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俺の夢は異世界ハーレムだったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
4章 冒険者稼業も楽じゃない
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59話 いつもの朝

 フィーナの危機にユーリはスプリガンに対し憤りを爆発させる。

 苦手であるはずの魔法を使いこなし、魔物を撃破したユーリは急ぎフィーナを探す。

 森の中、奇跡的に生きていたフィーナを見つけたユーリはヒールで回復させようとするが、魔力がつき倒れかける……だが、そんな彼女の前に見知らぬ女性が現れ、望みを聞かれた彼女は魔力が欲しいと告げたのだった。

 度重なる質問に一貫して魔力をねだるユーリは、意識が落ちる前に魔力が回復し、フィーナへヒールをかけ助けると、二人は村へと戻るのだった。

「……んぅ」


 瞼越しに辺りが明るくなったことと、鳥のさえずりという心地よい目覚ましで僕は目を覚ます。


「――っ!?」


 僕の目の前にはフィーの顔があり、未だ彼女はすやすやと気持ち良さそうに寝息を立て夢の中だ。

 いや、それよりも……抱き枕にされてるってことは、僕が眠った後に一度起きたんだ。

 もう少し、起きてられれば良かったんだけど……

 ただ、なんでだろう、顔が近いとなんだか心臓がバクバクいうんですけど……


「フム……ソレデ、アレハドウ言ウコトダ?」

「二人、いつも、抱き合って、寝てる」

「!?」


 突然聞えた声に僕は思わずびくりとし、声の方へと振り向きたいが、ガッチリとフィーに抱かれていて身体を動かすことは叶わず、辛うじて動く首を回し見ようとする……

 当然180度曲がる訳が無く、声の主は見えない。

 ただ、聞き覚えのある声たちだ。


「人間ハ不思議ダ、同性デハ生殖行為ハデキナイ」

「ユーリと、フィーナは、特別」


 ちょっと、シュカさん? なにを言っておられるのですか?

 しかも、なんか若干嬉しそうだし……


「フム、シカシ、見テイル分ニハ良イモノダ」


 そして、ドゥルガさんはなにかに目覚めかけてる!?


「ん~……ゆぅりぃ?」

「あ、フィー起きたぁぁ!?」


 うっすらと瞼を上げたフィーは、起きたかと思うと寝返りをうち、いつかの時の様に僕の上へと乗っかり……また眠り始めた。

 それは良いんだけど、以前とは違う所があって……


「~~~~!?!?」

「ナルホドナ」

「フィーナ、惜しかった」


 フィーの唇が僕のほっぺたに当たっていて、それが凄い柔らかいのが頬から伝わって……な、なんか凄く顔が熱い……って、惜しいってなにが惜しいの!?

 というか、このままじゃまた……


「ん、んぅ……ん~、……う?」


 僕の心配を奇跡的に感じ取ってくれたのか、フィーは目を覚ましたみたいだけど。


「……っ!? ご、ごめんユーリ!」


 彼女は現状を理解してばっと起き上がる。


「フィー、駄目だよ急に……」


 もう身体は問題ないとはいえ、彼女は死にかけた訳だから、いきなり動かれるとヒヤッとするよ!?

 案の定、頭がくらっとしたんだろう……一回起き上がったフィーの身体は再び、倒れこみ……


「フィ……」

「ふぁ……」


 間の抜けた声を出しながら、倒れこむ彼女を避ける術は当然僕にはない。

 ……いや、たとえ避けれても、慌てて支えようとするんだろうけど、彼女は僕へと倒れこんで来て……

 僕はフィーに再び覆いかぶされる形になった……よく、キスという物はレモンの味がするとか言うけど、僕のファーストキスは血の味がした。





 あまりの痛さに二人して悶絶した後、僕たちのことを心配して顔を出してくれたアーガさんは僕たちを目にすると質問をされた。


「二人とも口を押さえてどうした……」


 一部始終を見ていた二人は無言を貫き、僕たちの様子に疑問を感じている村長さんへ、僕とフィーは揃って同じ言葉を告げた。


「「口(唇)を切った……」」


 



