69話 ノルドとの再会
村長の話は白紙の魔導書『ソティル』についてだった……
ユーリは黒の本には手を出さないと約束をし、村長宅を後にする。
その足でかつて、フィーナと二人で助けに行った少年、ノルドの家へと向かう。
そこには、剣の練習に明け暮れていた少年がいて……?
僕が勿論だと、ノルドくんに告げると……フィーの機嫌は戻ったようで、いつも通りになったけど……
うーん、お礼は言いたいんだよね。
後で、こっそり耳打ちをすることにしよう。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん? どうしたの」
服の袖を引っ張られた僕は少年の声に答えると、彼はシュカとドゥルガさんの方を向き。
「あの人たち、誰?」
と、聞いてきた。
「二人は仕事を手伝ってくれたんだよ?」
「そうだよ、女の子がシュカで、男の人がドゥルガさんって言うんだ」
僕とフィーがそう言うと少年は「へぇ」っと言い、シュカとドゥルガさんを見る。
だけど、その視線は留まり、一箇所を熱心に見ているみたいだ。
恐らく、ドゥルガさんを見ているのだろう。
見た目が変わって魔族になったけど、凄く大きいし……筋肉も凄い。
もしかして、憧れとか言うやつかな?
いや、でも……ノルド君に、あの筋肉は似合わないよ。
「俺は嫌われたようだな」
「へ?」
なんで? まだ言葉も交わしてないし、嫌われる要素が無いと思うんだけど……
僕がぼんやりとそんなことを考えていると、ノルド君は僕とフィーの手を引き、先ほどまで練習していた場所に引っ張っていく。
「ノ、ノルド君?」
「見てて!」
彼はそう言うと木の棒を手に取り、ブンブンと振り始めた。
恐らくは修行なんだろう、僕よりは上手だと思う、だけど……
「どう? ボク、もう冒険者になれるよね?」
うぅ、そんな目で見られると、本当のことが言いづらい。
フィーは……うん、やっぱり同じみたいで、作り笑いを浮かべてるし、シュカの方を見ると、両手を肩の高さまで上げて首を振っている。
「止めておけ」
そう言葉にしたのは、先ほど嫌われたと言っていたドゥルガさんだ。
「なんでだよ!」
ノルド君はちょっと乱暴にドゥルガさんへそう叫ぶ。
なんでか分からないけど……確かに嫌ってそうだなぁ。
「その程度では死ぬ、お前の剣はフィーナより軽く、シュカのより遅く、ユーリのようにそれを覆すほどの魔法も無い……ただ、冒険者の真似事をして、棒を振っているに過ぎないな」
う、うわぁ……ドゥルガさんが厳しい一言を……
「で、でもドゥルガさん、僕は剣は正直……ノルド君より下手だよ?」
「そ、そうだね、まともに使えないからね……」
僕とフィーはフォローになっていないフォローをいれると、彼は腕を組みなおし……
「弓の腕は確かだろう……それに、その子はまだ子供だ……焦ることは無い」
ドゥルガさん、それは早く成長したい子供にとっての禁句だよ。
「僕は子供じゃない!」
ほら……ノルド君、怒っちゃったし……耳まで真っ赤にしてるよ。
前に薬草を取りに行ったこともあるし、ノルド君は思い立ったら行動してしまうかもしれないよね?
うーん、仕方が無い。
「皆、二、三日村に泊まっていこう」
「え? 良いけど……」
「それで、ドゥルガさんたちがノルド君に基本を教える。これを毎日やりなさいって物をね」
そうすれば、闇雲に練習するよりは鍛えられるだろうし。
ノルド君もドゥルガさんが強いって分かったら、態度を変えるかもしれない。
「なるほど、この子供を鍛えろと言うことか」
「だから、子供じゃない!」
「うん、修行の方はお願い」
それと、僕も実は一つ試した見たいことがあるし……二、三日ほど時間が空くのは都合が良い。
「修行の方は?、ユーリは、用事ある?」
「うん、ちょっとね……前から気になってて……今、ソティルの魔法がどのぐらい使えるか、試した方が良いかなって」
この前ソティルの魔法を多用した時は、オークの村でフィーが怪我をしてから五回、その前に薬を飲んだと言っても五回以上は確実に使ってた。
恐らく、エルフが回復してくれたと言うのもあるはずなんだけど、グラースを使った時、後三回ぐらいはもつってソティルは言っていたのに、実際にはそれ以上を超えても僕は倒れなかった。
今の所、五回までっていう制約を設けてるけど……使える回数が増えてるならそれに越したことは無いんだ。
それと、もう一つ時間が必要な理由がある……ソティルにお願いがあるんだ。
――ソティル、聞いてる?
