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82話 雪国の冒険者ケルム

 酒場にてナタリアを知る男性、ケルムと出会ったユーリたちは彼の願いもあり、屋敷へと連れて行くことになった。

 森族(フォーレ)の男性は果たしてナタリアの言う転移者なのだろうか?

「相変わらずでかい屋敷だな、持ち主はある一部分がおっと……」


 屋敷に着くなり、ケルムという男はなんとも最低な一言を滑らせかけた。

 うん……この人が本当に転移者なら、僕と同じな訳だけど……例え男のままでもそのセクハラ発言は僕はしないよ?

 というか、ここに僕を含めた女性三人がいる訳で、内二人は当然明らかに嫌そうな目で見ている。


「ん? どうしたんだそんな、あこ――」

「フィー、行こう? ナタリアに一応知り合いなのか聞かないと」

「うん、そうだねー」

「シュカ荷物重い? もうちょっとだから重かったらそこに置いてて良いよ。これぐらいの距離なら僕でも運べそうだから」

「大丈夫、シュカが、運ぶ……」


 僕は二人に声を掛け、二人は僕に返事をし屋敷へと戻る。

 勿論、ケルムの声を遮るようにあえて大声で言ったのは言うまでもない。


「なんだよ、そんなに俺が取られるのが嫌だったのかい?」


 だけど、(くだん)の男はなにかを勘違いしているみたいで……僕、バルドよりこの人の方が苦手だ。

 そう結論をつけた僕は屋敷へと入り、二人もそれに続く。


「あ、おい!? 待ってくれよ!?」






 屋敷に入り、荷物をメイドさんに任せた僕たちはナタリアの部屋へと訪れた。

 彼女はある一人へとその双眸を向けると盛大に溜息をついた。

 見た感じでは……やっぱり知り合いっぽいね。


「失念していた、まさか忠告する前に先に合ってしまうとは……いや、だがお前は別の村にいたはずだろう? ……ケルム」

「ははははは、いやーこっちには美人が酒場を始めたって聞いてさ来たんだよ」

「相変わらず、だな……」


 ああ、ナタリアも二人と同じ目になってしまってる。

 でも、話の流れからすると……この人が転移者か……


「ナタリー、もしかして……」

「ああ、ユーリに会わせる予定だった男でな……」

「そうなのか、ユーリちゃん末永く……」

「よろしくしないよっ!!」


 ケルムは「えぇ!?」っとワザとらしく驚いてるけど、絶対よろしくしたくないよ。

 何度も思うけど、男となんていうのは嫌だ……


「ユーリに手を出したら、私とフィーが黙っていないぞ? なに死ぬ間際になったらユーリに回復させよう」

「ちょ、ちょっと待て……確か無いんだよな回復魔法って……だとしたら、それって死ぬんじゃないかと思うぞ?」

「ああ、それなら安心しろ、ユーリはこの世界で唯一回復魔法が使える、私の自慢の弟子だ」


 ナタリアはそう言うと「なぁ、ユーリ」っと僕の方へ笑顔を向けてくる。

 うん、そう面と向かって言われると恥ずかしいものがあるよ? それに、僕は攻撃魔法が苦手と言う欠点もある。

 自慢って言われると、嬉しい反面……ちゃんと出来ているのか不安なものも……


「おいおい、ってことはこの子も攻撃魔法で!?」

「安心しろ、ユーリは攻撃魔法が大の苦手だ……だが、それを覆す判断力と発想がある。変なものに頼るお前とは違う」

「靴はロマンだろ!? 確かに何回か死に掛けたがな」


 いや、実際ロマンどうこうで危機に遭う様なら、そんなロマンは捨ててしまった方が良いと思うんだけど……


「その通りだユーリ、私は本当に優秀な弟子に恵まれたようだ」

「また、心読んでるし、まぁ……今回はその方がありがたいけど」


 この人なにを考えているか分からないしね。


「ったく、で……ユーリちゃんと今夜……うっ」


 ケルムが再びなにかを言おうとすると、僕は無言でフィーに抱き寄せられ、シュカの方からはナイフが鞘から抜ける音がし……ケルムは後ずさりをしながら声を漏らす。


「おや……そういえばシュカにとっては、ユーリは恩人だったな?」


 ナタリアはただそれだけを言い、部屋に静寂が訪れる……


「――で、なんで俺をご指名なのか教えてくれよ、ナタリアさん?」


 キンッと言う音を立て、シュカがナイフをしまったのを確認したナタリアは「うむ」っと一言言うと話しを続けた。

 ナタリアは僕が彼女の弟子あることから始め、魔法を教えたけど攻撃魔法があくまで使える程度だと言うこと。

 合成魔法の存在に……手段を増やす為、僕が氷属性の魔法を作ろうとしていること。

 それには、直接精霊魔法を見た方が早いであろうことをナタリアはクルムへと伝えてくれた。


「なるほど、つまり……氷の精霊を探しに来たってことか、でも……」


 クルムは話を聞き終わると、未だ僕を抱きしめるフィーへと目を向ける。


「私は精霊魔法は使えないの、召喚と魔法は若干違うからねー」

「分かった……とにかく精霊魔法を見せれば良いんだな? 所で四人とも今夜――あ、いや、なんでもない」


 はぁ……この人は向こうでもこういう人だったのかな?

