81話 フロル地方の酒場
雪景色が広がる地方へついたユーリたちはナタリアの一言で村の酒場へと向かおうとした。
だが、積もった雪でそれはままならず、総員で雪かきを強いられる。
その翌日彼女たちは改めて村へと足を向けるのであった。
やっと雪かきが終った翌日、僕たちは村へと降りていた。
ナタリアの言った通り、村の見学に酒場への顔出しそれと食料の買出しだ。
「先に酒場に行って、帰りに食料を買おう」
「うん、そうだねー」
僕の提案にフィーはそう答えシュカは頷いてくれる。
ただ、問題は……
「酒場ってどこだろう?」
「ナタリーに聞き忘れたね? 人に聞いていこうかー」
「それが、良い……」
人に聞き、やっとたどり着いた酒場で僕たちは少々驚くが空いていた席へと座る。
「いらっしゃい、見ない顔だね」
声をかけてきたのはさっきまでカウンターに立っていた白鳥の羽を持つ天族の女性。
座った所で真っ直ぐに僕たちのところに来たんだけど……それもそのはず、なぜならこのお店……人がいない。
繁盛していないのだろうか? でもお勧めの店だって聞いたんだけど……
き、きっと夜に人が一杯くるんだよね?
そう僕は思うことにし、店員さんに向き直り挨拶を済ませた。
「えっと、この前村に着いたばっかりで……」
「へぇ、そうなんだ……あっと……私はブランシュこの店の店主だよ。……で、注文はなににする? 酒が行ける口なら、体が暖まる良い酒があるよ」
お酒か、そういえばこの世界って明確に飲んじゃ行けない歳って設けられてないんだっけ?
でもなぁ、僕は飲んだことないし……
「僕は――」
「一杯だけ、もらおうかなー」
「シュカも……」
僕が断ろうとしたら、二人はお酒を注文してしまい……ブランシュさんの目が僕へと向けられる。
「君はお酒苦手? なら別の物を持って来ようか?」
「え、……その、お酒でお願いします」
「はいよ、ちょっと待ってって、今持って来るよ」
そう残すとブランシュさんはカウンターの奥へと向かう。
「ユーリ、大丈夫? お酒飲んだことないよね?」
「う、うん……」
本当に初めて飲むけど……一人だけ普通の飲み物ってなんか、ね?
暫らくして、店主さんが持ってきてくれた器には、ほかほかと湯気を立てるお酒がなみなみと入っている。
「い、いただきます」
温かいお酒を口へと運ぶと、果実の甘い香りが鼻を抜け……これは、飲みやすい。
それになんだかぽかぽかするし、寒いこの地方にはピッタリだ。
「それ、美味しいよね? でも、村の男たちはまずいって言うの、辛いのを持って来いってね」
「あはは、確かに甘すぎるから苦手な人はいそうだねー」
「甘いの、好き……」
うん、これなら飲みやすいし……体もぽかぽかしてきた。
「美味しいです」
「ただ、酒は酒だからね?」
「はいっ!」
そう言った数十分後。
「ユ、ユーリ? 大丈夫……?」
「うん? らいじょーぶだよ?」
「舌、回ってない……、お酒弱かった」
「う~?」
別に気持ち悪くはなってないし、弱くないと思うんだけど……それにしても、眠くなってきた?
「ブランシュ戻ったぜ~、ん? このかわい子ちゃんたちは誰なん?」
僕がフィーに寄りかかり、少し眠ろうかとした時不意に誰かに話しかけられた。
「うぅ?」
「最近村に来たばっかりの子らしいよ」
「ほー、で……なんで一人死に掛けてる?」
死に掛けてる?
失礼だなぁ、誰も怪我なんてしてないし、してたら僕が……
「あは、は……お酒弱かったみたいで、飲んだらこうなっちゃったんだよ?」
「なるほど、じゃー流石にそれじゃ帰れないよな? 良いもんがある」
声が聞えて僕の目の前に出された物は小さな赤い実、なんだろうこれ?
「ユ、ユーリになにを食べさせようとしてるの?」
「大丈夫問題は無い、美味しいぞ、食べて見ろ」
「ちょっと、それは――」
「ありがとう……いただき、ます」
それを口に運び、果実を噛み砕くと……
「――っ!? ~~~~っ!?!?」
「「ユ、ユーリ!?」」
苦い! 渋い! 不味いっ!!
