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48話 罪と決意

 仮面ローブと奴隷商人と戦うユーリたち。

 ユーリの魔法グラースもあり、ユーリたちは優勢のまま戦況は進み仮面ローブを撃破する……だが、仮面ローブは人ではなくただの依り代だった。

 残すは商人だけとなったが、魔法の後遺症もあり、フィーナとシュカは動けなくなり、フィーナへと商人のナイフが迫る。

 ユーリは彼女が死ぬことを理解し、魔法を唱え……フィーナの危機を救ったのだが……代わりに商人を手にかけてしまうのだった。

「んぅ……ん?」


 外から入る光と、鳥のさえずりで僕は目を覚ます……

 ゆっくりと目を開ける訳だけど……僕の前になにか視界を遮る物が……


「んん、ん~~すぅ……」

「………………」


 次第にハッキリしてきた意識に僕は固まった。

 昨日、僕は自分のやってしまったことにショックと罪の意識を覚え、悪夢を見た……

 それで、起きたらフィーナさんが居て、話して……そのまま一緒に寝たんだっけ?

 と、とにかく! すぐに起きないと……って……


「動けない……」


 ガッチリホールドって感じではないけど、僕はどうやらフィーナさんの抱き枕になってるみたいだ。

 おまけに動くと色々当る……いや、これはまずいって色々と! 昨日の今日だし、反省して色々考えないといけないのに!?


「ん、ん? ユーリぃ……?」


 起きてくれたみたいだし、取りあえずご飯って言うはずだよね?


「すぅ……」


 …………寝た!? いや、待って、待ってよフィーナさん!


「フィ、フィーナさん! 朝だよ? 起きないと……」

「んー、今日はもう、ちょっと……」

「ええっと、僕は起きたいんだけど……うぅ」


 僕がそう訴えたら、無言でさっきより、きつく抱きかかえられたんだけど……僕も寝ないと駄目なんですか?

 でも……ああ、この状況……どうしよう……


「フィーナさん?」

「…………」


 呼びかけてみるも、反応はなく返事の変わりに寝息だけが聞える。

 ま、まぁ……そんなに大きな声で言ったわけじゃないし、聞えなかったのかな?


「フィーナさーん!」

「んん、んぅ……ん~……すぅ、すぅ……」


 駄目だ、大きめな声を出しても、起きない……

 そして、なぜか、更に捕縛がきつくなったような? というか……若干、上に乗られてるようになってしまった。

 別に苦しいわけじゃないし、このまま寝させてあげたいって気もあるけど……

 このままじゃ、誰か入ってくるかもしれないし……

 頼みのカギ、というか扉はクロネコさんが昨日壊してしまっているから、ハッキリ言って役に立たない。


「フィーナ! さぁーん!!」

「朝からうるさいんですがねぇ!? ユーリ!」

「うわぁぁ!?」


 フィーナさんを呼んだら、隣の部屋からテミスさんが声を荒げた。

 でも、そんなことはお構い無しにフィーナさんは惰眠をむさぼっている……って……今ので起きないんだ……


「今からそっち行きますからねぇ? 覚悟しておいてくれますかねぇ!?」


 い、いや、うるさかったのは悪いけど、来る必要性はあるの!?

 ま、まずいよ……どうにかして、フィーナさんを起こさないと!

 でも、起こした所でテミスさんが許してくれるとは思えないし……

 ああ、とは言ってもとにかく、せめて、この状況をどうにかしないといけない……そ、そうだ!!

 僕は息を吸い、せめてフィーナさんを起こすべく声を出す。


「フィーー! 起きろと言っている!!」

「――っ!? ナ、ナナナナタリー!? ご、ごめんなさ……あれ? ユーリ?」


 や、やった起きた! そう思った直後、壊れかけの扉は乱暴に開け放たれ、今度こそ、その存在意義を失った音が鳴り響く。


「だから! うるさ……い……って、言ってるん、ですが……ねぇ?」


 そして、侵入者は僕たちの姿を見て、一気にクールダウンしたようで、僕はあえて彼女を視野に入れていないけど……困惑しているようで段々とその声が小さくなっていくのが聞こえた。


