Episode of Changing Zero 14
恭介は笑い出した。
「いやー、我ながら迫真の演技だったなあ。あんなに叫んだのは久しぶりだぜ。芝居の才能あるんじゃないか?俺」
「でもあんな演技ではまだまだ俳優さんにはなれませんわ!私もあれぐらいできますわ!!」
「いや、無理だろ。」
「出来ますからっ!」キュリアは顔を真っ赤にした。
「さて…と、そろそろ退却したらどうだ?レユート。」恭介は吹っ飛ばされたレユートに剣を突きつけた。
「ふっ…そうだな。もう今日は戦えそうにねえな。俺としたことが迂闊だった。御崎奏にはあれがあることをすっかり忘れていた。しかもここまでの威力とは…」
「久々に使ったよ。あの技…」奏が言うあの技とは「クイーンズ・バースト」のことだ。女王の能力の使用者がピンチに追い込まれた時にほぼ自動的に発動する最終奥義で、全身から衝撃波を放ち、周りの敵を一掃する技だ。完全にこれを予測していなかったレユートは吹き飛ばされ、恭介たちは発動するのが分かっていたので衝撃波をなんとか防いだ。
「対策を練り直すぜ。今日のところは一時撤退だ。」レユートは『パラレル・ゲート』を開いた。
「御崎奏。次会った時には絶対倒すからな。」レユートはゲートの中へ入っていき、ゲートは消失した。
三人は変身を解除した。
「さてと、あの子の親を探さないとな。」
「そうね…心配して向こうも探し回ってるかもよ…」
「とりあえず本人に聞いてみようか。」
「ねえ、あなた。お母さんはどこにいるの?」
「さっきまでぼくとここにいたんだ。でも途中ではぐれちゃって…」
「意識を失ってたのね。なるほど…」奏は黙り込んだ。だがそれからしばらくして、
「恭介!一般人はどこに避難させたの?」
「最寄りの駅の方へ向かうよう言ったぜ?」
「なら、最寄りの駅付近にこの子のお母さんはいるわね。」
「そうだな。我が子を残してとっとと逃げるわけもないだろうし、探し回ってるだろうな。」
「良かったわね。あなたのお母さんともうすぐ会えるわ。」奏は少年の方を見て言った。
「うん!ありがと!お姉ちゃん!」
奏は頬を染めて笑った。
「じゃあ、行こうか。」三人は駅へと歩いて行った。
その頃、駅付近ではパニックを起こした女性が一人いた。
「うちの子は!?どこにいるの?どこなの??」女性は駅前で誘導にあたっていた警官に詰め寄った。
「現在捜索中ですから、もう少し待ってください!」
「嫌よ!あの子に万が一のことがあったらどうするのよ!お願いだから探しに行かせて!!」
「落ち着いてください。今は待機していただかないと危険です!探しに行けば命を落とすかもしれませんよ!」
「あの子の為なら命も惜しくないわ!だからお願い!探しに行かせて!」女性は泣き出した。周りには共に避難してきた人と野次馬が集まってごった返している。
「その必要はねえよ。」突然男の声が響いた。
「え…?」女性はきょとんとしている。だが、直後彼女は再び泣き出した。悲しいからではなく、嬉しいから。彼女の目にははっきりと我が子を連れて歩いてくる少年少女の姿が見えていた。しかも我が子は楽しそうに笑っている。周りの人たちもざわめき始めた。
「お母さん!!」幼児が彼女の方に走ってきた。彼女はその子を抱きしめた。
「もう心配したんだから…」彼女の涙は止まりそうにもない。だが、
「感動のご対面の最中で悪いけど…この子、意識を失ってて斬殺されかけたのよ。」少女が彼女に言った。
「…」彼女は驚きのあまり目を見開いている。
「それは誰のせいだと思う?ほかでもないあなた自身よ。」
「どうして…」彼女の声は震えている。
「物心ついていないような子どもを置き去りにして逃げるなんて母親失格よ。」
「それは違うわ!」
「何が違うって言うの?」
「私は…置き去りになんてしてない。」
「馬鹿言わないで!はぐれないように心がけるのは親として当然のことでしょ?子どもが泣くほどきつく手を握ってでも子どもを守ろうとするのが当たり前じゃないの?」
