表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/210

72話 ナタリアの失態

 ナタリアとの再会を済ませたユーリたちは彼女にシュカとドゥルガを紹介する。

 だが、フィーナの様子がいつもと違うことに気が着いたナタリアは問いただし、呪いのことを聞くと案の定制止の言葉を発した。

 それを聞かないユーリたちへ彼女は魔法を使い、物理的に辞めさせようとするが、ユーリの右手が切り落とされる前にソティルの魔法「サイレンス」が完成し、ユーリはそれを使い師ナタリアへ隙を作り、ナタリアの首へと水槍(ウォータージャベリン)を突きつけ勝利を収め、ナタリアの許可を得て再び魔法の修行を開始するのだった。

「今日はここまでにしよう」


 ナタリアの言葉で、僕はどさりと腰を地下室の床につける。

 長くなった髪が揺れ、僕は息を切らす。


「ふむ、やはり……」

「……なに?」


 ナタリアは僕をじっと見据え、なにかを考えてるみたいだ。

 なんだろう? っと僕は自身の体を見下ろす……そういえば、胸が大きくなった気がする。

 なんだかきつい感じがするし、変えた方が良いんだろうか?

 着けるのは慣れた……けど、元々、男の僕には複雑だ……って、もしかして、ナタリアのやはりって……このこと?


「…………」


 な、なんか……急に寒気がする。


「ナ、ナタリア?」

「いや、なんでもないぞ? 元男のお前の胸が確かに大きくなっていても……今、言おうとしたことと、なんの関係もない」


 うぐっ、また心を覗かれた。

 でも、ナタリアは美人なんだから別に胸が――


「ほう……では、自身でも納得の可愛らしさと胸があるユーリは、女性として私より優位ということだな?」

「誰も、そんなこと言ってないよ!」


 まぁ、確かに可愛いとは思う、だが……はっきり言って自分で自分にドキドキするとかはまるで無い。

 っていうか人の心を覗くのは止めたんじゃなかったの?


「う……」

「で、やはりってなんのこと?」

「ユーリ、やはりお前の魔力の性質では……攻撃魔法は見込めん、よくあそこまで成長したと褒めたい位だ。唯一、使い物になると言ったら……(ソティル)の魔法か、あの動くフレイムウォールのみだ」

「でも、あれは体力の方を使っちゃうんだ。……もって二回、それが限度だよ」


 僕は修行の初日に、ナタリアにあれを見せた。

 ナタリアだったら簡単に出来るだろうと思ったんだけど、あれはどうやら凄いらしい。

 前にシュカが言っていた通り、ナタリアにも三つの魔法を合成して使う人はいないと言われた。

 理由としては体力の消費、それに魔力の消費もだ。

 そもそも合成魔法なんてものは無く、ただ二つの魔法を具現化するイメージを保てるだけで、魔法使いとして抜きん出ているらしく、魔力も一つの魔法を使うより、消費してしまうらしい。

 僕としては、ソティルの魔法よりは魔力が減っていないって思ったんだけど……


「普通なら魔力切れで倒れる。二回使えるだけまだ良い方だな、ユーリは合成魔法の研究をした方が良いかもしれんな」

「ん? 研究って合成魔法ってそんなに珍しいものかな……水の大槍(ウォータージャベリン)だって、結局は武器生成(ウォーターウェポン)水の射撃(ウォーターショット)の合成みたいな物だと思うけど」


 違うのかな? いや、そもそも、水の射撃(ウォーターショット)さえ”水を作って”から”撃ちだす”のだから、魔弾(マテリアルショット)と別の魔法の合成だと思うけど……


「なるほど、ユーリにはそう思えたのか、確かに言われて見るとそうかもしれないが、魔法とは森族(フォーレ)の精霊魔法に対抗をする為に作られた……いわば、真似をした物だ」

「ん?」


 精霊魔法ってそんなのだっけ?


「ユーリ、ご飯みたいだよ?」


 僕が疑問を感じているとそれを見計らったのか、フィーは扉を開け入って来た。

 あの日から、彼女は屋敷に泊まりこんでいて、こうやって食事の時は呼びに来てくれている。

 彼女は仕事を休みたいっと言っていたけど……多分、僕とナタリアがまた戦うことにならないか心配なんだろうな。


「フィー、丁度良い……精霊魔法について、ユーリに説明をしてくれるか?」

「精霊魔法? えっと、精霊の力を借りて地震を起こしたり、突風を吹かせたりする魔法だよ?」


 ん?

