41話 コレット家へ
クロネコから情報を得たユーリたちは、方針をまとめる為、一旦話し合うことにした。
そして、尋ねる所を決めたユーリたちはミアヴィラーチ姉妹を酒場へと送るとコレット家へ向かうのだった。
「目立つとは言われたけど、これナタリアの家……いや、それよりも大きいんじゃ?」
僕たちは目の前にした屋敷を前に空を仰ぐ……一番上が高いからなのか、屋敷よりも大きい気がするほどの家だよ……
「ナタリーの家も広いけど……ここはまた凄いね?」
「……大きい……でも、どうやって入る?」
うん、どうやって入ろう……まさか誰か隠してないか、なんて言えないし……
「正面から入るしかないよ?」
え? 正面から? 僕が呆気にとられていると、もう彼女はドアをノックしていた。
「すみません~」
「えぇえぇぇ!? フィ、フィーナさん!?」
慌てて止めようとしても時すでに遅し、扉は開き中から老人の男性が顔を出した。
「はい、なんでしょうか?」
僕が見た限りでは、このおじいさんは人を拉致したり、監禁するようには見えない。
「依頼中の冒険者なんだけど……ちょっと上の家から窓を覗かせてもらえないかな? あそこからだと、良く見えそうだからね?」
ああ、なるほど……協力してってお願いするんだ。
確かに、それなら怪しまれずに上がらせてもらえるかもしれない。
「…………別に家じゃなくても良いでしょう? それに誰から上の家は家の持ち物と聞いたんですか?」
で、ですよね……
「情報は……クロネコって言う情報屋からだよ、それに……高い場所からなら見やすいって理由なんだけど……」
「そうですか……しかし、冒険者の頼みとは言っても、強制では無いでしょう? 上は娘夫婦の家で今、娘は身重の上に幼子も居る。……今が大変な時だから、今回は別の家でお願いできませんか?」
身重ってことはお腹に赤ちゃんが居るのか、確かに……ストレスになるようなことはあまりさせたくない時期だよね……
「しかし、ここから、なにを見るつもりだったんですか?」
「えっと……」
フィーナさんも流石にそこまでは考えてなかったのか、言葉を詰まらせる。
当然、おじいさんは訝しげな顔になり……
「貴女方は……本当に冒険者ですかな?」
僕は慌ててペンダントを取り出し、お爺さんに見せる。
「は、はい、冒険者です! ちゃんと証もここにありますよ」
「では、なにを見るつもりだったんですか?」
うーん、嘘をついても、どこかでボロがでそうだし……警戒されても困る。
そもそも、家の中は見れないわけだけど……
「最近……この街で頻繁に起きている、人さらいを知ってますか?」
「ええ、娘や孫が心配ですよ……あまり外も出歩かせられません、ですが、それと家から見るのと……どう関係が?」
本当は家の中を見せて欲しいんだけど、入れてくれなさそうだし……どうしたものか……
「高い場所なら見渡せますよね? ここら辺で高いのはこの家でしたし、現場が押さえられないか、と思いまして……」
僕は取りあえず……今、思いついたことをもっともらしく言ってみる。
一応は詰まらずに言えたし、声も震えてないはず。
だから、怪しまれる事は無いとは思うけど、我ながら無茶苦茶な理由だなぁって思うよ……
「そういうことでしたか……私としても、その問題は早く解決して欲しいものです」
おじいさんはそう言うと、口を閉ざしてしまう……
やっぱり、家には上がらせてもらえなさそうだね、気になるけど……先に他の場所を調べた方が良いかもしれない。
「少しで良いなら……娘達に交渉してみましょう……ですが、一人です。他の方は上の家には上がらないでいただけますか?」
「良いの? 娘さん、大丈夫?」
フィーナさんがビックリした様子でお爺さんに聞いているけど、僕も同じ気持ちだ。
他の施設がしっかりしているから、ここ以外は無いだろうと思っていたけど……
中に上がらせてもらえるってことは、やましいことは無いってことだよね?
もし、ここが隠している場所なら、断固拒否すると思うし……
「恐らく……少しだけなら、大丈夫ですよ」
そう言うと、おじいさんは家に入るように促してくれる。
「おじゃま……します」
僕たちが入ると、おずおずとシュカも後ろについて来てに家へと入り、僕の服をしっかりと掴んできた。
「大丈夫だよ、僕たちが居るから」
そうシュカにこっそりと呟くと……彼女は僕とフィーナさんを交互に見て、安心したのか服を放し……
「……分かった」
と一言、呟いた。
家の中へと入った僕たちは、おじいさんの後をついて行く……そこには確かに階段がある、クロネコさんの情報どおりだ。
「ここで少し、待っていただけますか?」
そう一言残し、おじいさんは階段を上って行き、暫らく待つとまた戻ってきた……
「良いそうです。寧ろ、怒られてしまいましたよ……」
おじいさんは……若干しょげた顔をして、上の家に行くことを許可してくれた。
一体、なにがあったんだろうか、いや……それよりもここじゃないような気がさっきからしてるんだけど……
確かめるだけ、確かめるとして……さっきおじいさんは一人だけって言ってたよね?
「僕が行って来るよ」
「ん? 分かった、お願いね?」
僕は階段をのぼり扉を開ける。
そこに居たのは……人の良さそうな女性。
先ほど、おじいさんが言っていた通り、お腹は大きくなっていて……その身に赤ちゃんが居るのは一目瞭然だ。
「失礼します」
「いえ、聞けば人攫いを退治してくれるらしいじゃないですか、外も満足に出歩けないで困っていたんですよ」
彼女は僕をどこかの部屋まで、案内してくれるみたいだ……
ざっと見回してみたけど、この家に鉄の扉は無いみたい。
「さ、ここなら良く見えるはずですよ」
「ありがとうございます」
家の中を見れたから、本当はこれで帰ってもいいんだけど……このまま帰ったら怪しまれるだけだし、僕は窓から町を見下ろす……
でも、ここじゃないなら、どこにあるんだろう?
