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45話 クロネコの作戦

 宿屋に戻ったユーリは正座をさせられ、説教を受けていた。

 だが、フィーナの助けもあり、それが終るとギルドへの潜入方法について話し合う。

 だが、良い案が出ず、困っているとシンティアが案を出す。

 彼女の案とはクロネコに情報を操作してもらい、ギルドの冒険者を以来に出すというものであり、それを聞いたクロネコは良い情報があるとほくそ笑んだ。

「まず、俺の提案を話す前に聞きたいんだが、本当にギルドが非合法の奴隷商をやってるのか?」


 う~ん、依頼をされたとはいえ手伝ってもらうんだし……一応、話しはしておいた方が良いかな……


「フィーナさん、大丈夫かな?」


 多分、大丈夫だとは思うけど、一応フィーナさんに確認をしてみると――


「うん、こればっかりは手を借りないといけないからね? クロネコにも話しておこうか?」


 予想どおりフィーナさんの許可も得られたし、僕はクロネコさんにこれまでの経緯を話した……

 僕たち……というか、フィーナさんがリラーグに呼ばれた理由、その依頼内容、そして、さっきギルドで見てきた情報を一つ一つ丁寧に。

 すると、なぜかクロネコさんは頭を抱え、盛大に溜息をついた……


「え、えっと……」

「馬鹿かお前!? それ朝になったら気づかれちまうじゃねぇか! 死体もねぇ! 血溜りも無いじゃ、生きてますって言ってるような物だろうが!!」


 そ、そんなこと言われても……


「チッ! 調べられて万が一、足が着くと面倒だ……クソッ! 仕方ねぇそっちも俺がケツ持ってやる……冒険者なら、血袋の一つでも持ってやがれ!」


 血袋って……つまり輸血パックみたいな奴だよね?


「そ、そんなの持って、どうするんですか?」

「ああ? そんなの決まってるだろ! 匂いで魔物を引き寄せたりするために使うんだよ!」


 なるほど、確かにそれは良い手かもしれないけど……


「あはは……あれは臭いがキツイから私が勘弁だよ……」


 だよね、フィーナさんは前に鼻が利くって言ってたし……僕でも顔をしかめそうだ。


「はぁ……まぁ良い、それで流す情報だが、グリフィンの巣の情報を流す」


 グリフィン? もしかしてグリフォンのことかな、僕の想像通りなら……確かに大型の魔物だと思うけど……


「それで、グリフィンの退治をさせるってことですかねぇ?」

「それだけじゃ駄目だ……確かにグリフィンは危険だが……あいつらは賢い、人間に手を出せば必ず手傷を負うって分かってやがる。……だからあまり駆除依頼は出回らねぇんだ」


 そうなんだ……賢さではカラスの方が猛禽類より上だったと思うけど、相手は魔物だし、違うのかな。


「では、危険な魔物であるのと同時に、警戒をする必要がある魔物でも無いと言うことですの?」

「ああ、巣に近づかなければな……そこで奴らにやってもらうのはグリフィンの卵の回収だ……」

「卵? 増えすぎると……いけないからですか?」


 僕の疑問に再び溜息をつくクロネコさんの変わりに、フィーナさんが説明をしてくれるみたいだ。


「それもあるけど、グリフィンの卵はすごく美味しいんだよ? 栄養価も値段も高いってナタリーが言ってたよ?」

「お前……よく生きてこれたな? まぁそう言うことだ。因みに安全に手に入れるにはグリフィンを倒してからだが、奴らにそんな芸当は出来ないだろうからな」


 そこまで言うとクロネコさんはニヤリと口元を歪めた。


「巣の近くで、親が離れるのを辛抱強く待つ必要がある。おまけにそこまでは約一週間掛かるからな、丁度良いだろ」


 凄い……確かにそれなら依頼として出しても成立しそうだ。


「さて、じゃぁ俺は暗い内にお前が死んだことにしてくるが、一つ教えろ……顔は見られてないな?」

「うん、大丈夫だと思うよ?」

「曖昧だな、まぁ良い……お前たちは依頼の金を集めろ、分かったな?」


 ん? すぐに必要なのかな、お金って後から渡す物じゃないの?

