Episode of Changing Zero 16
「どうしよう…電話かけようかな、かけないでおこうかな…」自分のスマートフォンを片手にぐるぐると自分の部屋を歩き回るあやか。彼女は恭介に電話をかけるかかけまいかでひどく迷っていた。
「恭介は今取り込み中かなあ?それなら電話かけたら迷惑だよね…」
「いや、でも今かけないで先延ばしにしたら結局電話出来ないかもしれないし…うーん…」彼女はいつもすぐに決められない。彼女は裕福な家庭に生まれ、親の方針で男子との接触を極力避けてきたせいで、男と接する時にはいらぬことをあれこれと考えてしまう癖がある。その癖がダメなんだと奏とあすかに何度も言われているが、彼女は直すことができない。
「どうしよう…どうしよう…」あやかが悩み始めてもう数十分経っている。彼女のスマートフォンの画面には「片川 恭介」と表示されたままだ。
「かけちゃえ!」彼女は「発信」を押した。繋がるまでの時間がひどく長く感じられる。その間、彼女の心臓はすごい速さで拍動していた。
「はい、俺だけど?」恭介の声を聞いた途端、彼女は少し落ち着いた。
「もしもし。あのさ…」
「うん。」
「明日も午前中授業で早く帰れるじゃん?」
「そうだな。」
「明日…」あやかは一旦呼吸を整えた。
「一緒にご飯行って遊ばない?」あやかの心の中にはやっと言えたという安心感と言ったことで生じた達成感、恭介の反応がどうなるかという不安感が混在していた。
「明日か…」恭介は少し考え込んだようだ。あやかにはこの考え込んでいる時間も途方もなく長いように思われた。
「いいよ。」
「えっ⁉︎」
「いいよ。明日は特に何もないし。んで、どこに遊びに行くんだ?」
あやかは心の中でガッツポーズをした。
「買い物しにショッピングモールとかどうかな…?」
「了解。詳しくは明日教えてくれないか?」
「うん、分かった!」
「じゃあ、また明日な。」
「うん!」あやかはにこにこして電話を切った。
嬉しさのあまり彼女は部屋の中でスキップをしていた。
雅翔と飛隆はファミリーレストランに来ていた。
「あと何日東京におらなあかんねん。」飛隆はステーキを切りながら言った。
「あと二日だ。」
「はあ?これ絶対大阪帰ったらあの厨二ロリのご機嫌取りしなあかんやつやん。」飛隆はわざとらしくため息をついた。
「この二日には重要な意味がある。」
「なんや?」
「一つは引き続きゼロの監視とドラゴンズの監視、そしてもう一つは恭介が言っていた『純粋』の少女のことだ。」
「出た…『純粋』の女の子の話。確かその子はまだ能力として使えてないどころか能力にすら気づいていないんやろ?」
「まあ『純粋』は特殊だからな。数百年に一人しかいないからこれが異常なのかどうかは俺には分からん。」雅翔はボンゴレを口に運んだ。
「『純粋』って覚醒するとどうなんの?」
「良い方向に向かえば世界の安寧が保たれ、悪い方向に向かえば世界は滅ぶ。」
「まじかよ。って…熱っ!」飛隆は水を飲んだ。
「頬張るからだ。」
「冷てえな、雅翔。ほんまにこの水ぐらい冷たいわ。」
「そうか。」雅翔は全く気にかけていない様子でボンゴレを口に運んだ。
「で、その子の扱いも誤ればやばいってことか。」
「そうだな。恭介に『純粋』の少女って…この世界はどれだけ爆弾を抱えているんだ…」
「ただ、恭介とは違って余程のことがない限り『純粋』の能力が覚醒することはないらしいけどな。」
「そうなん?まあ、神界の記憶を呼び起こしただけで『神の本能』を発動させてしまう恭介と同じやったらこっちも困るわ。」飛隆はご飯をかきこんだ。
「『神の本能』か…一度見てみたいとは思うんだがな…」
「それはあかんで。発動したら…」
「わかってるよ。あいつなら間違いなく『再創』を始めるだろうからな。」
「『再創』なんてさせてもうたら、もう終わりやからな。あいつはたぶん軽々とこの世界を消し去るやろうし。」
「そうなんだよな…」雅翔は黙り込んだ。
「なんかあったんか?」
「いや、何でそれほど高位の神がわざわざ下界に降臨したがったのかと思ってな。」
「言われてみればそうやな。何か理由があったんかな…」
「それはあいつを呼び起こすしかないだろ。」
「でもそれはタブーやで。」
「わかってるよ。どうにかして自分で調べてみる。」
「それは『天使』の権限を超えてるんちゃうか?」
「越権行為であってもいいさ。いざとなればもみ消してもらえるかもしれないしな。」
「もみ消してくれるような奴おんのか?」
「まあ昔の貸しがいくつかあるからな。それを返してもらうだけさ。」
「そうか。」
飛隆が食べ終わると二人は席を立ち、支払いを済ませてレストランを出て行った。