 朝の食事を済ませ、暫らくするとクロネコさんも目を覚まし、無事であることを改めて確認すると、僕たちはどうしたものかと話をする。

 予想以上にクロネコさんのダメージが大きく、眼を開けるのも、やっとといった所で全く動けないらしい。

 いつもの馬鹿犬や馬鹿女といった言葉すら、出てこないのは起きたとはいえ、不安を感じるが……

 彼のことは休ませることを優先し、僕たちは彼が回復する間村に世話になることに決め、当面は復興へと手を貸すことになった。

 ただ、いざ手伝おうとすると……


「オ前タチハ、コレデモ食ベテ、ユックリシテイロ」


 そんなことを言われ手渡されたのは瑞々しい果実、邪魔と言うわりにはどこか行けとかは無いし、なんか、扱いが違うような?


「これはどういうこと、なんだろう……」

「昨日、村ヲ救ッタ、英雄ノ手ハ煩ワセラレナイット言ウ所ダロウ」

「そういえば、あの魔物どうやって倒したの?」


 あれは、確か……あれ? そういえば……あの時、僕、普通に魔法を使って……どういうことなんだ?

 僕は攻撃魔法が苦手のはず、ナタリアの話では魔力の性質でもあるはずだ。

 でも、確かにあの時は……


「ユーリが、魔法で、倒した」

「話ハ聞イタ、ソンナ(ちから)ガアルナラ、最初カラ使ッテモ良カッタンジャナイカ?」

「いや、僕は……」


 ……あの時はただ、必死だった。

 フィーが殺されたと思って、ただ……あの魔物が憎く思えて、ようするに怒りに任せて魔法を使ったんだ。


『だから、何度言ったら解る! イメージをしっかり持て攻撃をすると言う覚悟をしろ!』


 不意に頭に思い浮かんだのはナタリアから言われたその言葉……

 僕は、イメージはしてたんだ……なのに魔法はまともに使えなかった、っということは攻撃をする覚悟、それが足りなかった?

 だとすると、また覚悟が出来てないのかな。


「ユーリがなんとかしてくれたんだね?」

「僕が、ってフィーは無茶をしすぎだよ。もう、しちゃ駄目だよ?」


 僕が不機嫌を装いそう口にすると、彼女は苦笑いをしながら明後日の方を見て頬をかく、皆無事だったのは奇跡だったのに……もしかして、またやるつもりなのかな?

 仕方ない、保険をかけておこうかな?


