夢の世界
『…ん…っ』
…私……。
私はぼんやりとした意識の中…、微かな温もりと…、上下に揺れているような…そんな感覚を感じました。
『あ、れ…私…、…。』
そしてゆっくりと瞳を開くと、優しい光が視界にそっと入り込んできて、雲ひとつない青空を背景に飛び込んできたのは…。
『…え…っ…』
淡い桃色の髪を揺らし、その翡翠色の瞳で前をじっと見つめる憧れの貴女の姿でした…。
『…シュラビーレ…様……、夢…え…あれ?』
私はあまりの驚きに動揺を隠せなくて目を見開きながら、身体の力がふっと抜けて…、
スルッ…
『…あっ、きゃ…っ!』
『おっと、危ない』
ヒヒィィンッ
どこからか落ちそうになると、上下の揺れはふととまって…私はどうやら乗馬していたようで、いいえ、それよりも…っ!!
『やっと…目覚めたね…』
青空を背景に、私を優しく抱きとめながらふっと微笑むシュラビーレ様…、私の心拍数は最高潮に達して、ただ貴女を見つめることしかできずに…。
『あ、あの…わ、私…あの……、あっ!!』
その時にふと思い出したのは、魔法試験のこと。
そうだわ私、あの時…エメラルドの魔法石を見つけて、そして、そのまま湖へ…。
『…魔法石…!!魔法石をとってこないと!!』
『おい…落ち着け…』
『私…私、変わりたいの…少しでも…!!そう、あれがないと…!!』
バッ…!!
『…っ!?』
そうやって焦る私の右手首を掴むシュラビーレ様。
またあの時と同じ…意思強きその瞳で真っ直ぐに見つめられて私の身体は動かなくなった…。
『…右手をゆっくりと開けてごらん』
そう、シュラビーレ様が落ち着いた声で囁いて、私は言われるがままにゆっくりと右手を開いた。
『…!!』
現れたのは降り注ぐ光に反射してきらきらと輝くエメラルドの光…。
『君はちゃんと、一歩を踏み出したよ』
そう言う貴女の瞳に映るのは、高貴なエメラルド色の光ではなかったの…。
『…良、かった…』
私は滲む涙の水晶ごしに、愛おしき貴女を写して、
『…偉いね』
雲ひとつない青空の下、虹色の花びらが咲き渡るこの広い春の空間で貴女と2人きり。
時間よお願い、進まないで…。
憧れの貴女を独り占めしていたいの。
エメラルドの宝石はいつまでも輝いて、
私はその光からずっと…、目が離せませんでした。