 でも、フィーは使い方が違った様な気がするけど……


「フィーが使うのは精霊召喚だ、精霊を実体化させ彼らが自身で考え動く。勿論、人の会話も理解しているから、召喚されている精霊に対しては一方的ではあるが、他の種族も意思を伝えられる」

「私は精霊魔法は使えないんだよ?」


 そういえば、武器屋で剣の方が合ってるとか言ってたけど、そう言うことだったのか。


「とはいえ、精霊召喚は精霊魔法より高度な技術だ。一度、精霊に仲間と判断されれば彼らは裏切らないからな」


 確かにフィーの呼び出す精霊は皆良い子だ。

 それにしても、召喚はそんな高度な技だったんだ……やっぱりフィーはすごいね!


「……まぁ、魔法は元々、魔族(ヒューマ)森族(フォーレ)に勝つために見出した技術、精霊の力を借りずにそれを具現させる為の技だ」

森族(フォーレ)の精霊魔法を使わせない為に、精霊の住処を壊す技術だから……精霊魔法よりも強力なんだよ?」


 なるほど……それにしても、昔の人はなにを考えていたんだろうか?


「住処を壊すなんて……酷いね……」

「ああ、だからこそ……今、魔法を使う人間が気をつけなければならない、所でユーリ、フィー」

「「ん?」」


 ナタリアに呼ばれ、僕たちは声を揃える。

 彼女の方を見てみると、なぜか瞼を半分ぐらい降ろし僕たちを見ている。

 別に睨まれている……とか、そういうことじゃないみたいだけど……


「いつから、そんなに仲良くなった?」


 指を指され、その指す方向へと視線を動かす。

 その視線の先には僕の右手があって、それはフィーの左手と繋がっている。

 うん、なにも変な所は無いと思うけど……


「いや、変だろう? 変と思わない所が変じゃないか」

「え、えっとほら、ユーリは迷子になっちゃうから、ね?」


 そうなんだよね、屋敷にずっといた頃は流石に大丈夫だったけど、戻ってきた時には内装を思い出せなかった。

 一人だと戻る途中で迷子になる、多分、いや絶対。


「いや、フィー私に対して、その場しのぎの嘘は意味がないぞ、平静を装ってはいるが尻尾は揺れている。それに、なによりさっきから心のな――」

「それよりご飯だよ! ご飯! ユーリ早く行こう!?」

「へ? あ、うん」


 なんか、ナタリアが言おうとしてたみたいだけど、なんだったのかな?

 そう思いながら、引っ張られ部屋の扉へと向かおうとする。

 すると、後ろからなにかが聞え、僕たちの前に棚が急に動き扉を塞いだ。


「ナ、ナタリー?」

「いや、なに……実に興味深い、フィー、なにがあって……そう言う気持ちになったのか、是非聞かせてもらいたい」


 屈託のない満面の笑みを浮かべる銀髪の似合う女性は、フィーと僕を見据える。

 どこか嬉しそうだけど……なにが、この数分でなにがあったの?


「な、なんのことかな?」

「ほほう、あくまでシラを切るつもりか、まぁ良い……所でユーリ、フィーと呼ぶようになったんだな」

「う、うん、フィーがそう呼んでって言ったから」


 なんだろう、怖いというか……なんか非常に嫌な予感がするんだけど……

 これは、一体なにが?


「フィーが夜部屋から抜け出していると聞いてな……フィーからなにか聞いていないか?」

「……へ?」


 聞いていないかって言われても、フィーはいつも通りだしなぁ。

 いや、それよりもなんで、ナタリアはそんなにニヤニヤしているの?


「フィーならいつも――もご!?」


 な、なんで、フィーは口を塞ぐの?


「ユ、ユーリ!? あ、あのね? 夜風に当たってるだけだよ?」


 夜風って、フィーは屋敷の外には出てないし……もう、シュカとドゥルガさんの二人には、知れ渡ってることだと思うんだけど……


「ほほう、夜風、か……」

「そ、そうだヨー?」


 フィーはなにを慌てているのか、いつもより語尾が高い。


「では、なぜ朝ユーリの部屋から出てくるんだ?」

「――ぷはっ」


 やっと口が解放され高と思うと、ガンっという音がして、僕はビックリし……音の出所へ目をやると、どうやら扉の前に置かれた棚にフィーが頭を打ちつけた様だ。


「フィ、フィー!?」


 血は出てないみたいだけど、良い音がしたし……相当痛いんじゃ?