「……今回の件はナタリアに報告するから、後でたっぷりと怒られてね?」

「……ナ、ナタリーに言うの?」

「うん、それと、また無茶しそうなのも言う」

「な、ナタリーに言われたら、私、屋敷に監禁されちゃうよ?」

「それなら僕の目も届くから安全だね、やっぱりナタリアには話そうか」


 僕の言葉に苦笑いを途端に青ざめた顔に変えた彼女は、縋るように僕の袖を掴むと瞳に涙を浮べ無言で見つめてくる。


「ぅ……」


 それはちょっと反則だよ……い、いや、今の僕は女の子、同じなんだ。

 この反則技には屈しない……屈しはしない。


「…………」

「……わ、分かった今後、無茶しそうなのは言わない」


 無理でした。


「本当?」


 フィーはナタリアに報告されないのが嬉しいのか、尻尾を振り表情をぱぁっとさせる……でも。


「でも、実際また死にかけたんだ! それは報告するからね」

「そ、それは言うんだね?」


 すぐにその尻尾は垂れ、顔もうな垂れた。

 よっぽどナタリアに怒られるのが嫌なのか、拗ねた様子のフィーを見て僕は思う。

 もし、あの時……ちゃんと戦う覚悟が出来ていて、僕が魔法を最初から使えていたら事体は違ってた。

 彼女は死にかけることは無く、それ所か最初に襲われた時にスプリガンを殲滅出来ていたかもしれない。

 戦ってなにかを傷つけるって言うのは正直好きじゃない……

 でも、その所為で覚悟が出来ていなかったのかもしれないし、使えないと思い込んでいたのも、今回の結果を招いた原因だ。

 だけど、使えたんだ……あれは僕が倒した。

 ソティルに頼らず僕自身の力で……なら、僕は皆をフィーを守る力があるんだ。

 もう、あんな目には遭わせたくない、僕が……守らないと……


「ユ、ユーリも一緒に怒られてくれる?」

「僕も? いや、多分……お願いされなくても怒られる気がするよ」


 現時点、いや、この人生で勝てなさそうな人は居るけど……

 いや、助けたんだからきっと……ああ、でも危険な目には遭わせたんだし、怒られるかな?

 僕が考えていると、ふと近くのオークたちの会話が耳に入った。

 声を潜めていないと言うことは、聞えても問題ないのだろうか? 聞えた話はスプリガンによる森への被害だ。

 大分森が禿げ、同時に精霊も少なくなってきている。

 そんな、話が聞えた。


「精霊? オークも精霊の声が聞えるの?」

森族(フォーレ)ホドデハナイガ、一応聞エルナ」


 そうなんだ、でも……そうか、精霊が少なくなってるってことは、このままだと森が……


「このまま、自然に戻るってことは無いよね?」

「……木ガ折レ、大地ハ踏ミ荒ラサレ、ごみガ河ニ流レテイル、直スニモ時間ガカカルナ」

「……ユーリ、(ソティル)の魔法って駄目なのかな?」

「あれは……う~ん」


 失った木々をそのまま生やすなんて芸当は出来ないよね。

 それなりに効果は生むだろうけど、木を生やすには数年以上掛かる……


『ご主人(ユーリ)様、それについて報告がございます』


 報告?


『はい、元には戻りませんが、成長速度なら変えれます』


 それはそれで凄いよ! 具体的にはどの位で元に近い姿になるか解る?


『ええ、通常の半分以下の歳月で戻るでしょう、ですがその分、魔力を消費いたします』


 魔力ぐらいで森が戻るなら、その案で行こう。

 ソティル、一応聞いておくけど……危険とかは無い?


『はい、あえて申しますと今日一日中雨が降り、ご主人(ユーリ)様が一日お休みになられるぐらいです』


 今、残ってる魔力全部使うんだ。

 まぁ、森一つ枯らさずにいられるんだし、それぐらいで済むなら安いよね。

 フィーやクロネコさんのこともあってお世話になるんだから、これぐらいはしておかないと。


「やっぱり、無理そう?」

「ううん、魔力を籠めればすぐとは行かないけど、回復出来るかもしれない」

「ドウイウコトダ」


 僕はドゥルガさんに提案を告げると、彼は驚いたような素振りを見せた。


「信ジ難イナ」

「まぁ、実際、魔力を多めでやったことは無いから、確実とは言えないけどね」

「……フム、ダガゆーりノ言ウコトダ、村長ニ話ヲ通ソウ」


 ドゥルガさんはアーガさんへ僕の提案を持って言ってくれる様で、毎度一人で行ってもらうのも悪い感じがし、ついて行くと提案を聞いたアーガさんは以外にも快く聞いてくた。

 復興作業は明日から行うことになり、集められた木材には巨大な葉や布で雨よけをし、住人たちの住む所は簡易的にテントを作り、これから僕が降らす雨へと備える。


 その作業も終わり、僕の元へその報告が来た所で……


「じゃぁ、忘れたことは無いですね? 雨を降らせます」

「ああ、頼む、この森に住むエルフ様も喜ぶだろう」


 エルフ、か……助けてくれたあの女性は間違いなくエルフだ。

 なら、これは彼女への恩返しにもなる訳か……


「天から舞い降りし雨水よ、恵みを授けたまへ――イナンナ」


 ゆっくりと雨雲が集まり、やがて大粒の雨が振りそそぐ……それでも魔力の供給を全力で続けること数分。


ご主人(ユーリ)様、このぐらいで大丈夫です』


 ソティルの声が頭に響く。

 でも、まだ魔力に全然余裕があるよ? 空になるまでじゃ?


