和の街
前回のあらすじ
笑顔、大事。
異世界の空と、現世の空は大した変わりはない。
でもなんだか、僕らにとってはその空は全く別のものに見えていた。
ついさっき目が覚めると、森の中だった。
「それで、これからどうするの?涼太郎たちとは離れたところに出るようにしてもらったのはいいけど、そもそも、なんでそんなことを?」
「あぁ、涼太郎はこっちにきて一年経つ訳だろ? てことは、レベルが違う訳だ。だから、会う前にそこそこ強くなってから会った方が面白そうじゃん?」
ニコッとした笑顔とともに返される答えに、苦笑いが出る。
しかし内心は、前の湊人が戻ってきて良かった。ということでいっぱいだった。
「さて、とりあえず川か海に出たいな。」
「どうして?」
「時代背景的にも騎士様とかがいる時代だ。村やら町やらを作るなら水辺の方が都合がいいだろうからな。」
「あ、そっか。食料も農作物が結構主流だったりするのか。」
「流石にカップ麺は無いだろうからな。ハハ。死ぬ前にもう一回食っときたかったなぁ。」
そんな会話を交えつつ、水辺を探す。
しばらくすると、川に出た。
水は澄んでおり、飲んでも大丈夫そうだ。
もっとも、本当は煮沸したりするのが一番なのだけど、ほんの少しだけ飲んだ。
「じゃあ上流と下流、どっちに行く?」
「うーん…どっちもどっちかな。モンスターの危険はどっちにもあるだろうし、でも、水の中に引っ張っりこまれても、川ならなんとかなるかもだから、下流へ行って海に出るより、上流の方がいいかも?」
「ん、了解。じゃあ上流だな。」
ということで、上流を目指す。
「ところで湊人、弓はあるのに、矢が無いのはなんで?」
湊人は背に弓を背負っているが、矢筒が見当たらない。
「あぁ、スキルで、魔力で矢を作るようにしたんだ。こんな風に。」
そういうと、湊人の手に薄い白っぽい矢が現れる。
「矢の維持費を考えてな。まぁ、魔力切れに備えて短剣は貰ったけどさ。てか、そういう空成もつえ無いじゃん。」
「うん。杖に頼らないと何もできない魔術師にはなりたくなくてさ。ほら弘法筆を選ばずってやつ?だから、スキルで杖を要らなくしたんだ。」
「なるほどね。」
そんな会話をしていると、橋を見つけた。
川に架けられたそれは、明らかな人工物で、その先も人が多く行き来したせいか、草が生えておらず、道のようになっている。
「ドンピシャだな。右と左、どっちにする?」
「そうだねー。見た感じ、右に向かっていく跡が多いから、多分右の方が集落の規模が大きいんじゃないかな。」
「相変わらず探偵みたいな観察力だな。」
「謎解きゲームとか多くやってたからね。」
「お前の場合はやり過ぎなんだよ。」
「あはは…」
そんなにわかりづらいかなぁ…
そんなことを考えながら、僕らは右へ向かった。
道に沿って歩くこと数分。
街と思わしきところに着いた。
着いたんだけど…思ってたんとちゃう。
第一印象は「古風」ということだ。
まあ、異世界の時代的にどんなの見ても古風って感想が出てくるんだろうけどさ。
イメージでは、住宅は木造で、扉で、ガラスの窓があって、衛兵が立ってる感じの王国ってのをイメージしてたんだけどさ。
こう…なんというか…江戸を感じる…いや道行く人はちょんまげじゃ無いけども…
「なあ、神様は俺たちをタイムスリップさせた訳じゃあないよな?」
「た、多分ね…」
…
「異世界にも日本はあったんや。」
「日本かどうかはわからないけどね。しかも日本の場合、島国だから、涼太郎たちと会うためには大陸渡らないといけないし。」
「鑑真みたいに?」
「それだと数回難波しない?」
「それは勘弁。」
目の前には昔の日本の風景が広がっていた。
日本史の教科書で見るような感じの。
俺たちの、思いっきり西洋風な格好なんだけどなぁ…
俺たちが面食らっていると、通りすがりのおばさんが声をかけてきた。
「おや?珍しい格好だね。旅の人かい?」
「え?あ、はい。ちなみにここはなんでいうところなんですか?」
「この街には名前はついてないねぇ。ただ、みんなが平和に暮らしてる街ってだけさ。」
「治安とかは大丈夫なんですか?」
「大丈夫さね。たまに物盗りは出るが、烏天狗の皆さんがある程度治めてくださっていてね。あと、あそこの神社の神様が守ってくださってるしねぇ。」
おばさんはやや高めの山を指差す。
よく見ると、鳥居のようなものが見えなくもない。
「あんたら、宿を探してんなら、この先に雀庵ってところがあるから、そこに行ってみい。なぁに、他所のものだからって追っ払ったりしないよ。何かしでかしても、天狗の方達がやってくれるからねぇ。」
そういうと、おばさんは「じゃあね。」と言って去っていった。
その後、あたりで情報を集めた。
まず、ここに名前はない。というか、必要ない。
なにせ統治者がいないのだ。よくそれで経済がまわるなと驚かされた。
そして、警察兼市役所兼政府が烏天狗の人たちらしい。
というか、街の中に多くの種族がいる。
猫耳生やした人やら下半身蛇の人やら様々だ。
おそらく、共存しているのだろう。
つくづく平和だなぁと思わされる。
あと、みんな優しい。
田舎に帰った気分だ。
とりあえずは、烏天狗とやらにあってみることにするとして、さっきの雀庵に行ってみよう。宿は大事だからな。
俺たちの異世界ライフはどうやら和のテイストらしい。
次回、初戦闘は街中で?
田舎の雰囲気、好き。