Episode of Changing Zero 06
その頃、恭介は紗弥香と最寄りの駅から自宅まで歩いていた。
「変人ばっかだろ?ドラゴンズって。」
「ううん、そうでもないと思うよ。みんな根は優しくて普通の人だと思う。」
「紗弥香は優し過ぎるんだよ。絶対に他の奴を悪いように言わないし。」
「優しい…のかな?私はあるがままの自分でみんなに接しているだけなんだけどなぁ。」
「…あるがままの自分でいられるっていいな…」恭介がボソッと言った。
「ん?何か言った?」
「なーんもない。」恭介は空の方へ視線を逸らした。と、その時恭介のケータイの着信音が鳴った。画面に表示された発信番号を見て顔をしかめた。また何かあったのかと心の中で彼は呟いた。
「はい。俺だ。何の用なんだ?」
「まずいことになった。」恭介は深くため息をついた。
「また何かやらかしたのか?」
「実はな…ゼロの黒幕が現れたんだ。」
「な……なんだと⁉︎」あまりの声の大きさに紗弥香が驚いた。慌てて周りを見渡すが、幸い彼女ら以外には誰もいなかった。
「それで、そいつが下校途中の涼太とあすかに勝負をしかけた。」
「嘘だろ…⁉︎」
「本当だ。そして、涼太とあすかは呆気なくやられた。俺たちは戦闘の気配を感じてここへ来たんだ。その時にはもう既にやられていた。俺と飛隆で撤退させたが、こいつらを運び込まないといけないのとお前に話があるからこっちまで来てくれないか?」
「分かった。すぐに向かう。」恭介は電話を切った。
「何の電話だったの?何かあったの?」紗弥香が恭介に詰め寄った。
「えっ…えーと、何にもないよ。」恭介はそう言って苦笑した。
「とぼけないでよ!さっきすっごく大きい声で『嘘だろ⁉︎』とか言ってたじゃない!」紗弥香は早口で言った。
「私に…隠さなきゃいけないことなの⁉︎」
「…」恭介は心の中で呟いた。今ここであすかと涼太がゼロの黒幕にやられたことを明かせば紗弥香は仰天して自分もあいつらのところに向かうと言うだろうな。だから隠したいのは山々なんだ…だけど、二人とも同じクラスメイトだ。二人の傷は浅くはないだろう。そうなると学校を休むことになる。その時に適当な理由をつければ大丈夫なのかもしれない。だが、この紗弥香の表情を見る限りそれは不可能か…
「ねえ?何で黙ってるの?答えてよ!」紗弥香は激昂したままだった。恭介はため息をついてから口を開いた。
「本当は言いたくなかったんだが…あすかと涼太がゼロの黒幕と交戦して負けた。それを伝える電話だったんだ。」
「嘘…だよね…?」紗弥香は予想だにしない展開に呆然としている。
「本当だ。しかも殆ど一方的にやられたらしい。今から俺はあいつらのもとへ向かうから、紗弥香は帰っていてくれ。」
「いや、私も行く。」
「来なくていい。」
「行くよ。」
「来なくていいから。」
「行くってば!」紗弥香の口調がきつくなった。だが、恭介のそれは紗弥香のそれを上回っていた。
「来るなって言ってんだろ!何でお前が来る必要があるんだ!お前はドラゴンズの一員でもない。ただのクラスメイトじゃないか!これはな、一クラスメイトが首を突っ込んでいい話じゃないんだよ!」
恭介の雰囲気に圧倒され、紗弥香は何も言えなくなった。
「ごめん。言いすぎたな。」
「そんなことないよ。私も感情的になり過ぎた。二人のことはよろしくね。後で二人がどうだったか私に連絡してね。」
「分かった。約束する。」恭介は紗弥香の右手を持ち上げ、自分の小指を紗弥香の小指と絡めた。
「指切りげんまん、だな!」紗弥香は吹き出した。
「そうだね。」二人は笑いあって別れた。
紗弥香と別れた後恭介はすぐに雅翔達のもとへ向かった。