70話 総魔力確認
仲間にノルドの修行をつけさせることにしたユーリは、フィーナを連れて村の外へと繰り出す。
理由は現在の魔力の限界を知る為、近隣に現れる様になった魔物の退治に買って出たのだった。
あの後、セラさんに食事を取っていく様に言われたのと、ノルド君も帰してくれなかったこともあり、二人の家で食事を取ることになった。
その時に聞いたのだけど……やっぱり、あれはなんらかの魔道具だったみたいで、以前助けた時にノルド君が身につけていたのも割れていたみたいだ。
翌日、僕とフィーは村の外にある草原に来ていて、蜂型の魔物【ビー・ダンジェ】を倒しながら魔力の底を確かめていた。
ビー・ダンジェは前来た時、山に居た魔物だ。
どうやら少数ではあるけど、人里まで降りてきてるらしい。
それの討伐も含めてあえて、その魔物を的にしている訳だけど……うん、それにしても、この魔物やっぱり大きいなぁ。
それと、気持ち悪い。
「魔力は、まだ余裕ありそう?」
「うん、まだ平気みたい」
僕を心配そうに見てくるフィー。
彼女は話を聞いてもお守りを僕に返すってことはしなかった。
それ以前に前から気がついてたって言われたよ……
まぁ、フィーは無茶をするから無理やりでもお守りは持ってもらった方が良いから、僕にとっては好都合だ。
そんなことを考えながら、次の標的に目をつけた僕は矢を取り出し、詠唱を紡ぐ――
「穿て槍よりも鋭く、放て弓矢より速く」
スナイプ・アロウ……という最後の声と共に、真っ直ぐに撃ち放たれた矢は蜂を撃ち抜く。
ここまで使った魔法は解毒に光衣、狙撃三回と、これで五回目だ。
うん、やっぱり魔力が増えてるみたいだ。
「ユ、ユーリ!」
僕が魔力が増えたことに確信をしていると、フィーが慌てたような声をあげる。
「フィー? どうしたの?」
「あ、あれ! 流石に不味くないかな?」
「ん? ……ふぁ!?」
彼女が指差した方へと顔を向けると、そこには大きな蜂たちが僕たちに向かって来ている真っ最中だ。
いや、もう三匹も倒している訳だし、当然と言えば当然だ。
「ッ!! フィー! 下がってて!」
「ちょ、ユーリ、待って!」
僕は彼女の前に出て、魔物を見据える。
いくら毒対策にあらかじめ解毒を持ってきていたとしても、あの数相手では飲む暇が無い。
僕は右手を前に突き出すようにし、目を閉じると声を張り……唱えた。
「強固なる壁よ、焔を持ち得て、我が意に従え! フレイム、ウォールッ!!」
瞼を持ち上げ、前を見据えると……そこにはゴブリンの軍勢を追い払った巨大な炎の壁が現れる。
それは僕の意思に従い、前へと真っ直ぐに進む。
だけど、相手は蜂だ……グリフォンより素早く、最初こそは炎の壁に巻き込まれたみたいだけど……残った魔物は壁を越え、まとまって僕に向かい飛んできた。
因みに、あの蜂は見た目がスズメバチによく似ている。
肉食の蜂でミツバチとかも食べてしまう恐ろしい蜂、だけど……
その餌であるはずのミツバチに負ける時がある。
僕は用が済んだ火の壁を消し去ると、再び詠唱を唱える。
「太陽よ慈悲を、邪なる者に裁きを――ルクス・ミーテ!」
魔法によって作られた小さな太陽の温度を下げ、蜂へと向かわせる。
そして、近づいた所で一気にその熱を上げさせると……
その熱に耐えられなくなった蜂たちの針は僕に届くことなく、その巨大な身が地へと落ちた。
僕が辺りを見回してみると、もう動いている蜂はいないみたいだ。
とり、あえず……これ、で……
「だ、大丈夫?」
「う、うん……ここが限界みたい、だね……」
視界が霞み、僕の体がぐらつく……倒れそうになる前にフィーが支えてくれたから、大丈夫だったけど……
意識が、遠のく……最初の時は倒れただけだったのに、この前といい、今日といい……なんで違うのかな?
『恐らくは、以前は意識を保てるだけの魔力は残っていたのだと思います』
なんだ、そういうことか……ってことは七回使えるんじゃなくて……六回って思った方が良いね。
「ユ、ユーリ? どうしたの?」
「大丈夫、ちょっと……眠たいだけ、だから……」
その言葉を口にすると、僕は誘われるがまま眠りへと落ちた。
風が……心地良い、それに……なんだか後頭部に柔らかい枕があってすごく、気持ち良い。
あれ? でも、僕……確か魔力切れで眠くなって……
「……あ、起きたみたいだね」
「…………フィー?」
瞼を開けると、僕の前にはフィーの顔があって……どうやら僕たちはまだ、草原にいたみたいだ。
……え、えっと、こ、これって、もしかして……
いや、もしかしなくてもこれ、膝枕だ!?
