禁断の戯れ
翌日、リリィは授業教室に向かうための近道である中庭を歩いていた。やはり昨日のことはすぐには吹っ切れる事ではなかった。頭の中にシュラビーレの姿が浮かぶ度、愛おしく切ない気持ちになる。そしてリリィはもやもやとした気持ちを抱えながら、さらにミレーユの事を思い出していた。
昨日、ミレーユは訳もわからず泣いている自分を優しく包んでくれた。こんな一生徒でしかない私の話を聞いてくれた。
今思えば、リリィは今まで誰かに自分の想いを打ち明けたことはなかった。内気なリリィは、話をするどころか、友達の一人すら作ることが出来なかったのだ…。それが昨日、リリィは出逢って間もないミレーユに気持ちを伝えた。ミレーユの優しく穏やかな雰囲気とどことなく感じられる包容力がそれをさせたのではないかとリリィは思った。
リリィは嬉しかった。
どんな理由であれ、ミレーユは自分に優しさをくれた。また話をしてみたいと、リリィは心の中で思った。
その時…、
『…まぁ。相変わらず、可愛いらしいお方。』
リリィはその声に聞き覚えがあった。そう、それはまさにミレーユのものであった。
その声は、生徒会が管理している中庭の温室の中から漏れていた。
リリィは興味本位でそっと扉に声をかけた。
そして丁寧に手入れのされた色とりどりの花々の影から様子を伺った。
そして直後リリィは驚きのあまり目を見開いた。
最初に視界に映ったのはミレーユの姿だ。そして次にとびこんできたのは金色のウェーブに、どこか憂いをおびたようなサファイアグリーンの瞳、端正すぎる顔立ちに、純白のドレスで…。
『あの中は窮屈なんだもの…』
そう、
『うふふ…、お気持ちお察しいたしますわ…、
そこにいたのは、
…王女殿下』
まごうことなき、ストラピア王国第一王女アリアナであった。
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親しい雰囲気で言葉を交わしあう2人…。
リリィは驚きのあまりそこから動けなくなった。
もはや人並み外れた美貌をもつとされる第一王女と、三大美女と称され加えて学院の頂点にたつその方本人が2人で並ぶ、その美しい光景…ではなく…!!
そしてリリィはその時に思い出した。
昨日ミレーユが零した台詞である。彼女はまさか…、王女殿下を…、
その時であった。
『…んん!?』
それは一瞬の出来事。
リリィは誰かに口元を覆われ、後ろから抱き抱えられた。
『…大人しくするのよ…』
耳元で囁く艶やかな声。
鼻腔をくすぐる甘すぎる香り…、まさか。
『またキスされたくなかったら…、黙ってついてきて頂戴』
夜空の青に染まる髪を揺らして現れたのは、不敵な笑みを浮かべたアイリス副会長の姿であった。