「ん? テミスどうしたのー」


 一方、フィーナさんは現状を気に留める様子も無いようで、のんきな口調でそう言う……因みに、僕は依然フィーナさんに抱きかかえられたままだ。

 というか、これ……まるでフィーナさんが――


「フィ、フィーナ? お前、そういう趣味があったんですかねぇ……」

「ん? 趣味って……なんのこと?」


 僕はゆっくりテミスさんの方へと顔を向けると、彼女は人差し指で僕を指している。

 うん、どう見たって僕を指してる。


「ん? ユーリがどうしたの?」

「どうしたのって、もしかして……いつもなんですかねぇ?」


 あ、まずい……多分、フィーナさんはそんなつもりも、今現在なにを思われているかも気がついてないはずだから……


「いつもじゃないよ? 今回が初めてだねー」


 ですよねー……


「あ、ああ、そ、そうか……」


 そう残すと、テミスさんはギクシャクと動きながら隣へと戻ろうとする。

 当然、動揺しているようで……同じ方の足と手が一緒に動いている。

 まるで、アニメでよく見る緊張したシーンそのものだなぁ……って、そうじゃないよ!?


「テ、テミスさん! ちが、これは昨日、フィーナさんが!」

「ん? ユーリ、フィーで良いんだよ?」

「そ、そうか! ウチは部屋に戻ってるねぇ……」


 ちょ……待って、これは完全に誤解だよ!?


「だから、フィーナさんが僕をしんぱ……行っちゃった……」


 僕が必死に誤解を解こうとする間もなく、彼女は元居た部屋の方へと引っ込んでしまった。

 とはいえ、フィーナさんは起きたわけだし、誤解は後で解けばいい。

 今はこれからどうするか考えないとって……なぜ僕は未だにフィーナさんの下に居るのでしょうか?


「えっと、フィーナさん?」

「……フィーで良いよ? さっきフィーって呼んでたでしょ?」


 いや、アレは起こす為であって……

 結果的に呼ぶことになってしまっただけで……

 

「「…………」」


 え、えっとー、なぜ、どいてくれないのでしょうか?

 このままだと、また誰か来て……勘違いされてしまうのですけど、もし、クロネコさん辺り来たら、面白い情報だとか言って売られるかもしれないし……


「えっと……」

「ん?」


 取りあえず言葉を口に出したは良いけど、その後は続かず、また沈黙に戻ってしまう。

 フィーナさんも、どいてくれる気配は無いけどなぜか、機嫌は良さそうだ。

 尻尾も振ってるし、もしかして……呼ぶまでどかない気なんじゃ?

 僕がそうこう考えてるうちに、またも隣の部屋から声が聞える。

 なにか……騒いでいるみたいだけど、これは多分、シンティアさん?


「私が間違いを正してきますわ!」

「いや、お姉ちゃん! そこは本人たちの自由なんですがねぇ!?」


 もしかして、いや……もしかしなくても……これって来る?


「フィ……フィー! あの……」

「うん、これからはそう呼んでね?」


 い、いや、和やかにそう言われましても……


「分かった、分かったから、フィー、早くどかないと、シンティアさんが誤解を」

「誤解?」

「お二人とも! 女性同士でなにを考えていらっしゃるのですか!?」


 遅かった。

 因みにシンティアさん、僕は同姓同士でもテミスさんが言ったように本人たちの自由だと思います。


「なにをって?」

「朝からくっついていた、とテミスが言っておりましたわ」

「うん、昨日、同じベッドで一緒に寝たからね?」


 ああ、なんかこれデジャヴってやつかな?

 ナタリアとのやり取りを思い出すような……


「い、いいいい一緒の!? だ、抱き合ったということですの!?」

「うん、ユーリって抱き心地良いんだねー、気持ち良かったよ?」

「な、ななななな!?」


 ああ、シンティアさんが狼狽してる。

 後、やっぱり僕は抱き枕と化してたんだね……フィーナさん。


「シンティアも抱いてみる?」

「あの、それ……僕の意思とか無いの?」

「わ、わわ私も!? け、結構ですわ!」


 うん、勘違いしてるけど、どっちにしてもお願いしますって言われたら困る。

 僕、抱き枕じゃないし……ってそろそろ本当に誤解解かないと困るのは僕たちだよね。


「えっと、シンティアさん」

「は、はい!? わ、私は結構ですわ!?」

「いや、そうじゃなくて、ですね……昨日、僕がショックを受けて、悪夢を見たりで辛かったのをフィーナさ――」

「フィー」


 ……そんな会話の途中で入れてこなくても。


「フィーが心配してくれて、普通に一緒に寝てくれたんです。その、考えてるようなことはしてませんので……」

「へ? そ、そうでしたの? 私たちはてっきり、夜の営みをしているのかと」


 …………誤解が解けたのを安堵した瞬間にさらっと言ったよ!?

