私が異世界に行くまで
私、雨宮紫月。
高校三年生であり、大学受験を控えている歳である。
黒髪ロングに黒目。典型的な純日本人。
身長は155cm。誕生日は8月18日。
体重?女性に体重を聞くものではないと思っている。いや……うん。恥ずかしいんだよ!
胸は、ささやかしかない。
巨乳に憧れがないかって?憧れるよ……。
顔?幼馴染は、小顔でかわいいと照れくさそうに言っていた。
幼馴染? どんなやつだったか……うーん、思い出すと笑顔が絶えないやつだったね。
幼馴染の名前は、天津涼介。
私と同い年。黒髪短髪、黒目。
身長は170cm。誕生日は9月12日。
顔は、同性からみても整っている顔立ち。
かなり女子からモテていたと思う。
女子から嫌がらせを受けたりしたし。嫌がらせは、スルーしていたんだけど、エスカレートしてね……彼がキレてそれで終わり。
あっさりしすぎ? 気分いいものじゃないでしょう。
私の隣に住んでおり、家族ぐるみの付き合いだった。
幼稚園から中学校までずっと一緒。
高校は、一緒じゃなかったのか?
高校は別々になった。彼と私の学力は、彼の方が上だったから。
高校に入学してから、私は彼と疎遠になった。
接点がなくなったことや、異性として意識しだしたことが理由だね。
離れると彼の声や仕草などを毎日、思い出すことが多くなった。私は、この頃から彼に恋をしていたんだろう。
会わないまま一年が過ぎていった。
高校二年生のある日。
彼が家に訪ねてきた。最後に会ったときよりも男らしさが増していて驚いた。
私も彼も一人っ子。ちょうどその日は、母が買い物に出ていていなかった。
とりあえず、リビングに通して話を聞くことにした。彼の顔はすごく思いつめていた感じだったからね。
水を出して、一息ついたとき。
「好きだ。付き合ってほしい」
彼からの直球プロポーズだった。
こいつは、今なにを言った? 頭を下げているけど……。え?マジで?付き合って? 誰が……私と。
どんどん、顔に熱が集まり嬉しさがこみ上げてくる。
とにかく返事をしなければ。
「え……。あああぁぁ、付き合って?付き合ってね。……いい……けど」
恥ずかしくて、最後の言葉は消え入りそうだった。でも、彼には聞こえたみたいで頭が勢いよく上がり、みるみる顔に満面の笑顔が浮かんだ。
「嬉しい。これから、よろしく。紫月」
彼のその甘い声は、私にとって忘れられないものになった。
高校三年生の私の誕生日の前日。
私と彼は、高校二年生から付き合って幸せな時間を過ごしていた。
「明日、紫月に渡したい物があるから楽しみしていてね。待ち合わせは、朝10時。昔よく遊んだ公園でどうかな?」
彼は楽しそうに言ってきた。
「うん。いいよ。明日、楽しみにしている」
私は、元気よくうなづいた。
他愛もない約束。
その約束は、果たされることはなかった。
私の失踪によって。
その日、私は間に合うように玄関の扉を開けた。
足が踏むのは、固いアスファルト。
信じて疑わなかった。だけど、その信用は脆く崩れ去った。
ブラックホールのような暗い穴に落っこったことで。
♢♢♢
「私の話は、終わり。あなたは、この状況を知っているの?私のことを話せば、教えてくれると言ったよね?」
私の声が、視界も真っ暗な空間に響く。
ブラックホールのような穴に落ちた後、私はどこからか、響いてきた声に誘われるままに私自身のことを話した。途中で質問されたりしたが……。
「そうだよ。君は、世界と世界の狭間に落ちた。本来なら、召喚されるはずだった。だけど、なにを思ったのか、途中で召喚を止めてしまった。召喚は途中まで、できていた。だから、止まったら喚ばれた側は中途半端になる。今の君の状態は、元の世界に戻れないし、喚ばれた世界に行くこともできない」
男か女かもわからない声が響く。
「元の世界に戻れない?私は……私はずっとこのままなの?」
声に不安がにじみ、頭が混乱する。
この真っ暗闇の中に一人……。
そんなのは、嫌だ。どうすればいいの?
それに元の世界に戻れない?涼介に……彼にもう一生、会えないということ。
涙が出るかと思ったが、悲しすぎて涙を流すことができない。こんなにも胸が痛いのに。
「落ち着いて。喚ばれた世界には行けないが、別の世界には行けるよ。神様の加護なんてものは授けられないし、生まれ変わりなんてできない。チート能力もない。姿、形、そのまんまで君は、別の世界に行くかい?」
不思議な声が私を落ち着かせてくれる。
別の世界。元の世界に戻れないのなら、それしか方法がない。
「行きます。でも、残してきた彼が心配なんですけど……」
家族も心配だが、一番は彼のことだった。
約束を破ってしまったことは、罪悪感でいっぱいだが……幸せになってほしいと思う。
私は、もう側に居てあげられないから。
胸が痛い。この胸の痛みと一緒に、私の恋はここで終わる。
「君が語ってくれた彼だね。本来なら召喚側に償ってもらうところだけど、よかろう。彼が元の世界で幸せに死後した後、彼の魂を君の世界に送ってあげよう。流れる時間も違う。例えば、君が10歳でも彼は20歳というぐあいに。君とは違い姿、形が変わって別の人生を歩んでいる。再び出会うかもわからない。記憶もないしね。それでもいいかい?」
「はい。ありがとうございます」
私には、願ってもないことだった。
彼に会えるかはわからないが、巡り会うチャンスをくれた。
この誰だかわからない声に深く感謝を捧げる。
「では、道の先に光が見えるだろう。行っておいで。あぁ、言語能力だけはつけておこう」
真っ暗闇の視界に一筋の光が見えてきた。
あそこに向かって行けば、良いのだろう。
「ありがとうございます。あの、ところであなたは誰なんですか?」
深々と頭を下げ、疑問に思っていたことを尋ねる。
「うーん。狭間の番人とでも呼んでおくれ。では、お別れだ。健闘を祈るよ」
狭間の番人の声を背に私は、新たな世界へと歩を進めていく。