91話 クロネコの手紙
フロル地方を後にしたユーリたち。
ナタリアの転移魔法陣でメルン地方の屋敷へと戻るとドゥルガとシアによって出迎えられ、クロネコからの手紙を渡された。
杖の情報が見つかったのだろうか? それとも別の話なのか?
手紙を読んだユーリたちはゼルの酒場……月夜の花へと向かったのだった。
クロネコさんの手紙を受けてから、一週間が経った。
手紙の話をするために今僕とフィー、シュカにドゥルガさん、シアさんの四人は月夜の花へと来ていて、この場にはなぜかリーチェさんもいるんだけど……どうしたのかな?
「どういうことなのかなー」
「分からねぇよ、大金が貰えるって以外はな」
そう答えるのは金に目が無い冒険者バルドだ。
しかし、大金って……僕たちの手紙には一切書かれてなかったけど?
「しっかし、奇妙な手紙だな、筆跡はクロネコの奴のものだが、なんだってリーチェまで呼ばれんだ?」
そう腕を組み疑問を口にするのはこの店の店主ゼルさん。
彼は手紙をじっと見つめ、唸っている。
そう、手紙は僕たちの所を含め、月夜の花、リーチェさんの店にまで届いていた。
でも、先ほど疑問に思ったけど、手紙の内容には違いがあるみたいだ。
僕たちの手紙にはナタリアの呪いの情報のことが書かれていた。
彼女に呪いをかけたアーティファクト……つまり、ルテーはフォーグ地方で見かけられたのを最後に情報が途絶えたらしい。
これは氷狼の情報だし、精霊たちの言うことでは間違いはないはずだ。
だけど、その手紙の最後にどうやらリラーグで杖が見つかったと書かれていて……
詳しいことはリラーグに着いてから教えてくれるって書いてあるけど、僕たちが呼び出された理由はどうやら領主さんにあるらしい。
「私の手紙には長期滞在になるから、フィーナの装備を見てやって欲しいって書いてあるね」
なるほど、それは助かる。
クロネコさん色々と考えてくれてるんだなぁ……
そう思うと同じお金目的でもバルドより、遥かにマシな人だよね。
騙したりしないし。
「まぁ、フィーナの武器を見ることが出来るのは私だけだし、その当人はこの頃あまり調整にすら来ないから、丁度良いけどね」
「あ、はははは……」
リーチェさんに軽く睨まれたフィーは此方を向きながら頬をかき、乾いた笑い声と困ったような顔をする。
「あはは、じゃないよ、死ぬ気?」
相変わらず手厳しい人だなぁ。
「まぁ、ともかくリラーグの領主の頼みじゃ断る訳にもいかないだろ! お前たち行って来い!」
「行って来いって、店は大丈夫なの? バルドまで行くんでしょ?」
「ああ、新人が入ったからな、まだまだ危なっかしいが、十分だ!」
そう言われ、僕は視線を動かす。
そこには居心地が悪そうにしている少年少女たちが座っていて、僕と目が合うと軽く会釈をして来た。
装備も真新しいし、こっそりと隅っこに座ってるけど……大丈夫なのかな?
でも、冒険者になったってことはそれなりの実力はあるんだろうから……ゼルさんが言ってることもあるし、彼なら危険な依頼は回さないはずだよね。
「それにだ、もし、ナタリアのことでだったらバルドもいた方が良い。戦力として連れて行ってやってくれるか?」
「おい、俺はまだやるなんて言ってねぇぞ……」
僕としては良いんだけど、どうやらバルドは乗り気ではないらしい。
さっき大金がもらえるとか言ってたのになんでだろう?
「こいつらと行ったら依頼金分けるハメになるだろうが! 俺一人で行く」
君は相変わらずブレないなぁ……
「安心しろ、クロネコが別個で手紙を出してるんだ。依頼金も別じゃなきゃアイツはそんなことしないぞ」
それにしても、クロネコさんのことゼルさんも知ってたんだなぁ……
あ、でもナタリアの呪いのことをクロネコさんが知っていたし、不思議でもないか。
「そうだねー、わざわざ勘違いされる様な手紙の出し方はしないよ?」
「うん、それにクロネコさんは以外に太っ腹な所があるよ」
「得意先のお前らに対してだろうが……俺は知らねぇ奴だ」
へぇ……ん?
