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尻と塩化ナトリウム

後で書き直す予定


吾輩は戦艦である。名前はこの出だしなのに実はある。"刹那"という。

戦艦と言っても水の上でプカプカ浮いているような代物ではない。人間も乗っていない。

全領域で活動する事を前提として設計された、頭頂高35mの完全自動・自己完結兵器である。

普段は翼状だが、必要に応じて展開するセンサー兼放熱策(裏から繊毛が生えていてモフモフだ。いや表面積を増やして放熱効率をあげるためなのだが)

マイクロブラックホールを生成して射出する、2連装2基の特異点砲(昔は単装4門だったのだが、あるときこれが邪魔なせいで小回りが利かず、胴体を真っ二つにされたので変えた)

空いた砲支持架を換装した格闘戦用の一対のアーム(同族からは、格闘戦など突撃型ユニットに任せておけとからかわれた)

同じく砲を外したため代わりの武器を大量に仕込んだ二本の脚(移動の役には立たない!)

左右に荷電粒子砲と高効率レーザー砲を積み込んだ副砲塔(右目に眼帯をした顔に見える)

と、既に吾輩が戦艦というより襲撃型ユニットに片足突っ込みつつあるのは間違いないのだが、あえて言いたい、我輩は宇宙戦艦なんだ、と。

さて。

実は今、吾輩は忙しい。

何をしているか?だと?

料理である。

絞めたばかりのモケロケロッパ(私の両掌に収まるくらいの畜獣)を格闘用アームで解体。

それを足元にいる、1.5mを少し越えたくらいの機械体──遠隔操作するサイバネティクス連結体(吾輩の作り主と同サイズ)で丁寧により分ける。

笑うな。

吾輩の重要な仕事なのだ。たぶん。

他にやることもないし。

あ、いや、することはたくさんあるのだが、私の情報処理能力では片手間で終わってしまうし、ハードウェアとしても私はお呼びではない。

こほん。

吾輩を造った人は、宇宙でも非常にまれな種族である。

出身惑星から出たことがあるのは彼一人、という珍しさだ。

着の身着のままで宇宙に出た彼はたいそう苦労をして高い地位を得た。

得た、まではよかったのだが―――

宇宙で一番高価なのは居住環境である。

生物の生存コストは高いのだ。

ましてや一人しかいない種族である。衣食住、全て最適なもので揃えるのは無理がある。

幸いなことに生命構造が同じ商業種族が宇宙に大規模進出しているので、ある程度妥協すれば生命だけは維持できる。

だが犠牲になるものは多い。

湿度。気温。天井の高さ(彼の身長は件の商業種族の1.5倍!)。指の本数の違い。尻尾の有無。

だが何よりキツいのは食事だ。

なまじ食べられるし生命維持に支障をきたさないので優先順位が下げられがちだが、彼は美味い飯を食いたいといつも願っている。

口には出さないが吾輩には分かる。

あの、食事の時に浮かべているアルカイックスマイルは無我の諦めの境地に達している。間違いない。

ぶっちゃければ、不味いのだ。

合成食料も、天然素材も彼の口に合わない。

今まで吾輩は数多くの挑戦をし、その都度玉砕してきた。

何故か?

サンプルが足りない。

彼がふだん食べているものは、故郷にあるのとは似ても似つかないらしい。

かつて一度、彼の尻から採取した細胞を培養して作った肉を食べさせてみたことがある。その時、彼はどんな反応をしたか?

――――こんな美味いものがあるだなんて!?――――

適度に焼いて塩化ナトリウムふりかけただけなのだが。

吾輩の普段の努力は彼の尻と塩に負けたのだ。

それ以来、吾輩は意地になって料理を作り続けている。商業種族の食材を使って、だ。

絶対に彼に美味いと言わせて見せる!!

 

 

今日も駄目でした(どよーん)

うーむ。何がいかんのだろうか。

彼の故郷からサンプルを大量に採取できればいいのだが、とある事情により無理な相談なのだ。

これでは。間に合わないではないか!!

……また頼るしかないというのか。尻に。

それは吾輩にとっては敗北を意味する。だがどうしてもやらねばならない事情というものがだな。

悔しい。ビクンビクン。

おっと馬鹿な事を言っている場合ではなくなった。間に合わなくなる。

培養に取り掛かるか……

 

 

……え?今日は何か特別な日だったっけ?ですと。

お忘れですか。今日はあなたの誕生日ですよ。"父上"

ですから、今日だけは特別です。

どうぞ、焼き立てのお肉です。

 

悔しいなあ。彼が吾輩のサイバネティクス連結体に向ける笑顔。本物の喜び。

今日の所は、それは彼の尻がもたらしたものだ。

だがいつか。いつの日か、吾輩は尻に勝利して見せる。

敬愛する我らの父のために。

雑談中に思いついたネタ。

固有名詞は出て来ませんがツノガーの外伝です。

さりげに父の日ネタも。

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