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俺の夢は異世界ハーレムだったのにっ!!  作者: ウニア・キサラギ
4章 冒険者稼業も楽じゃない
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55話 捜索

 迫り来るモノはクロネコたちの姿に似た全く別の化け物だった。

 気をへし折り、粉々にし……無数の木の針を雨のように降らせる魔物。

 絶体絶命かと思われた現状を打破したのは……他でもない、ユーリの魔法だった。

 彼女は通常魔法の「フレイムウォール」そして、頭に直接響く声に従い、(ソティル)の魔法「マジックプロテクション」を使い、魔物へと挑む。

 戦いを続ける中、ユーリたちに敵わないと思ったのかその場から撤退し、ユーリたちもまた、正体不明の魔物の存在を知らせ、作戦を立て直す為……村へと戻るのだった。

 オークの村の長であるアーガさんを前にして、ドゥルガさんは森でのことを報告する。

 僕はというと……その話を半分聞き流しながら、床とにらめっこ中だ。

 理由としては門番が僕を肩に乗せて戻ってきたドゥルガさんを見た時、顔を歪ませ驚いて……その時信じられない一言を発した……それが――


「どぅるがガ、人間ヲ嫁ニスル」


 という衝撃的な言葉で……その発端となったのが、僕を肩に乗せていたというのが理由らしい……

 どうやら、オーク族は滅多なことでは人族に信頼を預けることはしないらしい。

 手土産を持って来た者に対しても、客として迎え入れはするが、仲間として迎え入れる、ということでは無く、あくまで客人。

 ここの村で唯一仲間として扱われていたのが、クロネコさんだったと言うことなんだけど……

 その彼もオークの肩に乗せられるってことは無かったらしく……


「そして、その女子(おなご)ユーリと言ったか? 女子の魔法でその魔物を撃退することに成功したと」

「ソノ通リ、コノ者ノ魔法無カッタラ、俺デモ負ケテイタ」

「しかし、ドゥルガよ……いくら腕が立つとはいえ、人間だ」


 そして、この報告中、何度も耳に入ってきた言葉であって……

 隣に座っているフィーの尻尾がピンと立ち、怒っている理由みたいで……


「我ら誇り高きオークの花嫁とするのは……どうかと思うぞ」


 ……なんで、こうなったの!?

 僕は勿論、知らなかったけど、フィーさえも知らなかったらしいし……


「ダカラ、村長、俺言ッテル、ソレハ、おーくノ掟、人間ハ違ウ」


 ドゥルガさんもこうなることは予想外だったらしく、必死に弁解をしている訳なんだけど……


「掟は掟だ……オークも、人も関係が無い」

「ナニヨリ、掟知ラナイ者ニ、押シ付ケルノハ良クナイ」


 うん、頑張って下さい、僕はさっきそのことに反論しようとしたら……


「オークの掟に口を出すな」


 って一喝されたんで……っていうか、どうにかしてください。


「確かに人間の中では、見た目が良いのだろうが、ドゥルガよ、そんなひ弱そうな女が好みだったのか?」

「村長、コイツラ……強イ、ヒ弱デハ無イ」

「それに、筋肉無く背も小さい、オークとしては……可愛い美人とは言えんぞ?」


 なんだろう、別に悪いことは言われてないはずなのに……種族間の違いで、見た目が悪いと言われてる様な気がする。

 自分で言うのもなんだけど、可愛い方だとは思うんだけど……

 悲しいほどに自分の身体じゃ、反応しないのは置いておいて……


「ダカラ、何度モ言ッテイル、掟ハおーくノ物ダ、人間ニ関係ハ無イ」

「そうだねー? 私もそう思うよ?」

「フィーナ、強敵あら――!?」


 な、なんだろう? 今、シュカがなにかを呟いて、フィーに睨まれて息を呑んだ様な感じがしたけど……

 それにしても、アーガさん話を聞いてくれないし、っていうか早く、クロネコさんを助けに行かなければならない訳でして。


「村長、イイ加減、面倒ニナッテキタ……遊ビガ過ギルゾ」


 え? 遊び?