 僕が小首を傾げると、横からフィーナさんが再び耳打ちをしてくる。


「ギルドは依頼金を先に預けておかないといけないんだよ?」


 そういうことか、確かに最初に預かっておけば安心ってことだろうけど……


「ギルドってそれちゃんと受けてくれるの?」

「うーん、簡単な依頼は、よく忘れるみたいだよ? 返金も受け付けないし、一般人じゃ冒険者に立ち向かえないからね……泣き寝入りみたい」


 それは組織としてどうなの? そのお金は飲み込まれたってことだよね? それに――


「それじゃ、依頼を受けたふりをして、お金だけ取られる可能性もあるんじゃ?」

「だから、追加料金を付けるんだよ……金貨二十五枚を前払い、同額を後で払うようにすれば、奴らも流石に動くだろう? もし、動かないようなら額が額だ……領主に言うと言えば良い」


 な、なるほど……ってそれ合計、金貨五十枚ってことだよね? ええと、ゼルさんのお店が食事込みの銀貨二枚だから……


「た、大金じゃないですか!?」


 いや、ゼルさんのお店は破格だし、逆に安すぎるぐらいだけど! それにしたって、一回の依頼で金貨五十枚!? いくらなんでも集まらないよ……


「勿論、卵一個って訳じゃない、グリフィンの卵は一つ金貨七枚ってのが相場だ……つまり十個も取って来いと言えば元は取れる」


 確かにそうだけど……別に僕グリフィンの卵を食べたいわけじゃないし、それよりも手持ちだって、そんなに無いよ。


「……シュカたち、お金、無い」


 そう、その通りなんだよね……


「ああ? 勘違いするな……ギルドを潰すんだ、金なんて後で回収すれば良いだろ?」


 へ? クロネコさんが……なんか詐欺師臭いことを言ったような……


「ゼファーさんに頼んで、他の酒場から借りるしかないね? でも、回収できる見込みは? もし駄目だったら私たち飢え死にしちゃうよ?」

「大丈夫だ、お前たちが攻め込んだら、ギルドも慌てるだろう? その混乱に紛れて俺が盗む」


 盗むって、そんなことを堂々と言って良いのかな? それよりも、クロネコさんが危ないんじゃ?


「んー、それなら大丈夫かな、ヘマだけはしないようにね?」

「フィ、フィーナさん? 大丈夫なんですか……クロネコさん、強くないんじゃ?」


 この言い方はちょっと失礼な気もするけど、危険な目にあわせるのはちょっとなぁ。


「大丈夫だよ? あれでも潜入とかは得意だから」

「でも、万が一戦いになったら……」


 クロネコさんは対抗する術はないよね……もし、戦う手段があるなら、あの洞窟に僕たちが護衛としてついて行く理由が無いし……


「戦いになる前にギルドを抜けるから大丈夫だ……それに最低限、自分の身も守れない奴が、冒険者相手に情報屋なんてやらねぇよ」


 そう言われれば……確かにそうだけど……

 まぁ、クロネコさんの場合、誰だろうと気に入らなかったら情報を売らなさそうだし、結構もめてそうではある。

 だと、すると、言ってる通り、案外大丈夫なのかもしれない。

 それに、回収しないとさっきフィーナさんが言ってた通りだし、僕たちが奴隷行きだよね。


「分かりましたお願いします。でも、無理はしないでくださいね」

「お前らよりは心配いらねぇよ」


 う、うん……自信満々だし、大丈夫だよね、きっと……


「それじゃ、お金を集めてきましょう、流石に全部借りると言う訳にはいきませんし、私たちも少し出しますわ」

「ありがとうございます! フィーナさん僕たちもそうしよう? それとゼファーさんにもお願いをしないと」

「分かった、伝えとくね?」


 取りあえず、依頼の代金はそれで集めるとして、後は――


「ギルド、押し入る人、決める」

「うん、そうだね……僕とフィーナさんは勿論として」


 問題は三人だよね、ちらっと僕が視線を動かすとテミスさんとシンティアさんが不機嫌な顔になっている。


「また、ウチらは置いてけぼりってことかねぇ?」

「今回は私たちも行きますわ!」


 とは言っても、相手は冒険者、テミスさんは強いとは言っても一般人、シンティアさんは抵抗する術すら持たない。

 シュカは……居てくれたら頼りにはなりそうだけど、怖いはずだし……


「シュカ、行く……」


 うぅ……、そう主張されても、僕はシュカへと視線を移すと、彼女は真剣な顔そのもので僕を見つめ返してきた。


「シュカも行く、約束してる、から」


 約束? 約束って……なんのことだろう?

 いや、でも約束か……フィーナさんとした約束のこともあるし、仕方が無いか。


「分かった、シュカには、ついて来てもらうよ」

「うん……」


 よし、とにかくこの三人でギルドに行くとして……どうやって二人を説得しよう。


「仕方ないお姉ちゃん、勝手についていきますかねぇ?」

「へっ!?」


 今なんて言ったの!?


「い、いや、本当に危ないんだよ? ユーリはそう思ってるだけで嫌がらせじゃないんだから、待っててもらった方が……」

「ああ!? お姉ちゃんはお前らが帰ってくるまで、ずっと心配してるんですがねぇ? ウチだって馬鹿じゃない、自分とお姉ちゃんぐらいは守ってみせるさ……」

「で、でも……」

「それに、シュカだってついて行くですよねぇ? だったら、良いじゃないか」


 それは、そうなんだけど……シュカはなんと言うか……手馴れてる感じがするから、まだついてきても大丈夫かもだけど。


「……シュカ、冒険者」

「ほら、だからシュカは大丈夫……」


 …………え?


