序 1
初めまして。どっかの小説サイト(アダルト)で俺の名前を見たことあるって方は、お久し振りです。
このサイトではずっと読み専でしたが、久し振りに書いてみたくなったので挑戦してみます。
歴史の勉強がまだ甘いので、知識ある人から見たらお目汚しかも知れませんが、ここはひとつ、あたたかい目で見守って下さい。
……(略)来世にて閻魔之帳を踏み破り、修羅
道も罷り出で、皆極楽に安く参るべき事、何の
疑いこれ有るべき哉。……(略)……
――天草四郎
序 ――怨霊の誕生――
天草四郎サイド 寛永15年2月28日 原城
魂を切り裂くような悲鳴と野獣のような雄叫び……。
あちこちから天に向かって伸びる黒煙……。
「ッ!」
思わず窓の横の壁を右手で殴りつける。
見えはしない。しないが……。
先程聞いた報告によると、この眼下では血に酔い獣と化した兵士達によって俺の仲間達が……家族達が殺戮されているのだ。
老人も……子供も……。
男も……女も……。
来ないでと懇願する腕が斬り飛ばされ、逃げ惑う足の腱を切られ、絶望をその顔に宿したまま女は犯され、男はまるで虫を潰すように殺される……。
ガッ!
再び壁を殴る。拳の先に血が滲んだが痛みは感じなかった。
「……四郎様」
俺の横に控えていた爺さんが袖を掴む。「――皆、覚悟の上です」
「でもッ! こうなる事は判ってた! 判ってたんだ、俺は……。なのに止められなかった……」
「もう、どうにもならないところまで来てたんです。後は皆で手を取り合い“ぱらいそ”に行くだけが願い……四郎様に罪はありません。本来なら関係ない貴方様を巻き込んだ事は、皆に代わり私がお詫び致します」
爺さんが静かに微笑む。
俺は静かに息を吐き、首を左右に振った。
「関係ないなんて言わないでくれ。俺は『天草四郎』――“ぱらいそ”までの道案内は俺の役目だ」
そう、俺はもう『天草四郎』なのだから……。
――平成○○年10月某日。午前7時41分。
駅のホームで俺はスマホ片手に学園行きの電車を待っていた。衣替えで学ランになったのはいいが、俺、学ラン似合わないんだよなぁ。満員電車の中だと暑いし。
指を滑らせ、電子書籍のページを捲る。
俺は列の先頭で、後ろには同じく電車に乗ろうと企んでる奴等が群れを成している。
はぁ……。せめて加齢臭のするオッサンが側に来ないよう神に祈るか。
電子書籍のページを捲る。タイトルは『魔界〇生』。山田風〇郎の名作伝奇小説だ。
ザザッ
ん? 今、揺れたか地面??
某ギャンブル漫画みたいに周囲もざわめき出した。
「うそ? 地震??」
「震源地どこだ?」
ドンッ!!
瞬間、大きいのが来た。
足を踏ん張り、倒れるのは何とか防いだが……本来ならベストの、この時だけは最悪のタイミングでホームに電車が滑り込んで来る。鉄の軋むブレーキ音がやけに大きい。
「おい、減速出来てないぞ!」
「ぶつかるんじゃないか、これ!!」
誰かが叫んだ。逃げろ、と。それが引き金になりパニックが起こる。
列を乱して階段に殺到する連中、鉄柵によじ登って駅外に脱出しようとする者達、判断が追い付かず金切り声をあげる女性達……。
と、列が膨らみ体を押された。
何とか耐えたが側に立っていた髪の長い女子高生が体勢を崩す。
「おいッ!?」
慌てて手を伸ばして線路に落ちかけたその子の腕を掴み上げる。涼しげな瞳を不思議そうに丸くし、自分に何が起きたか判ってない感じだ。
キャーッ!?
少女は何とか引き上げたが、その拍子に足を滑らせた俺は彼女の代わりにホームに転落した。速度オーバーで突っ込んでくる電車の突風を全身に浴びる。
嘘だろ、おい……。
すぐ目の前まで電車が迫っており、運転手の真っ青な顔が妙にはっきり視認出来た。
――やべ。死んだわ、俺。
そして俺は意識を失い……
…………
……
気が付くと、俺は海に浮かんでいた。死んだのに『気が付くと』ってのも変な感じだが、とにかく浮かんでいた。見上げた空は幾百もの星の瞬く綺麗な夜空だった。
「四郎様ッ!」
「四郎様を助けろッ!!」
ざばっ! ざばっ!
複数の男達が水を掻いて近付いて来て、救助した俺を浜辺に寝かせた。周囲に女子供老人など多くの人間が集まって来ていた。近隣の村の人間すべて集めました、ってな感じなのだが……何だろう? 皆、顔色は悪く手足が枯れ枝のように細い。栄養失調寸前みたいだ。三途の川で彷徨ってる亡者って訳でもなさそうだが……。
皆の代表なのか、灰のような色した白髪の老人が俺の側にするすると近寄って来た。
「四郎様、立ち上がれますか? このままでは風邪を引いてしまいます。お着替えを」
「し……ろう?」
こめかみに手を当てて上半身を起こす。「――すまん、記憶が混乱してるんだ。俺はどうして海に??」
「『おれ』?? ……は、はあ。皆で洞窟に集まり“みさ”をしていた最中、まりあ様に祈りを捧げていた四郎様が突如、『あの者を助けねば!』と叫んで海に飛び込んだのです」
みさ?
まりあ?
……心臓がドクドク言ってる。何だ、この状況?
「す、すまん。今、何年?」
「大丈夫ですか、四郎様? 今は……寛永14年の夏ですが……」
か……んえい……14年?
血の気が引くのが判った。寛永って確か、江戸初期――朝、読んでた小説の舞台になった、あの時代……だよな?
老人を手招きして近くに寄せ、彼にだけ聞こえるように小声で囁く。
「もしかして……俺の名前は『益田四郎』で……洗礼名は『ジェロニモ』?」
「はあ」
老人が、訳が判らないって顔で頷く。
最悪だ。一人を除いて全員虐殺された、あの『島原ノ乱』まで半年しかねぇ。
作者のメンタル弱いので、きつい批判は御勘弁を。