エメラルドの光
ついにこの日がやってきてしまった…。
リリィは一人、小さくうずくまっていた。
『…どうしよう…』
そう今日は…。
『と、言うわけで、今から第一回魔法実技試験を開始します。』
学院教師の一声と、ざわめきの絶えない学院生達。リリィは不安に押し潰されそうになりながら隅っこの方にぽつんと居た。
今新一年生達がいるのは聖ファストル魔術学院から少し離れた場所にあるガルシアの森…通称、迷いの森と呼ばれる所であった。
この森には魔法の実験材料になる貴重な薬草や石、希少種である生き物達が生息している。しかしこの森は、目的を持たずに足を踏み入れない者は迷ってしまうという少しやっかいな場所であった。それを踏まえずに森に足を踏み入れた者、もしくは当初の目的を見失った者はさまざまな幻覚に振り回されて帰ってこれなくなる。その為、普段生徒達がこの森に入るのは禁止にされてた。
しかし今日は実技試験。学院教師の監視の元、一人ずつこの森に入らなければならなかった。リリィは割かし筆記試験は得意な方で学年上位に入っていた。しかし、実技は全く持って苦手であり、今回の試験の舞台がこのガルシアの森だということに酷く怯えていた。
その時、教師が再び口を開く。
『今回の試験内容は、今から各自に指定される色と同じ色の魔法石をとってくるというものです。内容はシンプルですが、充分に気をつけて探索するように。』
そう教師が言った直後、生徒各自の目の前がキラキラと輝き出して、ぼんやりと文字が浮かび上がった。それは各々、色を表すものであった。
リリィの眼前も光り出す。そして、
『私の色は……
“emerald“』
その文字を見た時だった。ふとリリィの脳内に浮かび上がったもの。
『…シュラビーレ様…』
私を真っ直ぐに見つめた、意志強きあの翡翠色の瞳…。リリィは憧れのあの人の姿を心に描いていた。勇気を出して頑張ったら、あの人にまた会えるだろうか。リリィは彼女のことを想って、ぎゅっと拳を握り締めた。そして、よしっ、と小さく呟いてから最初の一歩を踏み出していた。