「ほら、水」
男の声はそう言うとコップへと水を注ぎ、僕はそれを慌ててあおる。
うぇぇ……舌に味が残ってるよ……
「今の酔い醒ましにはピッタリなんだよ、後は少し水を多めに取っておけば酒が抜けるぞー」
「はぁ、最初に言ってあげなよ……それ、凄く不味いって……」
これ以上にないぐらい不味かったよ。
「へ、変な味がずっと残ってる……」
「え、えっと……なにか甘い物あるかなー」
「今持って来てあげるよ」
出してもらった食べ物を頬張るも、口の中の味はしつこく……美味しく感じなかった。
「ああ、そうそう、それ口に暫らく味残るぞ」
そういうのも先に言ってよ!?
「っと、そういや、名乗るのが遅れちまったな、俺はケルムこの酒場『雪見の館』の冒険者さ」
そういう男へと改めて目を向けると彼はどうやら森族の様だ。
「僕はユーリ……」
「シュカ」
「私はフィーナだよ、お酒の件はありがとう、でも……先に言っておいて欲しかったかな?」
僕の様子を見てか、フィーは怒ってる様だ。
「お、おう……」
フィーの様子に後ずさりをしたケルムという男性には本当に酷い目に遭った。
せめて、酔い醒ましの実で凄く不味いぐらい言って欲しかったよ。
「今度から気をつけるようにしておくぞ」
今度からなんだ……それにしても、この人冒険者と言う割には武器を持ってないなぁ……
森族だから、魔法は使えないし……精霊魔法使い?
「ん? なんだ、そんな情熱的な目で見られると本気になるぞ?」
「ならないで良いよ……武器を持ってないなぁって思っただけだから……」
さらっと、なにを言っているのだろうかこの人は……
いや、それよりも今の言葉でフィーの尻尾の毛が逆立ってるし、更に怒らせたみたいだよ?
「ああ、なんだ残念……でも、俺はそんな恥ずかしがり屋も――」
彼がなにを言おうとした所で、僕はフィーに後ろから抱きつかれて、それを見たクルムはあからさまに目を泳がせて言葉を詰まらせる。
「あ、いや……なんでもない。武器だったな」
「うん」
多分フィーが睨みを利かせてくれたのかな?
「俺の武器は特注でな、仕込み靴って名付けてる……その名の通り、ギザギザの刃を靴に仕込んであるんだよ。これで蹴られたら痛いじゃ済まない」
「その代わり、刃はすぐに駄目になって体術と精霊頼りになるのが欠点なんだよねー……」
それって――
「「「使えないんじゃ……」」」
僕たちは揃って口に出すとブランシュさんは何度も頷く、だけどケルムは机に手をゆっくりと乗せると……
「分かってねぇ! 分かってねぇよ! 一応つま先の方に鉄も仕込んであるんだぞ!? ロマンじゃないか!?」
「う、う~ん……でもシアやバルドなら、そんな物仕込まなくても十分強いよ?」
「シアやバルドって誰だよ!?」
うん、知る訳がないよね……でも、バルドを見る限り、彼の師匠であるシアさんもそんなのは必要なさそうだよね。
それにしても、なんでそんな使いにくそうな武器を?
「なんだよ、そんな憧れの目で見るなよ……」
「なにを勘違いしてるのか分からないけど、なんで、そんな武器を?」
この人は一体なんなんだろう? なんか、凄い面倒な人だなぁ……
「ふっ、そりゃ~ある方に憧れてね」
「へ、へぇ……」
その人は強かったんだろうか? 僕は僕を抱きしめるフィーのことを考える。
うん、フィーの方がきっと強いよね。
「まぁ、ケルムのことは放っておいて、君たちはどこから来たの?」
そう切り出したのはブランシュさんだ。
「僕たちはメルンにあるタリムから来たんだ」
「メルン!? ちょ……ってことは氷狼様に会って来たの!?」
うん? ひょうろうさま? って誰だろう?
「んっと、私たちは転移魔法でこっちに来たんだよー」
「…………」
フィーの言葉に頷いて肯定するシュカを見て僕も頷いておく。
「「転移……魔法?」」
僕たちの言葉に二人が声を揃える。
だけど、ブランシュさんは困った様な顔をし、ケルムは僕たちをまじまじと見てきた。
「もしかして、タリムって街の外にある屋敷のことかい?」
「そう、だけど……なんで貴方が知ってるの?」
そう答えたのはフィーだ。
彼女はケルムを警戒しているのだろう硬い声でそう質問を返す。
「なんだ、じゃぁ君たちはナタリアさんの知り合いか……ってことは屋敷に行けば彼女はいるんだな?」
「あの……ナタリアをなんで知ってるの?」
「なんでって、まぁ色々だ……俺が元気でやってることを報告し忘れてたからさ、顔見せに行きたいだけだぞー」
そう、彼は笑顔で答える。
一体、この人とナタリアはどんな関係なんだろう?
まさか、異世界から連れて来た人? いや、まさか……ね。