 なんというか……信用がなさそうな人だなぁ……

 まぁ、とにかく精霊魔法は見せてもらえる訳だし……ってそういえば……


「フィー、氷の精霊の声って聞こえないの?」

「ん? ん~聞えないよ?」


 あれ? でもさっきのクルムの様子だと精霊はいそうなのに……


「あいつら、めったなことじゃ声かけてこないからな、ただ喋る時は面倒だぞ?」

「どういう意味……?」


 僕はケルムへと問いかけると彼は――


「なんというか、なにを言っているのか俺にはさっぱり分からない、まぁユーリちゃんには聞えないけどな」


 ん? 聞えないっていうのは僕が魔族(ヒューマ)だから一般論として理解できるけど……どういうことなんだろう?


「で、ナタリアさん今日見せればいいのか?」

「いや、ユーリたちは働きづめだ。今日はもう休ませる……明日頼めるか?」

「分かった、じゃぁ俺は――」

「泊まっても良いが……ユーリたちに危害を加えん様に縛っておくぞ」


 ナタリアはそう、彼に一言言うと、彼はガックリと肩を落とし部屋を出て行く。

 ちょっとかわいそうな気もするけど、帰って行くと言うことは彼はなにかするつもりだったのか

 ドゥルガさんならともかく、あのタイプはなんか危なさそうな感じがする。

 いつでも魔法が放てる様に身構えていた方が良いかもしれない。


「ユ、ユーリ……いくらなんでも、襲うことは無いと思うぞ?」

「いや、でも……ね?」

「まぁ、変態なのは間違いがない着替えを覗いたり、風呂を覗いたりはするな」


 あ、うん、ナタリアが追い返した理由が分かった気がする。

 フィーが危なかったよ……


「ふぅ、ユーリ自分も危なかったことに気がつけ……まぁ、良いさっき言った通り今日はもう休め」

「え、でも……まだ雪かき終ってないよ?」


 そう、まだ終ってない。

 なんとか外に出れる様にまではしたけど、まだ雪は積もっていてこのままじゃいつ崩れてもおかしくない。

 下手したら歩いている途中に埋もれてしまう危険もある。


「ああ、それなら先ほどメイドに頼んでな……村の者を手配させた。なれている者の方が早いだろう勿論報酬はつけたぞ」


 なるほど、僕たちがやるよりは効率は良い。

 それにお礼を用意してるなら後ろめたくないし、疲れていると言うか……あの酔い醒ましの所為で気持ち悪い、ありがたく休ませて貰おう。

 僕たちはナタリアの言う通り、今日は休ませてもらい翌日再び尋ねてきたケルムと共に僕たちは屋敷の庭へと出た。

 勿論、ナタリアはローブで日を遮っている。


「じゃ、精霊魔法を使うぞー」


 ケルムはそう言うと開けた場所へと目をやり再び口を開けた……氷の精霊の魔法って一体どんな魔法なんだろうか?


「氷の精霊よ……我が声に傾け、我が助けとなり氷の刃となりて……」


 な、長い……詠唱が長いよ?


「我が前に立ちはだかる物へ氷の裁きを!」


 魔法なら、この後名を唱え魔法は発動する。

 だけど、精霊魔法は詠唱を唱え終わると魔法の名を呼ばずとも発動し始めた。


「フィー、いる?」

「う……うん、いるよ? 初めて見るよー」


 どうやら精霊はいるみたいで、発動した精霊魔法はないも無い場所へと……ってあれ?


「ちょ、こっちに来てる!?」


 どういう訳か氷で作られた物は僕たちの方へとその鋭い刃を向けて来る。


「ユーリ、魔法を唱えろ」

「……!! 焔よ我が前に全てを焼き尽くす盾を、フレイムウォール」


 ナタリアに言われ、僕は火壁(フレイムウォール)の詠唱を唱え僕たちの周りに巨大な火の壁を生む。

 相手は氷なら、火で溶けるはずだ。

 恐らく刃は火に当たり蒸発したのだろう、音を立て辺りは静かになった。

 僕は魔法を解き、辺りを見回してみるけど氷の固まりはなく……どうやら無事だったみたいだ。


「さて、ケルム……これはどういうことだ?」

「いや、なんというか……俺の意思じゃないぞ」

「フィー、本当か?」


 居心地の悪そうな顔をしたケルムから顔を背けたナタリアはフィーへと質問をする。

 すると、彼女は苦笑いをしながら……


「な、なんか……呼び出されたのに魔物がいなかったから、私たちを敵だと思ったみたいだよ?」

「それって……勘違いだよね? その氷の精霊って怖い、の?」

「ユーリが、いなかったら、シュカたち、危なかった……」


 いや、僕と言うよりは魔法が使える人がいなかったら、だけど……

 シュカの言う通り危なかった。


「えっと、勘違いだって気がついたみたい。名前聞いたから、ちょっと呼び出してみるね?」

「う、うん……」


 僕が頷くのを見たフィーはいつもの様に精霊が居るであろう場所へと触れると――


「氷の精霊よ我が前に姿を現せ……グラネージュ」


 精霊を呼び出す詠唱を唱えた。

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