第1話
俺には街中で暮らす普通の高校生の生活というものが見当つかない。
生まれたのは北海道の田舎だった。
ビルというものをはじめて見たのは、高校に入学する少し前に、札幌に来たときだった。地震がきたら(窓とか落ちてきそうで)危なそうだな。と、漠然と思っていた。
ものごとを斜めから見るクセは、大人たちから可愛くない子供だと言われるたびに拍車がかかっていったように感じる。
ちょうど、電車や地下鉄もそのときはじめて目にした。スピードに乗って走る様は力強くてカッコいいかもしれないが、一度、迫りくる鋼鉄の列車が通る線路に飛び出してしまえば僕らは成す術もなく肉片と化してしまうだろう。
なぜ、人間はこんなにも危険なものを生活の一部に組込んでいるのだろうか、と不思議に思ったものだ。
いまでは、登下校に必要不可欠なものと理解できているため、たとえ危険と隣り合わせでも便利さには代えられないという本質が見えている。
また、自分は高校三年生になった今でこそ丈夫な身体を持つに至ったが、小さいときには病弱で、よく寝込んでいた。
寝ながら、布団や枕にしてあるカバーをつまらない装飾品であると思っていたが、案外、実用的なものであると今頃になって気づいたのだ…。
では、魔法はどうだろうか。
今では、多くの人間が忌み嫌う魔法と呼ばれる抽象的な概念。
ガスや電気を使わずにお湯を温め、刃物を使わずに野菜を刻み、飛行機や気球に乗らずに宙に浮く。そんな夢のような力。
人類は原初のときからずっと魔法を使い文明を発展させてきた。
そう、魔法は万能に近い便利な道具なのだ。
ただ、問題はそれができる人間と、できない人間がいるということ。
そのたった一つの問題が世界を歪ませてきた。
皮肉にも人類を発展させてきた魔法は、魔法が必要のないほどの文明力を手に入れたとたん、社会から切り取られてしまった。
「貴方が出会う最悪の敵は、いつもあなた自身である」とはニーチェの言葉だったか。
結局のところ、人類は人類同士で殺し合わなければいけない運命だったのかもしれない…。
そして、残念ながらとでも言うべきか。俺は人類を発展させてきた側の血を色濃く受け継いでしまっていた。つまり、魔力を持つ人間だ。
俺、鏑木鷹央は小説に出てくるような主人公でも何でもない…。このときはまだごく平凡な、休み時間には教室の隅にじっと座っているような、目立たない高校生だった。
だが…。
だが、もし。
自分を主人公にして、これから身に起こる出来事を小説にするとすればそれはきっと…。
『絶望』というタイトルになることだろう——。