No.4
ーー翌朝ーー
目が覚めるとおれ達3人は、騒ぐだけ騒いで寝ちゃったみたいだ。新築の部屋が、今は見るも無惨な状態に……おれは起きてすぐに片付けを始めると、2人も起きたのだ。
「起こしちゃった?ごめんな。」
気持ち良さそうに寝ていた為、申し訳なく思ったのだ。
ゴンザレスは起きてすぐ、忘れてたと言わんばかりに……自分が枕代わりに使っていた布袋をかたてで掴み、無言でおれに差し出す!
「今回のクエスト報酬だ!」
それをおれは片手で受け取ろうとすると……重い……そのまま床に落としてしまった。いくら入っているのか聞いてみるとーーなんと!500万ベル入っているとの事!!何でそんなに!?答えは簡単なものだった。
今回はゴンザレスの家代も含んでいるらしいのだが、家代が入ってるなら逆に安過ぎだろ?!
まぁこれからもお世話になる人物なので、喉元まで出かかった文句も我慢して飲み込む。
それからゴンザレスは時間を確認した途端、やべ!と言ってすぐに、ギルドへとゲートを通って出社していった。
ギルド長があれでは下の人も大変だろうなぁなんて思いつつも、キルルと一緒に部屋の片付けを済ませるのだった。
部屋の片付けも終わり、キルルと2人部屋でのんびり過ごしていると……慌てた様子で自宅から飛び出してくるゴンザレスの姿が窓から見えた。
勢いよくおれ達の家に入ってくるなりーー
「お前ら!クエストだ!!すぐに支度しろ!!」
どうやら急を要すクエストみたいだ!
キルルにはすぐに準備をしてもらい、おれがゴンザレスからクエスト内容を確認するのだが……どうやらこの島から程近いエルムと言う島国が、空賊に襲われているとの事だ!空軍では間に合わないと言うことで、各ギルドに依頼が来たらしいのだ。
すぐにエルムに向かって1人でも多くの人を救い、出来る事ならば空賊を退けてほしいと言う依頼のようだ。
「準備出来た!いつでも行けるよ。」
話を聞き終わると、丁度キルルから声がかかった。それを聞き、おれが家を出ようした時ーー
「ある程度やったらその場から離れろよ!他のギルドから手練れの冒険者や、空軍の奴等が来るかもしれない。お前らもお尋ね者の空賊って事を忘れるなよ!?」
ゴンザレスに言われて気付いた。すっかり自分では忘れていたのだが、おれとキルルも空賊なのか!キルルもその話を聞き、おれの隣ではっとした顔をしていた。
そんなおれ達を見たゴンザレスは、ため息を吐きながら気をつけろよ!と言っておれ達を送り出すのだった。
空賊船に乗り込み、エルムへ向けて出航する!
ーー向かっている最中に、ふと思った事をキルルに話してみる。
「おれ達の船と島にも名前を付けた方がいいかな??」
こんな時に何を考えてるのと少し怒りつつも、キルルは考え込んでいた・・・
お互い様じゃない・・・?なんて思いつつ、家に帰ったら相談しようと言う事になった!
それから30分位で、おれ達の視界に煙が上がっている島が見えてきた!!
ジェットエンジンを切り、エルムへと近づいて行くと……100メートル位の空賊船が見えてきた。ただのドクロマークの旗を掲げており、どうやら名のある空賊では無いようだ。
先ずは空賊達を逃がさぬ様、おれは奴等の船を壊そうと考える。
まぁ壊すと言うよりは、空賊船自体無かった物にしてしまおうと思うのだが……その為にはおれが空賊船に触れる必要がある!
おれの創造者のスキルを使うには、一度その物に触れる必要がある。
奴等に気付かれない様に、船に近付く方法がないか考えているとーー
「こんな時見えなくなれれば楽なのにね!」
何気ないキルルの発言で思い付く!透明人間になれないかと!
そんな時だったーー突然大砲の音と共に、こちらに攻撃を仕掛けてくる敵の空賊船!おれ達の事がバレた様だ……考えている暇など無いようなので、おれは自分達の船ごとスキルを使い見えなくしてみる。
・・・どーなんだろ?おれからは相手が見えるのだが、相手からどうなのかは分からない。
立て続けにこちらに向けて打っていた大砲が止んだ……どうやら成功したみたいだ!すぐに奴等の船の近くにおれ達の船を降ろし、ハッチを開け外に出てみる。
島のあちらこちらから聞こえる悲鳴や発砲音……急がなければ!!
