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90話 ユーリとケルム

 情報を得たユーリたちは屋敷へと向かっていた。

 そんな中、ケルムは本当にナタリアの呪いを解くつもりかと問う……

 当然だと答えるユーリに彼は一言だけ答え……先へと歩いて行ってしまった。

 一体ケルムはなにを考えていたのだろうか?

 屋敷へ戻った僕たちはナタリアへと報告を済ませ、それも今終わった所だ。

 彼女は腕を組みなにやら考え込むと、しばらくし口を開いた。


「やはりと言ったら良いのか、私に呪いをかけた後、行方が分からないとはな……」

「それで、ナタリアその呪いってどこで?」

「うーむ、メルンではないな……あれは確か……フィーと出会った後で」


 彼女はどこだったかっと漏らしながら考えている。

 えっと……憶えてないの?


「あれはフォーグだよ……」

「フォーグ?」


 僕がフィーに聞くと彼女は頷き。


「うん……」

「へぇ~」


 出会ったってことは、そこにフィーの出身地とかもあるのかな?


「そうだ、そうだったな、だがそんなことを聞いてどうする」

「今の場所が分からないなら、情報が途絶えた場所を調べて見るのも良いと思ったんだ」

「それは、良い案」


 そうだよね、迷子もはぐれた場所から探すのが得策だと思うし……僕の場合探される方だけど。

 案外見つかったりするかもしれない。


「でも、闇雲に探す訳にはいかないよね?」

「うん、だからさっきも言ったけどクロネコさんに鳥を出そう」

「なるほど、ではあちらに戻り次第、鳥を手配しておこう」


 氷属性の魔法もコツは分かったし、情報は手に入れた。

 うん、これでこの地方で出来ることはしたかな?


「…………」

「どうした、ケルム」


 ナタリアの声に釣られ僕たちは彼の方を向く、彼は難しい顔をしながら黙り込んでいて……


「なぁ、ナタリアさん――」

「駄目だ……」


 恐らくは心を読んだんだろう、ナタリアの返事は彼の話の途中で告げられる。


「なんでだよ!? 女の子たちが頑張ってるって言うのに!!」

「男女は関係ない、単純に強さの問題だ」


 ああ、なんとなく言いたいことが分かった。

 僕たちについて来たいってことだろう、でも助けてくれたとはいえ、彼の実力は僕以下だ。


「でもな、やっぱり恩とかある訳で」

「気持ちは嬉しいが死なれるのは気分が悪い、どうしてもと言うならユーリに勝て」

「ん? ふぇ!? ぼ、僕!?」


 なんで僕が指名されたの!?


