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久遠の螺旋 ~転生者天草四郎、怨霊となりて江戸の歴史を闇から操ります!~  作者: 冴月小次郎
第六章 ――キー君の死亡フラグを折ろう!――
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第六章 9


 天草四郎サイド 寛永16年(1639年) 九月某日 深夜 土井大炊頭利勝屋敷




         1




 家康の謀臣として有名なのは本多弥八郎正信、正純親子だろう。豊臣家潰しのシナリオを描いたのはこの二人だと言われている。

 ただ、二代将軍を誰にすべきか家康より問われた際、本多親子は結城秀康を挙げたらしい。この発言が家康に何を考えさせたか不明だが、二代将軍に秀忠が就任して二年後、秀康は病死している。

 そして家康が死んで張り詰めていた糸が切れたのか、家康と同じ年に正信も死去。権力の後ろ盾を失くした正純は、それから六年後、俗に言う『宇都宮城釣り天井事件』で改易、出羽に配流されている。

 この後、台頭してきたのが土井大炊頭である。それ故、秀忠にとって何かと煩い家康時代の功臣を粛清する為に土井大炊頭がシナリオを描いたのでは、と見る向きもある。


 ――


「……つまり、狡兎死して良狗煮られる、と?」

「まあ、昔から繰り返してきた権力者の定番行事再び、ってところかな。もっと生産的な方向にその才能を使えよ、と俺としては言いたいけど」

 土井殿は数年前に中風を患い、現在は屋敷でリハビリ中らしい。中風って何だっけ、と思ったが症状を聞く限り脳卒中の後遺症じゃないかと思われる。

 光さんと甚くんの案内で、俺と雪ちゃんは土井大炊頭の屋敷に向かった。お供は連也、半兵衛さん、忠さん、それから土井殿の元に行くと聞いて、「是非、拙僧も」と立候補してきた廓然坊こと別木さんである。この怪しい事この上ない面子めんつで表から屋敷に入るのは流石に申し訳ないので、夜中に裏門をそっと開けて貰った。

「お二人……天下の大老様の元に向かうってのに、随分と余裕ですな」

 夜中の廊下を進みながら別木さんが感心したような、呆れたような呟きを漏らす。

「フッ、俺は怨霊……この世に未練あって彷徨さまよい歩いてる死人しびとだぜ? 今更お偉いさんの前に出たって怖くも何ともないよ。恨めしや、と挨拶するだけさ」

「……私としては、四郎様には少し自重を覚えていただきたいのですが」

 雪ちゃんが苦笑いして肩を竦めてみせた。「――お年寄りにその台詞は洒落になってませんよ?」

 光さんが、まったくだ、と言って溜息を吐いた。

「ここには俺の顔で入った訳だからな。土井の爺さまが死んじまったら、真っ先に疑われるのは俺になっちまう」

「……どんだけ日頃の行いが悪いんですか、若さま」

 甚くんが真顔で眉間に皺を作る。目がもう変質者を見るそれだ。半兵衛さんと忠さんもコクッコクッと頷いてる。

「何だよ、俺が一番の悪者かよ?」

「自覚があって何よりです、若さま。『白い目を 集めて寒し 秋月夜』ってところですかね?」

 甚くんがニコリと微笑んで廊下奥の襖を開けた。


「やっと来たか、遅えよ、お前等」


「ッ!?」

 部屋の中央には布団が敷かれており、そこには上半身を起こした老人が座っていた。おそらく、この人物が土井大炊頭利勝。頬は痩せこけ、皺が深く刻まれたその顔は年月を経た古木を思わせるが、眼はそれに反して剃刀のごとき鋭い光りを放っていた。

 そして、枕元には厳しい表情した壮年の男と先程「遅えよ」と声を発した柳生十兵衛様が並んで座り、十兵衛様の後ろに俺の命を狙っているくの一が座っている。

「もしかして……飛んで火に入る何とやら状態ですか、俺等?」

 苦笑いしつつ言ってみたが、正直、震えそうになる足を必死に押さえてる。……江戸の世に飛ばされ、島原の地獄を生きて脱出し、加藤家のバカ殿と大立ち回りして、行き着いた先が大老屋敷での謀殺か。何の祟りだ?

