Episode of Interference Zero 01
用語解説 補足2
「天使」
神の住む世界である神界、人間が死後に行くかもしれない世界である天界を繋ぐ存在である。天使にも序列が存在し、神界「中央の域」に滞在し神族長に仕える天使が最高位とされる。下の位の天使は天界で人間の監視や天界の警護を行っている。
「失われた楽園」(パラダイス・ロスト)
かつて存在していた楽園。そこには天使も神もいたのだが、そこに住む天使がとある高位の神の逆鱗に触れ、滅ぼされてしまった。それから何者かが神界の干渉を受けない別の空間に『再創』したとも言われているが、定かではない。
「失われた装備」(ロスト・アームズ)
楽園が消滅する時に行方不明になった武器。「神弓ヴィマナ」、「獣槍ヴァーリン」「天空剣ディヤウス」、「水銃スシェーナ」、「大砲プシュパカ」、「神翼ヴァーユ」、「英雄剣ラーマ」の七つが存在しているとされる。所持者も明らかではない。
「誰だてめえは!」剣を構えながらレユートがその仮面をつけた招かれざる客に問うた。
「僕は『ゼロに干渉する者』(インターフィアレンス・ゼロ)だよ。名前なんて名乗る必要もないかな。ふふっ。」男はそう答えた。
「お前はドラゴンズの仲間か?」
「いいや。違うよ。」
「じゃあ、お前はドラゴンズの味方でもなく俺たちの味方でもないってことか?」
「まあ、そう捉えてもらっても差し支えはないかな。所謂、『第三勢力』とかいうやつだよ。ふふっ。」
「残念だが、お前は『第四勢力』だ。既に『陰の警告者』という第三勢力が介入してきている。」
「ちっ、あんな奴らまで関わってやがるのか。」レユートは急に言葉が荒くなったことに少し驚いた。
「まあいいよ。君たちにはここで死んでもらうから。」仮面の男の手に槍が現れた。
「そういうわけにはいかないんでね!」レユートが剣を薙ぎ払った。
辺りに衝撃波が走る。彼の衝撃波はしっかりと仮面の男を捉えた。
「ふふっ。」仮面の男は槍を振って衝撃波の威力を相殺した。
「レユート!離れてっ!」レユートが横に跳んだ瞬間、後方から無数の衝撃波が仮面の男を襲った。だが、それらも全て槍の一振りで相殺された。
「ぬるいよ。こんな攻撃で僕を倒せると思ってるの?」
「粋がりやがって…」レユートは険しい表情になった。
「レンギス!エネルギーをフルチャージするぞ!」
「分かりました。」レンギスは口元を綻ばせた。直後、二人は白い膜で覆われた。周りには突風が吹き荒れ、チャージするエネルギーの膨大さを物語っていた。
「ふふっ、そうこなくっちゃ面白くないよ。」仮面の男の余裕のある言動は未だ変わらない。だが、彼も白い膜が消えた後に立っていた二人に関しては驚きを隠すことが出来なかった。
「なんだ…あれ…」仮面の男がそう言うのも無理もなかった。そこに立っていた二人は今までの二人ではなかった。剣を持っている方は髪の毛が逆立ち、眼鏡が消え、剣も二本を両手に構え、背中に一本かけて三本になっている。もう一人の方は容姿には変化が無いものの、手に鎖が付いている。
「さあ、始めよう。これが『チェンジ・ゼロ・フルバースト』だ。」レユートが言った。
「ふふっ。」仮面の男が笑みを浮かべた瞬間、彼の目前にレンギスが移動し、蹴りを食らわせた。後方に吹っ飛ぶ仮面の男。だが、それは途中でレンギスの鎖によって封じられた。四肢の自由を奪われ、手に持っていた槍を落とす仮面の男。再び彼の前に移動したレンギスは腹に蹴りを入れ、顔面や腹を中心に殴り始めた。呻き声を上げる仮面の男。御構い無しに殴り続け、レンギスは彼の左肩に手刀を入れた。仮面の男は苦しそうな声を上げ、すっかり余裕が無くなっていた。直後、レユートが彼の目前に現れ、二刀で彼の両腕を一閃した。痛みのあまり、叫び声を上げる仮面の男。彼の首にレユートは刀を当て、言った。
「さっきの余裕は…どうした?」
「ふ…ふっ…これで僕の勝ちは決まった。」レユートは彼の大腿部に剣を刺した。
「お前…この状況で…まだ戯言を言うか…」レユートはフルチャージした代償で言語能力が低下していた。
「お前…どんな顔を…してるんだ?俺は…見てみたい…」レユートはそう言うと男の仮面を砕いた。中から現れたのは若い男の顔だった。だが、不思議なことに彼は笑っていた。
「き…え…ろ…」レユートは首に当てた刀をそのまま横に振った。首がぽろっと地面に落ちた。
「残念だったな。」聞こえてきたのは死んだはずの男の声だった。
「な…んだと…」
「どこに…い…るの…です?」
「自分たちで見つけてみなよ。まあ、君たちには無理か。ふふっ。」
「ふ…ざける…な…」レユートとレンギスは辺りを見回した。だが誰もいない。
「ふふっ、あははっ。本当に見ていて滑稽だよ。能力の代償として理性を捨てた君たちが人を探すなんてね。あははははははっ 。」
「貴様…もう一回言ってみろ…」
「理性まで捨てて人を探すなんて滑稽でしかなくて無様だって言ったんだよ。」仮面を被っていた男がそう言い終わる前にレユートは剣を薙ぎ払った。周りに凄まじい衝撃波が走る。そろそろアジトの耐久力が限界に近づいてきていた。その衝撃波が
一箇所だけ不思議な動きをしていた。
「そこ…か…」レユートはその地点に移動した。
「馬鹿だなあ。」一刹那の間に何があったのか見分けられる人物はいなかった。男が言い終わる時にはレユートもレンギスも身体に矢が数本突き刺さり、身動きがとれなくなっていた。レユートもレンギスも驚きを隠せていない。
「僕と交戦したことが運の尽きだね。あははっ。」男が手に持っていたのは今までの槍ではなく、銀色の弓だった。
「あれは…まさか…」
「『失われた装備』(ロスト・アームズ)か!?」
「さすが。『天使』の成り損ないの君たちも知っていたか。如何にも。僕の弓は『失われた装備』の『神弓ヴィマナ』さ。」
「まさか…貴様は…『失われた楽園』(パラダイス・ロスト)の天使だというのか?」
「そうだよ。僕は君たちには特別に名乗ろう。僕の名は『アーティマ』だよ。」
「アー…ティマ…ですか…知らない名ですね…」
「そろそろ、雑談は終わりにしようか。君たちには消えてもらう。」ヴィマナに一本の矢を装填し、弦を引いた。矢が輝き始め、周りに突風が吹き荒れる。とうとうアジトの耐久力が限界に達し、建物が崩れ始めた。
「『アグネアの裁き』!!!」アーティマはそう言った。身動きが取れないレユート、レンギスの方に矢先を向けた。轟音と突風でアーティマの声は彼らには届かなかっただろう。アーティマは弦から指を離した。矢がレユートとレンギスの方に飛び、大爆発を起こした。燃え盛る火の中、裁きを下した天使は悪魔という名の方が妥当だと感じられた。
恭介たちはレユートとレンギスの身に起こったことを知らないまま次の日を迎えることになったのだった。