「ユーリは攻撃魔法が苦手だ。だがユーリに勝てる脳があれば、生き残れるだろう」

「……分かった」

「だ、そうだぞユーリ」


 ナタリアは僕へと顔を向けて淡々とそう告げてくる。


「僕の意思は尊重されないの!?」


 僕の叫ぶ様な訴えを聞くとナタリアは……


「適当に勝って諦めさせろ」

「そんな無茶な」


 ヒールで治せない怪我なんてさせられる訳がない! つまり、普通の魔法と同程度の威力が望めるソティルの魔法は使えない。

 ってことは僕の魔法だけでなんとかしろってことで……


「まぁ、今日は二人とも休んで明日庭で戦え、フィーが審判に入り勝敗を決めるんだ。良いな?」

「え、えっと……本当にユーリと戦わせるの? 危ないよ?」


 なんでだろう、珍しくフィーが僕を心配してくれてない気がする。


「今は駄目なのか?」

「ユーリは魔力が多いとはいえ、消耗している」

「でもさ、戦いになったらいつも万端という訳じゃないぞ」


 うわぁ……余計な一言をまた……

 ナタリアは「それもそうだな」と一言口にすると考える素振りを見せる。


「まぁ、大丈夫だろう、ユーリさっさと諦めさせろ」

「……そう来ると思ったよ」


 溜息をつきながらも僕たちは屋敷の外へと出る。

 先ほど言った通り、審判はフィーでナタリアは屋敷の中にいるということだけど。

 どうしよう、殺傷能力が高い魔法は使えないし……


「じゃぁ、良い? 始めっ!」


 フィーの合図と共にケルムは愚直なまでに真っ直ぐと向かってくる。

 だけど、遅い。

 その突進は僕が知る上で一番遅かった。


「地よ凍てつき、氷廊(ひょうろう)となりて妨害せよ」


 詠唱を口にした僕は魔法の名を唱える。


「アイスフロア」


 瞬時に広がる氷の地面、だがそこは雪国の人だ倒れかけるも体勢を立て直すと逆に地面を利用して滑る様に向かってくる。

 ああ、なるほど逆にそう利用される場合もあるってことか、でも――


「撃ち放て水魔の弓矢、ウォーターショット」

「うわっぷ!?」


 形を成さない水を形成し、ケルムへとそのまま当てる。

 彼は当然目を瞑り、僕はその間に浮遊(エアリアルムーブ)を小声で唱え、水弾(ウォーターショット)を彼の間にばら撒いた。

 滑らないなら、滑りやすくしてしまえば良い。


「くそっ!!」


 ようやく目を開いた彼はまたも僕へ向かってこようとするが、濡れた氷に足を取られ仰向けに転ぶ。


「~~~~っ!?!?」


 あ、頭を思いっきり打ったみたいだ。

 痛かったよね、ごめん……とは思うけど、流石にこれじゃ危なすぎるよ。

 大地を蹴り空へと舞い上がった僕は再び詠唱を唱える。


「水よ形を持ちて我が剣となれ、ウォーターウェポン」


 そして、魔法で出来た剣を仰向けの彼に突きつけると、フィーの声が響いた。


「そこまでだよー」


 剣を引き魔法を解除する僕を見て彼は立ち上がり……


「まだだ、まだ終――」

「いいや、終わりだ」


 それを制する声が響く、ナタリアだ。

 彼女はいつの間にか老婆のローブを被り僕たちの戦いを見てたみたいだ。


「ユーリはお前が転ばないと知ると視界を奪い、転びやすくし次の攻撃に備えた」

「でも、さっきは俺の精霊魔法で手助けしたんだぞ」


 確かに、あれは助かったっと言うより、彼がいなければ死んでいた。

 それは素直に認めるしかない、でも……


「それも、皆がいて初めて出来たことだ。精霊魔法には隙が大きすぎるという致命的な欠点がある」

「そうだねー、ユーリの魔法とフラニスがいたから、精霊魔法もいつもより効果があったのもあるよ?」


 そう、それだ。

 僕のミーテにフィーが呼んでくれたフラニスの頑張り、それに戦いから一番遠い場所……部屋の入り口にいた彼は詠唱を唱え終わることが出来た。

 そもそも、氷狼(グラヴォール)は彼のことを視界に入れていなかったのもあるのかもしれない。

 何故か僕に真っ先に向かってきたし、この世界はアコライト(回復職)から先に倒すのかな? あ、でも普通は回復出来ないから、単純に火力のあるであろう魔法使いを狙ったのかもしれない。


「ケルム、残念だが約束は約束だ」

「…………」


 彼は唇を噛み体を震わせる。

 なんか、そこまで悔しがられると僕が悪者みたいに思えてくるよ?


「はっくしょぉい!!」

「ッ!?」


 び、びっくりした。


「こ、凍えるぞ! お、俺は帰るぞ!」


 そう言って身を翻し、さっさと去っていく彼に呆然としながら僕は彼に声をかける。


「え、あ……うん、お大事に……」


 なんだったんだろう?

 もうちょっと、なにか言ってくると思ったんだけど。


「さて、タリムの屋敷に戻るとしよう」

「「え?」」


 僕とフィーは同時に同じ声を上げ、シュカはナタリアに聞く。


「ケルム、ほっとく? 助かったの、事実」

「ああ、ケルムは放っておく、呪い相手ではユーリたちでも苦戦は強いられる。ケルムでは死にに行くだけだ」


 言葉を発しながらすたすたと歩いていくナタリア……

 良いのだろうか? 確かについてこられても彼が危険な目に遭うだけだ。

 ナタリアの言っていることが正しいとは解る。

 でも、もし僕がナタリアに負けていたら……今僕は腕を失い彼と同じ扱いを受けたのかもしれない。

 そう思うと、どこかやりきれない気持ちになってくる。


「ユーリ、行こう?」

「足手まとい、連れて行くの危険、双方共」

「……行こうか」


 でも、僕にはどうにも出来無いことを実感し、僕は二人に答えるとナタリアの後を追った。

 心残りと言えば、彼にちゃんとお礼を告げれなかったことだ。

 ナタリアの呪いを解いたら、またここに来てちゃんと言おう……ありがとうって。





 ナタリアの魔法によってタリムの方の屋敷へと戻った僕たちは、地下室から出るために階段を上がる。

 すると、階段の上でそわそわとしている女性が目に入った。


「ナタリア様! ユーリ様、出かけるのであれば私もお供しましたのに」

「なに、シアにもたまの休暇は必要だろ、折角良い男が出来たんだ。連れて行くのは無粋かと思ってな」


 ナタリアの言葉に顔を真っ赤に染め、シアさんは俯いてしまった。

 逃げないなんて珍しいなぁ。


「それなら、俺もついて行くのだから問題ないだろう、ユーリも置いて行くのに承諾するとは思わなかったぞ」

「え、えっと、あはは……」


 なんて言ったら良いのか困った僕は乾いた笑いをし、それに呆れた様子のドゥルガさんは僕に筒を手渡してきた。


「これって、手紙だよね? 誰から」

「クロネコだ」


 その名を聞き僕たちは顔を見合わせるとすぐさま手紙を開き読み始めた。

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