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第一章 2

 

          2




 闇の帳が落ちる寸前で俺達は人里に着いた。まあ、現代で言えば過疎寸前の集落って感じのところだから宿屋なんぞある筈もなく、里の端にある無人の荒れ寺に俺達は腰を落ち着けた。


 ――あれ? となると国民的ゲームと言われる某RPGで、どこの村にも必ず宿屋があるのは設定に無理があるのか??


 破れた箇所から星空が見える蜘蛛の巣の張った天井、胸から上が無くなってる本尊……、もう「テンプレ乙」と敬礼したくなるぐらいの荒れ寺だ。こんな埃だらけの床に何で皆、平然と横になれるんだ?

 眠れなかった俺は皆を起こさないように足音を忍ばせ、そっと外に出た。

 冷たい夜風が頬に当たり、虫の声を聞きながら片膝をついて月に向かって両手を組む。


 ――島原の皆、俺だけ生き残ってること、怒ってないか?




 由比正雪サイド 同日深夜 庵の庭



 月に向かって跪き祈りを捧げる四郎さま……。余りにも神々しいその姿に私は一瞬、金縛りになってしまった。

 成程。島原の民達が死を恐れず戦ったのは、この姿を見て――四郎さまを信じる事が出来たからこそ、か。

 雲がかかり、一瞬だけ月が陰る。

「……雪……ちゃん?」

 雲が晴れて再び月が銀色に輝くと、立ち上がった四郎さまがこちらを向いて微笑みを浮かべていた。目尻に涙らしきものが見えたが、気付かなかったフリをする。

「雪ちゃんは止めて下さい、四郎さま」

 雪ちゃん、か。そんな風に呼ばれたのは何年振りだろう? 幼い頃、母がよくそう呼んでくれてた気がする。

 四郎さまは、ごめんごめん、と言って苦笑いを浮かべ、

「起こさないように、そっと出てきたつもりだけど……もしかして起こしちゃった?」

「いえ、武蔵さまも気付きましたよ。もっとも、私が四郎さまの後を追うのを確認してすぐ寝ちゃいましたが」

「……流石、二天一流。某アニメの吸血鬼幼女なら『ぱないのぉ』と叫ぶところだ」

「きゅう……ぱな……??」

 二人っきりのせいか砕けた言葉で話してくれるのは嬉しいが、意味が判らない単語が端々に混ざる。南蛮の単語? 小首を傾げる私に四郎さまは、何でもないです、と肩を竦めて微笑んだ。

「で、どうしたの?」

「いえ……四郎さまの生まれた世って、数百年先なんですよね? どんなところだったのかな? と……。昼間の医術の話から察するに、平和でいい世なんでしょうね」

 本当は、原城で死ねなかったことを後悔してないか尋ねたかったのだが……。訊くべきではない気がした。

 四郎さまは、フム、と顎に手を当て寺の縁側に座る。私も隣に腰掛けた。

「う~ん……表面上は、平和でいい世だったよ」

「表面上?」

「職人の作った様々な『生活が便利になる絡繰り(=家電)』が溢れ、進んだ医術により死の恐怖は遠ざかり、自分の考えを自由に発言出来る。たとえ、まつりごとに対する批判でもね」

「お上に批判を……??」

 す、すごい。

 でも、四郎さまは首を左右に振る。

「それがね、絡繰りを買うにも進んだ医術で治療してもらうにも、それこそ何をするにも金が掛かるんだよ。金を得るには勿論働かなくてはならない。で、割のいい仕事に就くのは高度な学問が必要。その高度な学問を身に付けるには子供のうちから学び始めないとならない。つまり……」

「子供を学問所にやるには、そもそも親が裕福でないとならない……? な、何か、延々と金子きんすを追い掛けてる感じですね」

「うん、そんな一生が本当に幸せと言えるのか、皆、判らなくなっちゃったんだよ。その迷いはどんどん大きくなって、戯れに子が親を殺し、親が子を玩具のごとく扱って壊す……そんな奴がチラホラ出始めた」

 それって……俗に言う魔道とか修羅道ってやつに堕ちてません??

 四郎さまが、そうかも、と笑う。

 それから四郎さまは色々なことを話してくれた。絵で物語を表現する方法――『漫画』というらしい――とか、絵双六の要領で自分が主人公になって物語を進めていく『てれびげむ』という遊戯が沢山あった、とか……。

「日本発の漫画やゲームが南蛮の国々で絶賛されてるんだ。バイオやトランスフォーマ―なんてハリウッドで何本も映画作られたし」

「すいません。何言ってるかさっぱりです」

 でも、楽しそうに語る四郎さまを見て私も嬉しかった。

 それから私達は色々な事を話し合った。特に、子供達に遊びの形を取って読み書き算盤を教えれば、乾いた大地が水をどんどん吸うように彼等は知識を吸収する、という話に感銘を受けた。是非とも張孔堂で実践したい。

「子供の内に“九九”を覚えちゃえば、簡単な四則演算は出来る。そっから先は桁が増えたり、計算式が複雑になるだけだから」

「計算ですか。昔から苦手なんですよね、私……」


「……お前達、もしかして夜を徹してお喋りしてたのか?」


 気が付くと東の空が白々と明け始めており、起きてきた武蔵様に呆れられてしまった。




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