42話 冒険者ギルド
コレット家に向かったユーリたちは家の中へと入るものの、怪しい場所はなく、囚われた者はいなかった。
残る場所は教会とギルド……だが、フィーナの話では教会では無いと言われ、ユーリたちはギルドへと足を運ぶ……
コレット家を後にした僕たちは、その足でギルドへと向かう……
中に入ると、いかにもゴロツキですって……感じの人たちが僕たちに視線を投げてくる。
その人たちは僕らを確認した後、ワザと聞えるような声で会話を始める。
「おいおい! あのナリ冒険者かよ、見ろよ素人臭さがプンプンするぜ!」
「別の匂いもあるんじゃねぇか? 乳臭さとかよっ!」
「ギャハハハ、これだからガキは嫌なのよねぇ、ここはガキの来る場所じゃないのにねぇ」
思ってた以上にガラの悪い人たちだ……
「それに見ろよ……真ん中のガキ! アイツなんで二人と手をつないでるんだ?」
うぅ……やっぱり、これは手を離してた方が良いかもしれない……
そう思って手を離そうとすると……フィーナさんに更にしっかりと手を握られた。
「フィーナさん?」
「離れない方が良いよ? 言いたいように言わせておけば……大丈夫、なにも出来ないから、ね?」
確かにあの人たちは席を立とうとせず、その場に座り酒を飲みながら僕たちを見て笑っている……でも、こっちに向かってくる人はいない。
ただ、それだけだ……
「あの人たちは実力以上に自分を大きく見せたいだけ、だから私の傍から離れちゃ駄目なんだよ?」
つまり、あの人たちはフィーナさんを知ってて寄ってこないってことか、なんか……凄く情けない人たちだなぁ……
「それにしても、ギルドってあまり来たことないけど……こんな風になってたんだね?」
フィーナさんその様子だと、あまりというか来るの初めてだったんじゃ?
勿論、僕もそうだけど……それにしても、ギルドって分かりやすい構造だなぁ。
酒場のように並べてある机とイス、食事や相談をするためのスペースなのかな? そして……カウンターには受付のお姉さん。
まさに、僕が想像するギルドっていう施設そのもの、でも、今はその構造に困っちゃうんだけど……
「階段は奥かな? ここからだと見えないけど」
こっそりと僕がフィーナさんに耳打ちすると、彼女は頷き返事をしてくれる。
「多分ね? どうやって入ろうか、流石に正面からは入れそうもないね?」
フィーナさんの言う通り、正面からは無理だ。
理由として、奥に行くには……カウンターを越えていかなければいけない。
「確かにこれじゃ、入れそうも無いね」
もう一度、中を確かめてみると、奥に続くであろう扉はここからでも見えるけど、やはり階段は見当たらない。
一応、鉄扉が無いとは言われたけど、教会の方から行った方が良かったかも……
「一応、受付の人に聞いてみる……とかはどうかな?」
「良いかも知れないけど、変に警戒されると今後……動きづらいよ?」
それもそうか、相手には手練れが居るらしいし……もし、ここだったら今、座ってる人たち全員敵になるってこともあるかもしれない。
あれ? でも、そうすると……ギルドって怪しいんじゃ?
なにしろ元ゴロツキが多いらしいし、フィーナさんの話だとギルドぐるみは無くても、犯罪みたいなことはしてるってことだったよね?
考えれば考えるほど、ギルドが怪しく見えてくる……
「外、出よう? 階段、入れない……」
「うん、そうだねー、一旦外に出ようか?」
入ってすぐに出る僕たちに『何しに来たんだよ!』っとやじを飛ばすギルドの冒険者たちは、やはり座ったまま動こうとはせず、特に去るのを邪魔したりはしないみたいだ。
「うーん、見た限りじゃ、階段は無かったね?」
外に出てギルドから少し離れた所に行くと、そうフィーナさんが口にした。
「うん、受付の奥にありそうだけど、確証は無いし……クロネコさんの情報が間違ってたとか?」
「それはないよ、あれで情報だけは確かなんだよ? もし、信憑性が低い情報を手に入れたら、自分で調べに行こうとするし」
確かに洞窟の件まさにそれだったってことは、やっぱり……どこかに階段があるってことだけど――
「でも、ギルドが本当にそんなことするかな?」
「あの、フィーナさん……前の人たちは殺されたって聞いたけど、もし、本当なら……ギルドは可能性としてはあると思うんだ。冒険者が集まる施設だし、強い人は居るはずだよ」
僕はさっき考えたことをフィーナさんへと告げる。
実際、戦いになって冒険者相手に勝てる一般人なんて稀だろう、僕みたいに魔法が使えるならまだしも、万人が魔法使いになれるって訳でもない。
それに、魔法使いと言っても、結局は武器で戦うこともするらしいし……
やっぱり、冒険者の可能性が高い。
「うん、確かにそうなんだよね……でも、証拠が無い限り、決めつけることは出来ないよ?」
「それは……分かってる。だから、証拠を探さないといけないんだけど……」
証拠が無ければ……本当にそうだとしても、逃げ道があるかもしれない、それに違った場合は色々と不利になる。
濡れ衣を着せられたら、ギルドもなにかしてくるかもしれないし、真犯人にも警戒されて逃げられるか、なにかしらこちらに対処をしてくるかもしれない、慎重にいかないと……
せめて……シュカが目隠しされてなかったら良かったんだけど、それは言ってもしかたないよね。
普通は見られたらマズイから、目隠しするのは当たり前って……
「あれ? シュカは?」
僕は近くに居たはずのシュカが居ないことに気がつき、辺りを見回す。
「い、居ないね?」
さっきまで、すぐ傍に居たのにどこに行ったんだろう? いや、もしかしてまた……?
