67話 フィーナの悩み
アルムに戻ったユーリたちはマリーの酒場で休むことにした。
翌日、もう一、二泊していく様に言うマリーにフィーナは告げる。
ナタリアを救う一つの方法を……
そして、マリーはその希望……ユーリへと告げた。
「じゃ、危険を承知で……アタシからもお願いするよ、あの心配性の馬鹿を外に出してやってくれるかい」
っと……
マリーの言葉を受け止めたユーリは、仲間たちと共にトーナへと向かうのだった。
「頼んだよ」
マリーさんのその言葉を受け、僕たちは酒場を後にした。
村の中並んで歩くフィーの様子が気になって、顔を見るけど……どこか元気がない。
どうしたんだろう?
「フィー、大丈夫?」
「……ん? う、うん、大丈夫だよ?」
とても、そうは見えないけど……
僕は後ろを歩いている二人の方へ振り向くが、二人とも心配そうにしてるし、やっぱり僕の勘違いじゃないみたい。
「疲れてるなら、もう一泊ぐらい――」
「大丈夫だよ? ほら、早く行こうかー」
彼女はそう言うと突然走り出した。
「あ、ちょっと……フィー、待って!」
いつもなら、手を引っ張って僕が転びそうになるのに……僕の手には彼女の手がつながれていなくて……僕たちは慌てて追いかけた。
トーナに着いたのは予定通り、夕方だった。
そう言えば……この村を出る時に次に立ち寄った時にでも家に来て欲しいって、村長さんが言ってた様な?
ノルド君へのお礼を早くしたい所だけど……挨拶ついでに、先に話を聞きに行こう。
「フィー、村長さんの家ってどこにあるの」
「え、えっと……こっちだよ?」
やはり、どこかいつも通りじゃないフィーは、僕たちの前を歩き案内をしてくれる。
うーん……
「フィーナ、変」
「ああ、悪い物でも食べたのか?」
シュカとドゥルガの二人は、心配そうにフィーに声をかけた。
でも、ドゥルガさん……食べ物は無いと思うよ?
「大丈夫、なんでもないよ」
二人に向かって振り向いたフィーはいつも通りにそう答える。
確かに、フィーは道中出てきた魔物をいつも通り倒していたし、疲れている訳じゃなさそう……なのに、なにか変だ。
そういえば、リラーグにいた時も変な時があったような……
「フィー、どうしたの?」
僕は彼女の顔を覗き込むようにすると……そう、聞いてみる……
声に気が付いた彼女は、僕を見てどこか不安そうな、悲しそうな顔をしていて、それが……なんか嫌だ。
「もしかして、僕……なにか、フィーの嫌なことしちゃった?」
「そ、そんなことないよ?」
彼女は両方の掌を顎ぐらいまで上げると、左右に振り慌てて僕の言葉を否定する。
でも、さっき二人に「なんでもない」って言った時はいつも通りだった。
う~ん……でも、僕と話す時、いつもと違うなんて聞けない……
もし、嫌われてたらと思うと怖いよ。
「フィーナ、ユーリ見る時、いつもと違う」
「……え」
そのことにはシュカも気がついていたのか、僕が言おうか迷っていたことを口にした。
僕は慌てて彼女の口を塞ごうとするけど、シュカの身のこなしの早さに僕が敵う訳が無い。
彼女はするりと避け、僕から遠ざかると……フィーの目の前まで行き、言葉を続けた。
「シュカ、待っ――」
「フィーナ、悲しそうな顔する、ユーリ不安になってる」
うわぁぁぁぁぁ!? だから、待ってって!
もしそれで、知らないうちに僕がなにかしてたとして……それが原因で嫌われてたら、僕はもう……どうしたら良いのか分からないよ!?
「……ユーリ、大丈夫か?」
頭を抱えしゃがみこむ僕に対し、ドゥルガさんはそう言いながら、心配してくれたけど……ごめん、大丈夫じゃないよ。
「え、ええっと……」
「ユーリ、嫌いになった?」
シュカは僕のことはお構いなしにフィーに聞く。
しかも、一番聞いて欲しくないフレーズで……
「それはないよ!」
その声に僕が顔を上げると、シュカは僕の方を見てフィーに見えない様に、拳を作り、親指だけピンと空に向かって立っているサインを送ってきた。
所謂、グッジョブサイン、それ……こっちにもあるんだ……
いや、そんなことはどうでも良くて!