 厳しい表情をした壮年の男は、観察するかのような冷たい瞳を俺に向け、

「水戸の若が張孔堂に入り浸ってる、って噂は小耳に挟んでいた。で、その若が土井様に面会の約束を取り付けたという。なら、おそらく俺等が追ってる人物を連れて来る筈と踏んで、土井様に同席させてくれと頼み込んだ訳よ。一度、お前とサシで話してみたいと思ってな、なぁ天草四郎時貞。――ってな訳で、まあ座れ」

 ニヤリと男臭い笑みを浮かべる。

 俺は布団を挟んで三人の向かいに腰を下ろした。隣に雪ちゃんと半兵衛さん、そして後ろに連也達が座る。

「大老である土井殿に頼み事が出来て、柳生十兵衛様の横に座る……智慧伊豆様とお見受けしましたが?」

「いかにも。松平長四郎信綱である。島原では色々と世話になったな、天草四郎」

「いえいえ。大したお構いも出来なく心苦しく思ってますよ」

 松平伊豆守信綱。――島原では幕府軍総指揮官だった男だ。

「まず最初に聞かせろ。あの最後の日、何が起きた? どうやってお前は戦場を脱出した?? 武蔵が動いてたようだが……」

「武蔵様に何かする気ですか?」

 自分でも目付きが悪くなったのが判る。あの方は、『個の強さ』という意味で日本人が辿り着いた一つの頂点だ。あの方が居たからこそ、後世のチャンバラ好きは『最強の剣士は誰だ?』という話題で盛り上がれるのである。権力でどうこうしていい存在ではない。

 ……いや、単純に俺はあの方が好きなんだ、きっと。

 伊豆守様が肩を竦めてみせる。

「何もしねえよ。大体、あの男をどうこう出来る奴なんか居るのか?」

「居ませんね。十兵衛様の祖父柳生石舟斎様か、一刀流の祖伊東一刀斎様でも墓の下から蘇ってくれば、いい勝負になりそうですが……」

 俺の言葉に十兵衛様が、勘弁してくれ、と苦笑いする。

「……で、何が起きた?」

「最終日。武蔵様と雪ちゃん――あ、正雪殿――が、混戦に紛れるようにして俺と宗意軒の爺さんの前に現れました。泰平の世に叛旗を翻した馬鹿の顔を見てみたかった、と」

「ふむ。で?」

「俺と爺さんは、どうせ後は死ぬばかりよ、と半分自棄っぱちの気分で色々と話してあげてたんだが……そこに忍びの集団がやって来ました。伊豆様の指図なんでしょうが」

「ああ、俺が甲賀衆に命じた。お前の首を獲って死体は爆薬で吹き飛ばせ、と。西国諸藩の誰かに武功を挙げられると、後々、面倒だったからな」

「成程。それで細川藩の何某が俺の首を獲ったと言われてるのに、何故か生きていた俺のお袋が首実検の後『誰が教えてやるもんか』と呟いた、と、まことしやかに流れている訳ですか」

 一揆に参加した百姓達は、内通してた絵師を除いて全員殺された筈なのに何故か生きて捕らえられていた天草四郎の母親が、集められた年若い男の首の一つを見て顔色を変える。これで天草四郎の死が認められた……。

 ――らしいのだが、この話には続きがあって、母親は本陣から追い払われた後、「誰が教えてやるもんか」と呟いた、と言われているのである。

 平成の世で学生やってた頃は、もしかしたら生きているのか、とワクワクしたが、落ち着いて考えるとこの話はおかしい。一揆軍は裏切者以外、全員死亡の筈なのに母親は何故生きている?? 本陣から追い払われた後の呟きを、一体誰が聞いたのだ??

 考えられる答えは一つ。全員を殺したが、結局どれが天草四郎の首か判らなかった。で、こういう形でお茶を濁した。――つまり、すべて作り話。

 この世界線でも、きっと……。

 伊豆守様がかすかに唇の端を持ち上げ、薄い笑みを浮かべた。

「甲賀衆が帰って来なかったからな。お前が本当に死んだのか、確信が持てなかった。故の工作よ。――で、話の邪魔をされた武蔵が甲賀衆を斬ったのか?」

「正確には、武蔵様と見抜けず問答無用で攻撃してきた甲賀衆を、武蔵様が圧倒的強さで叩き伏せ、焦った甲賀衆の頭が爆薬を抱いて自爆覚悟で突っ込んで来ました」

「それでも、武蔵には勝てなかった?」

 コクリと頷くと、伊豆守様は深く息を吐いた。「――本当に人か、あの男?」

 十兵衛様はその言葉に苦笑いを返し、くノ一は唇を噛んで俯いてしまった。

 さて……。

 今度は俺の方が質問しようと思ったのだが、その前に土井殿が口を開いた。

「そ、それで……島原の怨霊……。お、お前は生きて……何を為さん……と、ほ、欲す? きりし……たん……の解禁……か??」

 言語障害が後遺症で出ているのか、つっかえつっかえな喋り方だった。

「いえ」

 俺が答える前に雪ちゃんが口を開く。「――幕府の方針転換を」

 え? それ、言っちゃうの??




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