「からかうのは、ここまでにして……こうなったと言うことは……ユーリ、フィーに話したのか?」

「話した、って……なんのこと?」


 はて、なにかフィーに話す様なこと……


「なんだ、言ってなかったのか、ユーリが男だったことは……」

「……え?」

「え?」

「…………」


 ナタリアは笑顔を維持していたかと思うと……途端にそれを曇らせ、僕からそっと目だけを逸らす……って……

 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?


「ちょ、ナ、ナタリア!? なんで今――」

「す、すまん……」


 すまんって心読んでたんじゃないの!?


「い、今、読み始めた」

「い、今ってさっきまで読んでたよね!? それに、いつも無許可で読んでるくせに!」


 さ、最悪だ……フィーは同じ女性だからと言う理由もあって、遠征に僕を指名してくれたのに……

 こ、これじゃ、嫌われてしまう……まさか、元男が一緒に寝泊りしてたなんて知ったら、絶対に嫌われる……


「ユ、ユーリ、なんと言うか、そのすまんな、そうだフィーこれを飲むと良い、ここ一週間の記憶が無くなる」

「変な物フィーに飲ませ様としないでよ!?」


 というかそんな危ない物、フィー以外にも使っちゃ駄目でしょ普通。

 そ、そんなことより、フィー怒ってるよね?

 僕はおどおどしながらも、彼女の方へと顔を動かす。


「…………」


 フィーは固まったまま、僕を見ていて……ぴくりとも動かない。

 まぁ、そうなるよね? 普通は……


「だ、だが、フィー安心しろ、ユーリは確かに向こうでは男だったが、こっちに来た時から女性だ」


 ナタリア、それフォローになってないし、なにを安心しろと言ってるの?


「ユーリも悪い……そこまで仲良くなっているのなら、ちゃんと言うべきだ」

「言うべきだって言われても、言う必要がなかったんだよ!」


 確かに、僕が男のままだったら……どんなに良かったことか……

 でも、もうそれも終わりだ。


「フィー……ナさん、その、ごめん……」

「……ユーリ?」

「その、でも、あのフィーナさん、ナタ――」

「えっと、ユーリ? いつもの呼び方で良いんだよ?」


 …………え?


「で、でも……それに、ナタリアが嘘ついている訳じゃ……」


 無い。

 ナタリアが言っていることは本当だし、怒って嫌われても仕方の無いことだ。

 なのに、フィーナさんはいつも通りの……っていつも通り?


「うーん……思えば、一緒に着替える時も恥ずかしがってたり、死にかけた時も逃げずに助けてくれたり、駆けつけて助けてくれた上に背負って連れて帰ってくれたし……ちょっと男の子っぽい所があるなーって思ってけど、そういうことだったんだね?」

「え、あの……でも……」


 って、え? 男の子っぽい?

 ん? んー? 見に覚えがない。


「フィー、その、なんと言ったら良いのか……本当にすまん」

「ん? 確かに驚いたよ? でも、ユーリはユーリだよ」


 尻尾をパタパタと振りながら彼女はそう言いきり、嘘じゃないことが解る。

 そう、理解して僕は足から力が抜けると再び腰を床へとつけた。

 よ、良かった……フィーナさんが心の広い人で……


「でも……」


 その言葉に僕はびくりとし、再び顔を彼女へと向ける。


「”フィーナさん”じゃなくて、”フィー”だよ?」


 彼女は僕がまたさん付けで呼んだことに、不満を申し立て、尻尾を立てる。

 怒る所は果たして、そこで良いのだろうか?


「ごめん、フィー」

「うん」

「ふぅ、今回は私の配慮が足りなかった。まぁ、大事にならなくて安堵している……ユーリ、それにフィー、お詫び代わりになってしまうが、話がある」

「話? 変な話じゃないよね……」


 警戒する僕にナタリアは首を立てに振ると、真剣な顔のまま声を発した……


「実はな――――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