No.3
ーー重苦しい空気に包まれているギルドの個室にて、ゴンザレスは2枚の紙をテーブルの上にそっと置いた。
「たった今モルダ国から各ギルドに送られた物だ。」
おれはテーブルに置かれた紙を手に取り、見てみるとーーそこにはおれの顔写真付きで、ウォンデットの文字が!
生死は問わず5000万ベルと書かれている……もう1枚の紙は言うまでもなく、キルルの顔写真付きの手配書だった。
キルルも生死は問わず、3000万ベルと書かれていた。
「おれ達が指名手配!?賞金首になっちゃったってこと!??」
「どうやら先手を打たれたようだ。」
おれ達はバチェスタ国民を1人残らず皆殺しにした、凶悪な殺人犯として指名手配されたようだ。そしておれ達に懸けられた懸賞金は、とんでもない額になっていたのだ!これだけの額ならば、名のある賞金稼ぎから空賊にまで命を狙われることになるだろう。勿論空軍にもだ!
困ったことになってしまった……賞金首でも冒険者になれるのかゴンザレスに聞いてみたいのだが、(それどころじゃないだろ!!)と怒られそうだし……
おれ達はこれからどうすればいいのか・・・
キルルも自分の手配書を見て、手が震えている。それはそうだろう……何せまだ11歳の少女が、3000万もの賞金首となってしまったのだから。
こんな時、兄としてなんて声を掛ければいいのか……おれはそっとキルルの肩に手を置こうとした瞬間!
「キルルはもっと可愛いよね?!」
・・・は?何を言い出すのだろう?
訊けば手配書の写真が可愛くないとの事……先程から手配書を見て震えていたのは、この写真が気にくわなかったからだそうだ。我が妹ながら、どんな神経をしているか疑ってしまう。
普通の11歳の少女なら、泣きわめく筈なんだが?今のキルルは、怒りに燃えていた。これにはゴンザレスも、若干引いているのがおれでも分かる。
先程決まったゴンザレス直属の冒険者って話も、これで白紙に戻ってしまうだろうと思う。流石にギルド長が指名手配の賞金首を雇う筈がない。
これ以上ここにいてもゴンザレスに迷惑がかかると思い、おれは席を立ってキルルと共にここを出ていこうとした。
「何処へ行くんだ?これからの事をまだ話してないぞ?」
本当に人情ある人物のようだ。しかしこれ以上は、ゴンザレスの顔を汚してしまう。それどころか共犯なんて言われかねないのだから。
「とりあえず座れ!今後の話をする。」
迫力ある顔で凄まれ、嫌とは言えずに一旦座るーーそしてゴンザレスは、これからの事について話を始める。
まず始めに冒険者としては無罪が認められない限り、活動できないと言う話をされる。そしておれの考えていた通り、今後は賞金稼ぎ、空賊、冒険者、空軍、等、色々なヤツ等から命を狙われると。
なので先ずは隠れ家になる、発見されていない島を探せと言われる!
「これは俺からの、最初のクエストだ!」
クエストって・・・
どー言う事か訊くとーーゴンザレスは今後、密にクエストやミッションをお願いしたいと言うのだ!あまり表沙汰に出来ないような事が中心となるようで、逆におれ達が好都合なのだとか。
更にここでおれ達の人生を変える一言が・・・
「お前達は賞金首だ。だからとりあえず空賊やれ!」
はぁ!?この人は何を言っているんだ!?何でわざわざ自分達から、空賊を名のらなければならない!?おれ達自ら、賊に落ちろと言い出したのだ!
何故そんな事をしなければならないのか訊くと、空賊の方が色々と都合がいいからの一言。
ただ……それだけではなかった!!空賊をやっていた方が、龍の髭の情報等も入ってきやすいと言うのだ!空賊しか入れない島等も数多く存在するようで、そういった面では大いに役立つと。
その話を聞いた瞬間、再度龍の髭への怒りが込み上げてくる!!
そして……オルガ……ヤツはもう、おれ達の兄でも何でもない。必ずおれの手でアイツは殺す!!キルルも既にオルガの事を兄とは思っておらず、両親の仇と怒りを露にしていた。おれ達は少しでも奴等の情報が入るのならと、空賊になることを決意する!
「わかった。キルルもいいな?」
無言で頷き了承する。キルルも仇をとりたい一心のようだ。
そうと決まればますは、ゴンザレスのクエスト依頼をこなすしかない!
