第四章 やっと会えたね!
何とか司令本部に出頭し、時任司令と挨拶ができた翔子達。
その後試験隊詰所に行くと、そこにも時任と言う名の隊長が。
そして『震電』との出会いを果たす。
第四章 やっと会えたね!
2人が成田基地の司令本部に出頭できたのは予定時刻13:00を15分程過ぎた頃だった。
翔子がおかわりした分を食べきるのに思いの外時間が掛かったのと(まあ量を考えれば当然とも言えるが)、先に『震電』が見たいと翔子がごねたためである。それをさくらが何とか引っ張って、司令本部にやってきたのだ。
遅刻した事を怒られるのではとさくらは心配していたが、成田基地航空隊司令時任修巳少将は気にする様子もなく、翔子がやってきた事を歓迎した。
「久しぶりだな、立花大尉。いや今は少佐に昇進していたな。今回の試験もよろしく頼むぞ」
豪快に笑いながら握手を求め、そして翔子の肩を何度も叩く時任司令。豪放磊落な性格で知られる彼は、上下関係などをあまりこだわらない。特に気に入った相手には、このように友人のように接する事もある。なので兵からは慕われていたが、下官の中にはかえって気を遣ってしまう者もいるし、今の翔子みたいに好まれすぎてちょっと迷惑と考える者もいたりする。
「司令も、お元気そうで、何よりなんですが、ちょっと痛いから、叩くのだけは、やめてもらえます?」
「おお、すまんすまん。嬉しくなって力の加減を忘れておったわ。許してくれ」
笑いながらそう言うと、司令は素直に叩くのをやめ、握っていた手も離した。司令はよく欧米人並みと言われる程の体格をしており、身長では翔子より30㎝近く大きい。しかもゴリゴリの筋肉質な体付きをしているものだから、ちょっとした事で触れる物を壊してしまうなんて事がままある。流石に重要な書類などは細心の注意をもって丁寧に扱うため、ダメにしてしまう事は少ないが、私物などは油断すると簡単に「元○○だった物」へと変えてしまうため、万年筆のように必要不可欠な物は多めに買い置きをしている程だ。
また他人に対しても本人の意志とは関係なくダメージを与えてしまう事があり、今まさにその被害を受けた翔子が叩かれた右肩をさすりながら、うっすらと涙を浮かべていた。 それでも嫌われたり恨まれたりしないのは、表裏なく誰にでも分け隔てなく優しく接する彼の人徳なのだろう。現に翔子だって痛いとは思っていても、酷いとは思ってないし。
「それより、いつもすまんな。遠く、という程の距離でもないが、重要な試験の時には必ず呼び出してしまって」
「ホントそうですよ。成田にだって優秀なパイロットはいるし、さくらだっているんですから」
「何を言う。もう耳にタコが何匹も出来ているかも知れんが、本来ならお前さんを引き抜くつもりだったんだぞ。それをお前さんがごねたもんだから、代わりに沢渡に来てもらって、いらぬ苦労をかけさせているんだ。仲間の事を思っているなら文句なんて言えんはずだぞ」
「茂原でも言われたばかりだから分かってますよ。耳のタコが大漁過ぎて、どうやって食べようか迷うくらいに。ちなみにタコって匹じゃなく杯で数えるんですよ~」
軽く文句を言ったら思い切り正論で返されてしまって悔しかった翔子。もはやふざけて言い返すくらいしかなく、更に負け惜しみの一言を付け加えて鬱憤を晴らそうとする。
が意外な所から口撃を受け、恥の上塗りをしてしまったが。
「翔子~。タコは生きてる内は匹で数えるんだよ。それにこのタコは体に出来るタコイボのタコだからね、2人とも」
その口撃を仕掛けたのはさくらだった。それでも親友1人を斬り付けなかったのは、ある意味彼女の優しさからだろうか。しかしそれで翔子のダメージが増した事には間違いなかった。そんな親友に対して翔子は恨み節を言う。
「さくら……あんただけは味方だと思ってたのに………」
「味方だよ~、いつも。でも司令が言ってる事も事実だから、ちょっと意地悪♪」