「そ、それは…」
「だから、あなたは母親失格だって言ったの。」
彼女は黙り込むしかなかった。
「あなたは再会の喜びを噛みしめると同時に自分自身の母親としての在り方を再考すべきね。」少女は踵を返した。残りの二人の少年と少女も彼女と共に行く。
「待って…名前だけでも…教えてくれない?!」
「…かなで。」
「えっ?」
「みさき、かなで。」
「みさき…かなで…さん。本当にありがとう!」
「当然のことをしたまでよ。別に感謝されることでもないわ。」
「お姉ちゃん、ありがと!」彼女の子どもが言った。
「どういたしまして。」それだけ言うと彼女たちは去っていった。
レユートはアジトに帰ると、レンギスが出迎えた。
「あれれ?レユートもやられちゃったんですか?」
「ああ。思慮が足りなかった。やられたよ、『女王』に。」
「御崎奏さんですか。私は彼女のツンデレが好きですね。」
「なんで性格を知っているんだ。」
「色々と調べてますから…」レンギスは笑った。
「気持ち悪いな。お前。」
「ストレートすぎますよ。女の子にモテませんよ。」
「別に構わん。」
「…苛立っているレユートに少し話をしましょうか。」
「?」レンギスはレユートに出すコーヒーを淹れるために立ち上がった。
「ホムンクルスというものをご存知ですか?」
「ああ。」
「あれは史実上作られていないのです。というより、理論上不可能でした。多くの人々が挑戦したそうですが、何も得られませんでした。ですが、それはあくまで史実です。史実は勝者によって作られたもの。闇に消え去る出来事も少なくないということです。」
「…続けろ。」
「つまり、ホムンクルスを完成させた人間がいたのですよ。一人だけ。」レンギスは淹れてきたコーヒーをレユートに差し出した。
「その人間は若い女のホムンクルスを作ることが出来ました。そして、それは彼の死後、フランス国王ルイ十四世のもとへ引き渡されました。そのまま年月が過ぎ、やがてアメリカ独立戦争が勃発します。当時の国王は彼女の軍事的価値を見出すのと、アメリカを支援する為に戦争に介入します。彼女は戦争で、当時のドラゴンズロンドン本部のリーダーであるマイク・シュリマンと戦います。結果は彼女の完勝でした。マイクは抵抗する間も無く一瞬で負け、死にました。そしてアメリカ独立戦争が終わった後、彼女はまたフランスに戻ります。ですが、世は啓蒙思想に刺激され、革命へと向かっていくところでした。彼女を所有していた国王一家はフランスを逃亡しようとして失敗し、処刑されました。主人を失った彼女はまたヨーロッパを転々としましたが、ある時、『A』の残党と出会いました。」レンギスも手元の紅茶を啜った。
「『A』の残党だと?」
「ええ。紛れも無い事実ですよ。」
彼はティーカップを机に置いた。
「そして、残党は彼女に感情を与えました。すると彼女が今まで見ていたモノクロの世界は美しい色で彩られていきました。彼女は恋を覚えました。そして、とある軍の将校に恋をしました。時間はかなり過ぎていて、第二次世界大戦の頃のことです。彼の国は一党独裁の国で、世界恐慌の際、植民地がない為ファシズムの波に乗ってしまった。たちまち他の国と戦争になりました。彼女も参戦し、相手国の軍人として参戦していたドラゴンズのメンバーを一網打尽にしました。しかし、戦局は結局好転することなく彼の国は負け、彼は自殺しました。恋人を失った彼女は生きる意味が見出せず、結局敵国に押収されました。そこで彼女は決めました。自分にふさわしい人間が自分に近づいてくるまで自分は眠ると。無理に起こすようなら破壊の限りを尽くすと。そう言って彼女は眠りました。」レンギスはもう一度紅茶を啜った。少しぬるくなっていた。
「まさか、そのホムンクルスって…」
「そう。レユートの察しの通りですよ。『彼女』こそ、そのホムンクルスです。」
レンギスは不気味に笑い、部屋を出て行った。