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83話 氷の精霊

 酒場で出会った青年ケルムはやはりナタリアが連れて来た転移者の一人だった。

 彼の協力の元ユーリたちは精霊魔法を見せてもらうことになるのだが、なぜか精霊魔法はユーリたち目掛けて発動された。

 それが精霊の間違いだと知ったフィーナは氷の精霊グラネージュを呼び出したのだった。

 姿を現した精霊は一言で言うと真っ白だ。

 白い服にナタリアみたいに真っ白な肌、そして氷のように透き通った髪。

 彼女は僕たちへと向き直ると頭を下げた。


『ごめんな、呼ばれても敵いなかったから』

「全くケルムが先に説明をしておけば済んだものを……」


 ナタリアは申し訳なさそうにする精霊を見ながらケルムへとそう言う。

 確かに最初に言ってくれれば、こんなことにはならなかったはずだ。


「いや、だから滅多に姿を現さないんだって言ったぞ?」

「確かに精霊魔法を唱え終わるまで姿は現さなかったけど……」

「それなら、先に呼びかけておけば良かったんじゃ?」


 姿は現さなくてもそこにいるのは確かなんだろうし……

 僕は改めて氷の精霊グラネージュへと目を向ける。

 彼女は申し訳なさそうな顔を浮べ、僕と目が合うとおびえた表情へと変えた。


「こっちこそ、ごめんね……」


 僕の言葉にぶんぶんと頭を振る精霊、なんだ……話が通じないって聞いたけど、通じてる様に見えるけど……


「ねぇ、確か氷の精霊の話は通じないって言ってたけど」

「ああ、言ってることが意味分からないんだ」

『こっちはケルムの言ってることが理解出来ない、変態だし、気持ち悪い』


 ああ、なんか凄い嫌われてる。


「フィー、森族(フォーレ)って精霊に嫌われる人っているの?」

「い、いないよ? 少なくとも、私が知ってる人では……いなかったかなー」


 つまりこれは、相当珍しいケースって訳なんだね。


「それにしても……変態、気持ち悪いって一体なにをすれば、そこまで嫌われるの?」


 僕がそう聞くとケルムはビックリした顔を浮かべ、僕を真っ直ぐに見てきた。

 そして、下からゆっくりと舐めるような目で見て一部分でって……


「なに見てるの……」


 ニヤケてるし、非常に気持ち悪い。

 ああ、うん……気持ちは分からなくもないけど、男に見られても嬉しくない。


『ほら、変態だ! 気持ち悪い!』

「最低だねー?」

「ああ、だから屋敷には泊められない」

「ユーリ、離れた方が、良い……」


 シュカに言われ僕はそっと後ずさりすると、慌てた様にケルムは視線をそらし声をあげる。


「待て待て待て! 今のは純粋にデ……驚いただけだ!」


 デってなにを言おうとしたんだろうか……大体予想がつくけど……



「なにに驚いたの?」

「いや、だってユーリちゃん精霊の言ったこと解ってたろ? 森族(フォーレ)ならともかく、なんで魔族(ヒューマ)が……」

「そういえば、そうだな……ユーリどういうことだ?」


 あ、そっかナタリアに説明してなかったっけ?