あっかるく言い切った親友に、翔子はもう何も言えなかった。そしてダメージを受けたもう1人。シャレで言っただけなのに、改めて指摘され恥ずかしくなった時任司令が咳払いをして、話を強引に切り替える。
「脱線はこれくらいにして本題に入るぞ。立花少佐。本日より3日間、審査対象である『試製震電』7号機の試験飛行の任を命じる。貴官には現時点で顕在化していない問題点や性能限界の見極めをやってもらいたい」
「はいっ、拝命しました。小官は本日より『試製震電』の試験飛行の任に就きます」
先程までとはうってかわって時任司令が本気の司令モードで命令するものだから、翔子もつられて普通の軍人のように答えた。空軍式敬礼の姿だってキレイだし。
そう、彼女だってちゃんと軍人らしく振る舞えるのだ。普段から気安い上官や同僚に囲まれているものだから、ついつい軽い感じで接してしまうだけで、キチンとしなければならない時には過不足なくキチンとした態度が取れる。ただそう言う機会が少ないものだから、いつもふざけているというか、くだけすぎているというかなように見られているだけで。
「何か質問はあるか? 技術的な事なら試験隊で聞いた方が詳しく教えてもらえるだろうが」
「はい、特にありません。ですが敢えてあげれば何故7号機なのでしょうか。成田の試験隊であれば、もっと若い番号の機体が回ってくるのが普通だと思いましたもので」
気を遣って「何か質問は?」などと尋ねてはみたが、思いもよらぬ質問にとまどう時任司令。答えがない訳ではないが、言葉に詰まってしまった。そして再び相好を崩して──いや実際には苦笑いだからその表現は少し違うか──くだけた感じで質問に答えた。
「それはなあ、この『震電』がやはり気難しい機体だかららしいんだ。メーカである九州飛行機が初号機から3号機、航技研で4号機から6号機まで使ってより良い機体に仕上げるため試験を行っていて、ようやく7号機がウチに回ってきたそうだ。まあメーカや航技研は飛行機としての性能を見るのが中心で、ウチの試験隊なんかは実戦的なデータをとるのが主目的だから仕方ない事だが、それにしても遅かったな。いつもなら4・5号機が最初に来て、同時並行で試験が行われるのが通例だったのにな」
「そうだったんですか…だったら尚更もっと早くココに持ってきて、テストすれば良かったのに。そうすれば私も早く『震電』に乗れたのに、もうっ」
時任司令につられ自分もくだけた口調に戻った翔子。
成田まで試験に来るのは面倒くさいと思っているのに、新しい機体に乗ってみたいという気持ちはそれを上回る。それも多少難アリの機体の方が乗りこなし甲斐があって面白いと思ってしまうヘンな癖まであるし。そんな興味を引く機体に乗れる時期が遅くなった事を悔しく思いながら、思い浮かんだ少し前向きな疑問を口にする。
「という事は順番的には次の8・9号機はココに来るって事なんですかね」
「それが何やら面倒な事になってるみたいでな。航技研で独自改修を行った4号機が明日にもウチに来るようで、4号機に施した改修を元に新規に作った8・9号機はメーカと航技研に入るらしい。同様の機体である10号機と初号機の問題を修正した11・12号機が来週頭にウチに来る、と航技研から連絡があった」
時任司令が俺にも分からんといった感じに肩をすくめ両手を上げた。どうやらそれ以上詳しい事は本当に知らないみたいだ。翔子も経緯については聞く必要はないと感じた。ただ一番実戦部隊に近い成田試験隊がないがしろにされているような印象に、少々ご立腹のようではあるが。
でも腹は立てても興味は湧く。翔子は思わず明日来る機体について質問していた。
「それより4号機ってどんな改修を受けたか聞いてます?」
翔子の疑問に時任司令は聞いている限りの情報を伝える。
「詳しくは明日来てみないと分からんが、高々度用の装備を追加したらしいぞ」
「って事はターボでも積んだんですかねぇ」