 あれだけ取り乱してたのに、そこは大丈夫なの!?


「え、ええっと……その、なんで、そんなことに?」

「ええ、テミスがフィーナ様がユーリ様を襲っているっと」


 まぁ、上に乗られてたし……


「それと、昨日から抱き合っていたっと言ってましたので、そう思ったのですわ」

「うん、抱いてたよ?」


 うん、抱かれてました……


「フィーナ様、あの……誤解を招くような発言は、控えた方が宜しいかと……」

「よ、よく言われるよ……」

「と、とにかく、誤解は解けたみたいですし、これからのことを考えないと……」


 特に僕のことだ。

 見た所、テミスさんもシンティアさんも僕に対する態度は変わってない感じだけど……

 なにかしらの裁きは受けるはずだよね?


「これからと言いますと、以前から気になっていたのですが……」


 ん? なんだろう?


「なぜ、私たちには敬語なのですか? 私はずっとこうですが、ユーリ様は違われますよね?」

「ええっと、なんで今?」

「いえ、これからのことっと申されてましたので……」


 僕が言ったのは、そういうことじゃないんだけど……


「もし、気になさっているのなら、大丈夫ですわ。私たちにも、いつもの話し方でお話ください」


 昨日の今日なのに、なんで皆は同じなんだろう?

 いや、それどころか……誰も僕を責めない……この世界だって、命は平等。

 死んだらそれまでなのに……


「ユーリ、誰もユーリを責めないよ?」


 ふと、フィーナさんがそう口にした。


「責める? なぜ、責める必要があるのですか? ユーリ様は私を助けてくれた恩人ですわ」

「でも……」


 一晩経って、フィーのお陰で今は昨日よりは落ち着いている。

 だからと言って、僕は僕のしたことを忘れることは出来ない……


「話は聞きましたが、仕方の無いこと……勿論、力のある者が無い者を襲えば、それは罪ですわ。ですが、ユーリ様は力の無い方のために戦ったのですから、胸を張って良いのですわ」


 胸を張って、か……僕には無理だな。

 とにかく、今日……リラーグの領主に会って話をしよう。

 ゼファーさんに頼めば、きっとなんとかしてくれるだろうし……


「おおーい、フィーナさん、ユーリちゃん! 支度が出来たら、降りてきてくれるかい」

「はーい、ちょっと待ってねー?」

「流石に、ここでは着替えられませんわね? 私たちの部屋を使ってください」

「ありがとー、ユーリ行こう?」

「……うん」


 



 着替えを済ませ、ゼファーさんの元へ行くと……彼はいつもの服ではなく、ちょっとお洒落な着ていた。


「早かったね」

「珍しい服着てるねー、どうしたの?」

「いや、領主様に会いに行くんだ。それで、君たちにも来てもらいたくてね」


 ビクリと体が震えた。

 会いに行くって決めたのは僕だ……

 なのに、なにを言われるか想像したら怖くなって……

 駄目だ、ちゃんと話をしないといけないんだから。


「ユーリ……大丈夫だよ? 私も一緒だから、ね?」


 フィー……

 そうだよね、結局言う手間が省けたんだし……良かったと思うべきだよ。

 それにフィーが言ってる通り、彼女も来てくれるんだ。


「どうしたんだい? 体調が優れないなら、ユーリちゃんは休んでいても……」

「いえ、行きます」


 僕だけ留守番なんて、問題を先延ばしにしてるだけだし、僕はそう答えた。






 その後、ゼファーさんはシンティアさんたちも来るように言い。

 僕たちは全員で領主の館の前まで来た……


「ゼファーさん、いらっしゃいませ、もしかして……そちらの方々が?」

「ああ、そうだよ、僕の兄ゼルの店から来た」


 そこまで言うと彼はフィー、僕の順で――


「フィーナさんにユーリちゃんだ。それと……今回彼女たちを手伝ってくれた」

「シンティアですわ、こちらは妹のテミスですわ」

「…………シュカ」

「なるほど、では、屋敷に入ってお待ちいただけますか? すぐに領主様に連絡を通しますので」

「ああ、頼むよ」


 そう言って、兵士さん? が屋敷の中へと入ろうとした……

 聞いた憶えのある声が聞えた。


「おいおいおい! 俺は無視ってことかぁ!?」

「誰だ?」

 

 いきなり現れた不機嫌そうな男性に気がつくと、兵士さんは腰にある剣へと手を伸ばす。


「待てよ、俺はそこに居る馬鹿犬と知りあいだ……それよりも、おい、おいおいおい!」


 彼は依然、不機嫌そうな態度のまま僕へと詰め寄ってくる。

 や、やっぱり……


「クロネコ、なんの用?」


 僕が彼の勢いに気をされていると、間に入ったフィーが唸るように言う。


「ああ? んなの決まってるだろ! お前らなんで依頼が終って、報告に来ねぇんだ!!」


 あれ?


