第九章 2
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思いっきり舌打ちする四郎様を守るように私達は円陣を組んだ。
十兵衛様に対峙するのは連也くんと半兵衛さん。二人とも刀を抜き、連也くんは右八双、半兵衛さんは正眼の構えを取る。
対して十兵衛様は……
「なッ!?」
「兄上……??」
両手で同時に大小を抜き、切っ先を合わせるように……
これって……
「二天一流、中段ノ構え??」
私の呟きに四郎様が苦い顔をする。
「サムスピかよ!? って、ツッコんでる場合じゃないか。どうせ後ろは……」
周囲には甲賀衆と思われる複数の黒い影が姿を見せ、その中から直刀を構えたくノ一が現れた。氷のごとき冷たい瞳で全身から殺気が溢れ出ている。
忠弥さんが、やれやれ、と呟いた。
「お前と居ると本当に飽きねえよ、怨霊」
腰にぶら下げていた一尺ほどの鉄の棒を取り外し、それを軽く振った。ガシャッ、ガシャッ、と重たい音が響き棒が三倍の長さに伸びる。
「忠弥さん、それは?」
「怨霊が言うに『特殊警棒』というものらしい。この絡繰りなら、腰にぶら下げても不自然じゃない。そして、先に短刀を括り付ければ……」
懐から出した短刀の柄を先端に差し込み、紐で固定する。「――手槍の代わりになる」
おお。
私が感心していると、笑みを浮かべた十兵衛様が一歩前に踏み出した。
「そっちも準備出来たようだな。じゃあ、始めるとするか?」
摺り足でゆっくりと――段々と速度を上げ――まるで獲物を追い詰める鷲や鷹のごとく、両手を広げて走り出す。
連也くんと半兵衛さんは左右に跳び、十兵衛様を挟み込むように攻撃を仕掛けた。
ガッ、ガッ。
連也くんは下からの逆風、半兵衛さんは横薙ぎのほぼ同時の一閃だったが――鋼と鋼の噛み合う音が響き、十兵衛様はそれらを器用に払い除けた。
「チッ……。固すぎるぜ、十兵衛おじさん」
「まったくです。妹ながら、本当に兄上が隻眼なのか怪しく思えてきましたよ」
素早く二人が後方に飛んで離れ、深く息を吐く。
「人を化け物みたいに言うな、こら」
左右に持つ刀の切っ先を二人から外さず、十兵衛様がニヤリと笑った。まるで悪戯が成功したのを喜ぶ少年のような笑みだ。
じっとそれを眺めてた四郎様が唇を噛み、険しい表情をする。
二人は摺り足で円を描くように走りながら、中心に位置する十兵衛様に連続して斬撃を仕掛けた。澄んだ金属音が幾つも響くが十兵衛様はそれらをすべて払い除け、逆に攻撃をしてみせる。三人の間に稲妻のごとき白光が幾筋も走った。
凄い……。
これが柳生同士の戦い……。
十兵衛様の左の刀が半兵衛さんの斬撃を弾き返し、同時に右の刀は連也くんの肩口をかすった。ぎりぎりで後ろに跳んで避けたが、連也くんの首筋に血が滲む。
「チッ……。薙刀持ったお袋に斬られた時以来だよ、刀が肌に触れたのは」
「お前にとって永遠の好敵手はお袋さんかい、尾張の麒麟児」
二人がニヤッと笑い、まるで仲の良い兄弟のように揃って肩を竦めてみせた。「――お互い、親には苦労するな」
「はぁ、まったくだよ」
言い終わると同時に二人が走り出した。走りながらも攻撃の応酬は続いてるのか白刃が何度も煌めく。半兵衛さんは連也くんの援護に回るようだ。
「……みんな、いい?」
険しい目で三人を見詰めていた四郎様が、視線を逸らさずに私達だけに聞こえるよう小さな声で囁いた。
「何かいい策を思い付いたか、怨霊?」
特殊警棒とやらを肩に担いで、トントン、とやっていた忠弥さんが不敵な笑みを浮かべた。
「……忠さんと十郎兵衛の爺ちゃん、後ろのくノ一を任せていい? 取り囲んでる忍びの軍団は無視していいから」
「ふむ」
「……儂達を逃がさない為の壁役だろうから、ですかな?」
十郎兵衛さんが顎に手を当てて唇の端を歪めた。ああ、面白がってるな、この人。
まあ、それぐらいは私も判る。この状況で敵味方入り乱れての乱戦となれば、騒ぎが大き過ぎて揉み消すのが難しくなる。書類の上では「何も起きてない」と出来ても人の口に戸は立てられない。ましてここは江戸の目と鼻の先。江戸城内で幕閣同士の足の引っ張り合いのネタにだってなり得るだろう。
だとしたら、私達を確実に葬る為に包囲陣形は崩さない筈だ。……弓矢での牽制ぐらいはするかもだが。
四郎様がコクリと頷く。
「うん。囲む師は欠くのが兵法の鉄則――でしょ? 爺ちゃん」
「ですな。一つ、教育してやりますか」
十郎兵衛さんはそう言うと、木の棒を何本も束ねたようなものを出した。両端の棒をガクンと開き、丁字型にすると懐から太目の糸を出して横棒をたわめるようにして……これ? 木の棒に弓を括りつけたような??
「おお、ミヒャエル・ヴィットマンの名台詞!!」
み、みは……る……さん??
誰ですか、その人??
いやいや、みはるさんは置いといて、
「――あのぉ、四郎様。十郎兵衛さんの持つそれは一体? 後、私は……??」
「ああ、雪ちゃんは俺と一緒に歌って」
「……え?」
何だろう。物凄~く、嫌な予感が……。




