Episode of Changing Zero 02
チェンジ・ゼロ。ドラゴンズの超能力を少しだけ一般人に扱えるようにしたノーマルチェンジを何者かがリミッター解除したもの。リミッター解除のせいで一般人だとその力に溺れてしまう、とても危険な代物だ。ゼロの能力を持つ者はみな白いリストバンドをはめている。この騒ぎの中心人物も例外ではなかった。しかも、今回はかなり力に溺れているようだ。
「おーい、そこの男性。今すぐ右手のリストバンドを外して地面に置き、両手を頭の後ろで組んでくれ。」恭介がゼロのリストバンドをはめている男性に言った。返事はなかった。
「絶対大丈夫じゃないよ…話通じてないじゃん!」紗弥香は慌てている。恭介は彼女の肩に右手を置き、左手で頭を乱暴に撫でた。
「心配すんな。ちょっと待っててくれよ。学校には間に合うようにするから。」恭介は笑って右手を肩から離し紗弥香の手を握った。
「さて…と、さっさと終わらせるか。」恭介は目つきを変えて男性の方を見た。
「フィールド展開。」恭介がそう言うと目には見えない結界が恭介と男性の周りに出現した。無論、これは一般人に危害が及ばないようにするためである。
「ディプローマ!」恭介がそう言って右手を突き上げた。ドラゴンズのメンバーはディプローマと呼ばれる能力の証を持っている。普段は身につけていないが、ディプローマと言うことで出現するのだ。ディプローマは英語で証明書を意味する。一人一つそれぞれ異なった能力の証を持っているのだ。それがディプローマである。恭介のディプローマは懐中時計で、中を開くと恭介の「龍」の能力が発動する。
恭介は懐中時計の中を開いた。彼の周りが光に包まれ、服装が変わっていく。白いワイシャツに黒いベスト、そしてその上から黒くて生地の薄いロングコートを羽織った出で立ちに変わった。パンツは制服のものから黒くてかなり余裕のあるロングパンツへと変わっている。そして彼の右手には「一刀断世大龍之刀」と刀身に彫られた日本刀が握られている。
「ドラゴンズ日本支部リーダー、片川恭介、責務を全うする!」恭介はゼロの男性に斬りかかった。男性が手を前に突き出すと彼の前にレイピアが現れた。それを掴むと恭介の斬撃をレイピアの刀身で受け止めた。恭介はそのまま何度も刀を振り下ろしたが、全て男性のレイピアに止められた。
「闇雲に斬りかかっても勝てないか。ならこれでどうだ!」恭介の左手にもう一本の日本刀が現れた。恭介は二刀流で飛びかかっていった。男性がレイピアで斬撃を止めようとする構えを見せた瞬間、恭介は空中で一回転し、両手の刀を遠心力を用いて振り下ろした。
「激龍乱舞!」恭介の斬撃から青い光が生まれた。男性はレイピアで応戦しようとした。だが、レイピアは突き刺す為の剣であるが故、刀身は酷く細い。遠心力を用いた空中から振り下ろされる日本刀による斬撃に耐えられるわけもなかった。彼のレイピアは折れ、恭介の斬撃が男性の右手首を捉えた。右手首にはめていたリストバンドが千切れた。その直後、男性は意識を失い地面に倒れ込んだ。恭介はフィールドの展開を終了した。
「ふぅ…なんで入学式前にゼロが出てくるんだよ…」恭介はため息混じりに言った。
「大丈夫なの?どこも怪我してない?」紗弥香は捨てられた子犬を見るような目で恭介を見ている。
「怪我なんてしてねえよ。そんなことより」恭介は携帯電話を操作し電話をかけた。
「…はい、俺です。うちの最寄りの駅にゼロが現れたんです。…え?その方ですか?今は気を失って倒れています。…大丈夫です。息の根を止めるほどの強さでは戦っていませんから。…それでは、こちらに特殊護送班を派遣願います。…はい、それでは。」恭介は電話を切った。
「今、ドラゴンズの日本支部と連絡を取った。すぐに特殊護送班が来るから待っておけってさ。」
「ええええええええ⁉︎このままだと入学式間に合わないよ!どうするの⁉︎」
「いざとなれば俺の能力使うから!」恭介はそう言って指を鳴らしウインクした。
「恭介の能力って龍でしょ?龍に乗って飛んでいくの?」
「それもありかもな。だけど、俺には瞬間移動って手もあるんだ。」恭介はニンマリと笑った。
「瞬間移動?」
「そう。瞬間移動。ドラゴンズのメンバーは一応みんな使えるぜ。でも、みんな一年に三回しか使えないように制限されてるんだ。非常時はカウントされないんだけどな。」
そう言った直後に特殊護送班がやってきて、恭介に事情の説明と男性の容態について聞いてからその男性を護送して行った。
「さあ、入学式に行くか!紗弥香、俺の側を離れるなよ。」
「う、うん…」紗弥香は恭介の腕にしがみついた。彼女の顔がほんのり赤くなったことに恭介は気づいていない。恭介は目を閉じて龍の能力を高め、自分と紗弥香を瞬間移動の結界の中に入れた。彼と紗弥香の周りに光が舞い、輝いている。やがて二人を光が包み込み、二人は元いた場所から消えた。