「えっと、エルフに会ってね精霊との対話を出来るようにしてもらったんだ。実体化してるのが条件だけど……なにを言っているのか解るようになったんだよ」


 僕が口にすると氷の精霊は僕の方へと寄って来て顔を覗くように見てくる。


『本当に言葉理解出来る?』

「うん、理解出来るよ」

『なら、言っておくけど、ケルムは気持ち悪いよ! 気をつけた方が良い変態だから気をつけないと駄目』


 気をつけろって二回も言われたよ……本当彼はなにをしたんだろう……


「な、なんだよ、そんな目で見られると」

「もうそれは良いから、一体なにをしたらここまで嫌われるの?」

「ん? いや、精霊には特にどうこうしたことは無いぞ」


 には……って……ああ、やっぱり聞くのをやめよう。


「ね、ユーリ精霊魔法も見たし、グラネージュにも話を聞いて見れば良いと思うよー」

「そうだな、精霊がいるのなら、協力をしてもらったほうが早いだろう」

「うん、そうだねじゃぁ、グラネージュに頼もうかな?」

「お、おい……その為に俺が必要だったのならキスの一つぐら……うっ!?」


 案の定フィーに睨まれたケルムは放っておいて、僕はグラネージュへと向き直り語り掛けた。


「僕はユーリ、実は氷の魔法を作りたくて手伝ってもらえないかな? どうしても、手段は増やしておきたいんだ……」

『魔法……』


 グラネージュは一言呟くと鋭く刺すような目で僕を見てくる。

 魔法を使う種族である魔族(ヒューマ)は精霊に懐かれにくいって聞くし、僕とナタリアは特別みたいなものだ。

 当然初めて会った精霊である彼女は僕を警戒する。


「うん、魔法……」

『……その魔法を得てなにをするつもり? 破壊? 支配? 魔族(ヒューマ)はこの世界の(ことわり)を壊しても飽き足らず、更には世界ごと壊すつもり?』


 確かに魔法を使う人によっては環境破壊に繋がる。


『エルフに認められても、魔族(ヒューマ)魔族(ヒューマ)ってことだね』

「そんな、ユーリは――」

「僕は――」


 フィーが声をあげてフォローをしてくれようとする所を僕は更に大きな声を出し制する。


「僕は、フィーの願いを叶えたいだけだ、そのための手段が欲しい」

「ユーリ……」

「…………」


 僕がグラネージュへとそう告げると、なぜかシュカには溜息をつかれてしまったけど……気にしないでおこう。


『願いを叶えるために氷の魔法? 理解が出来ないんだけど』

「……僕がその魔法に本当に望むのは攻撃じゃない、勿論魔法の代名詞である攻撃魔法は作る。

 でも、恐らく僕じゃそれは扱いきれないよ」


 そう、氷魔法に望むのは攻撃じゃない。


「ほう、攻撃の手段では無いのか?」

「うん……僕は攻撃が苦手だ。だからと言って修行をやめるって言うことじゃないけど、手段は増やしたいんだ」

「ふむ……この前の声を奪った魔法の様な物か、確かにああいった魔法は初めて見た時には有効だな」


 沈黙(サイレンス)は普通に有効だと思うんだけど……いや、そういえばこの世界の魔法使いって武器を普通に使うんだった。

 最初こそはビックリして動けなくても、支障がないと解ったらあっけなく負けてしまいそうだ。


『……魔法を作るのに攻撃の手段じゃない? なんか不思議な魔族(ヒューマ)だね……』

「お願い出来ないかな?」

『……でもね――』


 ああ、やっぱり駄目なのかな……


「なぁ、そのフィーナちゃんの願いってなんなんだ?」

「ユーリの師匠、呪い解く……」

「呪い?」


 ケルムは事情を知らないのか、怪訝な顔をし僕たちの方へと向き直した。


「ああ、言ってなかったな私はこのローブが無いと太陽に焼かれて死ぬ、その呪いを解く方法がユーリに有る……その為には魔法を鍛える必要があるのだが……」

「さっきも言ったけど……僕は攻撃が苦手なんだ」

「そんな呪いのことなんて、初めて聞いたぞ!?」


 彼はそう叫び……真剣な表情を作るとグラネージュへと語りかけた。


「グラネージュ俺からも頼む、ナタリアさんは俺をこの世界に連れて来てくれた人だからな……」

「ほう……」

『め、珍しく真面目だ……はぁ、分かったよ。でも、条件がある出来た魔法は最低でも何個か見せることそれが条件』


 彼女は僕へ人差し指を突き刺す様に向けると、そう眉を吊り上げながら言葉にした。


「分かったありがとう! グラネージュ」


 僕が精霊へとお礼を言うと、彼女は不思議そうな顔を浮かべる。


『お礼言うなんて変な魔族(ヒューマ)……でも、変態よりは遥かにましなのはちょっと解ったかも』

「ユ、ユーリは変態じゃないよ!?」


 う、うん……変態では無いと思う。

 とにかく、これで精霊の力は借りれる訳だから魔法を作るのも捗るかもしれない。


「フィーにも手伝ってもらうから、お願い」

「うん、任せてね?」


 早速魔法を作るのに必要な情報を集めないと……

 でも、そうは言ってもソティルの部屋の記憶(書物)は読み漁ってしまったんだよね。


「シュカ、なにをすれば、良い?」

「ふむ……ではケルムと共に村に行ってくれるか? 大きな書店があったはずだ」

「それは助かるけど……心配だよ」


 流石にこの人と一緒に行かせるのは……あ、シュカも嫌な顔してる。


「大丈夫だ、こいつは隠れてなにかをしようとするが情けない奴でな、面と向かってなにかすることは無い」

「おいおい……本人の目の前で傷つくぞ」


 いや、でもそれって隠れてなら、なにかするってことだよね?


「安心しろ、自分より強い者には素直だ……ユーリの話ではシュカは相当の手練れなんだろう?」

「う、うん」


 シュカは強い、フィーほど力はなく、ドゥルガさんほど頑丈では無いけど、速さなら僕たちの中で一番だ。


「っという訳だ、まぁ……私のメイドもつけよう」

「へ? メイドもついてくるの!? いや、それは……」


 なんで露骨なまでに嫌な顔をしてるんだろう?

 もしかして、いや……まさか、屋敷のメイドさんがシアさんみたいに元冒険者の塊なんてあるはずがないよね?


「冒険者はシアだけだが、もし危害を加えれば彼女たちの目を通して私に繋がる。つまり……監視が出来ると言う訳だ」


 なるほど、ってそれ……さらって言ってるけど凄い技術だよ? ナタリア……


「でも、すぐに解るなら安心できるのかな? シュカ頼める?」

「分かった、紙に書いてくれれば、本解る」

「ああ、すぐに書いて渡そう」


 ナタリアがそう言うとシュカは頷き、ケルムは頭を抱えて嫌がってる。

 一体君はなにをしようとしたのか、いや、聞くのはやめておこう……


「では……準備に時間もいるだろう、ユーリたちは早速魔法に取り掛かれ」

「うん、分かってる」


 そう言って屋敷の中へ戻るナタリアの背中に僕はそう言葉を投げた。

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