今日休んでいた無人島はダメか聞いてみるのだが、小さすぎてダメらしい。
最低島の直径が10キロはある所を探せと言われ、何故なのか理由を訊くとーー小さすぎる島だと、空賊等に島ごと吹き飛ばされてしまうからとあっさり言われてしまった。
いい島を見つけたらすぐに、ゴンザレスとの連絡手段を作れとの無茶ぶりが!
この世界に電話等はない!どーやったら出来るのか訊くとーー
「お前のスキルなら新たな魔法すら創れるだろ?」
確かに・・・
何か考えておくと伝え……早速クエストをこなすべく、おれ達は席を立ち飛行船へと戻る事にした。ゴンザレスには出来るだけ早く島を見つけると伝え、このギルドを去るおれ達だった。
飛行船に戻ると、先程の獣人が話しかけてくる。
「冒険者登録は出来たのか?」
おれ達が指名手配されていることはまだ知らないようなのでーー少しガッカリした様子で、冒険者登録はダメだったと言っておいた!
おれ達がダメだった事を聞くと、また次頑張ればいいと励ましてくれたのだ!いい獣人な分、なんか後ろめたい気持ちになってしまう。
おれ達はお礼を言って飛行船へと乗り込み、直ぐ様出発した。
ーーおれ達のアジトとなる島を探すべく、南の方へ舵を取る!!
南の方は暖かいだろうと言う、安易な理由なのだが……ジェットエンジンに切り替え、3時間程飛行したところでーー目の前に大きな雲が見えてきたのだ!
真っ白で大きな入道雲!あの中に島があったりして!?キルルにもそんな話をし、2人して期待に胸膨らむ……プロペラ機に切り替えおれ達は、雲の中へと突っ込んでみる。
暫く続く真っ白な世界・・・
がーー何も無かった。なんだよ!期待したのに!!するとキルルからまさかの提案が!
「ウィルのスキルならあの雲の中に島ごと創れるんじゃない?」
……確かに!それならおれ達の理想の島が出来るかも?物は試しって事で、もう一度雲に突っ込んで行く。丁度中間辺りで止まり、ハッチを開け外に向け手を伸ばし……この雲を使って島をイメージし、スキルを発動してみる。
あら不思議!あっという間に、直径10キロ位の島が出来上がる!
本当に出来ちゃった・・・
すぐに飛行船を島へと降ろし、地上に降り立つおれ達!
今は何もないただの更地が10キロ続いているだけで、辺りは雲で覆われており不思議な感じだ。
一通り不具合等がないか確かめた後、飛行船に戻って今後この島をどうするかをキルルと話し合う。
おれのスキルがこんなことまで出来るとは思ってもみなかったので、少し戸惑いつつも……これならどんな島にだって出来る!
前世の記憶を使って、近未来な島にも出来るだろう。だが2人しかいないのにそんな島にしてもなぁ……とりあえずキルルはどんな島にしたいか訊いてみる事に!
「う~ん・・・ウィルに任せる!でも、自然がある島がいいな!」
自然か……キルルの意見も取り入れ、おれの理想も語る!今はもう慣れてしまっているのだが……やはり前世での暮らしが快適だった為に、そこら辺もこの島には取り入れたい!
そして・・・
遂に理想の島が出来上がる!山、湖、川、森、そして家を創り出したのだ!
一見自然豊かな島なのだが、家はこの世界では考えられない位のハイテクっぷり。
飛行船置場も完備しており、外敵から守る為に雲には特殊な仕掛けも施してある。万が一飛行船等でこの雲に侵入しても、すぐに通り抜けてしまう様にしておいた!
おれは想像する事で、大概の事は出来てしまったのだ!この世界にあってはならないスキル、と言う意味をおれは初めて理解する。
このスキルを使えば、簡単にはこの世界を滅ぼす事も可能だろう……まぁそんなつまらない事をするつもりは無いけどね!
とりあえずこの島のベースは出来上がった!あとは何か気づいた時に足していけばいいだろう。
今日はここまでにして、夕食を食べおれ達は床につくのだった。
ーー翌朝ゴンザレスに報告すべく、何か連絡手段を考えていると……またしてもキルルから提案が!
「パッとゴンザレスさんの所まで移動出来る魔法は創れないの?」
瞬間移動?でもそれだと向こうから用事がある時に困るよな……ゲート的な物ならお互い行き来出来るし、丁度いいかも?
早速そんな事が可能か、家の空いている部屋で試してみることに!