「おーくハ誇リ高イ戦士、三人共強ク、敬意ヲ示シタダケダ」

「なんだ、その様子だと……本当に惚れた訳では無いのか」


 え? え? じゃ、今までのって……


「ソレニ、おーくノ男ノ好ミガ、人ト違ウノト同ジデ、人間ノ女ガ好ムノモ違ウ……客人ガ迷惑ガッテイル」

「つまり……今の今まで村長さんの悪ふざけ……だったってことかな? ユーリ、困ってたんだけど?」


 な、なんか、やっぱりフィーが怒ってる?


「フィー!? お、抑えて、ビックリしたけど、本当じゃなければ良いから、ね?」

「いや、なにすまんな……だが、オークが人を肩に乗せることは無いのは本当だ」

「い、いえ……冗談と分かれば良いですよ」


 よ、良かった……もし、これで無理やり結婚とかの話になったら、クロネコさん救出どころじゃなくて、僕がどうやって逃げるかってことになってたよ……


「本来、オークの肩はエルフ様が乗られるためにある。それも村の勇者が許したとなれば、(みな)驚くだろう」


 そういえば、フィーがオークはエルフの騎士とも呼ばれるって言ってたっけ?

 それに加えて勇者がそんなことをしたら、そりゃビックリもするよね……


「なるほど、そうですね勇者さ、ん……?」


 勇者?


「ドゥルガさんが?」

「うむ、こやつは村一番の戦士だ。頑丈で倒れることが無く、武器を持たせれば、猪ぐらいは一刀する」


 猪を一刀かぁ……なんだろう、僕の感覚はマヒしてるのかな?

 フィーなら、同じ条件で簡単に出来そうな気もするけど……きっと凄いんだよね。


「力が強いから、スライム退治には向かわなかったんだね?」


 にこやかな怖い笑顔のまま、ドゥルガさんにそう質問するフィーに頷き答えると……


「村長ノ悪戯ガ過ギタ、スマナカッタナ」


 そう、僕たちに向かって頭を下げた……


「ま、まぁ悪いのは村長さんだし、ユーリも許すって言うなら、もう良いよ?」


 流石に頭を下げられて許さないって言うことはしない彼女は、しどろもどろになりながらも、ドゥルガさんにそう告げる。

 取りあえず、これで話がついたとして……ドゥルガさんが村の勇者か……

 確かに怪力は凄かったし、攻撃を受けた時も二人ほどの魔力の消費は感じなかった。

 でも、シュカは勿論フィーより、動きはゆっくりで、あれなら初めての冒険で使ったマテリアルショットの方が早い気がする。

 戦闘においてのスタイルとしては……シュカがシーフ、フィーがナイトとするとドゥルガさんはタンクタイプって感じなのかな?

 どっちにしろ、彼がいなかったら……僕の魔力が尽きるのが早く、マジックプロテクションは効果を失ってたかもしれない。

 これから、クロネコさんを探すにあたって、”アノ魔物”と出くわすことを考えたら、ついてきて貰ったほうが良いよね?


「あの……ドゥルガさん」

「分カッテル、俺モくろねこ一緒ニ探ス」


 もとより、そのつもりだと付け加え彼は腕を組む……

 素直に心強いと思えるよ。


「しかし、ドゥルガの話を聞くと信じられんな、そのような魔物聞いたことも見たことも無い」

「ならやっぱり、ユーリが言った通り新種ってみたいだね?」

「それより、クロネコ、どこに、消えた?」


 うん、それが分からない……スライム退治に向かったわけだから、僕たちと同じ場所に向かっていたのは明確のはず。

 でも、そこで争った形跡は無かったって言ってたし……

 ん? そういえば、なんであれは真っ直ぐ進んできたんだろう? オークに化けていても……真っ直ぐ来る必要は無い。

 それに、クロネコさんに化けているのは、もっと機敏に動けるはずだ。

 なにしろ木が邪魔するといっても、人の姿ならさほど関係ない……なら目が見えない?

 でも、僕たちを認識して攻撃してきたってことは、どういう理由かはまだ分からないけど、獲物を認識する能力はあるはずだ。

 けど、目はあまり良くないはず……見えているなら、大勢で囲むより少数で木々に隠れながらの方が狩りやすい。

 頭の方は……木を砕いてばら撒いたことにそれが効かなくて接近したこと、逃げたことも含めると、それぐらいの知能はあるとは思う……


「フィー、もし、もしもだけど……クロネコさんがあれに会ってたらどうすると思う?」

「クロネコが? 気配を感じたら、すぐに距離をとって観察すると思うよ? 前にも言ったけど、クロネコは強くないからね……」

「つまり、逃げはしない?」

「んー、初めて見るのだったら……冒険者に仕事を押し付ける為に、ある程度情報を得てから逃げるとは思うけど……」


 彼女は段々と声を小さくしていく……恐らく理由はアレが彼らの姿を真似していたことかな?

