プロローグ4
グリフィン、グリフィン・ゾンビを撃退したユーリたちはクロネコを迎えに行く。
意識を取り戻したクロネコは、ユーリに対する情報提示を無料で行うと約束をし、彼女は呪いの情報を欲した。
快く依頼を受けたクロネコをリラーグへと送った数日後、ユーリたちは一旦タリムへと戻ることにし、リラーグを発つ。
行きとは違い、四人になったこともあり、旅路は賑やかになっていた。
旅は順調に進み、アルムの村まで戻ってきた。
僕とフィーは、村を見渡して驚きの声を上げた……僕たちに文句を言っていた男たちが汗水を垂らし、畑仕事に明け暮れている。
彼らは僕たちと目が合うと、作業と止めたがふいっと視線を逸らし……ワザとらしく仕事に戻った。
驚いたのは、それだけじゃない。
野菜は実り始め……もう、取れそうなのがあるんじゃないかな?
「少し前に出たはずなのに、もう取れるんだね」
「うん、この種類は早熟なんだよー、取れたては美味しくてね、そのままでも食べれるんだよ?」
フィーは、そう嬉しそうに笑顔で言い、僕は彼女が指差す野菜を見る。
赤く実った実が印象的で、確かに美味しそうだ。
「この村、なにか、あったの」
「二人とも、やけに嬉しそうだな」
僕たちの後ろで呟くのは、シュカと言う少女とドゥルガさんと言う巨漢だ。
二人はリラーグから一緒に来たから、アルムの惨状を知らない、不思議そうに見てきた。
「おい」
「なに?」
例の男に声を掛けられ、不機嫌そうに聞き返したフィーはすぐに手で僕を庇う様にし……前に立つ。
嬉しいんだけど……僕が前に立ちたいよ? フィー。
そんなことを考えていると、彼は大きく実った野菜を四つもぎ取り、フィーへと手渡した。
「……どうせ、マリーさん所に行くんだろ? 冷やしてから食えよ」
それだけ言うと彼は、畑の奥の方へと戻り……せっせと手入れをし始める……
もしかして……いや、くれたんだよね?
僕とフィーは互いに顔を合わせ、瞬きをすると彼に礼を告げた。
「「ありがとう」」
「うるせぇっ!! 仕事の邪魔だから、さっさとマリーさん所行って来いよ」
声を上げながらも、依然とは違った感じの彼は顔を一切こっちに向けなかった……
その様子に少し笑いながら……僕たちは懐かしい酒場へと向け、歩き出す。
相変わらず、僕は迷子になりやすい。
だから、案内はやっぱりフィーだ。
彼女に手を引かれながら、歩いていると……後ろから最早、聞き慣れた会話が聞える。
「しかし、人は不思議だ……なぜ、子を産むことが出来ないのに」
「それと、これと、別だから」
「そういう物なのか」
「そういう物……」
あの戦いの後、フィーは前より心配するようになった。
それに、心配してる時に必ず、迷うような顔を浮べ……彼女は自分の服の中へ手を入れたり出したりしてる。
あれが、なにを意味しているのか僕には良く分からない……
とはいえ、僕が迷子にならない様に手を繋ぐのは前からだ。
気がついたら迷子になってる僕はこうしないと危ないらしい。
……流石に後をついて行く位は出来るんだけどなぁ。
それと……この頃、フィーが目をそらす時がある。
なんでなのか分からないけど、一回そうなったら……暫らく目を合わせてくれない。
僕、なにか怒らせることしたかな?
「マリーさん、戻ってきたよー?」
たどり着いた酒場の扉を開け中へと声をかけるフィーは、僕の手を握ったまま酒場の中を見渡すと、あれ? っと首を傾げながら、以前の様に中へと入っていく。
「マリーさーん? 居ないのかな?」
「前みたいに、買い出しに行って――」
「ちょっとデカイの! 邪魔だよ、あんた誰だい!?」
僕が言い終わる前に、聞こえる声はなんとも懐かしく……出会い頭に驚かされた記憶が蘇る。
振り向いて見ると、声のする方へ振り返ったドゥルガさんがいて。
その横にいるのは勿論、シュカだ。
うん、二人って並んでると、シュカが凄く小さく見えるんだね。
「あんた、小さな女の子を連れて、一体何者だい?」
「俺は、ドゥルガだ……お前こそ誰だ?」
ん? なんか……これって――。
「名乗るとは……良い度胸じゃないか、その子はどうしたんだい」
「リラーグから一緒にいる、なにか問題あるのか」
「そうかい……ちょっと、一緒に来てもらおうか――」
「マ、マリーさん!? 待って、その人怪しい人じゃないんだ!」
ドゥルガさんで良く見えないものの、僕はマリーさんへと声を掛ける。
このままじゃ、ドゥルガさんが檻の中に入れられちゃうよ!?
「ん? その声、ユーリかい?」
「うぉ!?」
マリーさんは、ドゥルガさんの巨体を片手で押しのけると、僕たちを見つけ強張っていた顔を綻ばせ、荷物を抱えたまま恰幅の良い身体を揺らし、こちらに向かって来た。
「なんだい、フィーもいるじゃないか! あんたたち戻ってたんだね、良く無事でいてくれた……って、その人怪しい人じゃないってことは……あのデカイのは?」
「リラーグで知り合った人だよ、色々あって一緒にタリムまで戻ることになったんだ、横の女の子も向こうで仲良くなったんだ」
僕は、彼女にそう伝えると、驚いたような顔をされた。
ん? なにか、あったのかな?
「ユーリ、あんたちょっと変わったね、前はずっと敬語だったじゃないか」
「え? そ、そうかな?」
今でも、マリーさんには感謝してるし……変わらないと思うんだけど。
「目つきも冒険者らしくなってきたね、ゼルの所なんか辞めて、ウチに来ないかい?」
「だ、駄目! ユーリはあげないよ?」
「うわぁ!?」
マリーさんの言葉に反応してか、フィーは急に僕に抱きつくと、その腕に力を入れてきた。
ちょっと、苦しい……いや、それよりも甘い香りが、って顔が熱く……
「だったらフィーも来れば良いじゃないか、ナタリアのことなら……この近くに屋敷を作れば良いだろうしね」
「そ、それなら……大丈夫なのかな?」
フィー、ゼルさんが悲しむよ……
「あははは、フィーも変わったね、前ならゼルの奴が怒るって、断ってたっていうのに」
「え、あ……あはは……」
フィーの乾いた笑いは、酒場に響き渡った。