昨日ゴンザレスと話をしていた部屋をイメージし、そこにゲートを創るイメージ……おれの目の前にゲートが出来上がる。
あとは本当にゴンザレスの所に繋がっているか?なのだが、ちょっと試すのが恐いよね。失敗してたら死んでしまうかもしれないし……なんて考えていると、ゲートから突然ゴンザレスが現れたのだ!
「やっぱりウィルか!突然部屋にゲートが現れたからビックリしたぞ!」
ゴンザレスはこれが連絡手段なのだろうと思って、なんの迷いもなくゲートを潜ったそうだ。どうやら成功したみたいだ!!
まさかゴンザレスからきてくれるとは思いもしなかったけどね!
とりあえずリビングにゴンザレスを案内して、ソファーに腰掛け話をする事に。
部屋を見渡すゴンザレスは、これだけでも驚いている様子。
「まさかもう島を見つけるとはな……この島は未確認の島なのか?」
やっぱりそう思うよね!おれはこの島を創り出した事など、全てをゴンザレスに話した。すると口を開けたまま無言のゴンザレス。
やっぱり少しやり過ぎただろうか?驚きすぎで声も出ないようだった。
暫くすると……突然ゴンザレスは立ち上がり、何も言わずに外へ飛び出して行く!慌てて後を追うおれ達ーー玄関の扉を開けたところで、驚き固まるゴンザレス。
「ありえない……」
ただその一言だった。雲に覆われたこの島を自身の目で目の当たりにしてしまったことで、信じざる終えない状況になったようだ。
そして無言のままリビングのソファーへと戻る……
「これならいいアジトになるだろ?クエストは成功って事でいいのかな??」
思った事を口にしたのだが、ゴンザレスは興奮しながら声を上げた!それから暫くゴンザレスの興奮と共に、あれこれ話をされたのだが……結果的にはクエスト成功であった!寧ろ出来すぎだと言われてしまう。
そしてゴンザレスから、思いもよらぬお願いがーー
「ここに俺の家も創ってくれ!あとギルドへのゲートもな!!」
「え?……なんで??」
答えは簡単だった……ゴンザレスがこの島を気に入ったからだった。
まぁこの人には今後ともお世話になるんだしと思い、おれ達の家の向にゴンザレスの家を創る事に!ある程度理想を聞き、すぐにスキルを使って創ってあげた。
ゴンザレスはいい歳こいてはしゃぎ回っていた……気に入ってくれたのなら別にいいんだけどね!
「一旦ギルドに戻るわ!」
そう言い残し、ゲートを潜って戻っていってしまった!仕事中なんだろうから当たり前か。
それからおれ達は庭に畑を作って野菜等を栽培すべく、どの辺りまで畑にするか等を話しているとーー何故かゴンザレスがもう戻ってきたのだ!
何か忘れ物でもしたのだろうか?と思ったのだが……今住んでいた家を売りに出す手続きをしてきたらしい。
この人は何してんの?仕事は??凄い行動力のある人のようだ。
仕事はいいのか訊くのだが、ベティーに任せてるから大丈夫だと!
ギルド長がそれでもいいのか??この人の場合、気にしたら負けな気がしたので考えるのを止めた。
この島には動物等はいない為、色々な場所から集めてこなければならない!ゴンザレスも参加し、生活に必要な物から野菜等の種等も含め1週間程度かけて集めた。
なんだかんだであっという間に、自然豊かなおれ達の島が完成したのだった。
そして飛行船の方も空賊らしく旗を付け、トレードマークも入れる。
おれ的には嫌だったのだが、仕方ない……キルルとも相談し、ドクロの右目は白目で傷のある空賊旗になった。そしてゴンザレスに空賊団の名前も必要だと言われ、考えるのだが思いつかない!
そもそも2人しか居ないのに団なのか??まぁおれは冒険者と思って空賊をやるつもりなので、正直名前などどうでもいいのだが……
「白銀の空賊団・・・」
突然キルルがおれの目を見て呟く……いいじゃないか!!そう声上げたゴンザレス!なんでゴンザレスが?まぁおれはなんでも良かったのでーーおれ達は白銀の空賊団を名乗る事になる!
・・・後に白銀の空賊団を、この世界で知らぬ者は居ない・・・
・・・伝説とまで言われる程の大空賊団として、その名を世界中に轟かせる事になるのだが・・・
・・・今のおれ達が知るよしもない・・・
島が完成したこの日ーーおれ達は3人で、ささやかな完成パーティーをしたのだった。