「え、えっと、フィーがずっと?」
「うん、辺りに魔物もいなかったから、起きるまで、ね?」
え、う……嬉しいんだけど、凄く恥ずかしいよ、これ……
悪い気がして起き上がろうとすると……まだ、魔力が回復していないのか、僕はふらりと倒れかけかる。
「あ、危ないよ? もう、ちょっと休んでから戻ろうかー」
フィーは倒れかけた僕を支え、頭を彼女の膝の上に乗せる。
ぅぅ、周りに人がいないのは幸いだけど……こ、これは、やっぱり恥ずかしいよ……
「あの、フィー別に地べたでも……」
「駄目だよ? 髪が汚れちゃうし、この方がユーリも楽でしょ?」
「あ、ありがとう……」
フィーは満面の笑みでそう言うと、僕の頭を撫で始めた。
「ねぇ、ユーリ……」
「ん、どうしたの? フィー」
撫でるのを止めたフィーは僕を見ながら、また不安そうな顔を浮かべる。
「本当にナタリーと……」
まだ、心配なんだね……でも、僕の答えは一つしかない。
「大丈夫……言った通り、ナタリアは傷つけない」
僕はフィーにもう一度そう言う、その為の魔法も思いついてる。
後は、ソティルがその魔法を作ってくれるのを待つだけだけど……
実際にはそれだけじゃ駄目だ。
お願いした魔法は攻撃には使えない。
あれで出来るといったら……ナタリアを一瞬怯ませる程度だ。
でも、うまくいけばナタリアを傷つけずに勝てる。
失敗すれば、僕は魔法を失う。
「ナタリーは……ってことは、ユーリは?」
それは、きついんだよね。
ナタリアも、僕も無傷って言うのは……難しい。
「難しいよ、最悪……左腕を失う覚悟で行かないと」
「じゃ、やっぱり……」
「でも、僕はフィーの望みを叶えたい。初めて自分で決めたんだ……この世界に来て初めて、だから……必ず、ナタリアを説得してみせるよ」
「…………」
僕がそう言うと、フィーは一瞬固まったかと思うと……ふいっと僕から顔をそららす。
もしかして、怒らせちゃった? でも、怒ってる感じではないような……
「フィー?」
「……え、えっと、とにかく、ユーリも怪我したら駄目だからね?」
そんな、無茶な……というか、フィーはなんで明後日の方向見ながら言ってるの?
口ぶりからして、怒ってるわけじゃないってのは分かったけど……
「あ、後っ」
「な、なに?」
フィーは怒ってるふりをしているのか、眉を八の字にして僕に顔を向ける。
なんか、心なしか赤いみたいだけど……大丈夫かな?
「今は……ちゃんと休んでね?」
「う、うん」
それよりも、フィーは大丈夫なのだろうか?
でも、熱がありそうな感じでもないんだよね、なぜか僕を見ては頭をぶんぶんと振ってるけど……
どうしたのかな、あ、今度は笑顔というか……にやけだした……
なんというか……今日のフィーは可愛い、まぁ、元から美人だけど……表情がころころ変わって見てて飽きないなぁ。
「ユ、ユーリ?」
「ん? どうしたの、フィー」
「そう、じっと見られると恥ずかしいよ?」
「ご、ごめん……」
フィーは困ったような笑顔を浮べ、そう言って頬を掻く、謝った僕も少し恥ずかしくなり、横を向いた。
それから暫らくして、僕の魔力が回復しトーナへと戻った。
村に戻ってすぐ、僕たちはノルド君の家へと向かうと……
「えっと……」
「なにが、あったの?」
僕とフィーは呆然としながら、ドゥルガさんに聞く。
シュカと言えば地べたに体育座りをしながら、頭を自分の膝へと埋めている。
因みにノルド君だけど、ドゥルガさんの腕にしがみつき、ぶら下がっている状態だ。
「お姉ちゃんたち、おかえり! 今はね――」
「今は腕力を鍛えている」
「そ、そんな、鍛え方もあるんだね?」
「そうだね、でも、なんて言うか……」
父親にじゃれつく子供に見える。
見たところ、懐いたみたいだ……喧嘩してなくて良かった。
いや、それよりも、シュカはなにがあったの!?
「シュ、シュカ?」
僕は彼女に近づき、恐る恐ると声をかける。
すると彼女はゆっくりと顔を上げ、そこには疲労がうつされていた。
「子供、体力、多い」
いや、シュカ……多分、ノルド君は僕たちと五歳ぐらいしか変わらないと思うよ?
「シュカは永遠と打ち込みをさせられていてな、途中からその調子だ」
見れば彼女の横に木の棒がある。
昨日見た物はただの木の棒だったけど、彼女の近くにあるのはちゃんと剣の形になってることから恐らく、ドゥルガさんかシュカが作ったんだろう。
もう一本あるし、シュカはこれで攻撃を受け流していたのかな?
それにしたって、彼女がここまで疲れているのってグラースを使った時以来じゃないか?
「ノルドは体力があるな、飲み込みも早い」
「疲れた……喉、渇いた」
僕は水袋をシュカに手渡すと、彼女はそれを飲み干してまた膝に頭を埋める。
相当、疲れていらっしゃる。
「あはは……私が残った方が良かったかも、ね?」
「う、うん……」
僕たちは、未だドゥルガさんの腕にぶら下がっているノルド君を見て、苦笑いをした。