「それくらいならわざわざ“お古”を回してこないだろ。第一『震電』は元々ターボ装備機だ。もっともターボの装備位置が難しくて、二段過給器に変更する計画もあるみたいだがな」
「そうなんですか……じゃあ高々度用装備って何なんだろ?」
「翔子~。こんな所で考えてないで、そろそろ試験隊の詰所に行こっ。お古の『震電』の事なら明日になれば分かるんだし、試験隊のみんなも待ってるから」
あごに手をやり本気で考え込もうとする翔子に、さくらは親友の腕を引っ張り、司令室から連れ出そうとする。試験隊では翔子のために準備が進められているのは事実だし、この場に直接関係ない彼女にとっては少し居心地が悪かったから、さっさと出て行くよう促す。
司令もそれに同調して、
「そうだそうだ。お前の今の仕事は考える事ではなく、『震電』の試験を行う事だ。こんな所で油売ってる時間はないぞ」
「すっ、すみませんっ!」
慌てて頭を下げ謝るさくら。迂闊にも「司令室」を「こんな所」と言ってしまった事を司令にやんわり言い返されたので、反射的に深々と頭を下げて謝意を示した。
もちろん時任司令に咎めるつもりはなく、あくまで軽口を叩いただけだ。
それでも下官からすれば上官の言葉は重い。さくらのような常識的な軍人からすればそれが普通だ。がそれとは真反対の所にいるような翔子は時に気に留める様子もなく、
「それじゃあ張り切ってお仕事してきまーす。私も早く『震電』に会いたくって仕方なかったんだよね~」
と言いながら司令室を出て行った。まあ一応「失礼しました」と一礼したので、欠礼にはあたらなかったが。
「立花少佐のあのような態度、放っておいてもよろしいのですか?」
翔子達が出て行き静かになった司令室で小役人系、まあ良く言えば生真面目そうな副官が時任司令に尋ねた。司令の性格は分かっているが、一介のパイロットに対等な振る舞いをさせていたら示しがつかないと苦言を呈したのだ。特にこの副官は男性上位の傾向にあるようで、20歳そこそこの女子に大きい顔をさせているのは、些か納得がいかないのだ。
しかし時任司令は副官の気持ちなど意にも介さず、
「いいんだ。特に立花少佐のようなタイプは、伸び伸びと自由にやらせた方が本領が発揮できる。型に押し込めたら縮こまって折角の才能を台無しにしてしまうだろう。貴官もそういう所を柔軟に考えられるようになれば、もっと仕事が出来るようになるんだがな」
と翔子を擁護する発言をした。
「そういうものなんですかねえ」
司令の言葉に副官は納得しかねる感情が湧き上がったが、これ以上この上官と議論しても意見が一致する事はない。だったら自分は自分の仕事をこなすまでと、自分の席へ戻って書類に目を通しだした。
時任司令も自分の仕事に取りかかる。部下にもそれぞれタイプがあり、まとめていくのは難しいものだと思いながら。
成田基地の試験飛行隊、正式名571飛行隊の詰所は司令本部から2本の滑走路を挟んだ真向かいにあった。
そこまで滑走路を突っ切って行く事ももちろん出来るが、安全面の事を考えると余程の緊急時でもない限り、そんなバカな事をするものはいない。自分が飛行機にはねられるだけなら自業自得で済むかも知れないが、相手側の飛行機及びその乗員、及びこれからその滑走路を利用する者の事を考えれば、自分の命を捨ててまでそんな危ない事はできないのだ。それに自分の命だって惜しいし。そのため滑走路の下には地下道が何本も掘られ、安全に行き来できるようになっている。地下道は様々な事を考慮して意外と深く掘られており、そのため上り下りだけでも結構な運動量になるのだが、翔子達も面倒くさがらずその地下道を通って詰所に向かった。
2本の滑走路を越えるだけでもたっぷり5分はかかる。が地下道の階段を上りきると、そこは詰所の目の前だった。
「ようやく来たか立花少佐。待ちくたびれたぞ」