嫌な予感がし、寄り遠くを見回すと……ギルドの横でなにかに気を取られてるシュカの姿を見つけられた。
良かった……また捕まってしまったのかと心配になったよ。
「フィーナさん! シュカ居たよ、ギルドの横」
「良かった~でも、なんであんな所で止まってるのかな?」
僕たちがシュカのところまで駆けつけると、彼女はじっと地面を見ている……まさか、アリかなにかを見ていたって言うオチじゃないよね?
いや、それは無いか、もしそうだったら、もうとっくに同じことをしてるはずだよね。
「シュカ?」
「なに見てるの?」
僕とフィーナさんが声をかけると、ようやく顔をあげたシュカは指を地面へと指した。
そこには……
「車輪の跡……だね、ん?」
「別に珍しい物でもなさそうだけど……」
僕がそう口にする中、フィーナさんはシュカがなにを言いたいのか気がついたのか、指し示された車輪の跡を見つめる僕の肩を小突く……
「ユーリ、そこじゃない……シュカが言いたいのは、この跡を残した馬車がどこに向かってるか、だと思うよ?」
どこに向かってるかって……僕がその跡を目で辿っていくと……
「ギルドの裏?」
「一応、見に行ってみよう?」
フィーナさんの提案を聞き、僕たちはギルドの裏へと回ってみる。
すると……
「おい、嬢ちゃんら、邪魔だ邪魔だ! 馬に跳ねられたいのか?」
突然、後ろからそんな声が聞えた。
「す、すみません」
慌てて馬車へ道を譲ると、その馬車はギルドの裏手で止まり……荷物を降ろし始めた。
荷物は木箱に入っていて、なにが入っているかは分からないけど……大きさから言って多分、食料かなにかだろう。
「ん? なんだ……まだ居たのか、なにか用か?」
「あ、えっと……ギルドにこんな裏口あるんだなって思ってね? なにを降ろしてるの?」
「確かに、初めて見た時は裏口には、ワシもびっくりしたよ。降ろしている食料だ……にしても、ギルドの連中は良く食うんだな」
そんなことを教えてくれながら、配達員の人は裏口前へと木箱を降ろしては積み上げていく……
その量はギルドの人だけじゃ、到底食べきれないんじゃないか? っていう量で……ますます怪しく思えてくる。
「そんなに、珍しい物でもないだろう? 確かに量は多いが」
「そ、そうですね……きっと沢山食べる人が居るんですね……凄い量で驚いただけです」
僕がそう言い、暫らく眺めていると……男性はようやく荷物を降ろし終わったのか御者の席へと戻っていく。
「……ワシは次に行かないといけないから、これで失礼するが、あまりここに居るなよ? ギルドはゴロツキばかりだ嬢ちゃんたちような美人さんたちは、ここに居ない方が良い」
そう忠告を残し、彼は馬を走らせ去っていく……
「フィーナさん、これって……」
「うん、怪しいね? でも、今は一旦離れよう? ギルドの人が荷物をしまいに来るはずだから……一旦酒場に戻ってどうやって入るか考えよう?」
「そうだね、テミスさんたちも痺れを切らしてるかもしれないし……」
っていうかテミスさんはあまり遅いと、なんか怒りそうだし……一回報告に戻った方が良いかも……
「う、うん、早めに戻ろうか?」
僕の言葉を聞くと、あからさまに困った表情へ変えたフィーナさんは、恐らくなにかを想像したのだろう、頭をぶんぶんと振り……
「うん、早めに戻ろうか?」
確認するように……もう一度そう言った。
ギルドから酒場へと戻る中、僕は一人考える。
……もし、本当にギルドだとしたら……さっき思った通り、ギルド全体が敵になる可能性がある。
もしそうなったら……僕たちだけで対抗出来るのかな?
いくら、フィーナさんが強いって言っても限度がある。
なにか……対策はしておかないといけないな……
そういえば、酒場ってゼファーさんのところだけじゃないし、他の酒場の冒険者に手を貸してもらうのも良いかも知れない。
ゼファーさんは龍狩りの槍が一番だって言ってたけど、絶対とは言い切れないはずだよね?
「ユーリ、どうしたの? ほら、離れるとまた迷子になっちゃうよ?」
「うぅ、わ、分かりました」
差し出された手に気がついた僕は……大人しくその手を取った。




