74話 魔法失敗?
ナタリアの話とはユーリが男になる方法だった。
だが、それは魔法での一時的な物であり、今に満足しはじめたユーリは戻るのをやめようと思っていたのだが、フィーナの願いもあり魔法を憶えることになった。
そして……その特訓中、ユーリは子供になってしまいナタリアはフィーナにユーリを押し付けると部屋を出て行ってしまったのだった……
子供になってしまったユーリは疲れてしまったのか、フィーナの膝の上で寝てしまい。
一人残されたフィーナは、ユーリの頭を撫でていた。
「失敗じゃないって言ってたけど、本当なのかな?」
過去に親友ナタリアが変身魔法を使う所を見ていた彼女は、ユーリの現状に疑問を感じる。
なぜならナタリアの性格が変わったりすることがないからだ。
いや、老婆になっている時は口調が変わっている時もあるが、本人曰く気分とのことだった。
「……で、でもユーリの子ってこんな感じなのかな?」
先ほどナタリアに言われた未来のことという言葉を思い出し、フィーナは顔を崩す。
(ナタリーの言ってたことが本当なら……つまり、ユーリの子を――、えっと、そうじゃなくて、あ、でも……ほっぺた柔らかそう……)
彼女はユーリの頬を人差し指で突っつくと、子供特有な弾力が彼女の指を押し返す。
「ぷにぷにだ……」
「ん……すぅ……」
「も、もう……ちょっと――」
ユーリを起こさないように、ゆっくりと……再び指を近づけていくフィーナ……
もう少しで頬にその指が届くという所で――
「フィー! ユーリの様子は……ほほう」
「ひゃい!?」
「んぅ……ふぃー? ……ひっ!?」
フィーナの声で起き、瞼を擦るユーリはナタリアの姿を見るなり小さな悲鳴を上げる。
「な、なたりあ、ごめんなさい……ぼ、ぼくがんば……」
「ふむ、問題なく心まで、幼児化したみたいだな?」
なたりあは、ぼくをずっとみてる。
やっぱり、ぼくおこられるんだ。
うで、きられるのかな? こわい、こわいよ……
ぼくはわらってるような、こまっているようなかおをして、かたまっている、ふぃーにすがりつく。
「さて、ユーリ魔法を解け、良いか? 記憶はあるはずだ……焦らず、魔法を今解くんだ良いな」
「まほうを、とく?」
「そうだ、もう一度やって見ろ」
おこってないの?
「怒ってはいない、戻った所で腕も切らん約束しよう」
ほんとう、かな……ぼくはためしに、さっきとおなじように、まほうをといてみる――すると……
からだは、だんだんと戻って行き……
「……え? も、戻った?」
地面は先ほどより遠くなり、ナタリアの顔は当然近くなっている。
どういうことなんだろう? こんなにあっさり戻れるなんて……
「うむ、だから言ったろう? 失敗では無いと……」
ナタリアはそう言うと一安心した様な表情を浮かべる。
なんにせよ戻れて良かった。あのままじゃ……不安で仕方なかったし。
「あ、あれ? いつものユーリだ……」
フィーはそこまで言うと急に顔を赤くし、顔を背ける。
ん?
「さてユーリ、説明をしてやるが、その前に服をどうにかしろ……丸見えだぞ、主に下着がな」
へ? な……そ、そうか、さっきフィーが転ばないようにって直してくれてたんだっけ?
ぼくは織り込まれたスカートや袖を急いで元に戻す。
「うむ、では先ほど失敗では無いと言った理由からいこうか」
「そ、そういえば、確かにそう言ってたけど……ユーリ、いつもと違ったよ?」
「ああ、ユーリが変身したのは子供、同時に思考の幼児化だ。子供は感情にまかせ泣いたりするだろう」
う、うん……なんか僕も、さっき泣いていた記憶がある。
は、恥ずかしくなってきた……
「そして、変身魔法は他の魔法と違い、途中で魔法を解くことが出来ん……だからユーリが完全に変身するまで、魔法が解けなかったという訳だ」
「でも、ナタリーは性格まで変わらないよ?」
「うむ、私は自分の意思で変えてないだけだ……だが、本来は変身したことを隠す為、内面も変化させるのがこの魔法ということさ」
「じゃ、じゃぁ……僕が全く別人になるってこと?」
それじゃ、意味が無いんじゃ?