おれが敵の船に向かうと、キルルは剣を持ち少しでも多くの人を救うべく街の方へと向かってしまった!
キルルの実力を考えるとそこまで心配する事も無いのだが、万が一なんてあってはならない!!
おれは速攻で敵の船に触れ、奴等の船を土へと還してやった。そしてすぐにキルルの後を追う。
誰からもおれの姿は見えていないようなので、空賊と思われる奴は片っ端からスキルを使い縄で縛り上げる!!
縛り上げられた空賊達は、自分に何が起こったのか分からず……皆戸惑いながら、ジタバタする事しか出来ないでいた。
キルルが向かった方向は分かりやすく、死なない程度に斬られている空賊が目印となっていたからだ。そんな奴等も逃がさぬ様に、縛り上げていった。
暫くするとキルルに追いつき、おれが声をかける。
「キルル!1人で突っ走るなよ!!」
おれに気付き、立ち止まり振り返るキルル……
「う……ごめん。1人でも多くの人を助けたくて……」
嫌な記憶が頭を過ったのだろう……あの時、おれ達は何もする事が出来なかったからな……仕方ないと言えば仕方ないのだが、おれに残されたたった1人の家族なのだ!無茶はしてほしくない。
それだけは伝えておくと、逆におれも無茶はしないでほしいと言われてしまった。キルルにとっても残されたのはおれだけなのだから当たり前か!
お互いに約束し、ここでおれは透明になるのを解いた。もうあらかた敵の空賊は捕らえたと思っての事だったのだが、突然後ろから声がーー
「テメーらか……派手にやってくれたな!?船までダメにしやがって。どんな手を使ったのかしらねぇーが、覚悟は出来てんだろうな!??」
振り向くとーー大剣を肩に背負っているブタの様な大男がおれ達を睨み付け、たたずんでいた。別にブタではないのだが、まぁハッキリ言ってしまうとただのデブにしかみえないヤツね!
普通の人からしたら恐ろしい空賊なのかもしれないが、おれ達はビビる事なく2人して腕を組み睨み返していた。
どうしよ……全く強そうな感じがしない……ちょっと色黒のデブだった為に、おれにはもう黒ブタにしか見えない。そう思うと笑いが込み上げてくるのだが、ここは我慢だ。
「ウィル……この黒ブタはキルルがやっていいかな?」
キルルからまさかの黒ブタ発言により、ブッ!とついつい笑ってしまう……せっかく我慢してたのに、キルルめ……ハッキリ言うなよ!
にしてもキルル自身、余裕で倒せると確信しているようだ。万が一危なくなったらおれが助ければいいだけだし、ここはキルルに譲る事にした。
「殺したらダメだからな?」
「それくらい分かってるよ!!」
念のために言っておいたのだが、余計なお世話だったみたいだ。おれはキルルから一歩引き、逆にキルルは一歩前に出る。
「何の冗談だ?お嬢ちゃん1人で俺様の相手をする気か!?」
「ご託はいいから早くやろう。」
黒ブタは2人まとめて捻り潰す予定だったみたいだが、キルルの一言を聞いた途端に額に血管が浮き彫りとなった。
馬鹿にされた事に腹をたて、顔を真っ赤にしながらキルルに大剣を振りかざす!
相手の動きが鈍い為、余裕でかわすキルル……アイツじゃ話にならないな。攻撃をかわされた事で、余計に怒り狂って大剣を乱暴に振りかざす黒ブタ。
あんな攻撃がキルルに当たる筈がない。キルルは攻撃をかわしながら黒ブタに話し掛け始めた。
「この空賊団の頭はどこにいるの?」
「俺様がこの黒熊空賊団船長!大剣の黒熊様だ!!」
「「ブッ!!!」」
2人して同時に噴き出す!!黒熊?!いやいや。しかもコイツ、自分で大剣の黒熊なんてよく言えるよなぁ……おれには恥ずかし過ぎて絶対に無理だ!