「チッ!! まぁ、とにかく……ほらよ!!」

「うわ、わ……袋? 結構……お、重い?」


 投げ渡されたそれを慌てて受け止めると、それは思ったより重さがあり、中にはなにか入っているみたいだった。


「……はぁ、お前やっぱ馬鹿犬より馬鹿か? それはお前らが、集めた金だろうが!」

「……へ?」

「それと、そん中に俺からの依頼料、金貨十枚が入ってる。それはお前らで自由に分けろ、良いな!」


 あ、そうか……すっかり忘れてたけど、僕たちは色んなお店にお金を借りてギルドに依頼を出したんだ。

 それを最初からクロネコさんが回収するって話で、彼はそれをわざわざ持って来てくれたの?


「……お仲間でしたか? では、貴方も屋敷に――」

「俺はいい! 領主に合うなんざ……俺には興味が無い」


 彼は跳躍し、木に登り……その後屋根をつたって走り去っていく。

 なるほど、ああやって来たのかな?


「なんなんだ? まぁ、話が済んだみたいですね……では、改めて、どうぞ」


 通された部屋はやけに広く、その中央に置かれた長テーブルの上には様々な食事に果物、飲み物などが置かれている。

 僕はてっきり小さな一室に通され、その後でまた移動をすると思っていたのだけど……


「では、皆様はこちらにお座りください、今、お呼びしてまいりますので……」


 丁寧に礼をすると、兵士は部屋から出て行く……

 これは、どういうことなの? どこから見ても僕たち、いや、僕を問い詰める感じではなく。

 ……これじゃ、まるで、歓迎されているみたいだ。


「美味しそうだねぇ、ノラネコの奴、損したな!」

「テミス、そういうことを言うもんじゃありませんわ!」

「シュカ、お腹空いた……」

「領主さんが来たら食べれると思うから、もうちょっと待とう?」

「ああ、彼のことだ。すぐに来るだろう」


 皆、当たり前に座っていくけど……え? これはいったい?

 だって、僕は領主に、なにか言われるって思って来たんだよ? なのに……


「ほら、ユーリも座ろう?」


 僕が呆然と立ち尽くしているのに気がついたフィーは手を引き、僕を席へと座らせる。


「あの、フ、フィー……? これは、なに?」


 この場に相応しくないはずの僕は彼女へと問いかけると……


「なにって、ただの食事、いえ依頼の追加報酬とでも思っていただければ……光栄ですね」


 声と共に現れたのは、結構歳を重ねた男性、彼の横には僕と同い年ぐらいの少年がつき従っている。

 彼らを目にした姉妹は慌てて席を立とうとするが、彼はそれを手で制すると……


「いえ、結構です。今日の貴方がたは客人です……お座りになってください」


 二人の態度と口ぶりからして、この人が領主さんだろう、皺が刻まれた顔はひどく優しい感じがした。


「知らない方もいらっしゃると思いますので……」


 彼は自身の手を胸へと当てると……名乗り始めた。


「私がリラーグの領主、スクード・ウェイアこちらは――」

「息子のシルトと言います、この度は問題を解決していただいき、ありがとうございます」


 息子さん? それにしては、ずいぶん歳が離れているような……いや、そうじゃない。

 どうやら、僕たちは本当に歓迎をされているみたいだけど……


「さて、私たちのご紹介は終りました。では、食事を楽しみましょう」

「ちょ、ちょっと待ってください! 皆はともかく……僕は人を殺したんですよ!?」


 なんで、なんで罪に問われない!?

 いくら、フィーを守るための正当防衛でも、あれは過剰防衛だ!

 普通、なにかしらの罪と罰があるはず……なのに……


「ふむ、なるほど……確かに人を殺した罪は重い、ですが、裁かれて終わりではあまりにも軽すぎませんか?」

「……え?」


 軽すぎる?


