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*crystal tears*  作者: 桜咲 香恋
9/10

甘美なる罠

な、なななななんで…!?



口元を押さえられながらも、混乱の瞳でアイリスを見た。ふと、リリィの頭に昨日起きたあの出来事が蘇り、思わず顔をしかめる。アイリスはにやりとほほ笑みながらリリィを抱きかかえている。



『…静かにして。私についていらっしゃい』



アイリスはそう小声で呟くとゆっくりと手の力を緩めた。静かにはしているものの警戒心を解けないリリィは思わず首を振った。しかし、



『…だめよ』



『…!?』



いかにも楽しそうに、リリィの白い手首を掴むと、そのまま歩き出したのであった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




アイリスの後ろ姿を警戒の瞳でみつめながら、リリィはなされるがまま手をひかれて歩いていた。

しばらくして、アイリスはとある噴水の前でとまった。辺りは色鮮やかな春の花々に囲まれていた。リリィの手を離してからさっと振り向くアイリスの姿が咲き乱れる花々に美しく溶け込んでいることにリリィは思わず綺麗だと感じた。しかしすぐにはっとすると一歩後ろへと引き下がり、怯える瞳でアイリスを見た。



『あらあら…そんな怯えないで頂戴』


いかにも楽しそうに唇をなぞりながらアイリスはリリィを見た。


『な、なんのご用ですか…』


リリィは最大限に勇気を振り絞ってアイリスに問う。すると、




『あれ、見ちゃったんでしょ?』



あれ…?



予想をしていなかった台詞を放つアイリスにリリィは思わず驚く。

あれ、とはなんのことだろうか。リリィは考える…。そしてその末、心当たりにあることを口に出した…。


『…ミレーユ生徒会長と…、お、王女殿』



『そう、それそれ』



アイリスはやっぱり見られちゃったかぁ、という顔をしてから、リリィに向き直る。



『…悪いんだけれど、あのこと秘密にしておいてくれるかしら…』


『…へ…?』


『あれね、生徒会長と私しか知らないのよ。そう…王女殿下が無断でお城を抜け出してること…』




そういってアイリスが苦笑する。

リリィはあぁ、そういうことかと思うと、わかりました秘密にします、とアイリスに言った。

そして心の中で安堵の溜息をついた。リリィはてっきり、アイリスにまた何かされるのではないかと警戒していたからだ。


リリィは、胸に手を添えると穏やかな表情で顔をあげた。そして、



『…へっ?』



目の前に近づくアイリスの顔…。どこまでも見透かされているような不敵なブルーアイと妖艶な微笑みにリリィはびくりとした。やばい、と思うのもすでに遅く、リリィは腕を掴まれて引き寄せらる。



『その安心しきった顔…たまらないわ』



『…っ…!?///』



そう耳元で囁くアイリス。リリィは耳元にかかる生暖かい吐息に思わずびくりとした。その反応を面白がってか、次の瞬間アイリスはリリィの耳を舐めあげたのであった。



『…あっ…!!///』


『…可愛い』



アイリスは耳元から唇を話すとリリィの表情を見た、頬を紅潮させながらぐったりとするリリィ。しかしその瞳はアイリスではない違う誰かを見ているように感じた。おそらくはシュラビーレであろう。アイリスはそれを考えると身体をぞくりと震わせた。思わず恍惚の笑みを浮かべる。



『…最高よ、ほんと。』



そう呟いてアイリスはリリィに唇を近付ける。リリィはいや…、と小さくつぶやきながらも力が入らないようであった。



そして、その時であった。






『ずいぶんと楽しそうなことをしているんですね』





突如として響く凛とした声。

リリィがはっとするよりも早くリリィの身体が背後へと傾く。




ふわりと漂う…愛おしい香り。




リリィがおそるおそる顔をあげると、そこには翡翠色の瞳できりと前を見ているシュラビーレの姿があった。




『あらあら…今度は邪魔されちゃった』




相変わらずの余裕を見せながら、現れたシュラビーレに対しちらりと視線を送るアイリス。しかし、それを聞いてからすぐ、シュラビーレはリリィの手を引くとそのまま走り出した。



『えっ…』




『おいで』




リリィは驚きと高揚感に身を踊らせながらそのままシュラビーレに引かれていった。






リリィは愛おしい後ろ姿を見つめていた。



真っ白な制服が、淡い桃色の髪と共になびいている。それと一緒に、甘い香りがリリィを包んでいた。




リリィ思った。

このまま、いつまでも手をひかれていたいと。

とても幸せな気持ちに包まれていた。




ーーーーーーーーーーーーー


その頃、取り残されたアイリスは1人、にやりと微笑んでいた。計画通りである、と。



アイリスはシュラビーレがこの時間にこの噴水の前をよく通ることを知っていた。そして、アイリスはリリィがシュラビーレに連れ去られる寸前、ひとことリリィへと呟いていた。



アイリスは踵を返した。

そして唇を舐めながらおもった。





いつか必ず、あの子は私のものになる。




アイリスは恍惚の笑みを浮かべていた。






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