『はい、ご主人様、なんでございましょう?』
ナタリアと戦うことは……多分、避けれない。
でも、ソティルの魔法で最初から最後まで戦っても、ナタリアは負けを認めない。
それ所か、多分……僕はこのままだと負ける。
だから、…………魔法を作って欲しいんだ。
『承知いたしました。ご主人様のご期待に沿えるよう、早急に作業に取り掛かります』
うん、お願いするよ。
よし、後は総魔力を調べる方だけど……
流石に、村の中で攻撃魔法は使える訳が無い、外でやるとして、流石に一人じゃ危ないよね。
「えっと、フィーお願いがあるんだけど……」
「ん? どうしたの?」
「明日、さっき言ったけどに魔力を調べるから、一緒にいて欲しいんだ」
「うん、良いよ? でも、ノルド君の修行はどうするの?」
ノルド君は僕たちの話を聞くと「僕も行くっ!」って言ってきたけど、魔物がいるし、外は危ない。
うーん、着いてきちゃ駄目だよって……言っても聞かないよね?
「明日はシュカとドゥルガさんが教えてくれるから、修行を頑張ってね」
「う……」
お、反論されなかった。
もう、一押しかな?
「大丈夫、シュカもドゥルガさんも凄く強いし、頼――」
「――ッ!!」
僕がそう言いかけた所で、ノルド君はドゥルガさんを指差して叫ぶ――
「分かった! でも、アイツなんかより、ずっと強くなるからね!!」
「あ、ああ、うん……」
な、なんか……怒らせてしまう様なことを言ったみたいだ。
う、う~ん……別に変なことは言ってないはずなんだけど、どうしたのかな。
「あら……貴女たちは」
声がする方へ振り向いて見ると、そこには買い物をして来たのか、籠いっぱいの荷物を抱えた、ノルド君の母、セラさんの姿があった。
彼女は僕たちを見て、柔らかい笑みを浮かべる。
ノルド君はセラさんの下へ駆け寄ると、その籠を代わりに持ってあげるみたいだ。
手を出し籠を受け取り、どこか誇らしげな顔をしている。
「お久しぶりです、あの時は助かりました。ノルドも元気で困っちゃうぐらいですよ」
「い、いえ……僕は出来ることをしただけですから」
あの時は子供が行方不明って聞いて、助けなきゃって思っただけだ。
セラさんの熱病にしても僕の魔法なら、もしかしたら治せるかもしれないって思ったからだし……
それでも二人が元気な姿を見ると、助けられて良かったって思えるよ。
それに……
僕はフィーに目を向け、その視線をノルド君に向ける。
……お礼は十分すぎるぐらい貰ってる。
「そんな、謙遜しなくても……貴女たちは村を救った方でもあるんですから」
「んーでも、あれは流石に私一人じゃ無理だったし、トーナの人が杭を用意してくれなかったら、ユーリの魔法で対処することも出来なかったよ?」
「そうですよ、あれは皆でやったことですから」
流石にあの蛇の大きさはビックリした。
今……戦えって言われても、苦戦を強いられそうだよ。
「いえ、そんなこと無いですよ、ありがとうございます」
頭を下げ、お礼を言うセラさん。
大したことはしていないというのに、そこまでされたことに僕は慌てて彼女に言う。
「そ、そんな、頭を上げてください。こちらこそ、セラさんとノルド君のお陰で助かりましたから!」
「……ボク?」
顔を上げたセラさんは、なにかに気がついたみたいで……ノルド君は不思議そうに僕を見る。
僕と言えば、後でこっそりお礼を言うつもりだったのに、口が滑ったことに固まっていた。
「ユーリ、この村で、迷子になった?」
そうだよ! って言いそうになったけど……流石に目の前にいる親子二人が否定するし、村にいた時はフィーと一緒だったから迷子はない。
すぐばれる嘘になってしまう、それこそ言った直後に。
「え、ええっと……」
「ねぇ、ボクのお陰ってなに?」
籠を持ったまま、こちらへ近づいてくる少年は興味ありげに僕を見上げる。
ああ、誤魔化したいけど、思いつかないし、言うしかないか……
後でフィーがお守りを僕に返す、とか言いださなければ良いけど……
「ノルド君に貰った……お守り」
「お守りがどうしたの?」
「あれのお陰で、フィーが助かったんだ……ありがとう」
確信は無い。
でも、あの状況で……他にフィーが助かった理由も無い。
僕が感謝の言葉を告げると、少年は満面の笑みを浮かべ……
「うん!!」
と言って、笑った。




