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84話 氷精霊の教室

 氷を司る精霊グラネージュの協力を得ることが出来たユーリたちは早速魔法の開発に取り掛かることが出来るようになった。

 魔法陣が詳しくかいてある書物はシュカたちが買いに行ってくれることになり、残るユーリたちはグラネージュによる授業を受けるのであった。

 ナタリアが言った通りシュカたちは本を買いに行ってくれていて、僕とフィーは部屋でグラネージュの話を聞いている。

 本が来るまでボーっとしているのもアレだから授業みたいな物だ。

 そういえば本と言ったら、屋敷に魔法陣に関する物がないのは不思議に思っていて、以前ナタリアに聞いた。

 その時言われたのは、どこにおいたか忘れたってことだったけど……今回みたいに屋敷が転々としてるなら、どの屋敷に置いたか忘れたってことなんだろう。

 ともかく、その本は今シュカたちが買いに行ってくれている訳で僕とフィーは精霊グラネージュによる氷の出来かたの勉強中だ。

 とは言っても、知ってはいる。

 水と言うのは確か温かい方が上に向かう性質があって、実際に凍るのはその部分だったはず?

 でもそれだと下の方から凍るんじゃないかって所だけど、確か水が重い温度は三~五度の間でそれ以上冷たくなると逆に軽くなり、氷の下が一定の温度に保たれるんだっけ?


『という訳なんだけど、聞いてないよね』

「い、いや、聞いてるよ? 最初は温かい水から徐々に温度が下がって凍るんだよね?」

「えっと……」

『はぁ、確かに暑がってるウンディーネを冷やしてあげてるけど……まぁ、それで良いよ』


 ……なんか、残念な目で見られたんだけど……僕はなにかを間違ってたんだろうか?