「黒熊??黒ブタの間違いでしょ?あなたみたいなのが船長だなんて笑えるね!」
キルルのヤツ、ハッキリ言うよねぇ~!ごもっともな意見なんだけど、それを言っちゃったらそいつが可哀想だよ……
キルルは黒ブタと戦うのに飽きたのか、つまらなそうに小声で(もういい)と呟き……剣の柄部分を使い、黒ブタの腹目掛け叩き込んだ!!
叩き込まれた瞬間ーー黒ブタは白目を向き、そのまま膝から倒れたのだった。
ピクピクと痙攣している……なんとも呆気ないヤツである。おれは直ぐに黒ブタを縄で拘束し、キルルにお見事!等と言って褒めていた。
その瞬間この国の民から歓喜の声が上がり、皆助かったと抱き合って喜んでいた。
おれはふと空を見上げると……まだ少し離れた場所に、飛行船が一隻見える。
空軍か冒険者か?どうやらこちらに向かっているようだ……これ以上ここにいるのはまずいと思い、キルルの手を引き直ぐ様おれ達の飛行船へと走り出す!!
飛行船に向かっている途中、この国の民からお名前を!や助けていただいたお礼を!などの声が上がるのだが、全て無視して一目散に飛行船へと飛び乗る!!
直ぐに出航するのだがーーその際国民皆がおれ達の飛行船の空賊旗を指差し、驚きの声をあげているのが見てとれた。
透明になるのを解いた時、飛行船も一緒に解けてしまった為……多くの人にバッチリ目撃されてしまう事に。
やってしまったもんは今更仕方ないので、ここは一刻も早く逃げる事にする。
飛行船が向かって来る方とは逆方向に、船を走らせる!!
エルムが見えなくなる所まで来ると、ジェットエンジンに切り替え一気に距離をおく。これで万が一おれ達を空軍か冒険者が追って来て射たとしても、余裕で逃げ切っただろう!
辺りに飛行船や人の気配が無いことを確認し、帰りはゲートを使って飛行船ごとおれ達のアジトへと戻る。
飛行船場に船を停め、自宅へと戻る。
ソファーの腰掛け、キルルと少しでも多くの人を助けられて良かったと喜び合う!そしてあれはどう見ても黒ブタだよな?!等と言って笑い合っていると、ゴンザレスがやって来た!
「お前達!良くやってくれた!!のだが……数多くの国民の前で、派手にやったみたいだな……お前達の目撃証言が数多く出ており、バッチリ空賊旗も見られているぞ?」
追跡はされていないから大丈夫でしょ?!なんて言い訳してみる。
それに目的は果たせたのだから、とりあえずは良いってことで!そしておれはある事を思い出す!
「それよりこの島の名と飛行船の名を決めようと思うんだけど?」
おれ見てため息を漏らすゴンザレス……少しは危機感を持てと怒られるのだが、全く気にしていないおれ達を見てゴンザレスも諦めたようだ。
ゴンザレスも交え3人で名を決める話し合いを始めると……突然外から物音が聞こえ、人の気配がしたのだ!
この島に入るには、ゲートを通る以外方法は無い筈なのだが……一体誰が?
おれ達は窓から外を覗くと……そこにはなんとギルドのベティーが居るではありませんか!!
キルルと2人、ジト目でゴンザレスを見ると……ここに来る時、ゲートのある部屋の鍵を閉め忘れた等と言い出す。
「どーするんだよ?!バレたら不味いんじゃないの!?」
汗だくになりながら焦るゴンザレス・・・
「ベ……ベティーならバレても大丈夫だ!」
なんて言い出すので、ちゃんと責任取ってくれ!と言い、ゴンザレスをベティーの元へと送り出す。
窓からこっそりと2人で様子を伺っていると……家の中にまでベティーの怒鳴り声が聞こえてくる。あのエルフ恐過ぎるんですけど!?最初会った時もめちゃくちゃ口が悪かったもんなぁ……なんて思っていると、怒鳴り声が止む。
再度2人でそっと窓から外を覗くと……居ない!??驚き、窓を開けて身を乗りだし確認するが何処にも見当たらない!!
