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第一章 8




 左甚五郎サイド 同日 貴船神社



 昔、世話になった老中の土井様に頼まれ、京の様子を見に来たのだが……エライものを見てしまった。

 どうも鞍馬寺に高い地位の連中が秘密裏に集まったようで、江戸より送り込まれた“草”達がその正体と目的を探ろうとしてたのだが、この馬鹿共、小火騒ぎを起こして寺の中から連中を引っ張り出そうとしやがった。

 当然と言えば当然だが神域でその行為は中の連中を怒らせ、飛び出てきた護衛らしき三名程が鞍馬の修験者達と協力し、あっさりと馬鹿共を打ち倒した。

 問題は……

「あれは尾張の柳生さまと……紀州の何とかって抜刀術の達人……だよな? いや、それよりも問題は、あの背の高い……尋常じゃない気配をまとった老人は、噂に聞く……」


「――うむ。新免武蔵よな」


 ッ?

 慌てて後ろに振り返ると、人懐っこい笑みを浮かべた小柄な老僧が立っていた。

「……和尚? 沢庵和尚じゃないですか?? 一体、いつ京に??」

「久し振りじゃのぉ、名人。寺に居ると将軍家や幕閣の奴等がちょくちょく来るからウザッたくてのぉ。ちょっと抜け出して来た」

 けらけらと子供のように笑う和尚。この人、これでも将軍家や兵法指南役の柳生但馬様が師礼を取る名僧なんだがなぁ。

「抜け出して、って……品川に幕府があんだけデカイ寺建ててくれたのに……。まあ、いいや。和尚、一体、何が起きてるか御存知で?」

「いや、知らぬよ。名人は?」

「自分は……昔、世話になった土井様から手紙貰いまして。『京方面で“草”がざわついている。伊豆と但馬の差し金のようなんだが、島原の騒動が終わって間もないのに毛を吹いて疵を求めるのは愚の骨頂。何か妙な事が起きたら知らせて欲しい』と」

「確かに、上皇さまの御子が生まれたばかりだしのぉ……。ふむ」

 と、和尚がスタスタと歩き出した。

「和尚、どこへ?」

 まさか、鞍馬寺に直接乗り込む気か? この和尚ならやりかねん。

「うむ、柳生の事は柳生に訊くべきじゃろう。名人、暇なら付き合え」

 はいぃぃ??




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