65話 目的
騒ぎの元に駆けつけたユーリたち、そこに居たのはなんと、昼間倒したグリフィンだった……
首と羽を落とされた魔物はゾンビとして蘇り、リラーグへと攻めてきたのだ。
だが、ゾンビにとって唯一の弱点である、太陽の光は、ユーリにとって、自由自在に生み出せる物だった。
正体不明の魔物を撃退した彼女は、称えられる。
なんとか、解放された彼女たちは酒場、龍狩りの槍へと戻り、休息を取る。
それから、数日後……
グリフィン・ゾンビの襲来から数日。
リラーグに再び不死系の魔物が現れることは無く、僕たちはクロネコさんを迎えにオークの村へと向かった。
その途中、僕たちは見覚えのあるオークがこちらへと向かって来るのに気が付くと、彼らに駆け寄る。
「なにか、あったんですか?」
僕がそう質問をすると、彼女は横に首を振り……後ろの荷車を指を指す。
そこを覗いてみると、不機嫌そうな顔のクロネコさんが荷車に座っていた。
「その様子だと、治ったみたいだね?」
「うるせぇ、馬鹿犬! おい! 女、この荷車は乗り心地が悪い、浮遊をかけろ」
相変わらず、口が悪いなぁ……
「早くしろ」
「分かったよ、すぐに唱えるから」
僕が魔法を唱えると、彼は宙へと浮き、満足そうに頷く。
フィーは空を飛ぶのが苦手だけど、クロネコさんは大丈夫みたいだ。
まぁ、フィーが駄目なのはナタリアの所為なんだけど。
「おい、女」
「な、なに?」
「お前には今回世話になった、情報ならくれてやる……必要になったら言え」
……ん?
今、なんて言ったの?
「チッ! 馬鹿は馬鹿か、良いか女? 俺はお前に命を救われた訳だ。つまり……今後、商売するにもお前のおかげだ……俺は命の恩人から、金を取るつもりはねぇ」
「つ、つまり、ユーリに売る情報は無料ってこと? クロネコが? バルドよりはお金にうるさくは無いけど、クロネコが?」
「うるせぇ! 俺は金蔓を一組失うことになるんだ、それ以上言うんじゃねぇ!」
フィーとクロネコさんは尻尾を振りながら会話をしてる。
でも、あれってフィーは喜んでて、クロネコさんは怒ってるんだよね?
なには、ともあれ……クロネコさんの情報料が無料なのは嬉しい。
そうだ、なら……
「ねぇ、太陽の下に出られなくする魔法って、知ってる?」
「あん? そりゃ……知ってるもなにもナタリアの呪いだろうが……お前、ナタリアの知り合いだったのか?」
クロネコさんも知ってたのか……なら、話は早い。
「うん、僕はナタリアの弟子なんだ」
「弟子!? なるほど……お前の不思議な魔法も、その所為って訳か」
う、うーん、僕の不思議な魔法って、ヒールのことだと思うんだけど……
まぁ、なんか納得したみたいだし、良いか。
「もし、可能なら……今、そのアーティファクトを持ってる人を探して欲しいんだ」
「探すって……探すだけなら、出来るが……あれは……」
クロネコさんはフィーの顔を見て、言い淀む。
いつも、彼女を馬鹿犬って罵ってる割には、気にしてくれる人なんだな。
……もしかして、フィーのことを好きとか? フィーは美人だし、優しいし、そうなってしまうのも、仕方がないよね?
だとしたら、いつものあの喧嘩もフィーが好きだから……?
な、なんか、面白くない……嫌な気分になってきたよ。
「なんだ、お前……それで、俺を睨んでるつもりか?」
「に、睨んでなんか……ないよ? それで、出来るんだね」
僕、睨んでたのかな? なんか、凄く嫌な気分になったけど……
とにかく、今重要なのは探せるかだ。
「探すだけなら、だ……意味は無いぞ」
「ユーリの魔法なら、治せるかも知れないって……クロネコ、お願い出来る?」
そんな馬鹿な……っと呟いて、クロネコさんは僕を見るけど……
暫らく、僕を見つめていたその目を動かし、自身の体を見下ろして……口角を上げ、尻尾を立たせると……その、鋭い目で僕を見据えた。
「呪いを解くことが出来るとしたら、怪我を治しちまうお前ぐらいか……こりゃ金稼ぎも出来そうだ、良いぜ……探してやる」
も、もしかして、呪いにかけられた人を、僕に紹介する仲介料でも取るつもりなんだろうか?