でも、僕そこまで別人になってたかな……
「本来は、な……だがフィー、今回はあまり変わってなかっただろう」
「う、うん……ユーリを、そのまま子供にした感じだったよ?」
うぅ……思い出しただけで恥ずかしい……
「つまりだユーリ……お前はお前のまま、男性化しなければならない。だが、今回のトランスでは、ただ幼児化しただけだ。普通なら人格が変わっていても、おかしくは無い」
「そ、そうなんだ……つまり、ナタリアは今言った通り、僕のまま男性化してみせろってことなんだ」
普通は見た目も性格も声も変わってしまう魔法で、そっくりそのまま僕になる。
以前ヒールの時も思ったけど、言うには簡単……でも、実際やるとなると相当難しそうだ。
「その通りだ。勿論、今すぐではない安心しろ」
「ユーリ大変そうだし、やっぱりこのままでも良いよ?」
「ほう、フィーは良いのか? ユーリが突然、どこの馬の骨とも知れない男に……連れて行かれても」
「ぅ……ユーリ! がんばってね?」
あはは、は……どうやら、変身魔法は、がんばらないといけないみたいだ……
「さて、ユーリ」
「ん? 早速もう一回やるのかな……」
ナタリアに名を呼ばれ、僕がそう答えると彼女は首を横に振る。
あれ? 違うのか……じゃ、一体なにをするんだろう……
「変身魔法は体に負担も掛かる、最初のうちは一日に一回にしておこう……それよりも、だ。あの合成魔法とやらを研究しよう」
「合成って、ユーリのフレイムウォールとかのこと?」
フィーの質問に今度は首を縦に振るナタリア。
でも、あれって……
「あれも、体力を使っちゃうよ? それならトランスでも良いんじゃ……」
「いや、今回試して見るのは、二つの魔法を合成して見せろ」
二つ?
「まず、合成魔法を使う時、体力の消費が激しいと言ったな?」
「うん、使った後……酷い疲労感に襲われるんだ、持って二回……それ以上は無理だよ」
ナタリアは体に負担が掛かるって言ってたけど……トランスの方が楽だ。
「うむ、だから、それが合成する魔法の数によって変わるのかを確かめよう」
ん?
「そっか、二個の魔法で体力とかに影響ないなら、ユーリもちゃんとした魔法が使えるんだね?」
ちゃ、ちゃんとしたって……フィー酷いよ……これでも、以前よりはずっとマシなんだ。
しかも、フィーはそれを知っているはずなのに、そんなはっきりと言わなくても……
「そういうことだな、取りあえず……ウォーターウェポンで武器を作り、それをマテリアルで飛ばして見ろ」
「う、うーん、分かった……やってみるよ」
武器を飛ばすか……
そうだな、それならウォータージャベリンと同じ様に武器を作ってみよう。
「水よ形を持ちて我が剣となれ……ウォーターウェポン」
イメージはナタリアが見せた、あの水の大槍。
大丈夫、作るだけは今までだって出来たんだ……
「よし、武器が出来たな……ユーリ次だ」
いつの間にか僕の前にはアースウォールがあり、恐らくそれを的にしろと言うことだろう。
「うん、我が意に従い意志を持て! マテリアルショット!!」
水槍に魔法をかけ、土壁へと向けて、飛ばす。
いつも矢を使って飛ばす要領だ。
「……っ」
投射を唱え、魔法が発動すると……体の中から力が抜けていく感覚がする。
やっぱり、これの方が体力使うんじゃないかな?
だけど、解き放たれた魔法は普通のウォータージャベリンと……
「変わらんな」
「……あれ?」
「う、うん……」
フィーにも首を傾げられたし……でも、なんでいつも通りなんだろう?
魔法はちゃんと発動したはず、それに体力もごっ、そ……り……
「ユーリ!?」
「あ、れ? ……」
なんだろう、急に……ねむ、く……
「ふむ、魔法発動に条件があるのか? それに、ユーリのその様子……もしかして、失敗すると体力の消費が激しいのかもしれんな」
「え? そ、それって……ユ、ユーリは大丈夫なの!?」
僕が、倒れかけると……フィーに支えられる。
彼女から漂って来る、甘い香りも手伝って僕の意識は更にまどろむ……
「問題は無い、ただの疲労だ。フィーそのまま寝かしてやれ」
「ほ、本当? なら、良いんだけど……」
も……駄目、だ……目を、開けて……られ……な、い。
僕は、彼女に抱き支えられたまま夢の中へと落ちた。
「ん……?」
僕が目を覚ますと、そこは……僕の部屋で、いつも通りフィーに抱き枕にされていた。
辺りはすでに暗く、消えかけたランプの灯だけが部屋を照らす。
そっか……僕、確か魔法を使ってそのまま……
昼間のことを思い出し、僕は再び瞼を閉じる。
まだ、眠い……なんでかは分からない。
でも……すごく、眠いんだ………………