『はい、私の計算でもそのはずだったのですが、これ以上は水害を招きます、直ちに供給をおやめ下さい』


 僕はその言葉に驚きつつも、慌てて魔力を送るのをやめると一息ついた後にソティルに聞いた。

 水害って言ってたけど、大丈夫なの?


『はい、話す時間も考慮し、早めに報告いたしましたので、これぐらいなら問題ありません』


 よ、良かった……森を救う為にやったら村ごと滅ぼしてました。とか、シャレにならないよ。


「終ったのか?」

「うん、さっきも言った通り、後は一晩雨が降るから」

「分かった、皆の者今日はご苦労だった、今は休め明日、復旧作業に取り掛かる」


 雨の中、声を張り上げるアーガさんは、そのまま自身の仮住まいへと戻っていく……

 それにしても、なんで魔力は残ったままなんだろう?

 いくら昨日魔法を酷使して魔力が鍛えられたとしても、すぐに魔力は増えないはず……

 エルフに回復してもらったとしても、それは同じだと思うんだけどなぁ。


「ユーリ、風邪引いちゃうよー?」

「……そうだね、早く戻ろう」

「ずぶ濡れ」


 雨の中、僕たちは走って戻る。

 この雨で少しでも早く森が治ると良いんだけど、そう思いながらテントへと入ると……


「クロネコさんは?」

「ど、どこに行ったの?」

「動けない、はず……」


 朝はそこで寝ていたはずのクロネコさんの姿は無く、僕たちは呆然とする。

 すると一人の女性オークがやってきて、僕たちに布を手渡しながら教えてくれた。


「ホラ、あんたタチモ男ト一緒ジャ嫌デショウニ、大丈夫、チャント向カイノテントニ寝テルヨ」


 なんだ、ビックリした。

 でも、そういうことなら先に言っておいて欲しかったなぁ……

 また、なんか変な魔物でも入り込んだのかと思ったよ。


「風邪引ク前ニ、服脱イデソコニ吊ルシテオキナ、大キイガ、ソノ間コレヲ着テナ」


 やけに大きい服を置いていくと、オークの女性は去って行き、外から聞える雨の音だけが残る。

 確かに服びしょびしょだし、このままだと風邪を引く。

 分かってる、分かってるけど……


「ユーリ、着替えないの?」


 なんで僕は、雨が降ると言うことを分かっていたにもかかわらず、雨避けをせずに魔法を唱えたんだろうか?

 その所為で、僕は二人を見ない様、細心の注意を払いながら、着替えを済ませることになった。





 森の中、先ほどまで晴れていた空を見上げ、二人の女性は言葉を失う。

 彼女たちは先日、精霊たちにゆうりと言う少女は精霊の味方だと、口すっぱく伝えられたばかりだ。

 だが、彼らの言っていることは夢物語のようで、本来この地上はおろか世界を壊す手段にもなりうる魔法を使い、精霊を助ける少女のことは驚きはしたが、信じないことにしていた。


『はず、でしたのに』

『今日はウンディーネもシルフも雨を降らすなんて、一言も言ってませんでしたね』


 本来、精霊の意思で降るはずの雨は強制的に降り始め。

 その雨粒一粒一粒が彼女にはまさに甘露であり、思わずその雨に身をいつまでも委ねていたい気持ちに駆られた。


『ああ、甘い……こんなに甘い雨は初めてです』

『ええ、あの子たちの言っていたことは……本当だったようですね』


 二人の女性は互いに暫らく見つめあった後、ゆっくりと村へと向けその細く綺麗な足を踏み出した。

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