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久遠の螺旋 ~転生者天草四郎、怨霊となりて江戸の歴史を闇から操ります!~  作者: 冴月小次郎
第五章 ――歴史への介入――
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第五章 9



 柳生十兵衛サイド 寛永16年(1639年) 同日 深夜 会津藩屋敷




 まさか、堂々と姿を見せるとはな……。

 屋敷の物陰から空中に立つ天草四郎を見上げ、俺は苦笑いを浮かべた。

 あやめの解説では、おそらく墨を塗って黒く染めた縄を倉の屋根から屋敷側の大木に向けて張り、その上に立っているのだろう、との事だ。

 東慶寺への襲撃未遂は俺も腹立った。天樹院様が幕閣に激怒なされたのも、さもありなんと思う。だから気になった。


 ――奴の性格で堀親子を見捨てる事が出来るのか?


 おそらく出来まい。

 ただ、妹のお友とは斬り合いたくなかった。

 だから春日の婆さんの話を持ち出したのだが、お友の姿が無いところから察するに、奴は俺の言葉の裏を理解したのだろう。

 ――となると、俺がここに来る事も予想してた筈。

 さて、どんな策があるやら。

 俺は口許に苦笑を浮かべたまま、顔を隠す為に般若面を付けて屋敷の物陰から出た。スラリと腰の三池典太を抜く。

「……天草四郎に葦名盛氏か。今夜は怨霊の集まる祭りか何かか?」





 天草四郎サイド 寛永16年(1639年) 同日 深夜 会津藩屋敷




 ……い、今、目の前に起きた事をありのままに話すぜ。

 堀親子救出に、昔の時代劇『隠〇同心』のノリで乗り込んだら、目の前には殺気満々のくの一が立っていて、更には般若面を付けた武士まで出てきやがった。多分、この般若面、柳生十兵衛様なんだろうが……山田風太郎先生、やっぱり貴方は神です。

 ってか、訳判らんわッ!!

 俺は、手摺てすり代わりの縄を右手で掴んだまま身を屈め、左手で腰の短刀を抜いた。

「般若侠……。そういう貴方様は……一刀流、小野善鬼殿の怨霊と見ましたが?」

「小野? 俺が誰か判ってて、そう来るか。フフフ……。ま、何でもいいや」

「……俺は、ちょっと恥かしいのだけど、アンタは楽しそうだな」

 肩を竦める般若面の前に槍を構えた忠さんが立つ。

「祭りは楽しんだ者の勝ちだ。楽しまなきゃ……」

 二人が一気に間合いを詰め、互いの背後に居る敵を斬り倒した。「――損、だろう?」

 そのまま背中合わせに立つ。

「先にコイツ等だな」

「だな」

 ……アンタ等、打ち合わせでもしてたのか?

「な、何なんだ、貴様等ッ!? どいつもこいつも怨霊、怨霊と……もういい、死ね! 死ね! 皆、死ねッ!」

 イラついた馬鹿殿が刀をグルグルと振り回し、敵味方問わずに斬り付ける。

「と、殿ーッ! ……な、ぜ……」

 逃げようとしていたのか、先程まで馬鹿殿にあられもない姿でまとわりついていた女が袈裟懸けに斬られ、自分に何が起こったのか理解出来ない顔のまま倒れた。馬鹿殿自身は返り血を浴び、狂ったかのような哄笑を上げる。

「フハハハ……死ね! 死ね!」

 あの馬鹿殿、壊れたみたいね――くの一が淡々とした口調で呟く。

 そして……間合いを一気に詰めて来た。

「貴様も死ぬがいい、天草四郎ッ!!」

「あの馬鹿殿と一緒に死ぬのは御免だな」

 それに、まだ死ねないんだよ。雪ちゃんの死亡フラグを折るまでは、ね。

 白刃が届く寸前、俺は短刀で足元の縄を切った。くノ一は態勢を崩したが、忍びとしての意地か、空中で縺れ合いながら俺の左肩をザクリと切り裂いた。

 そのままくの一は落下するも、どこぞの体操選手みたいな見事な宙返りをして地上に着地する。

 俺の方は、手摺代わりに張ってた縄に命綱を結び付けていたのでバンジーよろしく落下したのだが、バンジーの紐ほど伸縮性がこの時代の縄にある訳がなく、思いっきり縄が背中に食い込んだ。

 うくっ……。

 一瞬、息が……。

 左肩から鮮血が溢れ、持っていた短刀を落としてしまう。

「フハハハ。地獄に帰れ、天草四郎ッ!!」

 口の端から涎を垂らし、馬鹿殿が血走った目をして大きく刀を持ち上げた。そのまま俺に向けて振り下ろしてくる。罪人の死体で試し切りする山田浅右衛門か、テメエは!?

「四郎兄ちゃんッ!!」

 連也が慌てて刀を投げ、命綱を切断する。

 ドサリ、と背中から地面に落ちた俺は痛みを堪え、右足を蹴り上げた。馬鹿殿の鳩尾に爪先がめり込む。

「グフッ……」

「悪いが、男にのしかかれる趣味は無いんだよ……」

 そのまま体を捻って、白目を剥いた馬鹿殿を近くの巨木に向かって蹴り飛ばす。背中を幹にぶつけた馬鹿殿は口から泡を吹いて、気絶したのかピクリとも動かなくなった。


「――静まれぃッ! 静まれぃッ! この場は俺が預かる。双方、刀を引けぇぃッ!!」


 唐突に若い男の声が響いた。

 見回すと、誰も居なくなった筈の座敷に十数名の人間が立っていた。センターに立つのは、現代なら大学生くらいの年齢の武家の装束をまとった男が二人――右側の奴は、ちょっと裾が長く派手なデザインのを着てる――と、その後ろに控えるように一歩下がって立つ少年。もしかして……伊賀で会った甚くん??


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