「捕まる前、冒険者……腕、自信ある」


 そう言って、自分の腕をもう片方の腕でペチペチと叩くシュカはどこか誇らしげに見えた。

 いや、それより……なんで捕まったのこの子。


「だからと言って、捕まるようなマヌケだろ? それなら、ウチらが行っても問題ないよねぇ?」


 テミスさんの言葉に頷くシンティアさん、こ、困ったな……


「ああ、面倒くせぇ……おい! 下手に断って勝手についてこられる方が迷惑だ……勝手に捕まって余計な手間になるより、最初から足手まといの方がマシだ。連れて行け」


 面倒って、クロネコさんは口が悪いなぁ。

 でも、実際目に見えるところに居るのと、居ないのでは……対処の仕方が違うっていうか、後者は対処のしようが無い。

 それなら、ついて来てもらった方が良いって言うのも頷けるよね。


「ユーリ、大丈夫だよ? グリフィンが相手なら、強い人は殆ど出てると思うから」

「そうだね、じゃぁ二人ともお願いします」

「ああ、それにしても、ウチの錬金術頼みの作戦を立てておいて、置いていかれると思わなかったけどねぇ」


 それを言われてしまうと、なにも言えなくなってしまうんだけど、やっぱり危険なことは避けて欲しいし、仕方ないと思って欲しいなぁ……

 なんて言うのは僕のわがままなのかな?


「じゃ、俺は処理をしてくる……さっき言った通り頼むぞ、それとこの作戦はあいつらがグリフィンを倒しに行くことが条件だ。準備なんかに数日は掛かる、辛抱強く待て良いな? 特に馬鹿犬」

「私はクロネコほど、我慢が出来ない人じゃないよ?」

「え、えっと……依頼金の話ですよね!? 分かりましたっ」


 僕が慌ててそう言うと、クロネコさんはさっさと部屋を出て行ってしまう。

 若干機嫌が良くなったのか、尻尾はだらんとぶらさがってたんだけど……今度はフィーナさんの尻尾がピンと伸びている。

 うん、笑顔が張り付いてるけど、怒ってるんだよね?


「とにかく、弟さんに聞いてみようか?」


 そう、いつも通りに話そうとしたんだろう……声は振るえ、いつもより声が低かった。

 にっこりと微笑みながら、そう言う彼女に僕は――


「う、うん、そうしよう」


 そう返すことしかできなかった。


 すっかり人の酒場のカウンターに座り、僕たちは先ほどの話をゼファーさんへ告げると、彼は快く引く受けてくれた。


「それは良いアイデアだね、正直冒険者の手を借りるとなると、難しいところがあったんだよ」

「それで、ゼファー様……都合はつくのでしょうか?」


 シンティアさんの言葉にゼファーさんは表情を変え唸る。

 やっぱり、手を借りるよりは、とは言ってたけど難しいよね……


「そうだね、時間は掛かりそうだけど……ギルドと言うか人攫いには皆困っているからね、大丈夫だと思うよ……勿論、私も払おう」

「ありがとうございます!」


 彼は首を振ると……


「これは、私からの依頼だ。最低限冒険者が動けるようにするのは義務みたいな物だよ、ところで……フィーナさんはなんで怒っているんだい?」

「怒ってないよ?」


 その一言が怒ってますよって言っているような感じなんだけど……


「さっき、クロネコの奴が来てねぇ」


 その一言でなにかを察したゼファーさんは『ああ……』と一言漏らすと、それ以上は説明不要とばかりに手で会話を制した。


「え、えっと……そう言えば、お腹空いたね? フィーナさん、なにか食べよう?」


 彼女へ語りかけると、フィーナさんもお腹は減ってたんだろう――


「そうしようかー?」


 そう答えてくれた。

 まぁ、怒ってはいるけど、僕たちとはちゃんと会話してくれる辺りは大人だよね。


「弟さん、ご飯お願いね?」


 フィーナさんはカウンター越しに金貨をゼファーさんに三枚渡すと……


「美味しいのを皆の分ね?」


 ああ、なるほど……美味しい物を食べて忘れようとしてるのかな?

 皆の分もってところが、またフィーナさんらしい。


「わ、私たちの分は私……」

「もう払っちゃったし、皆で食べよう?」


 フィーナさんは慌ててお金を取り出そうとしたシンティアさんにそう告げる。

 それでも黙ってカウンターに置こうとした手を止めると……


「シンティアが良い案出してくれたんだよ? お礼だから出さなくて良いんだよ?」

「そう、ですか……そういうことでしたら、頂きますわ」


 シンティアさんが渋々手を引っ込めると、満足したのかフィーナさんはこちらに振り向き。


「ご飯なんだろうね~?」

「楽しみだね」


 どうやら、ご飯の方に興味が向いたようで……若干機嫌が戻ったみたいだった。

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