すると・・・
「糞ガキ共……やってくれるねぇ……?」
後ろから突然声が……恐る恐る振り返ると……腕を組、仁王門立ちのベティーさんがいらっしゃるではありませんか。全く気配が感じられなかったんですが……その後ろで正座させられているゴンザレス!
初めて会った時の威厳など無く、しょんぼりとした表情で縮こまっている。
完全に殺気立っているベティーさん……おれ達が賞金首だと言う事はバレているだろうし、このまま殺されてしまうのでは!?と思う位、ベティーさんが恐い。
「話はさっきこのバカから聞いた!……お前等……アタイの家も用意しな!!」
・・・え?
この人は今なんと?おれの聞き間違いだろうか??
「聞こえなかったのか?!アタイもここに住むって言ったんだよ!!」
えぇーーーー!!!!なんでそうなるわけ!?しかもこのおっさんは何普通に喋っちゃんてんの!?自分はあれだけ誰にも話すなとか言っときながら?!
おれは恐る恐る理由をベティーさんに訪ねると……
「ここが気に入ったからだよ?!なんか文句あんのか??」
この人の方がよっぽど空賊っぽいんですけど!?おれもキルルも文句等言える筈もなく、この一方的な申し入れを聞かざるを得ない事となったのだった。
ベティーさんは直ぐ様ゲートを通って、一旦ギルドへとゴンザレスを連れて戻って行った。その際、去り際に……戻るまでに家を用意しとけと言い残した。
おれは渋々ながら、ゴンザレスの家の隣にベティーの家を創った。間取はゴンザレスの家と同じようにしておいた。
すると自宅から誰か出てくる気配が……キルルかと思い振り返ると、そこにはキルルとベティーが沢山の荷物を抱えながら立っておられるではありませんか!
「あ、あの~ベティーさんはギルドに戻られたのでは??」
何せあれから1時間程度しか経っていなかった。それなのに大量の荷物を抱えながらここにいるのはおかしいのでは?!
「今の家は引き払ってきた!家具なんかも用意してくれ!」
どうやら必要最低限の物だけ持って、あとはそのまま引き払ってきたようだ。ゴンザレスもそうだが、ちょっとヤバい人が多い気がするんですけど……
その後・・・おれはベティーさんの家具等を創るのに必死になるのだった。
全ての作業が終わる頃、ゴンザレスが仕事を終えて戻ってきた!ヘトヘトになっているおれを見るなり、すまん!!と謝ってくる。
おれは疲れきっており、怒る気にもなれずにいた。
ゴンザレスとおれの家のソファーに座り話をしていると、いい香りが漂ってくる……すると、キルルとベティーが大量の料理を抱え運んできた!
「お疲れさん!これはあたいからのお礼だよ!たんと食べな!!」
テーブルに並ぶどれも旨そうな料理!!どうやらベティーはまさかの料理上手だったようだ。それからおれ達は4人で食卓を囲む事に。
やはり1人でも多くの人と食べる料理は、凄く美味しく感じた。まぁ本当にベティーの料理が美味しかったってのが一番の理由なのかもしれないけどね!
美味しい料理を食べながら、おれ達の事を詳しくベティーに話していた。
おれのスキルの事は早々にゴンザレスが喋ってしまっていたので、それ以外の事を中心とした話だったのだが……そして先程流れてしまっていた、この島の名と飛行船の名を皆で考えていた。
なかなかいい案が出ない中、おれは窓の外に見える雲が目に入る……
「クラウド・・・」
ふと口から出た言葉に、皆でおれを見ていた。それだと!!
ただポロっと出ただけの言葉だったんだけど……皆気に入ったようで、この島の名はクラウドに決定した!
もうちょっと考えてもいいんじゃ……なんて思ったのだが、とても言える雰囲気ではなかった。この調子で空賊船の名も考えろなんて言われてしまう。
う~ん・・・フリーダム?いや!もう少し捻りたい……リベルタ!なんてどうだろうか?
「リベルタ・・・?」
おれが口にした瞬間、満場一致だった。
島の名は雲島で、空賊船は自由号に決まってしまった。こうもあっさり決まるもんなのか……まぁ決まっちゃったもんは仕方ないよね!
名前も決まった事だし、今日はこれにてお開きだろうと思いきや!?
このあと……ベティーの一言によりおれ達は、更に頭を悩ませる事になるのであった。