「現に貴女は罪を許して欲しいと感じ、罰を求めています」

「それは……」

「ましてや、罰をもう受けている方に……これ以上の罰は酷でしょう?」


 もう、罰を受けてる?

 いや、僕はまだ……罰を受けてないはずだ。


「気がついておられないようなので、私から言いましょう」

「な、なにをですか?」

「貴女が受けている罰です。……それは人を殺してしまった苦しみ、恐怖ですよ、これは、貴女が一生背負っていかなければならない罰、分かりましたか?」


 それが罰? 確かに……昨日フィーも怖い、辛いって思うことが大事って言ってたし、忘れることなんて出来ない。


「冒険者でしたら、これから何度も人を殺めるでしょう、特に酒場の冒険者なら、必ずまた悪人たちと対峙し、命の駆け引きをすることになります」

「その通りだね、そうやって悩む人たちを幾人も見てきたけど……罰せられない罰というのもあるんだよ」

「ええ、ゼファーその通りです……ですが、お嬢さん……もう一つ忘れないでください」


 罰せられない罰、か……

 確かに罰を受ければ、僕はスッキリすると思うそうだとしたら、この辛さを忘れない罰というのもあるのかもしれない。

 でも、他に忘れないで欲しいことってなんだろう?


「今回の貴女たちの行いで、助かった人が居ることです。過程はどうであれ、結果は出ているのです……そして、それは私やゼファーが望んだ結果です」


 助かった人たちのこともフィーは言ってた。

 結果的に僕はフィーを助けることも出来た……


「ユーリ……」


 罪を忘れない罰、罰せられない罰、か……

 そういえば、バルドも出会った時に依頼が成立したから、ギルド相手になにをしても牢には入れられないって言ってたような。

 きっと彼もフィーも冒険者だった人は、誰かを守るために人を殺めたことがあるんだ……

 僕にだって守ってくれる人も、守らなきゃいけない人も居る。

 なら、もう怖がってなんかいられない。

 罪は忘れない、心を(えぐ)るような罰も受ける。

 でも――――


「大丈夫?」

「うん、もう大丈夫、フィーに言われた通り、辛いのを大事にするよ」

「……うん」

「ったく! 立ち直りが遅いんですよねぇ……あのゴミ以下の連中を気に掛けるなんざ無駄だと思いますがねぇ?」

 

 テ、テミスさん……その言い方は酷い。

 僕は真剣に悩んでたんだよ!?


「それが、ユーリ様の優しさですわよ、テミス?」

「ユーリ、シュカ、助けてくれた」

「さて、話は終ったようですね……父さん、食事を始めましょう」

「ああ、そうしよう、では、改めて……存分にお楽しみください」


 目の前にあるのは、僕がこの世界で初めて食べた食事よりも豪華な物だった。

 量もさることながら、一つ一つが高そうな物ばかり、正直まだ食欲は無く……味も良く分からなかった。

 とはいえ、あまり手を付けないのも悪いと思い、食べれるだけでもと……僕は食事を口に運んだ。


 そんな、食事の最中だ、領主が突然話を切り出した。


「ところで、リラーグはこれからギルドを完全に追い出すことにしました」

「ギルドが無ければ……街では無くなってしまうんじゃないんですか?」

「ええ、ですが……正直多少の援助金をもらえるだけで、あまり利点が無いのです。今回のことも含め、問題を起こすギルドには去ってもらいます」


 そうなんだ……領主自ら良いって言ってるんだし、大丈夫なんだろうけど……

 そこで働いてた人たちは……どうなってしまうんだろう?


「そこで、あの土地が余ってしまいます……ですから、貴女方に差し上げようかと」

「「…………へ?」」


 僕とフィーはほぼ同時に声をあげ固まってしまった。

 今、領主さん、なんて言ったの?


「ですから、土地を差し上げます。リラーグ全ての民を救っていただいたも同然ですからね、シルト……あれを」


 彼は自身の息子に声を掛けると、紙のような物を渡すように促す。


「これは、あの土地の権利書です……街一つ救っていただいたお礼としては、少々手狭ですが……」


 狭い!? いや、十分広いよ……昨日入ったのは裏だったけど、ちょっと入り組んでれば僕ならすぐ迷子になる広さだ!

 いや、そうじゃない……僕たちはゼファーさんから依頼を受けたわけだし、領主さんが報酬をくれるなんてことあるのだろうか?