2人が詰所に入ってすぐに出迎えてくれたのは時任司令、によく似た顔の人物だった。しかし背は司令より頭半分近く低く(それでも長身の部類だが)、体の線も細めである。声や醸し出す雰囲気はそっくりだが、体格のおかげで両者を見間違える事はまずない。
彼は成田基地司令時任修巳少将の甥っ子、同試験隊隊長の時任義次少佐であった。
「すみません。時間が時間だったものだから先に食事に誘ってしまって、その後司令本部に出頭したものですから、ここに連れてくるのが遅れてしまって」
「なに構わんよ。沢渡は丁度休憩時間だったし、先にこっちに来てもらってもメシも食わせず試験をさせる訳にもいかんしな」
自分の不手際だったと謝るさくらに、誰も責任を問うてないという意志を示した時任隊長。やはり伯父と同じで細かい事は気にしない性格なのだ。そして親しみやすくふざける事が好きな所も同じなようで、
「それより立花。いつもの『飛燕』はどうした? あれに乗ってくれば午前中の内にこっちに着けただろうに」
などと軽い口調で聞いてくる。既に情報は伝わっているはずなのに。
翔子もそれに合わせたかのように、不満タラタラな感じで経緯を語り出し、場の空気はここが軍の基地、それも空軍の総本山の一角である事を忘れさせるくらい和んでいた。他にもいた隊員達も巻き込んで。おかげでさくらも罪悪感が薄れていった。まあ感じる必要もない罪悪感なのだが。
そんな楽しい時間が10分程経った頃、時任隊長が思い出したかのように話を変える。
「っとお、いつまでも世間話してる場合じゃねぇな。立花が来るって言うから入念に整備しとけって伝えてあったんだ。もう暖機も済んでるだろうから、すぐにでも乗れるぞ」
隊長からそう聞くと翔子の顔が引き締まった。といっても雑談中の緩んだ笑顔から、新たな飛行機に出会える、そして乗れる事が嬉しくて堪らないといった笑顔に。どちらも笑顔なのに変わりはないが、別人と思える程その質は違っていた。
「すぐにでもって、事前の説明とかもナシにですか?」
本当は一刻も早く『震電』に乗ってみたいはずなのに、テストパイロットとしては常識的な質問のは流石といったところか。翔子は瞳を輝かせ、そわそわと体を動かしながらも隊長に聞き返した。その問いに時任隊長は何か考えるかのように答える。
「準備はできてると思うがな。ただ航技研から『震電』専属の担当者が来てるから、簡単なレクチャーくらいはあるかも知れんな。でもなあ、あの担当者。ちょっとクセがありそうだから、結構長びいちまうかもな」
時任隊長はあまりその担当者の事がお気に召してないらしい。細かい事を気にしない彼の性格からすればかなり珍しい事だ。それくらい彼が言う通りクセが強いのか、それとも余程馬が合わないのか、いずれにしても気にはなる。
「さくらはその人の事、どう思う? 会った事はあるんでしょ?」
「ん~。私はまだ『震電』に乗ってないから直接話してはないんだけど、あんまり好きな感じじゃないかな~。隊長とは反対に細かい事気にしそうなタイプだし」
念のため翔子が親友にも心証を聞いてみると、隊長の言葉を裏付ける意見が聞けた。そして他の隊員の中にも同調する声が挙がる。その反応に翔子は多分自分とも合わないだろう事を認識した。
「それじゃ隊長。私は『震電』のテストに行きますね。その担当者に会ってでも『震電』には会ってみたいですからね」
そうイタズラっぽく言うと、翔子は詰所から出て行こうとする。それにさくらが慌ててついて行こうとした。
「ちょっと翔子、待ってよ~。私も一緒に行くんだから」
「俺も後で顔を出すわ。先に審査報告書に目を通さにゃならんからな。ちょっと遅くなるとは思うが、今日の試験が終わるまでには行けると思うんで、さっさと切り上げちまうなよ」
「分かりました~」
隊長も(あの担当者を相手にする事を心配したのか)後から見に来るという。色々気を遣われているなと思いながら、翔子は努めて明るく詰所を出て行った。
