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久遠の螺旋 ~転生者天草四郎、怨霊となりて江戸の歴史を闇から操ります!~  作者: 冴月小次郎
第五章 ――歴史への介入――
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第五章 4



 由比正雪サイド 寛永16年(1639年) 同日 東慶寺内




「あの者達に任せておくだけで、本当に良いのか? 雪」

「大丈夫です、伯母上。皆、武運拙く浪人に身をやつしていますが、本来なら一軍を率いて戦場を駆ける将器の持ち主です。会津加藤家の者共など、歯牙にもかけないでしょう」

「たわけ。戦場とは、何か思いも寄らぬ事が起きるものよ。それに臨機応変に対処出来てこそ、本当の軍師じゃぞ?」

「今回、絵を描いたのは私ではなく四郎様です」

「ほお」

「今、四郎様は忠弥さんと一緒に戦場に出ています。何か思いもよらない事が起きても、きっと上手くやってくれるでしょう」

「……それは将の言葉ではないぞ、雪。愛する男を信頼する女の言葉よ。軍師とは帷幄の中にあって謀を巡らし、勝ちを千里の外に決すもの。帷幄の外に出るのは、それだけ追い詰められてる証拠じゃ。あの方がそうじゃった……」

「あの方?」

「真田左衛門佐殿よ。あの方は、天下を引っ繰り返すことなど本音の部分では不可能だと理解されていた。故に、最期の夢に真田の名を天下に轟かそうと、春秋の古い故事にある『その死、生くるのにまさり』を演じきったのよ。兄上殿が『その生、死するに賢る』をやってくれると信じてな」

「……」

「あの者の目、妾が大坂城で会った真田殿の目とよう似ておる。死を切望している者の目よ。惚れたのなら奴の心を掴んで決して手放すなよ、雪? 同じ女として先達からの忠告じゃ。フフフ……」




 天草四郎サイド 寛永16年(1639年) 同日 東慶寺周辺




 いや~……浪人の皆さん、強いわ。

 絶対に殺すな、気絶程度にとどめてくれ――こっちの無茶な要求を、皆さん、笑ってクリアしてくれている。

 忠さんは六尺棒を自在に振り回して加藤家の雑兵共を牽制しつつ、強引に間合いに入ろうとするお馬鹿さんは、その膝を薙ぎ払った。やられた奴は立てなくなってるので、おそらく膝の皿を割られているのだろう。

 他の連中も逃げるフリして雑兵共を松林の中におびき寄せ、事前に隠れてた連中と連携して蛸殴りだ。……あれ? これって島津の兵法、釣り野伏せ??

「怨霊、こっちはもうちょいで片付く。表門の半兵衛達の方を見てきてくれ」

「いいけど……あっちも余裕じゃない?」

「半兵衛は心配してないが、別木の野郎はな……。アイツはここ一番ってところでポカやるんだよ。だから頼む」

「へ~い、了解」

 別木さん、最早、張孔堂のお笑い担当だな。

 俺は、ゾンビのごとく呻きながら地面に横たわる雑兵共を避け、表門に向かった。




 ――




 表門は乱闘の真っ最中だった。

 半兵衛さんは複数を相手にしているが、スピードで完全に圧倒しており、素早く死角に飛び込んでは峰打ちを叩き込んで気絶させている。……アンタ、柳生新陰流だよね? 飛天何とか流じゃないよね??

 廓然坊こと別木さんは、何だか胡散臭いお経を唱えながら半兵衛さんにやられて転がってる連中の間を歩き回り、立ち上がりそうな気配のある奴を見つけては錫杖でぶちのめしている。

「……南無。往生せいよ」

「こらこら、往生させちゃマズイって俺言ったよね、別木さん!?」

 近付いて、青々と剃り上げられた坊主頭を後ろからぺちっと叩く。まったく、このオッサンは。

「おお、怨霊殿。裏手は大丈夫ですかな?」

 叩かれた頭を撫でながら、別木さんがにこやかな笑顔で言う。

「忠さんが鬼神も三舎は避ける活躍をしてますよ。で、こっちを見てきてくれって頼まれて来たんですが……別段、問題なさそうですね」

 浪人達も上手く立ち回って一人ずつ確実に仕留めている。この時間を出来るだけ長く楽しみたいって顔だね、みんな。

 倒し終わったのか、半兵衛さんもこちらにやって来た。

「まぁ、みんな、食える物探して山に入って獣と戦ったりしてましたからね。バカ殿様に飼い慣らされた連中なんぞ、歯牙にもかけないでしょう」

 別木さんが、ですな、と言ってガハハと笑った。

「いやいや、別木さん、貴方は半兵衛さんが倒した連中を錫杖でブッ叩いて気絶させてただけですよね?」

「引導を渡す――これぞまさしく仏僧の役割なり」

 別木さんが威厳たっぷりに重々しく呟く。確かに『引導』はもともと仏教用語だけど、何か違う。

 さて、他の奴等は……。

 周囲に目を向けると、視界の片隅に深編笠を被った一人の浪人が見えた。

 些か前傾姿勢で、スタスタと摺り足でこちらにやってくる。

 あれは……。




 丸橋忠弥サイド 寛永16年(1639年) 同日 東慶寺裏




 久し振りに思う存分、暴れられたな。

 俺はすっきりした気分で六尺棒を肩に乗せ、首をコキコキと鳴らした。

 他の奴等も晴れやかな顔でこちらにやって来る。

「さすが宝蔵院流。天下無敵ですな、先生」

 ニヤニヤしながら言うなよ。

「よし、お前等もこの域になれるよう、明日からの訓練を少し厳しくしよう」

「ええ!!」

「『ええ』言うな!! 子供か、お前等ッ!?」

 まったく、コイツ等は。

 と、視界の片隅に寺の塀の上に立つ忍び装束の女が見えた。右手を振りかぶり、何かを投げようと……。

「チッ! どけッ!!」

 射線上に居る奴をどかし、六尺棒を回転させて飛んできたものを弾き落とす。


 ガギッ!


 地面に黒っぽい鉄の塊が数本、突き刺さった。これは確か……苦無??

「……ッ」

 女の方に視線を向けるとすでに姿を消していた。

「あの先生? これは一体??」

 浪人達が苦無をを見て目を丸くしている。チッ。

 俺は、さあな、と呟いて六尺棒を放り捨てた。カラカラと乾いた音を響かせて地面を転がる。


 ――これは警告? それとも別の意味が……??




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