『それで、暴れたフラニスを沈める為に――』


 あ、うん、分からない単語が出てきた。


「えっとフィー……フラニスって……」

「火の精霊だねー」


 へーって僕が知ってる名前はイフリートとかサラマンダーだったんだけど……この世界は違うんだ。

 シルフとかは一緒なのに……


『二人とも、説明をしてあげてるのに聞いてないね』

「「はい、ごめんなさい」」


 なんか、氷の精霊は随分と怖い人みたいだ。

 因みに今も色々と話してるけど要約すると、魔族(ヒューマ)が魔法を生み出し大地を焼いた結果、火の精霊フラニスが暴走。

 精霊はどうやら自然に生まれるのではなく、住みやすい場所に移動してくるらしい。

 だから、火や暖かい場所には火の精霊が住み着くとのことだ。

 それで、集まりすぎたフラニスに対して、ウンディーネやシルフでは対処出来なった。

 ドリアードは徐々に減って行き、世界は焼かれ滅びようとした所、精霊の王で豊穣の精霊エルフは一つの策をうった。

 それが当時名も無き精霊だったグラネージュでウンディーネを冷やし、熱を奪うことでフラニスを鎮圧させるという物で……うん、よく分からなかった。

 つまり、冷水をかけて消したってことは分かったけど……


「ねぇ、フィー?」

「ん? どうしたの?」

「火を消すなら、空気つまりシルフに頼んで真空状態にした方が早いんじゃ?」


 火を燃やし続けるには酸素が必要だし、それが無くなってしまえば火は自然と消える。

 そして風を操るシルフならそれが出来るはずで……


『フラニスを殺す気なの?』

「へ?」

「えっとね、空気が完全に無くなっちゃうと精霊は死んじゃうんだよ、暴走してると言うのはその地域の精霊が一箇所に集まっちゃうことだから……」

「で、でも水をかけて消すのも同じでしょ?」


 火は消えちゃうし、そうしたら居場所のなくなった精霊は――


『あのね、貴女たち魔族(ヒューマ)はシルフが風を送らなくても生きていけるの?』

「それは、無理だよ。空気中にある酸素とかがないと僕たちは生きてられない、シルフは勿論、他の精霊がいないと僕たちは生きられないよ」

『それと同じで、あたしたちもシルフがいなかったら苦しくて死んじゃうの! ウンディーネに水引っ掛けられるぐらいなら、フラニスはビックリして逃げるだけ』


 な、なるほど……精霊も人も同じってことか……


『まぁ、それで偉業を成し得たあたしには氷の精霊グラネージュと言う名をエルフから授かったの』


 う、うん……


「それで、成り立ちは分かったんだけど……」

「魔法とは関係なさそうだよね?」

『魔法は魔族(ヒューマ)が精霊魔法を真似た物、つまりあたしがどんな性質の魔法を使うか、どんな現象を司っているか知るのは魔法と関係あるよ』


 そういうもの、なのかな……


『その顔信じてないよね、元々魔族(ヒューマ)は見て真似た。しかも火の精霊魔法で火傷を負ったことを拡大解釈して大地その物を焼く魔法を生み出したりしたの』


 それで、あんな威力に……

 でも、それは逆に取れば……


「僕が、精霊を理解すれば精霊魔法と同質の物を作れる?」

『全く同じって訳には行かないと思う、でも似たものは作れるはず……事実、精霊魔法より凶悪な物(魔法)魔族(ヒューマ)は作ったからね』


 そうか、なら……僕が本当に求めている魔法は作れる。

 僕に攻撃はあんまり期待できない。

 だから必要なのは足止めとか、補助や妨害の手段だ。

 事実、ナタリアに勝てたのもソティルの沈黙(サイレンス)で声を奪い、意表を突くことが出来たからだし。


「ユーリ……?」

「なんでもないよフィー、グラネージュ話の続きをお願い」


 僕の声に頷いた氷の精霊は話を続けてくれた。





「う、う~ん?」

「なんか、魔法を作るって複雑なんだねー」

『初めて見たけど……不便な物だったんだ……』


 グラネージュの話が終わり僕が羽ペンを握りしめ、紙の前で唸っていると、二人はそう僕に向けて語りかけてきた。

 精霊の話を聞いて少しは分かったことはあるけど、作るのとはまた別みたいだ。

 魔法陣って言うのは陣と呼ばれているけど、実際は文字の羅列で式と言った方が分かりやすい。

 寧ろ馴染みのある魔法陣と言ったら魔紋が近いのかもしれない。

 とはいえ、今作ってるのはまっさらな魔法……魔紋を通して使うにもまずは大元になる式が必要だ。

 その魔法を作ってから更に詠唱の短小化と言う作業も残っているし、まだ時間は掛かりそうって言うか……


「う……えっとぉ~」


 詰まった。


「ユーリいるか? シュカたちが戻ったんだが、っとなにを唸っている」


 ナタリアが僕たちの所へと来て、僕の様子を不思議に思ったのだろう横から紙を除き見てきた。


「ん? なんだこれは……ユーリ、一体なにをしようとしている?」

「なにって魔法を……」

「それは分かっている、だが……」


 ナタリアがそう言うと、フィーは小首を傾げ考えるそぶりを見せると……


「だが、ってこれなにか変なの?」

「変もなにも、一つの魔法に詰め込みすぎだ……出来なくは無いが、式は複雑になり作るのに時間が掛かる」

「で、でも、自分ではそんなに複雑なことしてるとは思わないんだけど」


 僕が今作ろうとしてるのは所謂、足止めや拘束といった魔法だ。


「これはまず、足を滑らせる氷を出現させ、相手を拘束した(のち)に氷の壁を折の様に張り巡らせると言った魔法だろう?」

「う、うん」


 まだ作り途中なのに良く解るな、流石はナタリアだ。


「これだけで三つの手順だ。氷を床に、そして拘束に、さらには壁を出現させる。これでは複雑すぎるんだ。例えるならこの世界内の転移並みの複雑さはある」

「そんなに!?」


 いや、転移の方が絶対複雑でしょ!?


「そう、声をあげるな。転移はまず目的地までの道を開く、そして入り口に通る者を入れ、出口で外に出す、この三つだ。同じだろう」

「言うには同じだけど、全然違うよね?」

「うん、私もそう思うよー?」

「いや、そう思うのは当然だが、実際はそう変わらん……しかし、ユーリの魔法が出来ない理由の一つが分かった」


 うーん、絶対転移の方が難しいよね……それに、出来ない理由ってなんだろう?


「ユーリ試しに一つに絞って作ってみると良い」


 つまり、肯定のどれかを選べってことかな?


「一つ……か……」

「それと、これが本だシュカは疲れたそうで今は休んでいる。安心しろケルムは何故か黙って帰っていた」


 ナタリアは本を僕へと手渡すとそう報告してきたけど、なんか不安な気もする……


「シュカは大丈夫なの?」

「ああ、シュカとメイドは大丈夫だ」


 ナタリアが言うなら大丈夫だよね、っていうかシュカとメイドはってことはケルムさんは反撃にあったのかな?

 いや、まぁ彼の場合自業自得だと思ってもらおう。


「え、えっと……それで、魔法は一つに絞れば出来るの?」


 苦笑いを浮かべたフィーは、そうナタリアへと質問をし、ナタリアは頷き答える。


「その方が簡単だ」


 うーん、これは捨てがたいけど、確かに難しい。

 一つの現象を起こす魔法なら、簡単だって言うのは頷ける……少し焦りすぎていたのかもしれない。

 どれかに絞って魔法を作ってみよう、僕はナタリアから受け取った本を読み始めた。

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