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LUNASEA同タイトル小説

CHESS

作者: 皐月 沙羅

 黒いマントが翻る。俺の視界は暗闇へと変わる。またあの歌声が聞こえてくる。賛美歌のような歌。とても清らかで、とても不気味な歌声。それは、天からも地からも響いてくるようだった。やがて歌声は俺の頭の中で反響を始め、俺の意識を支配する。


 私は歌う。神々の歌を。愛しさを込めて、悲しみを込めて。天使のささやきを右耳に、悪魔のささやきを左耳に聞きながら。やがてあなたの意識は私の歌声の中に落ちていく。私はあなたに同化する。


 目を開けると、手が紅く染まっていた。足元には俺を囲むように真紅のバラが散らばっていた。バラから手に視線を戻すと、紅色は消えていた。足元のバラも消えた。たちの悪い白昼夢か。そう、あの歌声が聞こえてからだ。歌声が聞こえてからの記憶がない。俺は何をしていたのだろうか。手を動かしてみる。どことなく自分の体ではないような気がした。


 目を開けると、あなたの見ていた光景が広がる。あなたがあなたの中にいないことを確認する。私は剣を抜き出した。細く華奢な剣。これをするには最適の剣を。もう目の前にはあなたの意識の欠片がいる。私は剣を振り下ろす。神を憎むなんてどうかしているわ。可哀想な人。そして私はまた一歩、歩を進めた。


 おかしい。何かがおかしい。俺が俺ではない気がしてくる。神がいるならば教えて欲しい。神? 神なんていない。それが俺の信条だ。まったくどうかしている。頭の奥からまたあの歌声が響いてきた。


 おかしい。憎しみの記憶は消したはずなのに。手違いはない。確実に私は前に進んでいる。大丈夫よ。神々の元に招かれる日もきっと近いわ。もっと神々を楽しませなくては。次で最後。これ以上ないくらいにきれいに消してあげるわ。私は歌う。最後の歌を。


 暗闇の中で、俺は女と対峙した。二人の周りにだけ、薄ぼんやりとした光が浮かんでいた。俺は歌声の発信源がこの女だと悟った。いや、初めて歌声を聞いた時からわかっていたはずだった。

 暗闇の奥でゆらめく灯を見た。灯の中で神々が笑っていた。いや、神などいない。あれは悪魔だ。


 暗闇の中で、私はあなたと対峙した。二人の周りにだけ、薄ぼんやりとした光が浮かんでいた。手違いはなかったはずなのに、あなたには私が見えている。私が失敗したと言うの? あなたは遠くの闇を見ながら私に言う。「君は騙されている」と。


 「まさか」と女は鼻で笑う。まだ気づかない。ひどい仕打ちだ。俺は最後に言う。「では、君の記憶はどこに行ったのだ?」女の表情が凍りついた。


 もう俺たちに逃げ場などない。周りはすべて囲まれて身動きが取れない。俺たちはただのゲームの駒でしかなかったのだ。

 チェックメイト! 誰かが遠くでそう叫んだ。


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