試験隊用の格納庫及び駐機場は詰所を囲むように配置されている。全ての機体を収容できる訳ではないが、重要度や機密度が高い機体はもれなく格納庫内に仕舞われていた。
また現在重爆撃機用と思われる大型の格納庫が建設の真っ最中だ。普通の4発重爆なら2・3機は入りそうな大きさから、新型の超大型機用なのかも知れない。まあ今の翔子達には関係ないものだが。
『震電』は詰所のすぐ脇の格納庫に収用されていたので、あっと言う間に着いてしまう。
入り口付近にいた整備士達に軽く挨拶をして中に目をやると、翔子が今までに見た事がない機体が目に飛び込んできた。
既存機体からすれば前後逆? と言いたくなるような推進式大直径6翔プロペラ。ガラス細工のような頼りなささえ覚える細く長い3車輪式の引込脚。並の機体なら失速間違いなしな程後退角の付いた主翼に、滑らかな流線型を描く胴体のフォルム。そして翔子にはキュートに感じる程の丸い機首と小さな先尾翼。
これが九州飛行機(J7W1)「17試局地戦闘機『試製震電』」であった。
翔子は一目見ただけで恋に落ちたような感覚を覚えた。いわゆる一目惚れである。
そのあまりの衝撃から、初めは何やら声にならない声をあげながらヨロヨロと歩み寄る事しかできず、さくらから「大丈夫?」と声をかけられてしまう程危うい状態だったが、『震電』との距離がある程度縮まった瞬間、「カワイイ~」と黄色い声で叫び、脱兎のごとく駆け寄った。
だが『震電』のすぐ側まで近寄ると、翔子は急に挙動不審になる。
目は今まで以上にキラキラと輝いているのだが、何か足踏みするかのようにその場でウロウロ、そして顔はキョロキョロ、腕はオロオロと謎の動きをしていた。
さくらと周囲にいた整備班の隊員達は本気で心配になった。嬉しさのあまりどうしたらいいか分からなくなったのか、それとも喜びのあまりどこかおかしくなってしまったのではないかと。
しかしそれは若干違っていたようだ。
翔子はあれこれ迷ったあげく、優しく何も壊さないように、プロペラの1枚に抱きついたのだ。そう彼女は抱きつく場所を探していただけだったのだ。だが『震電』の構造上長い脚があるために、翔子の身長では胴体に体を寄せる事はできず、かと言って脚にはオイルが付いている。結果プロペラの1枚に抱きつく形になったのだ。
「さくらっ、私、この子、気に入った! この子は絶対良い素質持ってる。だから私が完璧に仕上げてあげる事に決めた! よろしくね、『震電』♪」
プロペラに抱きついたまま翔子はさくらの方に振り返り、高らかに宣言した。そしてプロペラをさすりながら出会ったばかりの機体に親愛の情を伝える。それ程『震電』の事が気に入ったという事だろう。
その親友のベタ惚れっぷりにさくらは少し引きながらも、飛行機の事をそれ程までに好きになれる事を同じ飛行機乗りとして羨ましく思い、また同時にちょっとヤキモチをやいている自分に気付いた。
そんな『震電』のプロペラに頬ずりし、まるでじゃれついているような翔子の姿を、整備士達は多少苦笑いしながらも温かく見守っていた。ここでも翔子は人気者だったから、他の者がしていたら多少おかしな行動も彼女なら絵になると、思わず見入っていたのだ。
中には丁度持っていたカメラ(実は『震電』のテスト用)で、その様子を写真に収めている奴もいた。ただ単に翔子の写真が欲しかっただけなのか、それとも人気の高いエースのヘンな行動を写真に収めておかねばと妙な使命感に駆られたのかは、本人しか知り得ない事だったが。
そんな和気あいあいとした混沌空間が、耳障りな一声で破られる。
「そこのあなた、何をしているのです!? それは最重要試作機の1つなのですよ!」
次話に続く──
ようやく『震電』が出てきましたが、まだ飛べません。
ホントいつになったら飛ばせてあげられるのか分かりませんが、たぶん次では飛んでくれるでしょう。
余計なやりとりを翔子達にさせなければ。