 あの様子じゃ無事ではいないかもしれない……でも、完成度としては高いとは言えないし、あの魔物は見たものをマネ出来るぐらいだとしたらどうだろう?

 僕たちが見たのは後ろから見れば完璧。

 でも、前から見れば魔物だとばれてしまう容姿だったわけで……

 あの魔物が見たものに変身するのであれば……後姿だけ見てた可能性がある。


「まだ、クロネコさんたちが無事の可能性はあるよ」

「じゃぁ、どこに、居る?」

「そうだよ、スライムの所には居なかったよ?」

「ソノ通リダ、他ニすらいむ居ル場所、行ッテ見ルカ」


 うん、それも確認しておきたいけど……


「その必要は無いよ、ね?」

『――?』


 僕はフィーの肩にちょこんと座っている精霊、ドリアードへ語りかける。


「ん? ドリアードがどうしたの?」

「僕たちは真っ直ぐスライムの所に行ったよね?」

「ドゥルガ、案内、上手かった」

「うん、そのお陰で迷わず行けたね? でも、それは他のオークでも同じだよ?」


 その言葉にドゥルガさんとアーガさんが当然だと一言、呟いて肯定する。

 それは分かってるし、僕みたいにどこでも迷子になるっていうスキルが無い限り、道さえ分かれば大抵の人は大丈夫だろう。


「仮にクロネコさんが追われていたとしてだけど」

「……そっか、もしかして」

「うん、だから……その場所をドリアードに聞けば分かるかもしれない」


 あの魔物は頭が良いという仮定が条件だけど……もし、見られたらマズイ物を見てしまったら?

 例えば、あの魔物が守っている金銀財宝とか……もし、その宝を見られて狙われるかもしれないとなったら、アレは必死になって追う……

 そうすると当然、歩いていって木は折って行く、さっきは精霊に聞いても分からないと言われたけど、木が折れていくならドリアードには分かるはず。

 そういえば、財宝を守る小人ってなんか聞いたことがあるような。

 ……財宝を狙った男を(いまし)める為、小さな魔物が次々に現れ、巨人に変貌(へんぼう)し脅かすと言う話。

 あの魔物の見た目からしても……間違いないはず、違うのは見たものを姿をマネているかもしれないと言うところだけだ。


「あれは、スプリガンって魔物だと思うよ」

「「すぷ、り……がん?」」

「なんだ、それは?」

「聞イタコトガ無イ」


 なんで、フィーとシュカの二人は首を傾げるんだろうか?

 ゴブリン、トロール、オークと来たらスプリガンは珍しくないと思うけど……


「名前があるってことは……ユーリはアレを知ってるの?」

「えっと、財宝を守る魔物らしいけど、知らない?」

「ん?」


 フィー……なんで、小首を傾げて考えるような感じに?


「ん~? 変身して財宝を守る魔物? やっぱり聞いたこと無いよ?」

「他の地方の魔物とかは?」

「少なくとも、シュカの居た場所と、ここには居ない」


 うん、フィーが知らないってことは別の地方の魔物かと思ったんだけど、よくよく考えれば、海を越えないと行けない場所に居たかもしれないし、それは無いか……

 うーん、やっぱり突然変異かなにか……もしくは誰かがなんらかの方法でスプリガンに似たなにかを作った?