「じゃ、話もまとまった所で戻るとするか、アジトで昼寝がしたいからな」
「そうだね、魔物が寄ってくる前に戻ろうかー?」
僕たちは、ここまでクロネコさんを運んでくれたオークと別れ、リラーグへと戻る。
オークの人はドゥルガさんに戻って来てくれと何度かお願いをしてたけど……彼が意志を変えず、僕たちを一緒に行くと言うと、しぶしぶ諦めたようだ。
リラーグに戻ると、クロネコさんはすぐにアジトへと向かっていく。
まぁ、浮遊があるから大丈夫みたいだけど……まだ、ちょっと心配だなぁ。
「さてと、ユーリちょっと良いかな?」
「え? う、うん」
フィーに声をかけられ、僕は彼女の方を向くけど……なにか変だ。
「えっと、そのね……そろそろ、戻ろうと思うんだけど……」
「あ、うん……シュカのこと?」
「シュカ、ついて行く」
シュカの言葉に僕は頷く、彼女がついて来たいって言った時の受け入れ先は出来てる。
勿論、ナタリアの屋敷だ。
「え、えっと、そうじゃなくて……」
「ドゥルガさんのことは、この前書いたよね?」
「助かる、宿無しでも良いが、あるに越したことはないからな」
ナタリアのことだから、彼のことも多分……大丈夫だろう。
「えっと……」
ん? これも違うの?
はて、他になにか、あったかな?
うーん、それよりも気になることが、あって……
「フィー?」
「なに?」
彼女はいつもの様に、返してくれる。
でも、なぜか……目を合わせてくれなかった。
それでも、彼女の顔を覗き込むようにすると……
「っ!? え、えっと、じゃぁ、酒場に戻ろうかー?」
「え、ちょっと……フィー!?」
彼女は突然走り出し、多分、酒場の方へと向かっていく……
僕たちは慌てて彼女の後を追い、酒場へと戻り食事を終えると、残り少ないリラーグでの夜を過ごした。
数日後……僕たち四人は荷物をまとめると、酒場を後にした。
ナタリアの呪いに関しては、クロネコさんの話だと情報が情報なので時間が掛かるらしい。
急に戻ることになったのは、フィーがそろそろ戻る、っと言っていたこともあるけど……
仕事が無くなったのと、僕がナタリアにもう一度修行を付け直して欲しいって口にしたことが、主な理由だと思う……
なぜか、戻るって言っていたフィーは、滞在を伸ばそうとしてたし、どうしたんだろう?
とにかく、そういった理由で、僕たちはタリムに戻ることになった。
酒場から出て暫らく歩いていると、シンティアさんたち姉妹の姿が眼に映る……
昨日、帰るってことを伝えたんだけど……お迎えをしてくれるみたいだ。
「ユーリ様、フィーナ様、それにシュカ、体には気をつけてくださいね?」
「まぁ、土地があるんだしねぇ、たまには顔を見せに来て欲しいものだねぇ」
「うん、近いうちにまた、顔を出すと思うよ、その時はよろしくね」
「はい、その時は……また、タルトを食べに行きましょう」
シンティアさんはそう言うと、持っていた包みを手渡してきた。
「これは……なにが入ってるの? 結構、重いよ」
「私が調合したポーションと疲労回復薬です。お代はゼファー様より頂いておりますので、心配なさらないでくださいね」
「シンティア、ありがとう、助かる」
確かに、ヒールでは体力までは回復出来ないから、疲労回復薬は嬉しい。
それに、ポーションってことは傷薬かなにかだろう。
僕たちは彼女たちにお礼を言うとその場から離れ、馬小屋へと足を向けた。
暫らくは馬車での移動、来た時と同じだ。
そういえば……元々、この旅はフィーのお供としてついて来たんだっけ……
色々と学ぶこともあるだろう、ってナタリアの薦めもあったし、なにより僕がついて行きたかったから、ついて来たんだったよね。
旅は辛いことも、楽しいこともあったし……ナタリアの言う通り、確かに学ぶことが多かった。
奴隷制度に魔物の生態、オークの生活、冒険者が背負う罪に……
僕はフィーを見て、今回の旅で最後に学んだことを思い出す。
誰も傷つけたくないなんて、甘い考えじゃ……誰かが死ぬ、っていう現実。
フィーにはお守りがある。
でも……あの時の様子からすると、あのお守りも絶対守ってくれるって訳ではなそうだ。
「ん? どうしたの?」
「なんでもないよ、さぁ、帰ろうか?」
僕は彼女にそう告げる。
「うん、早く戻って、おじさんの料理食べたいねー?」
「その、料理、おいしい?」
「凄く、美味しいんだよ?」
相変わらずの笑顔で答えるフィーを見て、僕は思う……
彼女を守れたのは、本当に偶々だ。
それでも、彼女が死に掛けたのは何回かあった。
熊の時も、ギルドの時も……それなのに僕は……そこに考えが至らなかった。
だけど、もう……
「ユーリ」
僕が考えていると、ドゥルガさんに呼ばれ……彼へと顔を向ける。
「ん? なにドゥルガさん」
「ユーリ、お前は出会った頃は足手まといだと思ったが、戦士だ……その気持ちは忘れるなよ」
ドゥルガさんは、なにか分かったのだろうか?
ただ真っ直ぐに僕を見て、はっきりとした声で僕に言う。
「うん、分かってる」
僕は……僕がフィーを守る。
そして、エルフが叶えられなかったフィーの望み……ナタリアの呪いを解いてみせるよ。




