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86話 僅かな情報

 氷の魔法「アイスフロア」を作成することに成功したユーリ。

 彼女はさらに魔法を作ることに専念し、部屋に籠もっていた。

 そんな中、ユーリたちはナタリアに呼び出され……?

 僕が初めて魔法を作ってから、数日が過ぎた。

 あれから出来た魔法は。


 氷を張り巡らせ足を捕らえる『アイスバインド』に、氷の弾丸を打ち出す『アイスショット』の二つだ。

 例によって僕ではアイスショットの方は扱いきれない。

 ナタリアに試してもらおうとしたんだけど、どうやら出来たばっかりの魔法というのは今使われている魔法の詠唱とは異なるらしく、僕以外はそう簡単に使えないと言われた。

 とにかく、魔法の作成も順調に進み……もう一つを作りかけていた頃だ。


「ユーリ様、フィーナ様、ナタリア様がすぐに部屋に来てくれないかと言われたです」

「ん? ナタリーがどうしたんだろうね?」

「分からないけど、とにかく行ってみよう」


 僕たちはナタリアに呼び出され、彼女の部屋へと向かった。

 そこにいたのはナタリアは当然として、シュカに……


「「…………」」

「待て、なんで俺を見て黙るんだ!? 折角人が良い情報を持って来たんだぞ」

 

 果たして、その情報って本当に良い情報なのかな、なんか凄く怪しい感じがするよ?


「ユーリそう疑うな、嘘であればすでに帰らせてる」

「酷いな!?」

「そうか、そうだよね……でその情報って?」


 僕がそう聞くと、ケルムはブツブツと文句を言いながらも僕たちに話をしてくれる。


「実はな……この地方フロムには賢き魔物の王とも言われる聖獣がいるんだ」


 聖獣? 魔物なのに……聖なの?


「それで、その魔物がどうしたの? わざわざナタリーに持って来た情報って……」

「ああ、今言ったろ?」

「賢き、もしかして、アーティファクト、知ってる?」


 ケルムはシュカの答えに「そうだ」っと一言答える。

 じゃぁ、その聖獣に聞けばナタリアの呪いを解くのに一歩近づけるってことだよね。


「それなら早速会いに行こう!」

「待て待て待て!」


 僕が声をあげるとケルムは更に大きな声で僕たちを制する。


「なんでっ!」

「魔物と言ったはずだぞ、聖獣グラヴォール……白き狼、賢き獣は奴に打ち勝たない限り、知恵を授けることはない……それに、もし負けたら」

「「「も、もし負けたら?」」」


 ナタリア以外の僕たちは声を揃え、聞き返すと……


「奴の腹の足しになるだろうな」


 食べられちゃうの!?

 そんなの嫌だよ! でも……


「クロネコに頼んでるとはいえ、少しでも情報は多いほうが良いねー」

「うん、そうだね……」

「ん……」


 僕たちの言葉を聞き、呆れた様に溜息をついたのはケルムだ。

 なんで情報を持ってきてくれた人が溜息をつくんだろう?


「話をしておいてって言われると思うけど、危険なんだぞ?」

「それでも行くよ……そのグラヴォールってどこにいるの?」


 彼は暫らく悩んでいたけど、僕たちの前に地図を広げると一つの山を指し、ここだっと教えてくれた。


「ナタリアさん、俺もついて行くよ」

「なに……」


 ナタリアが睨むと彼は慌てて「違う違う」と言い言葉を続ける。


「ここは雪国だ。慣れている俺がついて行ったほうが良いと思うぞ」

「……そうだね、僕たちは雪に慣れてないし、歩きなれてる人がいたほうが良いかも」

「確かに、そうだな。では頼むぞ、ケルム、ユーリたちも気をつけて行け、良いな?」

「うん、分かってる」





 その日ケルムに連れられて旅支度を済ませた僕たちは村を後にし、目的の山へと向かっていた。

 因みに今僕たちは当然とはいえ……


「結構、もこもこだね?」

「うん、あったかいけど……」

「靴も、もこもこ」

「こればっかりは我慢してくれ」


 まぁ、凍死する訳にはいかないし仕方がないよね……それよりも――


「あの、この……僕とフィーを繋ぐ縄は一体……」

「え? ユーリちゃん迷子になりやすいってさっき聞いてさ、その方が安全だぞ」


 ああ、なんか予想は出来てたけど、やっぱりそういう意味だったんだ……

 それにしても……命綱ではなく、迷子紐をつけられるとは思わなかったよ。


「ユーリ、ゆっくり歩くから安心してね?」

「うん、ありがとうフィー」


 でも、よく考えて見ると……


「迷子……命綱は山についてからで良いんじゃないのか?」

「シュカも、そう思う……」


 やっぱり、言われると思ったよ。


「で、でもこの方が安心だよ?」


 そう言われてしまうと、なにも言い返せない僕がいるよ。


「ま、まぁ……ユーリちゃんが嫌じゃないなら、俺はなにも言わないぞ」

「ん? 僕は別に大丈夫だよ」


 フィーに持ってもらってれば安心だし、彼女になにか遭っても気がつけるはずだ。


「シュカも紐つけておこうかー」

「山、行ってからで、良い……」


 フィーの言葉にシュカは何故か溜息をつきながらケルムについて行く。

 僕たちなにかしちゃったのかな?