武具店は今日行った場所のはずだ……確かに階段があっただけど、鉄の扉は無かった……
テミスさんは錬金術師連合では無いって言ってたし……
後、残ってるのって、教会とギルドだったよね?
「見つかりませんか?」
「ふぇ!? あ、ああ……はい、見つかりませんね、ありがとうございました……今日はこれで失礼しますね」
「いえ、たいしてお手伝いもできずに……」
「助かりましたよ、では……」
僕はそれだけ言うと……部屋を出て歩き始めた。
どのぐらい、外を見ていたのかは分からないけど……あれだけ外を見てれば怪しまれないよね?
それよりも、どこに閉じ込められているかが問題だよね……
教会かギルド、どっちだろう?
どちらも施設的には、人を監禁するような場所じゃない。
ギルドはゴロツキの集まり……って言われたけど、流石にそこまではしないはずだよ……
目を付けられたら、ギルド自体が潰れかねないし……デメリットを考えると無い。
でも、教会は? 地球と同じだったら人を祝福したり、懺悔を聞いたりする場所だし、これも違う……
「って……あれ?」
ここ……どこ?
あ、あれ? 階段まで、ほぼ真っ直ぐのはずなのに……何故迷った!?
「いや、そうじゃなくて……そうじゃなくて!? 本当に……ここ、どこ?」
き、来た道を……って前にそれで……迷子になったような憶えもするし、動かない方が……
いや、寧ろ……窓を見つけてそこから飛んで外に……って、それで外で迷子になったら目も当てられないよ!?
「家の中だからって、一人で行動するんじゃなかった……」
途方にくれて……僕はその場に立ち尽くす。
確かに、この家は広かったけど、案内されている間も家の中を見てたわけだし、迷わないって思ったのに……
「あ、いたいたユーリ!」
ああ、フィーナさんの幻聴まで聞えてきたよ……僕、誰かに見つかるまで、ここで待ってないといけないのかな?
「ユゥーリィー?」
幻聴にしては、やけにはっきり聞えるけど……
不思議に思い振り返ると、そこには二人の女性がそこに立っていた。
「フィーナさん、シュカ? なんで……?」
「ほら、ユーリ初めての所じゃ、迷っちゃうでしょ? いくら家とはいえ、広い家じゃ迷子になってるかもって思ってね、お願いしたんだよ?」
それで、わざわざ来てくれたの? そ、その通りだけど助かった。
現に今、迷子中だったし……
「ほら、帰ろう? 私もざっと見てきたけど……ここにはシュカの言う鉄の扉もないみたいだしね?」
そう言って、手を伸ばすフィーナさんは……頼もしく見える。
いや、実際に頼もしいわけだけど……
二割り増しぐらいで頼もしく見えるよ……これが俗に言う……やだ、イケメンっ! ってやつなのかな?
おずおずと……差し出された手を取り、僕はなんとか階段まで辿り着くことができた。
「おお、見つかったようですね? それで……犯人の方は見つかりましたか?」
「い、いえ、見回してみましたけど、それらしき人たちは見えませんでした。協力ありがとうございます」
ん? 最初の見つかったって……もしかしなくても僕のことだよね……ってこれ、ものすごい恥ずかしくない?
「いえ、こちらこそ最初は渋ってしまい……申し訳ない、もし、また協力できることがありましたら、お手伝いいたしますよ」
おじいさんはそう言うと、丁重に僕たちを送り出してくれた。
「……ユーリ、あそこ違う」
外に出て暫らく歩いていると、シュカが僕にそう教えてくれる。
「やっぱり? シュカの言う鉄の扉は無かったし、違うと思ったんだけど……シュカが言うなら間違いないよね?」
「うん、さっきユーリを探しに行った時にね、階段の傍に鉄の扉が無いって言ってたから、間違いないと思うよ?」
階段の傍っていうのは、シュカの話で大体分かってたけど……
階段あがって、すぐの扉ってことだったんだ……確かに鉄の扉は無かった。
「じゃぁ、残りは教会とギルド? でも、そんなことするのかな?」
「う~ん、教会は多分違うと思う、一番上には鐘があるだけだよ? そうすると……」
ギルド?
「でも、ギルドって冒険者の施設でしょ? 一応……だけど……」
「うん、そうだよ? でも、ギルドは酒場が受け付けない……汚い仕事も受けるから。ただ、ユーリの言う通り……ギルドは冒険者の施設だし、個人はともかく、ギルド自体がそういうことをするのは、今までは無かったよ?」
やっぱり可能性としては低い、ってことだよね……
でも、他には似たような施設が無いみたいだし……
「一応、行ってみるしかなさそうだね? ユーリ、手をつないでおこうか?」
「うん……って、手をつなぐのは前提なの?」
結構、ジロジロと見られる時もあるし……あれはあれでかなり恥ずかしいんだけど……
「……ユーリ、はぐれると、迷子なる」
うぅぅ……シュカまで……
「そういうこと、ほら行こう?」
僕は二人に、ほぼ強制的に手をつながれると……ギルドへ向け歩き出す。
迷子になるのは……どうにかならないのかな?
そういう魔法があれば良いんだけど、本の魔法はあれ以来増えてないし……
いや……迷子にならない魔法なんて無いか……僕はそう諦めをつけ、大人しく連行されることにした。