 だとしたら、フィーたちが知らないのも納得できるんだけど……

 うーん、まぁ……あれの正体はとりあえず置いておこう。


「とにかく、一度水辺に行くまでの道を捜索してみよう」

「もう行くのか? 相手の正体は分かっていないのだろう」

「うん、でも正体はユーリの言ってる魔物かも知れないし、助けるなら、早い方が良いよー、いくらクロネコでも逃げるのには限度があるからね?」


 アーガさんはフィーの言葉に『ふむ……』と一言答えると立ち上がり、棚からなにかを取り出した。

 彼の大きさもあって、それはかなり小さく見えるけど……水袋ぐらいの大きさはありそうな瓶だ。


「これを持って行け」

「これは?」


 差し出された瓶を見ながら、僕は質問を投げかける。


「エルフ様より賜った霊薬だ……体力などを回復するものだが、魔力にも効くと言っておられた」


 話からして、アーガさんはエルフに会ったことがあるってことかな……いや、今はそんなことは良いか。

 魔力が回復するなら、それは嬉しい。

 単純にあの魔物の攻撃を防げる時間が増えるんだし、ありがたく貰っておこう。


「ありがとうございます」

「ああ、本来なら他のオークも行った方が良いのだが、話を聞く限りお前たちに任せた方が良さそうだ」


 う、うん、数が増えると流石に魔力がすぐ尽きそうだよ?


「安心シロ村長、俺ガツイテ行ク」

「じゃぁ、急ごう?」

「うん、急ごう、アレ、暴れたら、森消える」


 確かに、木をなぎ倒しながら動いてるし、歩く森林破壊だよ……

 僕たちは立ち上がり家を後にする。

 ふと空を仰ぎ見ると、もう日は結構傾いていた。

 クロネコさんが森に入ってからすぐに襲われたのだとしたら、かなりの時間が経過していることになる。

 証拠が残ってると良いんだけど……

 そう考えながら、僕は皆の後を追うように急いだ。




 再び森の中へ来た僕たちは、水辺までの道を歩く……先ほどとは違い、辺りに目を凝らしながら……とはいっても僕はなにか出来る訳ではなく。

 ドリアードが森の様子を聞き、異変に気がついたら僕に知らせ、僕が皆に知らせるという役割だ。

 勿論、シュカとフィーは辺りを忙しく動き回ってる……だけど……


「あ、あの~ドゥルガさん?」

「気ニスルナ、アノ二人ガ調ベルナラ、俺ハお前ヲ守ッテル」


 先ほどとは違い、大振りの斧を持ってそう言い切るドゥルガさんは……うん、凄く頼もしい。

 でも、なにも傍で護衛しなくても大丈夫だと思うんだけど……

 勿論、僕は大丈夫だよって言ったし、ドリアードがいるからとも言ったんだけど、万が一を考えて盾になれる場所にいると言って、その場に立ちまわりを警戒している。

 暫らく二人が捜索していていると、ドリアードがなにかに気がついた様で僕の裾を引っ張り出した。


「フィー! シュカ! ドリアードがなにかを見つけたみたいだよ!」


 僕の声で戻ってきたシュカはドリアードの指差す方へと視線を向ける。

 フィーはドリアードになにがあったのか話を詳しく聞き始め……その詳細を僕たちに教えてくれた。


「少し前にあっちで木がいっぱい折れたみたいだよ?」


 精霊が騒いでいれば、そこにアレがいるかもしれないと言うことだけど……クロネコさんたちもいるかもしれない。


「分かった、シュカ! 移動するよ」

「うん」


 フィーの後に続き森の中を更に進むと、そこには木々がへし折れ、森の中にぽっかりと広場のような場所ができていた。

 そして、広場には木針が無数に散らばっており……所々赤い跡が残っていて……

 それが……血であることがすぐに分かるほどの臭いが漂っている。


「こ、これ……って」

「うん、ここで襲われたのは間違いないね?」


 そこにあるのは巨大な死体、人の形をしているけど……肌の色が違う物で……

 それは、今襲われたんだろう……未だ、血が流れ出ているのが見て分かった。


同胞(どうほう)ダ……」


 オークの死体だ……

 でも、辺りを見回しても、クロネコさんのそれが無い。

 それに、確か三人ついて行ったはずなのに、そこにある死体は二人だ……


「クロネコさんと……もう一人は?」

「血の跡、奥に続いてる」


 シュカは指を指し、僕の視線を誘導すると……確かにそこには血の道ができていた。

 その跡からして恐らく、引き摺られたんだ……


「フィー!」

「うん、行ってみよう!」


 僕たちは血の跡を追い走る。

 この様子からして、流れ出た血の量は想像したくないけど……どう見たって多すぎる。

 ヒールで失った血は戻せない、勿論死んでいたら全くの無意味……急いで助けないと!


「敵ハ討ツ……弔イハ、モウ暫ラク待ッテクレ」


 奥へと進む中、ドゥルガさんのそんな言葉が僕の耳に確かに聞えた……

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