 それから歩くこと数十分といった所だろうか?


「後は任せたぞ」


 想像以上にあの仕込み靴という武器は使い物にならないことが分かった。

 目の前にいるのは、氷のゴーレムみたいな魔物で炎の魔法なら簡単に倒せそうだけど……


「火は使うなよ?」

「分かってる……」


 今いる場所は坂になっていて、魔法を使ったら雪崩が起きてしまう。

 ミーテにしても同じだ。


「ここは任せてね?」


 フィーは一言残すと僕を繋いだ紐をシュカに渡すと雪道を駆ける。

 慣れない場所のはずなのに足を取られることなく近づいたフィーは、身体より大きいんじゃないかという剣を引き抜き肩に担ぐようにし、大地を蹴ると魔物の頭上から切り落とした。

 魔物は叩き落された剣の軌跡をなぞる様にに真っ二つに砕け散り、彼女は一回剣を振り払うと再びそれを背負い僕たちの方へと戻ってくる。

 やっぱり、フィーは凄いなぁ……僕も出来ればあんな風に剣を使いたいけど、無理なんだよね……


「ん? どうしたの?」


 戻ってきたフィーは不思議そうにケルムの方を向き質問を投げかけ、僕は釣られて彼の方へと向くと……


「お、おいおいアイツを真っ二つなんて聞いたことないぞ!?」

「でも、ああいう魔法生物の核は大体真ん中にあるから、あの方が早いよ?」


 なるほど、あれは核を壊せば倒せるんだ。


「普通にやると、時間掛かる……シュカだと、対処無理」

「僕ならスナイプかなにかで中心狙えば、大丈夫かな?」

「んー、それだと核に上手く刺さらない可能性があるから、あの魔物が出てきたら私がなんとかするよー」

「…………」


 ん? ケルムが僕たちをなんか変な……いやらしい感じでは無いけど変な目で見てるけど、どうしたんだろう?


「あのさ……」

「なに?」

「あれ、氷狼を除いたら一応この辺りで一番危ない奴だぞ」


 あれが? だとしたら、魔物自体はそこまで脅威ではなさそうだ。

 勿論、気の緩みが命に関わることがあるから気は抜けないけど……

 その氷狼っていうのも、そこら辺をうろついてるってことはないだろう、だって恐らくは……


氷狼(ひょうろう)って聖獣のことだよね?」

「ああ、その通りだぞ」


 やっぱり、氷の精霊であるグラネージュと似て名前がグラヴォールだし、なにより酒場でブランシュさんが氷狼(ひょうろう)様って言ってたから、そうだと思ったんだ。


「それなら、ユーリはソティルの魔法は温存してね?」

「うん、いざって時に残しておくよ」

「他の魔物、シュカ、頑張る……」

「…………」


 ん? なんでケルムは僕たちを見て呆然としてるんだろう?


「君たちって、実は凄く強い……のか?」

「ん? んーどうだろう、ね?」


 いや、どうだろうって、フィーはタリム最強の冒険者だよ?


「フィーもシュカも強いよ、僕は……まぁ、攻撃が苦手だから強いとは言い切れないけど」

「でも、ユーリ、グリフィン、倒してる……」

「いや、あれは……」


 偶々、偶然が重なって倒せただけなんだけど……死にかけたし……


「グ、グリフィン!? おいおいおい、ナタリアさんならともかく……」

「い、いや、僕は空から落としただけだよ」

「空から落とした!?」


 真実を言ったのになんで、まだそんな目で僕を?

 まぁ、良いか、それより早く……


「とにかく、先に進もう……わぷっ!?」


 なんとなく気まずくなった僕は慌てて歩き始めると、紐が引っ張られて僕は雪の絨毯へ顔から倒れこんだ。

 今僕の紐を掴んでるのはシュカの筈だけど、酷いよ……


「シュ、シュカ? ひ、引っ張るのは危ないからやめたほうが良いよー?」

「う、ぅぅ……」

「そっち、村に戻る道」


 うぅ、だからってフィーの言うとおり引っ張ること無いと思うよ。

 顔が冷たい……


「ユーリ、ちょっと待ってね?」


 フィーは紐を受け取ると、ポケットから手ぬぐいを取り出し僕の顔を拭いてくれる。


「はい、大丈夫だよー」

「フィー、ありがとう助かったよ」

「な、なんかあそこだけ桃色なんだけど、いつもこうなのか?」

「いつも、こう」


 えっと、さっきまでとは違う目で見られてる気がするんだけど……


「成程、とても美味しい現場だぞ、できれば加わりたい」

「…………ユーリ、フィー、行こう」


 ただならぬ様子のシュカを見てみると、彼女はケルムを明らかに嫌そうな顔で見ている。

 う、うん……男が嫌いって訳じゃなさそうだったし、恐らくああいうタイプが嫌いなんだろうなぁ……


「早く、行こう」

「「う、うん」」


 念を押すようなシュカの言葉に頷き、僕たちは再び歩き始める。


「待ってくれよ、俺一応案内役だぞ!?」


 僕たちが先に行ってしまい、当然のように慌てたケルムの声が後ろから聞えた気がしたけど……うん、本当に置いて行かれるほど離れ始めたらシュカに待ってもらうようにするよ……

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