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Episode of Changing Zero 15

「今日の午後四時半頃、新宿区の路上で男女数人が暴れ出し、周りの人に暴行を加えましたが、すぐに警察に鎮圧されました。警視庁は今までの発狂事件との何らかの関連があるとして、捜査を進めています。」

では、次のニュースです。とアナウンサーが言う前に紗弥香はテレビのチャンネルを変えた。この『警察』というのはドラゴンズのことだと彼女は確信していた。ドラゴンズの活動が国民に知らされることはまずない。そもそも、ほとんどの国民はドラゴンズと無縁の世界に生きているのだ。

「じゃあ、何で私は部外者なのにこんなに知ってるんだろ…」恭介に聞きたい気持ちもあったが、はぐらかされそうなので止めた。別に知らなくてもいいんじゃないかなと紗弥香は思った。

「あ、そういえばあすかちゃんと涼太くん大丈夫だったのかな⁉︎」

紗弥香はスマートフォンの電源を入れ、電話帳を開いた。あ行をスクロールし、か行の真っ先に出てくる番号に発信しようとする。だが、彼女の手は中々「発信」を押そうとはしなかった。もちろん彼女の脳裏に浮かぶのは昼間の喧嘩のことである。

「あの時は自分も気持ちが昂ぶってたし、私の剣幕に恭介が押し切られたって感じだったからなあ…」

彼女は誰もいないリビングで呟いた。当然、返答する声は帰って来ず、それがさらに彼女を憂鬱な気持ちにさせた。

「…こんな私を恭介はどう思ってるんだろ…」恭介は昔から実像を捉えられない奴だったと彼女は思っている。周りには常に明るく接していたけれど、たまにそれがぎこちないと感じる時があった。だが、その陽気な仮面を被った中の恭介を、紗弥香はいつも見抜くことが出来なかった。

「まあいいや。何とかなるよね!」紗弥香は意を決して「発信」を押した。


恭介はゼロの制圧が終了し、奏と喫茶店に寄っていた。キュリアはジャックとネイランのことがあるからと先にアジトに帰った。

「なあ、奏。」

「何?」

「出来たらさ、ゼロのリストバンドを巻いた一般人には手加減してほしいんだが…」

「…何で??」

「何でって…一応一般人なんだぜ?」

「我を忘れて凶暴化している人間なんて一般人じゃないわ。ただの獣よ。」

「だけどさ…さっきのはやり過ぎじゃねえか?危うく出血多量で死ぬとこだったらしいからな。」

「自分が生き残るためには手段を選ばないのが人間よ。彼らと私、どっちが食う強者に、食われる弱者になるかっていう駆け引きをしたにすぎないわ。」奏は手元のいちごパフェからホイップクリームにいちごソースがかかった部分をすくって口に運んだ。恭介はいちごソースがさっきの血を連想させてあまり食欲が出なかった。と、その時、恭介のスマートフォンが着信を知らせた。彼はかけてきた相手を見て、一瞬顔を顰めたもののすぐに電話を繋いだ。

「もしもし?」相手の普段の明るい声に少し陰がかかっていると恭介は思った。

「はい。俺だよ。あすかと涼太のことだろ?」

「そうだよ。覚えていてくれたんだ…さっそくだけど、二人の容態はどうなの?」

「別に特段ひどいわけじゃないよ。涼太は普通に立って喋ってたからな。けど、軽傷ではないよ。まあたぶん二人とも明日には学校に行けると思うぜ。」

「そうなんだ!それなら良かった…」彼女が胸を撫で下ろす様子が恭介の頭に浮かんだ。

「恭介と他のメンバーは大丈夫なの?」

「特に何も聞いてないけど。俺は大丈夫だよ。こんなことでくたばる奴じゃないからな。」直後、彼女のクスッと笑う声が聞こえて恭介もつられて笑った。

「本当に変わらないよね。そういうとこ、昔から一緒だよ。」

「そういうお前もいっつも馬鹿正直なところは変わってないぜ。」

「正直っていいことじゃん!」彼女が少し頬を膨らませる様子もこれまた容易に察しがついた。

「それはいいことなんだけどな…騙されるぜ?俺みたいな奴に。」

「恭介に騙されるほど馬鹿じゃないよ私も。」

「はぁ?言ったな、お前。」

「恭介にはさすがに騙されないわ〜」彼女の緊張感が緩んできたことが言動から読み取れた。最初の切羽詰まった声は何だったんだ、と恭介は心の中で嘯いた。

「あ、私そろそろ勉強しなきゃ!」

「そうか。頑張ってな!」

「うん!」そう言って彼女は電話を切った。


「あの『純粋』の女の子からでしょ?」

「そうだ。」

「あの子を巻き込んじゃってもいいの?私たちの戦いに。」

「俺は巻き込みたくないが、どうもあいつは意図せず厄介事に首を突っ込んでしまう習性があるみたいなんだよ。」

「死ぬかもしれないわよ。あの子。」

恭介は黙り込んだ。奏が手元のアイスミルクティーをかきまぜ、氷が冷たい音を鳴らした。恭介がその事に言及したのは少し時間が経ってからのことだった。

「あいつは…俺が死なせない。」

「自分が死ぬかもしれないのに格好いいこと言うのね。…」恭介は奏が小声で言った「だから、女にモテるのよ。」という部分を聞き取ることが出来なかった。

「あなたは何者なの?」恭介は奏の唐突な質問の真意が掴めず、黙り込んでしまった。

「あなた…神の子孫でもないのに、どうしてそんなに強いの?しかも、あなたはこれから現れるであろう敵に全く不安を抱いていない様子ね。どうしてそんなに気持ちを強く持てるの?『Q』の末裔である私ですら不安を抱えているというのに。あなたはあの子の身を案じるほどの余裕がある。それは普通ではないことなのよ。」

「強い弱い云々は努力の結果だよ。あと、さっきの台詞はそこまで考えて言ったことじゃないけど、確かに不安は無いよ。その時にならないと分からないだろ?相手の強さも自分の弱さも。もしそれで死ぬのならそれは自分が弱かっただけだ。それに、俺は神の子孫ではないけど、何らかの関わりがあるように思うんだ。微かな記憶があるからな。」

「そう。戦っていれば思い出すかもしれないわね。その記憶をきちんと、ね。」奏はパフェを食べ終え、ミルクティーを飲み干した。

「私が払っておくから。気にしないで。」奏は伝票を持つと恭介の反応を待たずに出て行った。


「ジャック。恭介は神界のことを少し覚えているみたいよ。」

「そうなのか?まあくれぐれも無理に思い出させるなよ。」

「分かってるわ。」

「神界に動きは無いの?」

「無いな。今は。」

「そう。ありがとう。」

二人の電話は終わった。

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