「バルドはクロネコさん知らないの? 手紙が来たのに?」
「今言っただろうが、知らねぇよ」
そうだったんだ……それなら、警戒してるのかも、クロネコさんはきっと僕たちの知り合いの情報を得て手紙を送ったんだろう。
「万が一お前らと分けろ、なんて言われたら困るからな!」
……別の理由もあるのかと思ったら結局それか。
もしもの時、戦える人が多いのは越したことがない。
それが、実力が折り紙付きの人だったらなおさらな訳で、バルドに関しては僕も見たことがある。
呪いと対面する時は僕だけでなんとかなるとしても他は別だよね。
……はぁ、仕方がないぁ。
「もし、そうだったら僕の分依頼金はあげるよ」
「「ユーリ!?」」
僕の言葉を聞いてシュカとドゥルガさんは声をあげる。
「その時は僕たちはゼファーさんに仕事を貰おう、その時別に手伝ってとも言わない、バルドそれで良い?」
「嘘は無いだろうな?」
「バルド? ユーリ様の提案を疑うなら、これから屋敷に行ってナタリア様に聞いてもらっても宜しいですよ?」
おお、シアさんありがとうございます!
逃げ出しちゃうから口に出せないのが申し訳ないですけど……
「チッ、分かった。その条件で呑んでやる」
「じゃぁ、行こう僕たちは支度が済んでるけど、二人は大丈夫?」
僕はバルドとリーチェさんに聞くと二人はそれぞれ大丈夫だと言うことを答えてくれる。
まだ時間も早いし、今出れば今日中にはトーナに着けるはずだ。
「シアさん、ちょっとドゥルガさんにも来てもらうね」
「ええ、分かっております。お気をつけて行って来てください、特にフィー貴女はね? 自分の身を犠牲にしてまで誰かを守ろうなんてしないでくださいね?」
「わ、分かってるよー?」
何故か釘を刺されたフィーはやはり苦笑いを浮べる。
おかしいな……あのことは言ってないはずなんだけど、偶然かな?
でも、フィーのことだし……過去にも同じようなことがあって、ナタリアとシアさんが肝を冷やしたのかもしれないし、それを言ってるのかな?
まぁ、これからはフィーも皆も僕が守ろう、それが僕が出来ることだし、それだけでも十分戦いやすいはずだ。
「……えっと、じゃぁ行こうかー?」
「行こう、早く」
いつに無くシュカは嬉しそうだなぁ……そういえば、あの森族の子は無事戻れたのかな?
店を後にする彼女たちの後をついて行きながら、僕は振り返りゼルさんに告げた。
「行ってきますね」
「おう! いい加減早く終らせて店を手伝えよ!」
「わ、分かりました」
ナタリアの呪いを解いたら、ちゃんと手伝います。
バルドとリーチェさんを含め六人となった僕たちは再びリラーグへと旅立つ。
領主さんは一体なんの用があるんだろう?
いや、それとも領主さんになにかあって呼ばれたのだろうか?
気になる所だけど、リラーグは遠い。
なるべく早く付けると良いんだけど。
「ユーリ、道中気をつけようね?」
「うん、気をつけよう、特にフィーは絶対に無茶をしたら駄目だよ」
「う……」
彼女に僕が釘を刺すと項垂れてしまったけど、おずおずと手を握ってくれた。
「よし、皆行こう!」
「なんでお前が仕切ってるんだよ……」
そ、そう言われるとそうなんだけど……
「適任だからだろう」
ドゥルガさんの言葉に頷くシュカとフィーを見てバルドは舌打ちをし、リーチェさんは感心したように声を漏らす。
「あんなへっぽこで弱そうなユーリがそこまで成長をね……信じられないけど、それなら少しは安心かな」
「へ、へっぽこって……」
「ユーリは頼りになるよ?」
落ち込む僕を見て、すかさずフォローを入れてくれるフィーに加え、頷く二人を見て僕はリラーグに行って良かったって思ったよ。
「と、とにかく出発しよう!」
もう一度そう言うと今度こそ僕たちはタリムを発った。
森に入って数十分ぐらいで、リーチェさんに冷たい目で見られたのは、仕方が無いと思う。
「魔法当たってないし……」
「ユ、ユーリはちゃんと頼りになるよ! 危ない時はいつでも助けてくれるんだよ!」
珍しくフィーが強気に言ってくれたのが唯一の救いだって考えておこう。




