓を使う機会がないからな。
銃も一緒だ。
だが、銃に関しては自信がある。
サバゲでも使ったことはあるし、ゲームでバカみたいにやった。
命中精度はプロ並みだった。
まあ、尋常じゃない時間の練習の結果だけどさ。
俺が思うに、弓も銃もゲームの物も大して変わらない。
矢をつがえ、引き、狙い、放つ。
弾を込め、引き金に指をかけ、狙い、撃つ。
狙うボタンを押し、的に照準を合わせ、撃つボタンを押す。
所詮はそんなものだ。
来る前に練習してるし、スキルの補正もある。矢は魔力の続く限り尽きない。
あとは、技術だ。
狙ったところに当てる技術だけは、どうにもならない。
いくらスキルで補正をつけようが、いくら撃てようが、そこだけはその人の技術がいる。
自分で言うのもなんだが、俺は手先は器用な方だ。
気分で作ったプラモデルのジオラマが表彰されたことも何回かある。
銃ゲーは反動制御にそこそこコツがいる。
それもあり、ステータスは器用さに多目に振ってきた。
記念すべき初撃は石には当たらなかったが、見事に命中した。
それに、今ので大体の矢の軌道が読める。
風ももちろん関係するが、サバゲの弾も似たようなものだ。
マッチョメンが俺に気づき、向かってくる前に、初撃含めて、四本射った。後の三本は石に命中。
だが、どうも威力が足りない。
矢の質の問題だろう。
俺の矢作成スキルは魔力を変換して矢を作る。
つまり、使う魔力が多ければ多いほど硬く、しなやかになり、鋭くなる。
だが、今の俺の保有量じゃそう何発も作れない。
ということで一時撤退。
「なあ、魔力足んない。帰ろう?」
「え!?って言われても…僕の使える?」
「いいの?」
「まだ余裕あるし、結構振ったから。」
「んじゃ、失礼して。」
空成の手を取り、魔力を渡してもらい、五本、高質な矢を作る。
「じゃあまた切れたら来るねー」
「もう…人を蓄電池みたいに扱って…」
「動けるからモバイルバッテリーだろ。」
「どの道ダメだよぉ〜。」
そんな会話を交えて、もう一度マッチョメンに向かう。
作った矢を咥え、一本、また一本と放つ。
無論外さない。
五本で、石に縦に亀裂を作るように当てる。
すると、ちょうど五本目で石が割れ、マッチョメンが倒れた。
ふう、と一息つき、空成の元に戻る。
「終わったよ〜」
「本当に勝てたんだ。」
「なんだよ。勝てないとでも?」
「実際どうなのさ。」
「何回か避ける時に命の危険は感じた。」
「はぁ…ほら、傷見せて。」
「む、なぜわかった。」
「なんとなく。」
「敵わんわぁ〜。」
空成に軽い傷を治してもらうと、どうやら烏天狗が到着したらしい。
決して遅くはない。むしろ俺たちが早すぎた。
彼らは背中から生えた翼で飛んでいる。
「これは…一体誰が…」
リーダーらしき女性がマッチョメンだったものを見て驚く。
なんだが嫌な予感がしたので、空成とそぉ〜っと逃げようとする。
「おい!そこの者達!止まれ!」
やべっ見つかった。
さすが鳥類…目はいいようだな。
「えぇーっと、怪しい者じゃないです。」
「それ余計に怪しまれるやつじゃない?」
空成に突っ込まれてハッとする。
実際自分たちは西洋風の格好なので、側からすれば怪しい。
案の定、彼らに捕まる。
「は、話をしよう。あれは今から三十六万…」
「話は後で聞く。」
どうやら雀庵の前に、烏天狗達の方に行くらしい。
「なるほど、これが任意同行というやつか。ハハハ」
「笑い事じゃないよぉ〜。」
そんな感じで連れてかれた。
次回、おい!お前がやったんだろ。ところで、カツ丼食うか?