「なに二人とも固まっているんだい」

「か、固まるよ? だって、土地だよ? てっきりゼファーさんから金貨数枚だと思ってたんだけど……」

「ぼ、僕もフィーと同じ考えでした」


 そこまで言うと、ゼファーさんは訝しげな顔をし、考え込むとやがてハッとした顔になり。


「ごめん、フィーナさんが来てくれたことにほっとして、言うのを忘れてたよ」

「「な、なにを?」」

「報酬はリラーグ領主から出る」


 遅いよ!?


「まぁ、そういうことです……それとも他に、なにかつけた方が良いでしょうか?」

「え、ええと……その土地は私たちに譲る前提なの?」

「ええ、他に使い道がありませんし、空けておいてもギルドが狙うだけですよ。それでしたら、名のある冒険者のリラーグでの拠点としていただきたい」


 フィーはともかく、僕はまだ無名なんだけどなぁ……


「うーん、まぁ、ビックリはしたけど、報酬ならもらっておこうか?」

「フィーがそう言うなら……でも、本当に良いんですか?」

「ええ、もちろんです……シルト、ギルドの取り壊し等を任せて良いか?」

「はい、父さん任せてください、それと……皆さん、特にご希望が無いのでしたら、お……私が建物をご用意いたしますが……」


 建物? ああ、そうか拠点だから、あれを一回取り壊して、新しいのを建てるのかな?


「私は特に無いけど……ユーリは?」

「うん、僕も特に……」


 いや、まてよ? もし、なんでも出来るってことなら……


「やっぱり、あります……もし、できたらですけど、屋上かどこかに魔法の練習が出来る施設ってつくれますか?」

「魔法、ですか? 恐らくは結界を何十かに張って、作れば出来るかと思いますので、そのように致します」


 よし、これでリラーグに来た時に練習出来る場所ができた。

 実は前に決めてから、魔法の修行だけはこっそりとしてきていたのだけど、リラーグは広くて人が居ない場所があまり見当たらない。

 というか、着いてから依頼に取り掛かりっきりだったから、あまり出来ていなかった訳だけど……

 これで建物が出来たら、リラーグでも練習する場所が出来る。


 拠点の話が終ると、領主さんの声で再び食事に戻り……時間が過ぎていき、僕たちは龍狩りの槍へと戻ってきた。


「お仕事終ったねー」


 フィーは部屋に着くなり『ん~っ』っと伸びをした。

 そう言えば、フィーは依頼でリラーグに呼ばれたんだし、僕たちはこれでタリムへ戻るんだろうか?


「フィー、この後どうするの?」

「うん、いつもの感じだと、後……二、三件くらいお仕事あるよ?」


 っと言うことは、まだ、滞在するんだよね?

 …………あれ?


「そ、そう言えば、さフィー」

「ん? どうしたの、青い顔して……まだ、気になる?」

「う、うん、それは……そうだけど……」


 僕は、思い出してしまった。


「……僕、旅に出てから、一度もナタリアに手紙出してない」

「…………」


 流石にタリムからは距離が離れてるし、ナタリアが来ることは無いだろう……

 でも、あのナタリアだ。

 無事なら、なんで手紙を出さない! って帰ったら怒られる。

 いや、怒られるだけならましだ! お仕置きとかだと、なにをされるか分からない。


「ど、どうしよう……」

「ま、まだ間に合うよ? まだ、手紙来て無いし、急いで書こう? リラーグから鳥を飛ばすと……えっと……」


 僕たちが慌てふためく中、最早扉としての価値が無くなった板に遠慮がちにノックする音が鳴り響く。


「二人とも手紙だよ」


 その主はゼファーさんだ。


「だ、誰から?」

「十通あって十通とも、ナタリアさんだね」

「な、ナタリア!? 十通も!?」

「ナタリー……凄い量を送ってきたね?」


 やばいよね? きっと相当、お怒りに違いない……

 僕はゼファーさんから手紙を受け取り、ゆっくりと開くと……

 出だしから、怒っていらっしゃるようで――


『手紙を送れと言ったろう! 時期的にはもうゼファーの店で仕事に取り掛かっているはずだが、手紙すら送る時間が無いのか!? それともフィーとのデートがそんなに楽しいのか!?』


 的なことが長々と書かれている。

 デートって今は同性なんだから……なにか起きる訳が無いと思うんだけど……

 いや、そうじゃない……


「ユ、ユーリ、ナタリーが良く分からない方向に怒ってるよ!?」

「う、うん……急いで返事を書こう?」


 僕たちが返事の手紙でナタリアに謝り倒したのは言うまでも無い……

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