オレンジヴェール
なんで…!
『…っ!』
なんであんなことしたの…!
『…貴女の前で…うっ…く…』
しばらく走り続けると混乱と羞恥心がふいに涙となって溢れ出て、リリィは思わずその場にしゃがみこんだ。どうしようもない想いと、あの時のそう…すれ違い間際に見たシュラビーレの大きく見開かれた瞳が頭から離れなかった…。
するとその時、頭上からふわりと優しい声が響いた。
『…どうしたの…?』
慌ててはっと顔をあげたリリィの瞳に、一人の少女の姿が映った。綺麗に巻かれたブラウンヘアーを両サイドに揺らしながら、彼女は優しげな瞳でリリィを見下ろしていた。そしてその姿をリリィは知っていた。いや、むしら知らない人はいない。彼女はこの学院の四年生であり生徒会長ーミレーユ本人であった。
『み、ミレーユ様っ…』
リリィは慌てて涙を拭い、立ち上がった。
心配そうな瞳でリリィを見るミレーユの姿に、リリィはなんだか自分が惨めに感じて再び瞳に涙を浮かべた。
すると、
ふわっ…
『っ…!?』
『…辛いことがあったのね…』
突如としてリリィを包み込むミレーユ。柔らかい感触と優しい香りに抱かれたリリィは驚きに瞳を見開いたが、しばらくしてから震える腕をそっとミレーユの腰にまわして静かに肩を揺らした。
ーーーーーーーーーー
『そう…そんなことがあったの』
リリィとミレーユの二人は現在生徒会室のソファーに座って居た。
あのあと、理由も言わずただただ涙を零すリリィの頭をミレーユは静かになで続けていた。しばらくして泣きやんだリリィは、ミレーユに慌ててお礼を言うと、今までの経緯を静かに話はじめたのであった。話している最中も、リリィは幾度となくシュラビーレの姿を思い浮かべていた。
『…すみません、先程は挨拶の一つもせず…』
そういって頭を下げるリリィにミレーユは、いいのよ、と呟いて優しく微笑んだ。
『それにしても、そんな強引な事をするの…アイリスくらいしか思いつかないわね…』
『…そ、それは…』
分かりきったような表情でため息混じりに言うミレーユに、リリィは小さくはい…、と言葉を返してから視線を逸らした。
『ごめんなさいね…私がきちんと管理できていないから…』
『そ、そんなことありません…!』
そういって思わず立ち上がったリリィは、はっとすると再びソファに腰を下ろした。
『…あの子はね、昔からそうなの…。誰が言っても言うことは聞かない…困った子よ。』
そうミレーユは呆れ声で言ったが、その瞳はどこか懐かしそうであった。
『…今回のことは災難だけど…私、リリィさんの恋、応援していますわ』
『あ、ありがうございます…』
そう言ってミレーユはソファから立ち上がると、ゆっくりと窓辺の前に移動した。
ふと外を見ると、いつの間にか日は沈み始めていたて、オレンジ色の光がぼんやりと部屋の中を照らしていた。
その時リリィは見た。
夕日に照らされているミレーユの瞳がリリィの知らないどこか遠くを見つめているのを…。
だからリリィは彼女に聞いた。
『ミレーユ様は…誰か想っている方が、いるのですか…』
するとミレーユは優しい瞳でリリィをちらりと見てから、再び窓の外に視線を移した。
『…いるわ…。そうね…これがどういう気持ちなのかはわからないけど、そう…忠誠を誓っている方がいるの』
そう呟くミレーユを優しく夕日が包み込んでいた。オレンジ色のヴェールを背景にきらきらと輝くその姿に、リリィは思わず目が離せなくなったのであった。
いつも閲読ありがうございます、桜咲です!!???
誠に申し訳ないのですが、現在、本編の方、加筆修正しております。
大幅な内容の変更などはありませんが、読者の方には御迷惑おかけします。
今後とも彼女たちの想いの行方に末永かくお付き合いいただけたら幸いです。
感想など、お待ちしております、では!!