「ほ、本当? 僕がなにかして、嫌われたとかじゃない?」
「うん、ユーリはいつも通りだよ? でも……ごめんね、その……私が言ったことで、ユーリとナタリアが喧嘩するって思ったら……」
ああ、そうか……そういうことだったんだ。
ナタリアはフィーの親友で、僕もこの旅でフィーと仲良くなった……
それに、ナタリアは僕をこの世界に連れて来た人で魔法の師匠。
マリーさんが言った通り、呪いのことを話したら十中八九、止めろって言ってきて、止める気がないなら腕を切り落とすだろう。
多分……その時、『安心しろ、傷口はすぐに焼いてやる、ユーリは責任を持ってここで養ってやろう』とか言うに違いない。
付き合いが長いフィーなら、同じことが容易く想像出来て……きっと、言わなければ良かったって思ってたんだ。
でも……それなら――
「……大丈夫だよ」
「大丈夫って、ナタリーはやるって言ったら、本当に……」
「大丈夫だって、約束したし……それに、時間があれば対策のしようもあるよ」
とは、言ったもののナタリアの対策か……正直言うと思い当たらない。
彼女自身、なにかしらの武器を使えるはずだし、あの見た目からすると、重量武器じゃないのは確かだ。
だとしたら、ナイフか剣かだとは思うけど……なにより、怖いのはその魔法。
いくら、使える様になったとはいえ……僕の魔法はあくまで使える程度だ。
それで、対抗出来るかどうか……と言われたら、自信は無い。
でも、僕が言った通り……呪いを解くには、ナタリアの協力も色々と必要だし、なによりフィーを安心させる為だ、なんとかするしかないんだ。
「安心してフィー、僕はナタリアにちゃんと許可を貰って……呪いを解くよ」
多分、声ははっきりとしてた。
彼女に向けた顔は強張っていない。
「……でも」
「だから……フィー、そんな顔しないで欲しいんだ……その、僕にだけ、そういう風にされると……ちょっと辛い」
僕がそう正直に言うと……彼女は少し戸惑った感じになるが、いつも通りの笑みを浮かべてくれて……
「ご、ごめんね? 分かった、ユーリを信じるよ、でも……ユーリもナタリーも怪我一つしちゃ駄目だよ?」
そ、それはどうだろう?
ナタリアに怪我をさせるか、させないかは僕の加減だけど……ナタリアは本気だろうし、僕自身は少しぐらいの怪我は許して欲しい。
というか、師匠相手にして、怪我を負わさないってだけで高難易度なんだよ? フィー。
「駄目だよ?」
そんな僕の考えを見透かしてるかの様に……フィーは念を押して来た。
「わ、分かった」
引きつった笑みを浮かべながら、僕がそう言うと……彼女は満足したのか頷き、いつも通り僕の手を引いて歩き出す。
「じゃぁ、トーナの村長さんの所に行こうかー?」
そう言って、歩き出した僕たちの後ろで聞えたのは――
「シュカ、頑張った、いつも通り」
と囁く、シュカの声と……
「今のはなんだったんだ、人間はよく分からないな」
と呟く、ドゥルガさんの疑問だった。
道中、シュカは疑問を投げかけるドゥルガさんに対し、彼女は色々と話を膨らませ彼に吹き込んでいた。
その結果……
「人間の愛、恋とは奥が深いな」
よく分からない伝わり方をして、僕とフィーはうつむきながら村長宅へと足を急がせた。
というか、変なこと言われたらまた……フィーが気にしちゃうんじゃ?
その心配は杞憂だったのか、彼女は……僕の手をいつもよりしっかり握ってくれていた。
「つ、着いたよ?」
暫らく歩くと、他の建物より少し大きい家が見えてきて……フィーはそこを空いている手で指差すとそう言った。
「あ、ありがとう、フィー……」
僕は彼女にお礼を言うと、手を離してもらい扉を叩く。
暫らく待っていると、扉が空くのと同時に声が聞える。
「どなたですかな……おお、貴女たちは」
出てきたのは、村長さん、彼は扉を開け切ると……
「約束通り、来ていただけたのですな……どうぞ、おあがり下さい」
そう言って、中へ入ることを進めてくれた。
そして、僕たちの後ろにいる二人へと顔を向けると……しわくちゃな顔をさらに、くしゃっと笑顔にして……
「お二人の仲間ですか? でしたら、お二方もどうぞ……」
「すまない、そうさせてもらう」
「……ん」
黙って頷くシュカとドゥルガさんも家の中へ入り、僕たちは広間に通され、椅子を勧められる。
「では、ユーリ殿……聞きたいことがあるのですが……」
僕たちの前に座ったトーナの村長、トーマスさんは少し真面目な顔になり、僕にそう言ってきた。




